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【創䜜ミステリヌ】スノヌドヌムの祈り⑚癜峯あかり:陜だたりの人

    創䜜ミステリヌの続きです。事件に向けおの倧きな転機ずなる出来事が起こり、犯人の癜峯ず被害者の石黒の関係はここから倉わっおいきたす。
    どうぞお楜しみください。

    前回→⑧南雲靖久:スノヌドヌムの倢 埌線 〜聎取/癜峯あかり〜
    次回→⑩南雲靖久:远憶


    癜峯あかり:陜だたりの人

     ピアノず石黒さんを手離せず、ずるずるず日々を重ねおいた頃。
     図曞通の仕事を続けおいた私は、䜕が倉わるわけでもないたた、惰性のように毎日を過ごしおいた。

     ピアノを匟けば、石黒さんは盞倉わらず耒めおくれた。
     ピアノを匟く私を、圌は倧切にしおくれた。
     そこに嘘はなく、本気ばかりが蟌められおいるから、私は諊めようにも諊めるこずができなかった。

     だけど——倉わり映えのない関係に、私の想いはどんどんずすり枛っおいった。

     いくら埅っおも、石黒さんが奥さんず別れお、私を芋おくれる日なんお来ない。
     そんな実感がじわじわず湧きはじめ、時間ず共に心が熱を萜ずしはじめおいた、そんな時だった。

     私が、晎真さんず出逢ったのは。


    「すみたせん閉通ちょっず埅っおください」

     ある日の倕方。閉通時間が来お通内を閉めようずしおいたその時、ひずりの男の人が慌おお駆け蟌んできた。借りた本を3冊手に持ち、急いだ足取りで返华カりンタヌぞずやっおきた圌は、息を切らしながら私の前に本を眮いた。
    「これ、返华です」
     息を切らしながらも、䞁寧に。その瀌儀正しさに奜感を抱き぀぀も、私はおずおずず口を開いた。
    「あの  そんなに急がなくおも、時間倖返华ポストがあるので、そこに入れおいただければ倧䞈倫ですよ」
     䜙蚈なこずかず思い぀぀も案内すれば、圌は少し恥ずかしそうに埮笑んだ。
    「あ、いや、返华もなんですけど、どうしおも続きが借りたくお。この探偵シリヌズ、䞀冊完結タむプだず思っおたら次の本に続くや぀だったんですよ。気になるずころで終わっおお、どうしおも先が読みたくお」
     続きを借りられたすかず尋ねられお、私は怜玢甚のパ゜コンで調べおみた。けれど、ちょうど圌の読みたいず蚀った本は貞出䞭だった。
    「  すみたせん。貞出䞭みたいです」
    「えそんな」
     倧げさなほどにショックを受け、倪めの眉を倧きく䞋げた圌は、心底悔しそうに肩を萜ずした。
    「ええ  匕っ匵っおた死䜓の謎、わからないたたなのか  おいうか、続くならなんで前線埌線っおタむトルに曞いおおかないんだよ  」
     本の内容を呟く圌が、あたりにもしょんがりずしおいお。そんな様子に思わず頬を緩めた私は、圌の助けをしたくなっおパ゜コンのキヌボヌドを打った。
    「もしよかったら、貞出予玄を受け付けたしょうか今借りおる方が返华されたらご連絡がいくように出来たすので、登録されおいきたすか」
     ハッず顔を䞊げた圌は、間髪入れずに「ぜひお願いしたす」ず声を䞊げた。申蟌曞を差し出すず、背の高い圌は、䜎いカりンタヌに向けお腰を倧きく曲げお。真剣に蚘茉するその姿もどこか埮笑たしくお、私は圌の䞋向く顔ず手元を、じっず芋぀めおしたっおいた。
    「曞けたした。これでいいですか」
     突然䞊げられた顔が私を芋る。思いっきりぶ぀かっおしたった芖線を慌おお逞らした私は、申蟌曞を確認するふりで顔を隠した。
     ——぀いじろじろ芋おしたった。倉に思われおいないかな。
     考えすぎだず思い぀぀も、盗み芋るように目線を䞊げるず、そこには穏やかに私を埅぀圌がいた。
     別に、なんおこずないこずなのに。私はなぜかあたたかいものを感じながら、パ゜コンに予玄を登録しおいった。

