
憧れの作家と、5歳の息子
これまでたくさんの小説やエッセイを読んできた。
もちろん素晴らしい作家さんはたくさんいるのだけれど、その中でも、
僕にとって特別な存在がいる。
五木寛之さんだ。
飾り気がないのに、不思議と心に入ってくる。正直で、人間らしくて、読んでいると「こんな文章を書ける人になりたいな」と思わせてくれる。
五木さんとの出会いは、掃除の仕事の合間だった。
仕事が早く終わり、一時間ほど時間が空いたので、何気なく品川の図書館に入った。書棚を眺めながら歩いていると、「五木寛之」の文字で手が止まった。
『生きるヒント』
何気なく手に取ったその一冊に引き込まれ、気づけばシリーズを何冊も買って読んでいた。
【いつか自分も、こんなふうに人の心に残る文章を書けたら。】
そんなことを思いながら、自分もエッセイを書くようになった。
先日、そんな五木さんにまつわる不思議な出来事があった。
数年前、私は父の介護の日常を発信する「介護クエスト」というYouTubeチャンネルを運営していた。
その活動が話題になり、日刊現代の取材を受けたことがある。
掲載された新聞は記念に取ってあり、押し入れの奥にしまっていた。
ある日、五木さんが日刊現代で長年連載を続けているという話を耳にした。
「そういえば、自分が載った新聞にも五木さんの記事があったりするのかな?」
ふと気になって、押し入れから当時の新聞を引っ張り出した。
すると驚いた。
私の記事のすぐ隣に、五木寛之さんの連載が載っていたのだ。
サッカーで例えるならメッシ、野球でいえば大谷翔平の隣に、
自分の記事が載っているようなものだ。
思わず興奮してしまった。
妻と娘と息子を呼び、
「見て見て! パパ、憧れの五木寛之さんと同じページに載ってるよ!」
と自慢げに新聞を見せた。
家族も
「すごいね」
と言ってくれた。
ところが、その時だった。
5歳の息子が新聞をパラパラとめくり始めた。
そして突然、
「パパ、すごい!」
と叫んだ。
何事かと思って見てみると、息子が見ていたのは五木さんの記事ではなかった。
日刊現代の、少々大人向けのページだった。
慌てて
「それはまだ見ちゃダメ!」
と言うと、
「え~!見たい~!」
と息子。
娘と妻も
「まだ5歳なんだからダメ!」
と参戦する。
すると息子は大泣き。
涙を流しながら悔しそうにしている。
私は少し気になって聞いてみた。
「そんなに見たいの?」
息子は泣きながら何度もうなずいた。
男として、その気持ちは分からなくもない。
ただ、隣を見ると妻が無言で首を横に振っている。
僕は、息子にピンクページを見せることはできなかった。
憧れの五木寛之さんのおかげで、何年も押し入れに眠っていた新聞を引っ張り出した。
そしてその結果、私は息子の新たな一面を知ることになった。
人生、何がきっかけでどんな発見があるか分からない。
少なくともあの日の主役は、五木寛之さんではなく、間違いなく5歳の息子だった。