【短歌連作】 IQと氷柱
三十首連作
恐れつつ過去の真相知る春は
冷たい泡の熱いカフェラテ
木の枠の曇りガラスの向こうがわ
検査結果を心理士に問う
高IQ=神のギフトと呼んだ奴、
多分パンドラの箱を知らない
三歳で百人一首諳んじる
恋のいろはの匂いも知らず
神代には使命に死せる神童も
神なき世では命ある異物
桜雨に見るターナー
黒板を引っ掻く音に聞くソプラノ
宇宙人のあだ名は慣れた、ほんとなら
迎えにきてよ教室の窓
学舎を開きし修道女眠る墓地
休み時間はここへ避難す
クラスでは寄るなと忌まれ下校道
知らぬ大人に胸を触られ
良い子には奇跡が起きるその嘘を
信じられない程度に悪い子
世渡りに要らぬシナプス刈り込まれ
私以外は「大人」となりぬ
思考は花火思い出打ち上げて
日本語にする手間も待てずに
ママ曰く「パパの形見の賢さね、
だけど女の子だし…」以下略
年上の前では脳内コイントス
〈裏→無知のふり〉可愛がってね
神童も二十歳過ぎればただの人
かかり続ける擬態のコスト
カフェインと砂糖と文字を貪って
アンダンテに設定できぬ脳
研究が青春だったネットでは
「社不収容所」と評されしラボ
ラボで聞く「ゆく年くる年」
青き天才馬鹿共の実験納め
業績欄伸びゆく未来の教授達、
学部の頃と同じTシャツ
「博士にしてはコミュ力あるね」の評、
内定実る秋の道化師
思考には質量がある
世を渡るには重すぎて伏せる新緑
「壮絶な幼少期」と医者が言う
ピンとはこないn=1だし
ブーケほど膨れ上がった胸騒ぎ
落ち葉に混ぜて雪に埋め
カフェラテは炎の香り燃え滓の
子供心はゼロにならない
三十で知る肋骨にぶら下がる
氷柱の別名は「寂しさ」
「わかりますか」心理士の声と喉奥の
苦味が現世に私を繋ぐ
蘇りほど現実味のない記憶
きっと単なる酸欠のせい
開け放つ窓辺が誘う春一番
招かれざりし花粉と暮らす
蓋してた過去も形無し二人分
くしゃみ部屋中響き渡れば
「祈り」とは未だわからぬ昼下がり
自分の影と恋人繋ぎ