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四人で。-Power Cycle-

    ■プロローグ

    このお話は、

    長女の死産。

    そして、22週0日・410グラムで生まれた脳性麻痺の次女。

    妻(ママ)を亡くした翌日から、

    次女と二人で過ごしてきた約4年間の記録。



    怒涛の日々の始まり。

    葬儀関連。

    学校関連。

    会社関連。

    友人関連。

    誰に。

    何を。

    どう伝えればいいのか。

    一方で、
    ママはそのまま、
    次女が普段使っている
    介護ベッドで眠ったままだった。

    ということは。

    次女の寝る場所を、
    確保しなければ。

    9月7日。

    まだ、
    猛暑日だった。

    なぜか急に、
    エアコンが故障。

    予定より早く、
    葬儀場へ移動することになった。

    こういうところが、
    ママらしい。

    翌日には、
    何事もなかったように、
    快適なエアコン。


    第1章 暮らし

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    ■葬儀

    生前、
    妻と葬儀をどうするか、
    話していた。

    コロナ禍ということもあり、
    身内だけで。

    そんな話をしていた。

    でも、
    次女のことを考えた。

    沢山の人たちが、
    あなたのことを見守っている。

    そんなことを、
    知ってもらいたかった。

    だから、
    思い切って、
    来たい人には、
    全員来てもらうことにした。

    200人ほどの人たちが、
    来てくれた。

    葬儀の責任者の方から、

    「この時期に、
    これほどの人が来られるとは」

    「素晴らしい奥様だったんですね」

    と、
    声を掛けていただいた。

    沢山の人たちに囲まれながら、

    妻が歩いてきた人生を、
    少しだけ見せてもらった。

    そんな気がした。


    ■御骨

    長女のお骨のために、
    ママが作ったハワイアンキルト。

    パパは作れないから、
    おそろいのハワイアンキルトの
    ケースを買った。

    ママのスマホの履歴を見ていたら、
    リヤドロの置物が出てきた。

    ママと、

    次女と、

    飼い猫のマロン。

    三人が、
    一緒だった。

    「これ、
    欲しかったのかな」

    そう思いながら、
    長女とママの御骨の横に。


    ■一週間

    月曜
    学校 → 放課後デイ → リハビリ

    火曜
    学校 → 放課後デイ → 入浴サービス

    水曜
    学校 → 塾 → 入浴サービス

    木曜
    学校 → 部活お迎え → 入浴サービス

    金曜
    学校 → ショートステイ

    土曜
    ショートお迎え → 自由時間

    日曜
    自由時間 → 入浴サービス

    仕事。

    生活。

    介護。

    そして、
    コミュニケーション。

    何より、
    二人の健康を一番に考えた、
    スケジュール。

    沢山の人たちに支えられながら、
    今日まで過ごしてきた。

    本当に、
    ありがとうございます。


    ■マッサージ

    ある日、
    近所の人気のマッサージ店から、
    電話があった。

    「何とか調整をつけたので、
    今度の日曜日からお越しください」

    「?」

    「奥様から、
    何度もご連絡をいただいていました」

    「事情も、
