芋出し画像

【創䜜ミステリヌ】スノヌドヌムの祈り⑫南雲靖久:掚論

創䜜ミステリヌの続きで、掚理パヌトになりたす。残すずころあず3話、事件の党おが明かされるたでお付き合いいただけるず幞いです。

前回→⑪癜峯あかり:決意の倜
次回→⑬癜峯あかり:匟く手


南雲靖久:掚論

 コヌヒヌカップを片手に、熱いコヌヒヌを䞀口。
 ミルクず混ざり合った琥珀色の液䜓が舌を滑り、柔らかな苊味ずほのかな酞味をじんわりず広げおいく。
 飲み蟌むず、銙りが錻ぞず抜けおいく。そしお埌には、ほのかに甘い䜙韻だけが残った。
 ——さすが高玚ホテルのラりンゞだ。
 よほど良い豆を䜿っおいるのだろう。安物の猶コヌヒヌみたいな尖った苊味じゃないし、味に芯があっお、たさに「敎っおる」ずいう蚀葉がぎったりの䞀杯だ。
 埌味も軜いし、飲んだ埌も劙に気分がいい。
   たぁその分、財垃には優しくないんだけど。


 ゜ヌサヌにカップを眮き、ふず窓の向こうを眺める。

 ホテルの建物が描く、円の内偎。䞞く切り取られた䞭庭には、ラむトアップされたガラスのツリヌずむルミネヌションの動物たちが、癜い雪化粧をした姿で光り茝いおいる。
 雪は止たない。しんしんず降り続け、倜の静けさを際立たせながら、狭い䞖界を少しず぀癜ぞ塗り替えおいく。

 その光景はたるで、誰かがそっず揺らしたスノヌドヌムのようで。

 俺は県差し遠く、ありし日の幻圱を芋぀めおいた。


 ——たた積もるんだろうか。そんなこずをがうっず考えおいるず、窓ガラスの反射にラりンゞぞず入っおくる倏目の姿が映った。
 振り返るず、俺を芋぀けた倏目が足早にこちらぞず向かっおくる。俺の察面のシングル゜ファに腰を䞋ろし、手に持っおいた端末を軜く確認しお懐にしたうず、コヌトの襟元を正しお俺に向き合った。
「今、石黒の遺族ぞの察応が終わりたした。劻ずご䞡芪には、それぞれ事件の可胜性が匷たったこずを再床電話連絡枈みです」
「ん、ご苊劎さん。  どうだった」
「  やはり、驚いおいたようです。特に奥さんは意味がわかっおいない様子で  最埌たで、䜕床も『り゜ですよね』ず繰り返しおたした」
「そうか。  䞡芪もか」
「はい。  母芪はおそらく、初動の連絡からずっず泣いおいたんでしょう。完党に憔悎した様子で、こちらの報告もたずもには届いおいないようでした。途䞭から父芪に代わりたしたが、毅然ずしながらも、必死に蟌み䞊げるものを抌し殺しおいるようで  」
 そこで蚀葉を止めるず、倏目は口を噀み、無力さを握り朰すように䞡手を組む。
「  䜕床やっおも蟛いものですね。こういう察応は」
 癜くなる指先ぞず、瞳を萜ずしお。
 倏目は悲痛を滲たせながらも、決意に顔を䞊げる。
「ボス。残された遺族のためにも、この件はきちんず終わらせたしょう。  事件の党容は、石黒の隠しおいた眪を暎いお、遺族に远い打ちをかけるものになるかもしれたせんが  それが、僕たちの仕事です」
 芚悟を立お、倏目は背筋を䌞ばす。その凜ずした姿に、俺は倧きく頷いお応えた。
「そうだな。俺たちは事件を解き明かすのが仕事だ。そこにどんな事情があろうず、眪を芋過ごすこずは出来ない」
 そう蚀い切っおおきながらも、俺は捚おきれない情に぀ぶやいた。

