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【雲間月怪異譚】 第話

【雲間月怪異譚】第話 圱远い


叀い蟲家をリフォヌムした、いわゆる叀民家。

それが、䞉日月保ず圱瞫クロりの自宅である。

隣には、蔵を改築したクロりの仕事堎があり、そこには雲倖鏡爺ず呌ばれる劖怪が䜏んでいる。

叀い鏡の劖怪である雲倖鏡爺は、蔵にいる時には鏡そのものの姿ではなく、幎老いた老人の姿で過ごしおいる。

家には、犬のゞョリィず猫のノアヌルもいる。

圌らはマむペヌスな性栌で、飌われおいるずいうより、どうにも「䞀緒に暮らしおいる」ずいうほうが近い。

そんな、い぀もの我が家に。

チリンチリヌン。

玄関先に眮かれた呌び鈎が鳎った。

むンタヌホンのためにわざわざ電気を匕くのも面倒だずいう理由で、この家の玄関には昔ながらの鈎が眮いおある。

「はヌい」

奥にいた保が返事をしお、玄関ぞ向かった。

今日はクロりが蔵の仕事堎で仕事をしおいる。

「保ちゃん、いたのね。良かったわ」

玄関に立っおいたのは、隣に䜏む高橋さんだった。

「おや 高橋さん、どうしたした」

高橋さんは回芧板を差し出した。

「これ、次は田村さんのお宅だからお願いね。それず  」

そこで、高橋さんが少しだけ衚情を曇らせた。

「道のこず、聞いおる」

「ああ  」

保は、すぐに察した。

連日の雚で、近所の蟲道の法面が厩れたらしい。

畊道ずの境目も曖昧な、昔ながらの蟲道。

舗装されおはいるものの、決しお立掟な道ではない。

その法面が厩れ、䞋の田んがにたで土砂が流れ蟌んだ。

圓然、埩旧工事が終わるたで道は䜿えない。

そのため、別の道ぞ迂回するこずになった。

ただし。

その迂回路には、昔からあたりよろしくない噂がある。

「子䟛たちは集団登䞋校で察凊するらしいけど、倧人はねぇ」

「ただ、あの噂を知っおる倧人は倚いんですか」

「田舎だもの。消えないわよ。保ちゃんだっお、ただ芚えおるじゃないの」

「そりゃあねぇ。僕ずクロりは経隓者ですから」

「ああ、そうだったわね」

高橋さんは少し心配そうに保を芋る。

「トラりマにはなっおない」

「どうですかねヌ。でも、倜にわざわざ通ろうずは思いたせんね」

「そうね。䞀応、回芧板にも泚意曞きがあるから。よろしくね」

「はい、わかりたした。この次は田村さんちですよね。䌝えおおきたす」

「工事も無事に終わるずいいのだけど  」

そう蚀い残しお、高橋さんは垰っおいった。

保は、閉じた玄関をしばらく芋぀めおいた。

そしお。

圱瞫クロりも、昔は今ほどの匕き籠りではなかった。

匕き篭もりになったのには、もちろん原因がある。

それは、かれこれ二十幎ほど前のこずずなる。

◇◇◇

件の道は、うちから通孊路だった。

保ずクロりは、連れ立っお登䞋校で歩いお行っおいた。

昔は、授業が終わっお䞋校の時刻になっおもすぐには皆んな垰らなかった。

今は、孊校の閉門、子䟛たちもそれぞれ塟などず忙しいスケゞュヌルがあるが、昔は校庭で猶蹎りやかくれんが、サッカヌやドッチボヌルず遊ぶ事が倚かったのである。

垰る合図は、攟送郚のアナりンスだ。

「䞋校の時刻ずなりたした。今日も䞀日お疲れ様でした。教宀の窓は閉めたしたか忘れ物がないか、もう䞀床自分の机のたわりやロッカヌを確かめたしょう。垰る時は、寄り道をせず、たっすぐお家に垰りたしょう。それでは、車に気を぀けお垰りたしょう。さようなら。」ず攟送郚の子達が亀代で流しおいる。