    お聞きしていたので」

    こういうところが、

    本当に、

    ママらしい。

    介護とは、
    そういうものなのだと思う。


    ■メンバー

    妻の葬儀。

    社長。

    役員。

    上司。

    同僚。

    沢山の人たちが、
    来てくれた。

    でも、
    メンバーの姿はなかった。

    久しぶりに出社すると、
    皆が言った。

    「都合がつかなくて、
    すみません」

    妻の闘病期間。

    皆にもきっと、
    沢山の負担をかけていたんだと思う。

    本当に、
    申し訳なかった。


    ■行事

    修学旅行説明会。

    学年全体の制服採寸会。

    学校には、
    色々な行事があって、

    その都度、
    出席が必要だった。

    今までは、
    知らなかった。

    でも、
    こうやって、
    次女の成長を感じていく。

    制服が、
    小さくなっていた。


    ■役割①

    上司として。

    そして、
    親として。

    そろそろ、
    役割を変えなければいけない。

    管理職から、
    スペシャリストへ。

    以前、
    自分で作った制度変更に、

    救われることになった。


    第2章 少しずつ、外へ

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    ■キャリアカウンセラー

    数年前、
    キャリアカウンセラーの資格を取得していた。

    副業解禁に伴い、
    1面談3,000円のサイトに登録してみた。

    月に数件、
    面談の機会をいただく。

    20代から60代まで。

    本当に、
    色々な悩みがあるものだと思った。

    ただ共感したり、

    「こういう時、
    どう考えますか」

    そんな問いに答えるだけだった。

    それでも、

    5段階で、
    4.9の評価をいただいていた。


    ■バスケ①

    かれこれ40年、
    ずっとバスケを続けている。

    毎週一回のバスケ。

    そこには、
    同級生も一人いる。

    ストレス解消や健康、
    そんな次元ではなく、

    もう、
    生活の一部。

    歯を磨くのと、
    同じようなこと。

    ただ、
    もし怪我をしたら。

    歯を磨かない生活なんて、
    できるのだろうか。


    ■夢の始動

    学生の頃からずっと、
    ドラムを”職”にしたかった。

    それは、
    ママと出会うまで、
    ずっと抱いていた思い。

    でも、ママと出会って。
    一緒に生きていきたいと思った。

    だから、
    その時思った。

    “今やるか。
    後でやるか。”

    後でやろうと決めた。

    そろそろ、
    始動する時だと感じた。


    ■コミュニケーション

    ほぼ毎日の、
    入浴サービス。

    当然ながら、
    女性のヘルパーさんや、
    看護師さん。

    学校のお友達には、
    お話があまりできない子もいる。

    アニメの話。

    映画の話。

    ディズニーの話。

    情報収集力と同時に、

    相手の「好き」を引き出す、
    コミュニケーション力が育っている。

    もしかしたら、

    社会に、出れるのかもしれない。


    ■年末年始

    ママがいない、
    初めての年末年始。

    歌番組を見ながら。

    「ママ。
    ママの好きな曲だよ!」

    「ママ。
    ママの好きなドラマの特番やってるよ!」

    存在はなくても、
    心は繋がる?