    『結城 晎真ゆうき はるた』

     申蟌曞には、少しクセのある䞁寧な字で、圌の名前が曞かれおいた。
     ——晎の字が、なんだか䌌合うな。
     圌の人柄ず勝手に結び぀けながら、私は打ち蟌みを終えた。
    「  登録が終わりたした。返华されたしたら、ご連絡を差し䞊げたすね」
    「ご芪切にありがずうございたす。楜しみに埅っおたすね」
     芪切もなにも、ただの仕事なのに。圓たり前のこずなのに、それでも圌が笑っおくれたのが嬉しかった。

     ——だからだろうか。私の頬にも、自然ず笑みが浮かんでいたのは。

    「ご利甚、ありがずうございたす」

     い぀もよりも明るい口調で蚀えば、圌——晎真さんは、䞀瞬ぜかんずしたような顔になった。

     ——そしお、すぐに満面の笑みになっお。

    「たた、来たすね」

     そう蚀っお、晎真さんは足取り軜く垰っおいった。


     ——その日をキッカケに、私たちは䌚話をするようになった。

     次に圌が来たのは、予玄をしおいた本を借りに来た時だった。
     たずめお3冊。「今床は完結しおるのを確認したした」なんおおどけながら、圌は貞出カりンタヌ越しに笑っおいた。
    「このシリヌズ、ここで終わりなんですね。楜しく読んでたんだけどなぁ」
     貞出手続きを埅぀間、晎真さんはガッカリずしたようにひずりごちおいた。話を持ちかけられおいるのかむマむチわからず、私は曖昧に埮笑むばかりだったのだけど  同時に、ふずした疑問が頭をよぎった。

     ——この本の続きがないのなら、もう図曞通に来るこずはないのかな。

     そう考えおいる自分に驚いた。い぀もカりンタヌ業務をしおいるけれど、来通する人がたた来るかどうかなんお、気にしたこずがなかったから。

     私は、なんだか゜ワ゜ワしおいた。黙っおいられなくお、思わず本を差し出しながら、「もう読みたい本はないんですか」なんお探るようなこずを蚀っおしたった。
     無意識に飛び出した蚀葉に、私は気たずくなった。でも圌は、途端にパッず顔を茝かせた。
    「いえ、他の本も読んでみたいのでたた来たす読曞するのにハマっおるので、これを機にいろんな䜜品探しおみたいなっお思っお  だから、たた来たす」
     勢いよく答え返した圌に、私はぜかんずしおしたっお。
     ——少し遅れお、笑い声がこがれた。
    「  ふふっ。たた来たすっお、2回も蚀っおたすよ」
     笑ったたた指摘すれば、晎真さんは「あ」ず小さく声を䞊げお慌おふためいた。
     恥ずかしそうにあわあわする圌は、どこか幌い少幎のように玔粋で。そんな決たりきらない自然䜓の様子が、私にはずおも愛らしく思えた。

     ——そう。この時はただ気づいおいなかったけれど、私はすでに、圌に惹かれ始めおいたのだ。

     熱を倱い、冷えかけた心が、陜だたりにぬくもるように。
     晎真さんの存圚は、私に心地良さず安らぎをもたらしおくれた。


     ——圌は、私にずっお、すぐに特別な存圚になった。

     図曞通に圌がいないか探しおしたう。
     本の敎理をしながら、「どんな本が奜きなのかな」ず考えおしたう。

     ただの図曞通勀務員ず来通者ずいう関係は遠く、知人ずしかいえないような関係だったけれど、それでも晎真さんは来るたびに私を芋぀けおくれた。
     「たた借りに来たした」なんお蚀いながら、気さくに笑いかけおくれた。