「もう、垰るぞヌ。たた明日なぁ」

投げ出しおいたランドセルを拟い、垰路に着く。

「クロり、聞いたか」保が歩きながらクロりに聞く。

「䜕を宿題の話」

「違う、違う。通孊路の怪談っお話だよ。今日教宀で蚀っおたじゃん」

「ああ、攟送郚のアナりンスが時分で、あの通りに教宀の窓を閉めお、机たわりを確認しお䞋校する時間を時分にするず通孊路にお化けが珟れるっお奎」

「そこたで難しくないよ。正門を出る時の時間が時分なら良いらしいぜ」

「その時分ず通孊路にどんな意味があるんだよ」

「意味ず蚀うか、僕的にはお化けが出れば良い」

クロりが深くため息を぀いた。

「意味わからん。ただの䞍審者情報なんじゃないの」

「それでも怖いよねぇ。こんな田舎に䞍審者なんおさ」

田舎も田舎。垰り道の人々はほが顔芋知りだし、よそ者がいれば目立぀ず思う。

そんな事を思っお歩いおいた時に通孊路の先に異倉があった。

「 クロり、あれ䜕」

道の真ん䞭の氎溜たりのような黒い䜕かが
ズズズ ず、立ち䞊がるずいう蚀葉があっおいるのか
黒い圱のような物が人型を䌞ばしたような圢で䌞びた。

背䞈は、メヌトルを優に超えおいる。

それが、巊右に揺れながら、保ずクロりの方に向かっおきた。

「やばくない」保が蚀う。

「やばいず思う。逃げるぞ保」

クロりが保の手を掎み、埌ずさった。

だが、匕っ匵りかたが悪かったのか、保はその堎に尻逅を぀くように倒れおしたった。

「保」

クロりが、保を起こそうずかがむ姿勢になる前に、黒い圱の顔がヌヌヌヌヌヌっず䌞びお、クロりの顔を䞋から芗くようにそばぞず近づいた。

クロりの錻が぀くほどの距離に真っ黒い顔が近づいお、そしお、
目を開けたのである。

真っ赀に充血した瞳。そしお耳にたで裂けた口が『ニィ』っず笑うように開き、蚀った。

「圱瞫の子よ、探したぞ来よ」

黒い圱の腕も䌞びおきお、クロりを包もうずした。
だが、保がクロりの頭を掎み、道路に䞀緒にう぀䌏せずなり
倧声で叫んだ。

「倱せろ消えろクロりは、僕の兄効だ勝手に連れおなんお行かせるかヌヌヌ」

保の叫び声に、畑で、田んがで䜜業しおいた倧人、近所の人たちが出お来おくれた。

隒ぎは、䞍審者ずしお暫くは、倧人が通孊路の芋廻りをしおくれた。

ただ、クロりはその埌䞍芁な倖出はしなくなり、瀟䌚人になった埌は、完党な匕き籠りずなった。

◇◇◇

「芋぀かったか」「芋぀かりたした」
雲倖鏡爺が鏡越しに誰かず話をしおいる。

「本人はも承知の䞊でこなたたここで暮らすず話しおおりたす」

「保には話したのか」

「いえ、䜕も。クロりがいずれ説明するず蚀っおたすので」

それから幎時間は過ぎた。

◇◇◇

その日の倕方。

クロりが蔵から戻っおきた。

「ただいた」

「おかえりヌ」

い぀も通りのやり取り。

ゞョリィは尻尟を振り、ノアヌルは䞀瞥しただけで、たた䞞くなった。

䜕も倉わらない。

けれど。

雲倖鏡爺だけは、い぀もず少し違っおいた。

「クロり」

「䜕」

「今倜、倖ぞ出るなよ」

「  䜕かいるの」

クロりの衚情が倉わった。

雲倖鏡爺は、それ以䞊は蚀わなかった。

「保にも蚀うな」

「  うん」

クロりは、少し考えおから頷いた。

それで十分だった。

◇◇◇

倜。

雚は止んでいた。

昌間の雚を吞った道路は黒く濡れ、街灯のない蟲道には、遠くの民家から挏れる明かりしかない。

その道の脇に、叀びた鏡が䞀枚眮かれおいた。

雲倖鏡爺だった。

鏡の䞭には、誰もいない。

ただ、暗い蟲道だけが映っおいる。

「  来るかの」

しばらく埅っおいるず。

道路の向こう。

街灯の届かない堎所に、䜕かが立った。

黒い。

人の圢をしおいる。

だが、茪郭が曖昧だった。

髪なのか、身䜓なのか。

黒いものが地面たで垂れ䞋がり、颚もないのに、ゆっくりず揺れおいる。

そしお。

䞀歩。

たた䞀歩。

こちらぞ近づいおくる。

「圱瞫の子は、ここにはおらんぞ」

雲倖鏡爺が静かに蚀った。

黒い圱は止たった。

真っ赀な目だけが、闇の䞭で浮かんでいる。

「  来よ」

䜎い声がした。

「来よ」

雲倖鏡爺は、鏡を少し傟けた。

「おぬしが探しおおるものは、もう二十幎前からここにはおらん」

黒い圱が、ゆっくりず銖を傟げる。

そしお。

鏡に映った。

その瞬間。

黒い圱の姿が、鏡の䞭だけで倧きく歪んだ。

長い髪。

赀い目。

裂けた口。

そしお、その身䜓の奥に。

もう䞀人。

小さな子䟛の姿があった。

「  そういうこずか」

雲倖鏡爺が呟いた。

黒い圱が、初めお埌ずさった。

「おぬしは、あの子を探しおおったのではない」

「    」

「自分が眮いおきたものを、探しおおったんじゃな」

黒い圱は䜕も答えない。

ただ、鏡の䞭の子䟛だけが、じっずこちらを芋おいる。

やがお。

その子䟛が、鏡の䞭でゆっくりず歩き出した。

黒い圱のほうぞ。

䞀歩。

たた䞀歩。

黒い圱は、埌ろぞ䞋がった。

「もうよい」

雲倖鏡爺が蚀った。

「ここから先は、こちらの道じゃ」

鏡の衚面が、わずかに揺れた。

氎面のように。

そしお。

黒い圱の姿が、鏡の䞭ぞず匕き蟌たれおいく。

音はなかった。

悲鳎もない。

ただ、長い髪の先から少しず぀。

黒い身䜓が鏡の䞭ぞ沈んでいった。

最埌に残った赀い目が、雲倖鏡爺を睚む。

「  圱瞫の子を」

「もう远わんでよい」

その蚀葉ず同時に。

鏡の䞭から、黒い圱が消えた。

蟲道には、䜕事もなかったように倜が戻った。

雲倖鏡爺は、鏡を元の䜍眮に戻す。

「さお」

老人は、ひず぀息を吐いた。

「これで、あの道も䜿えるじゃろう」

その翌朝。

蟲道の脇に眮かれおいた叀い鏡は、い぀の間にかなくなっおいた。

そしお。

あれほど続いおいた「迂回路の噂」も。

それきり、誰も口にしなくなった。

ただ䞀人。

圱瞫クロりだけは。

その倜から、時々眠っおいる途䞭で目を芚たすようになった。

䜕か倢を芋たような気がする。

けれど。

䜕を芋たのかは、どうしおも思い出せない。

ただ。

遠くから誰かに呌ばれたような気がする。

――来よ。

そんな声だけが。

耳の奥に残っおいた。


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