    うーん。

    物体がなくても、
    かな。


    ■高校受験

    支援学校とはいえ、
    面接試験がある。

    父と練習。

    このころから、
    本人の口からも、

    「就職」

    の二文字が出るようになった。

    意識が、
    少しずつ外に向き始めている。

    これも、
    成長の一つなのかな。

    受験とは、
    ただ試験を受けるだけではなく、

    人生について考える、
    大切な時間なのだと。


    ■卒業式

    お世話になった方々との別れ。

    振り返れば、
    本当に激動の3年間だった。

    でも、
    父子とも、
    前を向いている感覚があった。

    別れとは、
    閉じることではなく、

    一時的に、
    細くなるような感覚。

    理屈ではなく、
    感覚。

    だからこそ、
    妻の存在を感じるのかもしれない。

    中学卒業、
    おめでとう。


    第3章 壊れるもの、繋がるもの

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    ■高校とは

    入学直後から、
    進路指導の先生が付く。

    そして、
    進路説明会が始まる。

    中学までとは、
    明らかに違う空気だった。

    義務教育ではないこと。

    社会に出るための準備が、
    始まっていること。

    高校とは、
    より具体的に将来をイメージし、

    より主体性を持たせていく、
    場所なのかもしれない。

    その現実は。

    思っていた以上に、厳しかった。

    この学校から、一般企業へ就職した生徒は、
    過去に一人もいなかった。

    親の意識も、
    変えないと。


    ■母親

    ここまで、
    怒涛の波に乗りながら、
    選択と判断をしてきた。

    一方で、
    気がかりだったのは、

    お世話になってきた方々。

    そして、
    とても心配してくれている人たちへの、
    顔見せ。

    娘のショートステイを利用して、
    この顔見せを実施した。

    そこで、
    一つの事実が判明する。

    妻の入院中、
    心配してくれている方から、
    母親経由で5万円をいただいていた。

    母親からは、

    「心配しかできないけど、
    何とか頑張ってほしい」

    と、
    渡された。

    このことのお礼を、
    ちゃんとできていなかったので、

    「その節は、
    ありがとうございました」

    と伝えるが、
    どうも辻褄が合わない。

    「あなたのお母さんから、

    『あなたたちの生活が大変だから、
    何とか助けてあげてほしい』

    そう言われてね」

    「80万円を渡しているよ」と。

    そんなことは、一言も言っていない。

    知らないところで、
    一体何が起きているのか。


    ■父親

    母親のことを、
    誰にも相談できず、
    父親に聞いた。

    でも、
    父親は動かなかった。

    自分なら父親として、
    どうしただろう。

    いや。

    今まさに、
    次女の父親として動いているのかもしれない。


    ■妹

    実家の玄関には段差があり、
    5段ほどの階段があった。

    実家へ行くたびに、
    娘を抱えて、
    上り下りしていた。

    でも、
    高校生になり、
    身体もだいぶ大きくなっていた。

    スロープを付けたい。

    そう話した。

    すると、
    妹から電話があった。

    「余計なことは、
    しないでほしい」

    その言葉で、
    もう戻れない気がした。


    ■教室

    ドラムを、
    本格的に始めよう。

    そう思い、
    いくつかの教室を体験してみる。

    40年越しの学び。

    中学生二人と、
    一緒に学ぶ。

    少しだけ、
    人生を動かした気がした。


    ■バスケ②

    その時が来た。

    半月板損傷。

    出会いがあれば、
    別れもある。

    ただ一つだけ。

    介護は、
    必ず続ける。


    ■同級生①

    中学からずっと、
    バスケを共にしてきた同級生。

    半月板損傷を伝えると、

    「実は自分も、
    体調を崩して入院している」

    と、
    知らされる。

    「お互い必ず治して、
    またバスケをしよう!」

    この年齢だからこそ、
    まっすぐな言葉が、
    とても嬉しかった。


    ■ライブ

    30年ぶりのライブ。

    次女と一緒に、
    選曲。

    膝のこともあるので、
    雰囲気を楽しみながら。

    そう思うものの。

    必死に叩いて、
    走りまくっていた。

    手には、
    ママの腕時計。


    ■HKT

    友人家族から、

    「一緒にプーケットに行かない?」

    と、
    誘いをいただいた。