 「  蟛い圹目だけどな」、ず。


 俺ず倏目は、ほんの少しの間、沈黙しおいた。倏目がコヌヒヌを頌み、運ばれおきたカップに砂糖をひず匙加えたずころで、ようやく俺たちは事件に぀いお語る心構えを敎える。

 すっず䞀口。倏目がコヌヒヌを飲み蟌んだずころで、俺は話を切り出す。

「  癜峯は、おそらく自癜するだろうな」

 結論から述べれば、倏目の眉がぎくりず動いた。カップを音もなく゜ヌサヌに戻し、倏目は小さく頷く。

「聎取の時のあの様子からしお  その可胜性が高いでしょうね」


『  コンサヌトが終わったら、お話がありたす』

 ——俺たちに背を向け、癜峯は蚀った。

『  聎いお欲しいこずがあるんです。私ず  石黒さんのこずに぀いお』

 震えた声で、それでも背筋を䌞ばし——圌女は告げた。

『本圓は、今お䌝えできればよかったんですが  いた蚀っおしたったら、コンサヌトの前に、ピアノが匟けなくなっおしたいそうで。だから、すべおが終わったら  ちゃんず党郚、話させおください』


 癜峯の背䞭越しに聞いた、『告癜の玄束』。
 それはおそらく——自癜を瀺唆するものだ。

 俺ず倏目は意芋を揃えるず、今床は互いにカップを手に取った。
 琥珀色の氎面を揺らし、コヌヒヌの銙りをくゆらせ、俺は掚論を䞊べ始める。

「  癜峯は、すぐに自銖をせず、コンサヌトをやり切るこずを遞んだ」

 切り出せば、倏目が静かに続く。

「殺しおしたったこずを、深く埌悔しおいるようですね。ゲネプロの時、ピアノには石黒からもらったずいうスノヌドヌムが眮かれおいたした。  癜峯は、石黒の圢芋のように扱い、『芋おいお欲しいず思っお』ず蚀っおいたした。あの蚀葉は  嘘だず思えたせん」
「石黒はコンサヌトにこだわっおいた。  いや、正確には、癜峯あかりのピアノにこだわっおいたずいうのが正しいかもな。それがわかっおいたから癜峯は、眪を『䞀時的に』隠すこずを遞んだ」
「その目的は  」
「石黒ぞの莖眪のため、だろうな。事件が明るみになっお逮捕されればコンサヌトは䞭止になる。癜峯は、それだけは避けたかった。コンサヌトは石黒の倢であり、圌ぞの償いだったから」

 ——死䜓がわざわざ匕き䞊げられ、埋め盎された理由。
 それは己の眪を隠すものではなく——コンサヌトを開催するための『䞀時的な隠蔜』だった。

 眪を莖うために。
 石黒が眠る䞭庭に向け、鎮魂の調べを届けるために。

「事件が発芚しなければ、コンサヌトは問題なく行われるず思ったんだろう。ずころが運悪く、死䜓はすぐに発芋された」
「癜峯にずっおは、予想倖だったわけですね」
「おそらくな。遺䜓を隠すず決めたものの、石黒の持ち物たで頭は回らなかったんだろう。そのたたにされおいた石黒のスマホから癜峯の曲が鳎っお発芋された、なんお皮肉な話だよな」
 ぬるくなりかけたコヌヒヌを、ぐっず飲み干す。
 熱を倱った液䜓が喉を通り、消えかけた銙りは、冷めた掚論ず共に腹に沈んでいく。

 ——あたたかさなんお、長くは続かない。

 コヌヒヌも、珟実も、真実っおや぀も。

「  遺䜓が芋぀かり、事件は露呈しおしたった。癜峯は自銖をする前に石黒の倢だったコンサヌトをやり切ろうずしおいたのに、途端に開催が危ぶたれ——」
「コンサヌトの䞭止を取り䞋げるよう、蓮芋に蚎えた」

 ——「それが  癜峯様から『石黒さんのためにもどうしおも開催したい』ずいうご芁望がありたしお、開催の方向で動いおいるんですよ」。

 蓮芋の蚀葉を思い返す。
 攟っおおけば䞭止になりかねなかった興行を、癜峯は自ら頭を䞋げ、開催を懇願した。
   圌女の昔の倢でもあったずいうコンサヌトだ。自身にも開催に懞ける想いはあったんだろうが  この時の癜峯はもう、石黒の倢の実珟が䞀番の目的になっおいたんだろうな。

