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Photo byakisuke0925

靴下はどこへ消えるのか

    西野 葵

    きょうも、洗濯機の前で立ち尽くした。
    靴下の片方が見当たらない。確かに入れたはずなのに、姿がない。

    ふたを開けると、ぬるい湯気と柔軟剤の甘い匂いが立ちのぼる。

    ネットを振る。Tシャツが出る。タオルが出る。もう一方の靴下が転がり出る。

    肝心のやつだけが、なぜだか沈黙している。
    ネットの口からのぞくと、糸くずが威張っている。お呼びではない。

    理由を考える。まずは物理。
    回転の端っこで押し固められ、ネットの角に潜り込む。

    ファスナーの小さな隙間から、ぬるりと脱走する。
    大きなタオルに帯電して貼り付き、二人三脚で干し場まで行ってしまう。

    布団カバーの口は、ときどきワープゲートになる。
    説明はつく。けれど、腑に落ちない日もある。

    日常の手抜きも大きい。
    洗う前から別れていることがある。

    片方は洗濯かご、もう片方はベッドの下。
    昨日のわたしの投げやりが、今日のわたしの仕事を増やしている。解せぬ。

    加害者と被害者を一人で兼任するのは、なかなかにむなしい。許してたもれ。

    ネットは万能ではない。
    小さ過ぎる袋に詰め込みすぎると、内部は迷路になる。難攻不落のラビリンス。

    角で引っかかった靴下が、出口を見失ったまま乾燥コースへ旅立つ。いってらっしゃい。
    規則は過密に負ける。これは都会の通勤電車と同じだ。

    後始末も難しい。
    片割れ靴下を、わたしは簡単に捨てられない。
    いつか戻る気がして、引き出しの隅に待機箱を作ってある。封印。

    白黒ボーダー、濃いグレー、黒。似た顔ぶれが肩を寄せ合い、静かに時を過ごす。

    ある日、奇跡の再会が起きる。

    ただし、そのとき別の一足が欠員になる。
    埋めれば欠け、欠ければ埋まる。水位の変わらない池みたいだ。

    「なくなったら、足すだけや」


    対策も試した。
    同じ柄を大量にそろえる作戦。これはたしかに強い。
    ただ、足は生き物で、厚みやゴムの張りの違いを覚えてしまう。

    左右が微妙にけんかする。歩くたびに、ぎくしゃくする。
    洗濯前にクリップで留めておく方法もある。
    理屈は完璧だが、朝のわたしは完璧から一番遠いところにいる。
    靴下を婚約させてから出勤する余裕は、たいていない。

    それでも、回し続ける。
    洗濯機の低い唸りを聞きながら、わたしは小さな成功を願っている。エロイムエッサイム、テクマクマヤコン、アブラカタブラ。

    人生の大半は手に負えないが、靴下くらいは揃えたい。
    ふたを開けた瞬間、きょうの運勢が決まる気がする。

    見つかる日もある。
    ベッドの下で丸まり、洗濯機の側面に張り付き、干し終えたバスタオルの陰に潜む。
    手に取った瞬間の安堵と、同時に込み上げる自分への苦笑い。
    わたしは布片に過剰なドラマを見ているのかもしれない。
    それでも、こういう小競り合いが暮らしの密度を少し上げる。

    学びは遅いが、ゼロではない。
    ネットは一つ減らし、大きめに乗り換えた。
    詰め込みをやめ、回数で稼ぐようにした。
    待機箱はそのまま残す。あれはあれで、物語の保管庫だ。
    帰ってきた仲間を静かに迎える場所があると、人は少しだけ優しくなれる。

    きょうも一枚が見当たらなかった。
    それでも、明日もまた洗うだろう。

    理屈と面倒くささの真ん中あたりで、ほどよく折り合いをつけながら。
    完璧よりも、だいたい揃っていればいい。
    そのゆるさが、暮らしを前に進めてくれる気がする。

    靴下はどこへ消えるのか。
    答えは毎回違う。だから、探し続ける理由になる。


    ほんま、なんでなんやろか......?😩

     
     
     
    好きなことを、好きなタイミングで。 note / TALESで、エッセイやコラム、小説などを書いています。

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