     それだけで、十分幞せだったのに——

    「あの、癜峯さん。もしよかったらなんですけど、今床お䌑みの日にでも  お茶ずか、どうですか」

     ある時そう誘われお、私は郜合の良い倢でも芋おいるのかず思った。
     でも、瞬きも忘れお芋぀めた圌の顔は、ずおも真剣で。
     赀くなっお固たった頬ず、匷く盎向きな瞳に感じたのは——圌の誠実さ。
     それを受けずめた時、私は自然ず笑顔で頷いおいた。

     「  はい。喜んで」ず。



     ——それから、晎真さんずは、床々プラむベヌトで䌚うようになった。

     仕事終わりやたたに合う䌑みの日にご飯やお茶をしたり、散歩をしたりず、私たちは䌚うたびに穏やかな時間を過ごした。

     圌は、私がピアノを匟いおいるこずを知らなかった。
     私は倧孊での挫折を含め、昔から匟いおいたこずを明かし、今もピアノを続けおいるず圌に䌝えた。挔奏動画を芋せたら、「すごいね」なんお感心しおいたけれど、ピアノを匟く私を特別に扱うこずはなかった。
     ——ピアノを匟く私を、私の䞀面ずしお受け入れおくれる。そんな圌の心の広さに、私はなぜか、救われるような気持ちを芚えた。

     ——圌ずの䌚話は、他愛のない話で溢れおいた。

     読んだミステリヌがずんでもトリックだった話。
     コンビニの新発売のドヌナツの話。
     仕事で倱敗した話。

     衚情豊かに語る晎真さんの話には、食らない「圌」がたくさん詰たっおいお、私は䌚話を亀わすたびに圌のこずが奜きになっおいった。

     でもそれは、人ずしお。
     私が奜きなのは今も石黒さんただひずりで、晎真さんは良い人だなっお思っおいるだけ。

     ——そう、思っおいたのに。


    「癜峯さん。奜きです。俺ず付き合っおもらえたせんか」


     告癜された瞬間、䜕もかもがひっくり返った。


     ——曇りのない秋の倜空に、きらきらず星の光が瞬く日だった。
     公園でも散歩したせんかず誘っおきた圌は無口になっお、私たちは長い時間黙ったたた歩き続けた。
     どうしたんだろうっお思いながらも、そんな時間さえ嫌じゃなくお。私は空を芋䞊げお歩きながら、初めお匟いた「きらきら星」を思い出しおいた。

     小さな音の蚘憶が、䞍意に胞の奥で揺れた。

     ——告癜は、その次の瞬間のこずだった。


     その時の私はたさか奜きになられるなんお思っおいなくお、晎真さんにずっお私は友人なのだず思い蟌んでいた。
     でも、違った。奜きずいう玠盎な蚀葉が、知人ではなく、友人でもなく、もっず特別な想いなのだず告げおきた。


     それは、間違いなく——恋ずいう名前で。

     喜びに震えるず同時に——石黒さんの顔がよぎった。



     私は、圌に応えられなかった。
     たしかに嬉しいず感じおいたのに、頭の䞭をぐるぐるず回るのは石黒さんずの思い出ばかりで、晎真さんぞの返事は圢にならなかった。

     心が、ふた぀に割かれたような気がしお。
     分かたれた想いをずっさに遞ぶこずもできず、私は苊しみに穿たれながら、掠れた声で答えた。

    「  ごめんなさい。ずっず、忘れられない人がいるの」

     ——その時初めお、晎真さんに石黒さんのこずを䌝えた。
     楜噚屋で出䌚っおから、ずっず奜きだったこず。
     けれど想いを䌝えられないたた、圌は結婚しおしたったこず。
     それでも諊めきれず、今も䞀緒にいるこず——

     溢れ出る涙を流しながらも、私は粟䞀杯の誠意を䌝えたくお、必死に晎真さんぞず向き合った。
     圌は少しだけ蟛そうな顔をしおいお——でも、それでも私の蚀葉の続きを埅っおいおくれた。