「  ボス。ひず぀聞いおもいいですか」
 䞀連の流れを蟿り終えたずころで、倏目がふいに衚情を匕き締めた。手にしおいたカップを゜ヌサヌに眮きながら、倏目は芖線を䞊げる。
「ボスは  癜峯に、殺意はあったず思いたすか」
 改たった口調。それを受け止め、俺は残りのコヌヒヌず共に飲み䞋す。
「さぁな。ただ、石黒の郚屋ぞの出入りや深倜に自宀を出る姿がカメラに残っおるこず、それに遺䜓の持ち物をそのたた攟眮しおいた点を考えるず、蚈画的な犯行には芋えない。あるずすれば衝動か、それずも、ほんの匟みか——」

 ふず想像する。
 最䞊階、スむヌトルヌムのバルコニヌ。
 ルヌフの䞋、真倜䞭の冬颚に吹かれながら向かい合うふたり。
 蚀い争いの末、衝動的に䌞ばした手。
 酔った石黒は突き飛ばされおバランスを厩し、手すりを超え、そのたた——

 そこたで考えお、走り過ぎた思考にブレヌキを螏む。

「  殺意の蚌明は、やはり難しそうですね。ずなるず、動機が気になりたすね」
「動機に぀いおも確蚌はないが、石黒呚りの話、コンサヌトの準備ず詐欺の銖謀、そしお癜峯から語られた石黒ずその倉化に、芋えおくるものはある」
「——癜峯のピアノぞの匷い執着。たるで、信仰ずも蚀えるような」
「ああ。おそらく、そこが匕き金だ」

 歪んだ情は、行き過ぎれば垞軌を壊す。
 「愛しおる」ず蚀いながら、盞手の銖を絞めるこずすらある。
 衚ず裏。愛が裏返り、憎に倉わった時、自分も他人も狂わせ——悲劇を生む。

「自芚しおたのかしおなかったのかは知らんが、石黒は衚立っおそうした感情を芋せおは来なかったんだろう。だが、それが厩れ始めた」
「癜峯の音の倉化を察知し、その圱に——結城晎真ずいう存圚を知った」

 ——結城晎真。
 癜峯の想い人であり、おそらく、この事件の匕き金のひず぀ずなった男。
 俺はその存圚を浮かべながら、掚理を繋ぐ。

「それたで石黒は、癜峯は自分のそばにいるのが圓たり前だず思っおいたんだろう。だが、それがある日突然脅かされた。癜峯を詮玢した䞊、職堎にたで乗り蟌んでるんだから、内心は倩倉地異でも起きたくらいの衝撃だったんだろうよ」
「図曞通で結城が癜峯ず䌚っおいる時に珟れたずいうのは、さすがに出来すぎおいたす。  意図的に接觊を図ったようにしか思えたせん」
「そうだな。偶然っおいうにはタむミングが良すぎる。はなから圓たりを぀けおたんだろうな」
 理解を深めるず、倏目が忌々しげに眉を寄せた。

 石黒の、支配的な蚀動の衚局化。
 それによっお、結城に心を寄せ始めおいた癜峯は苊しめられおいた。
 そしおコンサヌトずいう節目の前倜に——すべおの歯車は、狂っおしたった。

「  衝動的な殺意があったにせよ、匟みで起きたにせよ、石黒を突き萜ずした埌、癜峯はかなり動転したでしょうね」
「おそらくな。防犯カメラなんか気にせず倜䞭に郚屋を出たのは、自分の目で石黒の生死を確認せずにいられなかったんだろう。そしお䞭庭に入った癜峯は——死んでいる石黒の姿を、目の圓たりにした」

 ——深倜の静寂の䞋。䞞く切り取られた、煌びやかな冬の䞖界。
 スノヌドヌムの内偎に䌌たその窮屈な堎所で、圌女は殺めた石黒ず——自分の眪ず、どんな思いで向かい合ったのだろう。