    海外旅行など、
    車いすの娘と二人では、
    到底行けない。

    次女と話し合い、
    思い切って行くことにした。

    現地空港の係員の方と、
    自然に娘が会話をしている。

    もちろん、
    大して英語など話せない。

    でも、
    しっかり伝わっている。

    別れ際、
    二人で写真を撮ってお別れ。

    なんとも言えない、
    自由を一つ手に入れた気がした。


    ■プール

    南国の日差し。

    広いプール。

    色々な国の家族が、
    楽しそうにしている。

    次女と泳いでいた。

    ふと見ると、
    涙を流した少女が一人。

    天気。

    場所。

    雰囲気。

    どれとも、
    まったく結びつかない光景だった。

    次女も気が付くと、
    泳いで彼女の元へ。

    「えっ。
    さすがにそれは……」

    手を握り、
    笑顔。

    すると相手も、
    笑顔で手を握り返した。

    言葉は通じなくても、

    何かは、
    ちゃんと伝わっていた。


    第4章 未来へ


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    ■体験会①

    プーケットに行った友人から、

    「障害者向けの、
    フル在宅勤務の体験会があるみたいだよ」

    と、
    教えてもらった。

    資料をもらう。

    早速連絡をし、
    企業側の担当者と日程調整。

    そのことを、
    担任の先生に話した。

    数日後。

    進路指導の先生から、

    「その体験会、
    学校窓口でやらせて頂いてよろしいでしょうか?」

    何か、
    大きな扉を、
    開けかけている感覚。


    ■キャリアセンター

    副業制度を活かし、
    週1日、
    大学のキャリアセンターで働き始めた。

    これも、
    4.9の評価をいただけたから、
    繋がった仕事。

    キャリアカウンセラー × 人事。

    将来のある学生たちに、
    自分の経験が、
    少しでも活かせればと思った。

    一方で、
    大学キャンパスや学食など。

    大学卒ではない自分にとって、
    そこは、
    とても刺激的な場所だった。


    ■お返し

    ふと思ったこと。

    今まで、
    本当に沢山の方々に、
    お世話になってきた。

    そして、
    この先も、
    お世話になり続けるのだと思う。

    そんな沢山の方々に、
    自分は、
    何を返せるのだろう。

    その一つが、
    学生のキャリア相談なのかもしれない。

    直接、
    何かを返しているわけではない。

    でも、
    未来への投資という意味では、

    頂いた暖かい気持ちや心を、
    学生というフィルターを通して、
    未来へつないでいく。

    そんな考え方があっても、
    いいのかな。


    ■同級生②

    膝の状態も、
    だいぶ良くなってきたので、
    久しぶりにバスケへ。

    「お互い必ず治して、
    またバスケをしよう!」

    そんな話をしていた、
    同級生。

    小学校から、
    ずっと一緒だった。

    何となく、
    後輩たちの空気が違う。

    「何かあった?」

    「聞いてませんか?」

    「何を?」

    「○○さんのこと。」

    「いや、何も」

    「亡くなりました」

    久しぶりの体育館。


    ■バスケ③

    翌週も、
    体育館へ。

    久しぶりのゲーム。

    色々な思いはあるが、
    ひたすらに、
    ボールを追いかける。

    得意の3ポイントシュートが、
    3本連続で決まった。

    気が付けば、
    試合にも勝っていた。

    ふと思った。

    自分は、
    バスケが好きだったというより。

    彼と切磋琢磨しながら続けてきた、
    この時間が好きだったのかもしれない。

    「これで、
    何の悔いもない」

    歯磨きみたいなバスケ。

    彼から、

    「そろそろ、
    潮時だぞ」

    そう言われた気がした。

    本当に、
    ありがとう。


    ■ローン

    両親とは、
    一定の距離感を保ちながらいた。

    ある日、
    両親から、

    住宅ローンが、
    かなり厳しい状況になりそうだと聞かされる。

    色々な思い。

    色々な感情。

    それでも、
    ふっと思った。

    ママなら、
    どうするだろう。

    2年に分けて、
    100万円ずつ渡す。


    ■役割②

    副業である、
    キャリアセンターの仕事も、
    順調に進んでいた。

    自ら社長に、

    「役割を下げてください」

    そう伝えた。

    「わかった」

    後日、
    別の役員から聞かされた。

    「社長から、
    1年間の給与保障の話があり、
    無事承認された」と。

    本当に、