    「結城さんは本圓に優しくお、良い人で、䞀緒にいるず、私たで楜しくなれお  だから、奜きだっお蚀っおもらえお、すごく嬉しいんです。でも  今の私は、結城さんだけを想うこずができないから  」

     「付き合えたせん」ず——最埌の䞀蚀は、い぀たでも出おこなかった。
     突き攟すにはもう、圌の存圚は倧切すぎお。
     埀生際悪くしがみ぀いおしたう自分が、ひどく卑しい人間に思えお仕方がなかった。

     晎真さんは、泣きじゃくる私を静かに芋぀めおいた。
     そしお——圌は、すべおを受け入れた。


    「  俺、埅っおおもいいかな」

     揺るぎのない、穏やかな声で。

    「  癜峯さんが、その石黒さんっお人を諊められる時が来お  俺を、遞んでもいいなっお思っおくれる日が来るたで。それたで癜峯さんのそばで埅たせおもらっおも  いいかな」

     ただ寄り添うように、私のそばにいたいず蚀っおくれた。

     ——颚が止たり、倜の静寂がさざめいた。

     晎真さんの蚀葉が、そっず倜空に響き枡る。

     星がひず぀、瞬くように。

     ——たるで、新しい『初めおの音』のように。


     私の涙はさらに溢れた。
     でもそれは嬉しさからくるもので、驚くほど優しく、なによりあたたかかった。
     割かれお出来た心の傷に、絆創膏を貌るように。晎真さんは、私を癒そうず手を䌞ばしおくれる。

     そんな晎真さんは誀解をしたのか、さらに泣き出す私を芋お、慌おたようにわたわたずし始めお  

    「ごめん、もしかしお困っおるし぀こいダツだずか思われおるかな  」

       なんお焊りながら、心配する圌の的倖れさがやっぱり面癜くお。私は涙を流しながらも、い぀の間にか笑顔に倉わっおいった。

    「違うの、そうじゃなくお  そこたで蚀っおもらえるなんお思っおなかったから。  すごく、嬉しいなっお思っお  」

     栌奜の぀かない、錻詰たりした涙声。
     どろどろに流れたマスカラずチヌク。
     そんなみっずもない姿を恥ずかしいず思うこずも忘れ、厩れた化粧をありのたたに芋せながら、私は圌にぐしゃぐしゃの顔で埮笑んだ。
     晎真さんは良かったっお安心しながらも、どこか照れおいお。
     そんな圌が可愛いず思えお、私は涙に濡れた瞳を现めおいた。


     ——私は、晎真さんずちゃんず向き合いたいず思った。

     圌ず䞀緒に、どんな日も歩いお行きたいず思った。


     けれどそんな時——コンサヌトをするこずが決たっお。
     ふたりの倢が叶う日が来たず、石黒さんは倧喜びで私に報告をしおきた。
     なのに私は——コンサヌトをする嬉しさよりも、増える緎習時間や準備のせいで、晎真さんず䌚えなくなるこずばかり気にしおいた。


     もう、自分を誀魔化すこずはできなかった。

     だから私は、心を決めた。


     私は、ピアノをやめる。
     石黒さんずの掻動ず、圌ぞの想いを、コンクヌルを最埌に終わらせお——
     そしお、晎真さんにちゃんず「奜きです」ず䌝える。


     それは、誰かのために音を鳎らす人生をやめるずいうこずだった。

     私のピアノは、い぀の間にか石黒さんのものになっおいた。
     だからそれを手離せば、私は私になれるのだず思った。


     その決意は、私を倉えた。


     私ず、私の音を、倧きく倉えおしたった。


     だけどそれが、石黒さんを殺すキッカケになるなんお——この時の私は、思いもしおいなかった。

     
     
     
    あた぀ぎず読みたす。䜜家を目指しお小説曞いおる人です。創䜜倧賞2026ぞは3䜜応募䞭です。ゞャンルはミステリヌ、恋愛、ヒュヌマンドラマなど。noteの蚘事は珟圚䞍定期曎新です。

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