 自分が壊したものの重さを抱え。

 犯した眪を、雪で芆い。

 悪い倢であっおほしいず——ただひずりきりで、願っおいたのだろうか。

「  殺しおしたったこずを知っお、自銖を考えたものの、癜峯は思い盎し、コンサヌトをやり切るこずにした」
 掚論の冒頭に戻りながら、倏目が事の流れを確かめるように぀ぶやく。
「しかし死䜓が発芋され、事件が衚面化したこずで予定が狂った。コンサヌトの開催が危ぶたれるこずもそうですが、それよりも圌女は、自分に疑いが向くだろうこずを察したでしょう」
「ああ。捕たればコンサヌトどころじゃない。富良野譊察が珟堎入りしお気が気じゃなかっただろうが  しかし幞いにも、圌女が犯行を行ったずいう決定的蚌拠はなかった」
 倩が圌女の味方をしたずしか蚀いようのない、カメラの死角の動線。熊井ず牛田の聎取で自分が犯人ず断定されおいないこずを知り、癜峯はおそらく考えたのだろう。

 ——コンサヌトが終わるたで、隠し通せるかもしれない、ず。

「  癜峯は、事実を隠すこずを遞んだ」
「そう。それがあの、『コンサヌトホヌルにいた』っおいうアリバむ蚌蚀だ」


『  緊匵で、寝付けなくお。気持ちを萜ち着けたくお、2時すぎにコンサヌトホヌルに行きたした。しばらくホヌルを芋たり、ピアノの前に座ったりしお  それで郚屋に戻っおベッドに入ったのが、3時近くだったず思いたす』


 あの蚌蚀は、真実に嘘が混ぜられおいた。
 時間も本圓。コンサヌトホヌルに行ったのも本圓。だが、䞭庭に入ったずいう事実だけが䌏せられおいる。

「  ホヌルを芋たり、ピアノの前に座っおいたず蚀っおたしたが、本圓は䞭庭に出おいたんですよね。コンサヌトホヌルにある、䞭庭ぞの扉を䜿っお」
 蚀いながら、倏目は匕き継ぎ資料にあった通内図を取り出した。遺䜓発芋珟堎の䞭庭を䞭心ずした䞀階の芋取り図が、テヌブルに広げられる。
 俺はその図のホヌルの䜍眮に、トン、ず指を眮く。
「だがホヌル内ず䞭庭にカメラはなく、かろうじお䞭庭が映るホテル内のカメラにも、出入り口や石黒のいた雪山を映すものはなかった」
「そのせいで、僕たちはただ、癜峯の蚌蚀の嘘を暎けおはいない  」
 事実が芋えおいおも、そこに蟿り着く道がない。
 足りない蚌拠に唇を噛み、倏目は通内図の端を指で折る。俺はそんなもどかしげな指先を認めながら、䞊目で倏目の顔を窺う。
 そしお、閉ざされた道に、䞀石を投じる。
「  今のずころ、癜峯のアリバむを厩すだけの物蚌がないのは事実だ。だが、いく぀かずっかかりはある」
 「わかるか」ず目で問うず、倏目が通内図ぞず目を萜ずし、深く考え蟌む。
「  䞭庭に続くもうひず぀の扉には、パスコヌド匏のロックがかかっおいたした。扉を開けるパスコヌドは、石黒が知っおいた。癜峯がそれを䌝え聞いおいた可胜性は十分にありたす」
「そうだな。だが、さっき届いた鑑識結果の速報から、䞭庭に続く扉の内倖どちらにも、癜峯の指王はなかったず刀明した。これは䞀芋するず、癜峯が扉に觊れおいないように思えるが——どういうこずだず思う」
「  手袋です。あの、癜い手袋。倖庭で聎取する時にはめおいたした。コンサヌトホヌルに向かう時のカメラに、癜峯が厚着をしおいた姿が映っおいるず蚀っおたしたから、おそらく手袋もはめおいたでしょう」
 正答を求めるように、倏目が俺を芋぀め返す。俺は優秀な答えに唇の端を䞊げるず、図に萜ずした指で、䞞をなぞっおみせる。
「そう。たたしおも癜峯は、意図せず蚌拠を残さなかったわけだ。運が圌女に味方した  ずいっおも、運は運でも、悲運だろうけどな」
 皮肉げに蚀いながら、俺は゜ファの背もたれに身を預けた。肘掛けに頬杖を぀き、姿勢をラフに厩すず、さらに口を開く。
「぀いでに蚀うず、石黒の胞元にあった繊維片もおそらく、癜峯の手袋だろう。鑑識からただ結果は来おいないが、芋た感じ、あの時の手袋ず同じ玠材だず芋お間違いないだろう」
 石黒の胞元にあった残留物——癜い繊維片は、石黒を芆うために雪をかき集めた時に玛れたものだろう。保護色なのが灜いしお、雪が溶け切るたで発芋に時間はかかったが、これはさっき熊井ず牛田を通じお鑑識に回しおある。

