
#47|その厳しさは誰に向いてるのか
顧問先の社長から、こんな話を聞きました。
「元から吸わへん人より、禁煙した人のほうが、喫煙者への当たりがきつい気がするんやけど」
たしかにそうかもしれません。
もちろん、これはこの社長の主観です。
統計を調べたわけでもないし、大規模な調査データを見たわけでもありません。
なので、「ほんまにそうなんか」と言われたら、断定はできません。
休憩室で誰かがタバコに火をつけたとき、生まれてから一度も吸ったことのない人は、「ちょっと煙いな」と顔をしかめてその場を離れる程度です。
ところが、3年前に禁煙した同僚はどうか。
「まだそんなもん吸ってるの?」
「意志が弱いんちゃうか?」
突然、説教が始まる。
タバコの苦労も、やめるしんどさも、一番よく知っているはずの元喫煙者が、最も手厳しい。
この落差はなんなのでしょうか。
1.「臭いが嫌いやから」では説明できない
最初に思うのは「禁煙したら臭いに敏感になるからでは?」という話です。
たしかに、やめると以前より臭いが気になるようになる、というのはよく聞きます。
でも、それだけでは説明がつきません。
元から吸わない人も、同じように「臭い」と感じているはず。
それでも「あっちで吸ってもらえますか」で終わります。
相手の性格まで否定したりはしない。
元喫煙者の反応は、いつの間にか「臭い」の話から「意志が弱い」「生き方がなっていない」という話にすり替わっています。
これは臭いへの不満ではなく、もっと感情の乗ったものです。
2.相手を見ているようで、昔の自分を見ている
では、その感情の正体は何か。
目の前の喫煙者の姿に、過去の自分を重ねているからだと思います。
「一本くらい別にええやん」と自分を甘やかしていた頃の自分。
やめようとしてイライラして、何度も失敗して、しんどい思いをしてようやく抜け出した自分。
そこまで苦労した以上、「まあ、吸うのもその人の自由やし」とは思えない。
もしそう思ってしまったら、あれだけ我慢してきた自分の苦労が丸ごと無駄になってしまうからです。
だから、まだ吸い続けている人を見ると厳しくなってしまう。
攻撃の矛先は相手ではなく、「あの頃に戻るな」という自分自身への言い聞かせが、外に出ているだけなのかもしれません。
3.同じことが、現場でも起きている
タバコだけの話ではありません。
たとえば、若い頃に段取りが悪くて親方や先輩に怒鳴られ続け、苦労して仕事の流れを覚えた職人が、新入りの動きを見てカッとなる場面があります。
「なんでそんな順番でやってるんや」
「見てたらわかるやろ」
言葉がきつくなります。
一方で、最初からセンスよく仕事を覚えた職人は、同じ新入りを見ても「まあ最初はそんなもんや」と大して気にしません。
苦労して身につけたものだから、同じところでつまずいている人間を見ると、距離が取れなくなってしまう。
他人事として見られなくなる。
そこに昔の自分がいるからです。
もう一つ。
二代目の社長が職人の段取りの悪さに妙に寛大だったりすることがあります。
現場で怒鳴られながら覚えた経験がないから、距離を取って見られる。
厳しくなれないのは、優しさだけではなく、そこに自分自身の格闘の歴史がないからかもしれません。
自分が苦労して手放したもの、しんどい思いをして抜け出したもの。
そこにまだ居続けている人を見ると、人は厳しくなる。
4.社長として、一度立ち止まって考えてみること
現場でよく見る光景があります。
かつて営業や現場で苦労してきた社長が、まだうまく動けない若い社員に対して、必要以上に厳しくなるケースです。
「俺はあの頃、もっとやっていた」
「根性が足りない」
その言葉は、部下に向けているようで、実は過去の自分に向いている部分があります。
厳しさ自体が悪いわけではありません。
自分が痛い思いをして乗り越えたものを甘く見られないのは、ある意味で自然なことです。
ただ、社長の言葉は社員に強く届きます。
だからこそ、その厳しさが本当に相手のために出ているのか、一度立ち止まって見る必要があるのだと思います。
5.その厳しさは、本当に相手のためか
禁煙した人が喫煙者に厳しくなる。
この話は、タバコだけの話ではないと思います。
現場でも同じようなことがあります。
昔、自分が段取りで苦労した社長ほど、段取りの悪い社員にきつくなる。
昔、自分が営業で頭を下げてきた社長ほど、動きの鈍い若手に腹が立つ。
昔、自分が数字で苦しんだ社長ほど、数字を見ようとしない幹部に我慢できなくなる。
それ自体が悪いわけではありません。
自分が苦労して乗り越えてきたことだからこそ、簡単に流せない。
「そこは甘く見たらあかん」と思う。
それは、社長の経験から出てくる大事な感覚でもあります。
ただ、気をつけたいのは、その厳しさが本当に相手のために向いているのかということです。
部下の成長を願って言っているのか。
それとも、昔の自分への腹立ちが、今の部下に向いているだけなのか。
ここが混ざると、言葉は必要以上にきつくなります。
逆に、妙に甘くなるときもあります。
本当は注意した方がいいのに、自分も同じことができていないから言えない。
昔の自分にも心当たりがあるから、強く言い切れない。
これもまた、自分の過去が今の判断に影響している状態です。
社長の言葉には、経験が乗ります。
だからこそ力があります。
でも、その経験が強すぎると、目の前の社員ではなく、昔の自分に向かって話してしまうことがある。
誰かに厳しくなったときこそ、一度立ち止まってみる。
「これは本当に、この社員のための言葉か」
そう問い直すだけで、言葉の出し方は少し変わるのだと思います。

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