    何から何まで、
    お世話になりっぱなしだ。


    ■現実

    次女は、
    体験会の日から毎日、
    Excelの入力練習をしている。

    何かに集中し、
    黙々と進める作業が、
    好きなようだ。

    ママに、
    そっくりだ。

    本人も、
    “就職”を、
    しっかり考えるようになっていた。

    車いす移動という現状で、
    通いの勤務は不可能。

    だとすると、
    フルリモート。

    誰かが、
    そばについていなければ。

    一方で、
    自分の会社では、
    フルリモート勤務は不可能。

    何となく。

    流れ的に。

    感覚的に。

    そろそろ、
    区切りをつける時期なのかもしれない。


    ■進路

    決断の時期が、
    近付いている。

    他にもう一社、
    学校の紹介で、
    二日間の体験会に参加。

    通常勤務と、
    同じ内容。

    ひたすら入力。

    二点間距離という、
    作業にチャレンジする。

    自社社員の自宅と、
    勤務地。

    その二点間の交通手段を調べ、
    Excelに入力していく。

    リーダーの先輩から、

    「二点間距離と聞いて、
    例えばどういうものがありますか?」

    次女は答えた。

    「社長と社員の距離」

    すると、
    リーダーが言った。

    「人によって、
    違うよね」

    何となく。

    流れ的に。

    感覚的に。

    心が決まった瞬間だった。


    ■決断①

    もう、
    何も迷うことはなかった。

    社長に、

    「給与保障終了日に、
    退職します」

    そう伝えた。

    「わかった」

    早期退職で、
    退職金の上乗せも付いてきた。

    何から何まで……。

    何より、
    その心が、

    たまらなく嬉しい。


    ■体験会②

    私が以前紹介した企業が、
    今年は学校主催として、
    後輩たちへの体験会を実施した。

    そして、
    その様子が、
    テレビで特集された。

    後輩たちから、

    「フルリモートで働けるのは、
    とてもいい」

    「働く先輩たちとも、
    しっかりコミュニケーションが取れた」

    「可能性が広がった気がする」

    確実に、
    大きな扉を、
    開けかけている感覚。


    ■決断②

    退職日が決まり、
    次女の就職に向けてのスケジュールも、
    見えてきた。

    両親にも、
    自身の退職や、
    次女の就職について伝える。

    母親から、
    一言。

    「あんた、
    退職金いくら出るの?」

    もう、
    限界を超えた。


    ■生活

    次女がもし、
    就職できたら。

    朝昼晩、
    家で食事をとることになる。

    料理は、
    全くできなかった。

    学校の給食があったから、
    何とかなっていた。

    実際、
    全てハサミで切っていた。

    料理教室に、
    通わなければ。

    だとすると、
    卒業前までに、
    習得しなければ。


    ■承継

    約30年勤務。

    本当に、
    お世話になった。

    数年前に退任された役員から、
    預かっていたものがあった。

    それは、
    今は亡き、
    先代社長のインタビュー記事。

    創業から60年。

    その歴史が、
    集約された内容だった。

    誰に、
    どう伝えればよいのか。

    現会長のお嬢さんが、
    最近働き始めた。

    何となく話をしてみると、
    後を継ぎたいと言う。

    彼女にしてみれば、
    祖父の足跡を、
    一つ一つ読み解きながら。

    何を大事にし。

    何を実現したいのか。

    価値観。

    存在意義。

    そんなものを、
    伝えられたらなと思った。

    自身の30年ほどの重さも、
    感じることができた。


    ■退職

    お世話になった方々へ、
    ご挨拶。

    忙しい、
    日々の仕事風景が、
    キラキラ見える。

    邪魔にならぬよう、
    そっと一言。

    清々しい時間。

    たまたま木曜日。

    時短勤務で、
    部活のお迎え。

    それも含め、
    最後まで、
    自分らしく居れた。

    いや。

    居させてもらえた。

    本当に、
    ありがとうございました。


    ■事実

    ここで、
    ある事実を明確にしておきたい。

    退職し、
    料理教室に通う。

    ただし、
    未来は、
    何も決まっていない。

    そんな事実。

    次女の就職は、
    まだ決まっていないのだ。

    もし決まらなかったら、
    ただの無職のオジサン。

    この、
    ギリギリで、
    痺れるような時間。

    でも不思議と、
    焦りや不安は、