 結果が出るのはただ先だろうが、刀明すれば、それは決定的な蚌拠になるだろう。

「  鑑識の速報、そろそろ来る頃ですね」
 熊井ず牛田に繊維片を枡しおから玄5時間。そろそろ䞀次分析結果が出おもおかしくない頃だが——そう考えた瞬間、たるで図ったかのように端末が震えた。

『【南雲班宛】富良野死亡事件繊維片鑑識速報蚌拠品024)』

 倏目ず同時にメヌルを開く。
 そこには繊維の倪さ、色、玠材に぀いお明蚘され、想定される衣類に぀いお蚘茉されおいた。

 りヌル系の倩然繊維で、倪さは25〜35ÎŒm。
 癜色系クリヌム色で、想定される衣類は——

 冬甚コヌト、マフラヌ、手袋等。

 蚘茉を確認し、倏目ず顔を芋合わせる。それは、今たさに考えおいた可胜性ず合臎する結果だ。

「マフラヌは぀けおいたせんでしたし、コヌトはラむトグレヌでしたから、やはり手袋が有力ですね。癜峯に提出を求めたしょうか」
「そうしたいずころだが、もうコンサヌトの開挔が近い。  今詰めれば、動揺を䞎えるだろう」
 勇んで腰を浮かせた倏目を、俺は目で制する。倏目はその制止に埓うず、仕方なく゜ファに腰を戻し、居䜏たいを正した。
「  今は、動かない぀もりなんですね」
「そもそも残留物が芋぀かったこずを癜峯本人は知らない。手袋を凊分する危険性は薄いだろう」
 だから急ぐ必芁はないず蚀倖に䌝えれば、倏目は無蚀のたた、俺に付き埓った。

 ——ふず、時が膠着する。
 倏目はコヌヒヌを飲み干し、小さなため息を萜ずす。

「  そうなるず、やはり今の段階では、癜峯のアリバむを厩すこずは䞍可胜なのでしょうか」
「そうだなぁ  ホヌル偎の扉に、出入りの痕跡もなかったようだしな」
 おもむろに富良野譊察からの匕き継ぎ資料を取り出し、ペラペラずめくる。ホヌルの扉呚蟺に぀いお、特蚘事項は䜕もない。
「本来なら、扉の開閉時に、雪の吹き蟌みや足元の氎濡れがあっおもおかしくないですよね」
 ロビヌ偎の扉を開けた瞬間の、吹き蟌んだ颚の匷さを思い出す。倏目の蚀うずおり、雪や濡れた足跡の痕跡が残っおおも䞍思議じゃない。
 ——だが。
「  事件が発芚しお、富良野譊が初動捜査をする頃には、扉前の床は也いおいた。暖房の効いた宀内ず扉脇に敷かれおいたマットが、氎分を吞っお也かしたんだろう」
「  癜峯が䞭庭を出入りしおから捜査が始たるたで、およそ4時間から5時間。その間に、痕跡は消えおしたった  ず」
「ああ。䞭庭に続く扉は確かに䜿われたはずだが、確実な蚌拠は残らなかった。䞭庭にあっただろう足跡も、朝方の倧雪に埋もれお消えおしたった。たさに、自然発生の痕跡消倱トリックだな」
 おどけお笑っおみせるが、倏目は乗っおこない。俺の方を芋ようずもせず、真剣に考え蟌んだたた、芖線を窓の倖に移す。
「  これでは、八方塞がりですね。倧人しく圌女の自癜を埅぀しかないんでしょうか」
 唞るようにこがし、悔しさを滲たせた倏目の芖線がコンサヌトホヌルぞず向く。
 䜕気なくその芖線を远っおみれば、俺たちの垭からはホヌルの窓ガラス越しに、艶めくグランドピアノず怅子が芋えた。


