
#55|数字は、人を動かすものではなく、人が動いた跡である
レコーディングダイエットというものがあります。
毎日体重計に乗って、その数字を記録するだけ。
それだけで「今日はちょっと控えとこか」「一駅歩いて帰ろか」となって、痩せていく。
経営数字も同じだと思います。
測って、見る。
それだけで会社は締まってくる。
ただ、これを従業員のレベルまで落とそうとすると、うまくいきません。
理由ははっきりしています。
1.見る人と、動く人が別々
レコーディングダイエットが成り立つのは、体重を測る本人と、痩せるために動く本人が同じ人だからです。
数字を見て「まずい」と思うのも自分。
晩ごはんを減らすのも自分。
その悔しさで一駅分歩いて帰るのも自分。
ループが自分の中で閉じている。
会社は違います。
経営数字を見るのは社長。
実際に手を動かすのは現場です。
見る人と、動く人が別々になっている。
だから、朝礼で業績を貼り出しても、それだけでは会社は動きません。
「今月は売上が足りん」
「粗利率が落ちとる」
「人件費率が高い」
言われた側からすると、「で、明日から何を変えたらいいんですか」となる。
体重計に例えるなら、従業員に会社の体重だけを見せている状態です。
「今月は80キロやった」「目標は75キロや」。
そこまでは分かる。
でも、間食を減らすのか、歩数を増やすのか、食べる時間を変えるのか、筋肉をつけるのか。
そこが分からなければ、体は動かしようがない。
しかも会社の数字は、従業員一人の手には大きすぎます。
「売上を上げろ」と言われても、すでに毎日フルで働いている人間からすれば「これ以上どうしろと…」となる。
数字が大きすぎて、自分の日常のどの行動とつながっているのかが見えない。
段取りを急げということなのか、1個でも多く流せということなのか。
分からないから、結局いつもどおりの行動で終わります。
2.数字ではなく、行動まで分解する
経営数字を現場に落とすには、数字そのものではなく、その数字をつくっている行動まで分解する必要があります。
たとえば売上なら、見積件数、受注率、客単価、リピート件数。
粗利なら、材料取り、手直し・やり直しの回数、段取り替えにかかる時間、外注に出す判断、値引きの判断。
ここまで降ろして、はじめて現場が触れる数字になります。
「粗利を上げてくれ」は社長の言葉であって、現場の言葉ではありません。
言語が違う。
図面でいえば「軽くてええもん作って」と書いてあるようなもんです。
寸法も公差も入っていない。
それでは削りようがありません。
だから翻訳が要ります。
ただし、ここを間違えると逆効果になります。
「段取り替えを2分縮めろ」
「手直しはゼロにしろ」
と上から数字を指定して回ると、それはただの締め付けです。
手元を見張られていると感じた瞬間、人は言われたことしかしないようになる。
工夫が止まります。
当事者意識は消えます。
翻訳は、命令ではなく、現場と一緒にやる作業です。
「粗利という会社の数字があるんやけど、あなたの毎日の仕事の中で、これに効いてきそうなところってどこやと思う?」
こう聞く。
すると出てきます。
「この材料、長さを変えてもろたら端材がだいぶ減る」
「この段取り替え、治具を1個こしらえたら半分になる」。
自分から出てきた行動だから、自分の判断で回せます。
会社全体の売上を直接コントロールできる従業員はいません。
でも、今日出す見積りをもう1件増やすことや、治具を1個作ることなら動かせる。
手のひらに乗るサイズまで落として渡す。
そうすれば、見張らなくても現場は動きます。
3.数字は、雪の上の足跡
もう一つ大事なことがあります。
数字は人を動かすものではなく、人が動いたあとに残った跡、ということです。
売上も、利益も、粗利率も、人が動いたあとに残った結果にすぎません。
雪の上の足跡と同じで、いくら睨みつけて「もっと大きくなれ」と念じても、足跡そのものは1ミリも動かない。
変えられるのは、次の一歩の歩幅と方向だけです。
それなのに、会議の時間の大半は、終わった数字の確認と反省に使われている。
次の一歩をどう踏み出すかは、ほとんど議論されていません。
数字を見えるようにすること自体は大事です。
事務所に業績表を貼る。
社員に決算を開示する。
それは、事務所の真ん中に大きな体重計を置いたにすぎません。
ごまかしが効かないようになるという意味では、価値はある。
でも、みんなでその体重計を囲んで「重いなあ」と溜息をついても、1グラムも減りません。
悪いのは分かった、で、誰が何をするんや、という押しつけ合いになるだけです。
見える化はゴールではなく、スタート地点です。
会社に必要なのは、体重計を置くことだけではありません。
何を食べ、どれだけ動けば数字が変わるのかを、現場と一緒に見つけること。
その翻訳作業こそが、マネジメントの中身なんだと思います。
もし今、数字を見て社員に「もっと頑張れ」と言っているなら、その数字を変えるために何を変えればいいのか、一緒に考えてみませんか。

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