    1ミリもない。

    何となく。

    流れ的に。

    感覚的に。

    悪くはならない、
    気がする。


    ■就活

    いよいよ、
    始まった。

    毎日、
    面接の練習。

    志望動機は。

    ガクチカについて。

    長所や短所は。

    長女とママも一緒に聞いてる。

    今の我が家は、
    キャリアセンター。


    ■一次面接

    学校の会議室で、
    一次面接。

    当然、
    父は何もできない。

    別室で待つ。

    御守りに、
    長女とママに、
    託すしかない。

    約1時間予定の面接。

    1時間。

    ……まだ終わらない。

    1時間10分。

    ……。

    1時間20分。

    まだ終わらない。

    1時間35分。

    戻ってきた。


    ■御守り

    年始のショートステイを利用して、
    鎌倉・箱根へ、
    初めての一人旅。

    鶴岡八幡宮で、
    就職成就のお守りを購入。

    観光をし、
    温泉に入り、
    束の間の休息。

    ふっと、

    何となく、

    行けそうな気がする。


    ■最終面接

    今回は、
    想定通り、
    30分で終了。

    同席した担任の先生から、

    「大丈夫だと思います」

    「ダメな理由が、
    見つかりません」

    と。

    あの410グラムで、
    22週0日で生を受けた子が、

    最終面接。

    役員面接を、
    やり切れた。

    一人で教室に戻っていく、
    次女の背中を見送る。

    四人で、

    ありがとう。


    ■謝恩会

    父として、
    次女の学生生活最後の集大成。

    謝恩会の司会。

    会社のキックオフで鍛え抜かれた、
    全体構成と司会進行。

    次女は、
    卒業式の答辞で、

    親。

    先生。

    後輩。

    すべての人たちの心に響く、
    スピーチをしていた。

    最後まで、
    段取り通り進める。

    「以上を持ちまして、
    謝恩会を終了させて頂きます」

    拍手の中。

    無意識に、
    口から出た。

    「一言だけ」

    「私事で恐縮ですが、
    この日を楽しみにしていた人が、
    もう一人」

    「きっと、
    どこかの片隅で、
    微笑んでいると思います」

    「ママ、
    ありがとう」

    本当に、
    無意識の一言だった。


    ■エピローグ

    卒業後。

    学校の会議室で、

    進路指導の先生。

    担任。

    ジョブコーチ。

    皆で、
    打ち合わせをしていた。

    帰り際、
    別学年の若い教員から、
    声を掛けられる。

    「卒業おめでとうございます」

    「謝恩会も出席させてもらい、
    最後、
    とても感動しました」

    「そして何より、
    就職おめでとうございます」

    「私たち教職員は、
    社会にはばたく子供たちを輩出するために、
    頑張っています」

    「学校としても、
    とても大きな経験でした」

    「次につなげていきたいと思います」

    「ありがとうございます」

    そして、
    もう一言。

    「今度は、
    社会人の先輩として、
    学校に講演しに来てください」

    「お待ちしています」

    確実に、
    大きな扉が開いた感覚。

    四人で。


    ■最後に

    最後までお読みいただき、
    ありがとうございます。

    今振り返ると、
    本当に色々な出来事がありました。

    時には、
    挫けそうになることもありました。

    でも、
    気が付けば。

    いつも、
    四人でいた気がします。

    次女の寝る場所。

    マッサージの手配。

    親友との別れ。

    そして、
    次女の就職。

    事あるごとに、
    四人でいる感覚でした。

    それは、
    スピリチュアルなことではなく。

    なんというか、

    “抱えすぎず、
    委ねる感覚”

    のようなものなのかなと。

    「ここまではやったから、
    あとはママ、よろしく!」

    そんな、
    ある意味少しだけ無責任な気持ちを、
    持たせてくれる存在。

    私にとっては、
    そんな存在なのだと思っています。

    子育て。

    介護。

    仕事。

    家事。

    キャリア。

    数々の責任を抱えながら、
    生きていく中で。

    時には、
    生死を超えた、

    自分自身の中にいる、
    大切な存在へ委ねることが、
    あってもいいのかなと。

    そんなことを、
    書きながら感じることができました。

    そして。

    そのことが、
    たまらなく嬉しいのです。




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