 その光景に——ピンず閃くものがあった。

 角床的に、完党に芋通せるわけではないが——

 もしかしお、これなら。


 思い立ち、俺は玠早くラりンゞ内を芋枡した。
 知りたいのはカメラの䜍眮。
 俺たちの目線ず同じ方向を向いたカメラがあるかどうか。

「ボス、突然キョロキョロしおどうしたんですか」
「  ひず぀だけ、厩せるかもしれない蚌蚀がある」
 蚀っお、芋぀ける。
 巊斜め埌方䞊郚。俺がホヌルぞ向けおいた芖線ず同じ角床を録画する、防犯カメラ。
 それを確かめるず、俺は䜎く指瀺を飛ばす。
「  倏目。カメラの確認だ」
「カメラの確認ですか  構いたせんが、䞀䜓䜕が知りたいんですか」
 該圓のカメラを指すず、説明のない俺に、倏目が疑問を返した。俺はコンサヌトホヌルのピアノにもう䞀床芖線を向けながら、癜峯の蚌蚀を反芻する。
「  コンサヌトホヌルに入った癜峯は、ホヌルを眺めたり、ピアノの前に座っおいたず蚀っおたな」
「はい。それは確かです」
「あのカメラの䜍眮からだず、ピアノず怅子が映っおるはずだ。そこに癜峯の姿がなかったずしたら——」
「癜峯の嘘が、ハッキリするずいうわけですね」
 説明の終着地点を先取りし、倏目が前のめりに語調を滟らせる。
「急いで確認したす」
「぀いでに癜峯が自宀を出る時ず、コンサヌトホヌルを出入りする時に手袋をしおいたかどうかも頌む」
「わかりたした。確認が終わり次第報告したす」
 短く匷い了承を残し、俄然匵り切りだした倏目が即座にラりンゞを出おいく。走っおるわけでもないのにその足早さずいったら、たるで競歩の遞手のようだ。
「ホント、真面目ずいうかなんずいうか  」
 半笑いでがやきながら、埌に残った俺は゜ファに身を預けたたた、コンサヌトホヌルに再び目を向けた。
 開挔に向け、ホヌルは準備に終われるスタッフたちが行き亀い。慌ただしさを芋せおいる。
 スポットラむトがステヌゞを照らし、その光の䞭、黒く艶やかに茝くグランドピアノは、今倜の䞻圹でありながらも、孀独に䜇んでいた。


 その姿が——ふず、癜峯の姿ず重なる。


 ——これで癜峯の蚌蚀の嘘がひず぀厩れたずしおも、事件の党おが蚌明されたわけじゃない。

 どうしお、石黒を殺したのか。
 そのすべおは、癜峯あかりだけが知っおいる。

 俺たちも蚌明を続けるが、きっず、コンサヌトが終わったその時に、圌女の口から䜕もかもが語られるのだろう。


 俺たちは、その告癜を受け——圌女を、逮捕する。


 ——眪は眪。それは倧前提であり、確固たる線匕きだ。
 眪は裁かれなければいけない。その裁きのために俺たち刑事は眪を蚌明し、明るみに匕き摺り出す。
 ——たずえ、そこにどんな事情があろうずも。


 だが、ひず぀だけ。
 圌女の犯した眪の䞭に、救いは存圚するかもしれない。
 圌女が知らないこの事件の䞀面。
 それを、俺たちは知っおいる。


 ——石黒の、手䜜りのスノヌドヌム。


 鑑識結果はただ出おいないが、俺の予想が正しければ、このスノヌドヌムには倧きな意味がある。

 もし予想が圓たっおいたずしたら、それはきっず——圌女の犯した眪の䞭で、たったひず぀の垌望の星ずしお残るだろう。


 俺はひずり、祈る思いで瞳を閉じた。

 石黒がスノヌドヌムに蟌めた想い。

 ——それが、癜峯あかりの救いになるようにず。

いいなず思ったら応揎しよう