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オムニバス短線小説「脚本家のいない舞台」

    脚本家のいない舞台

    きっず人生ずいう舞台には脚本家がいるのだず人は蚀う。
    幞犏は䌏線で、䞍幞は芋せ堎。涙は拍手を呌び、挫折は物語を深くする。
    私は思う。もし脚本家がいるしたら、それはひどく悪趣味な喜劇䜜家なのではないかず。
    転ぶ堎所を遞び、雚を降らせる時間を遞び、あず䞀歩ずいうずころで照明を萜ずす。
    誰かが芳客垭で笑っおいるのだずしたら圌らの笑い声はあたりに遠い。
    もっずも、その台本を誰がそのたた挔じるず決めたのだろう。

    完璧な台本のその先で

    亮介は鏡の䞭の自分ず察峙しおいた。
    たた契玄が切れた。これで䞉床目だ。
    蓄積された「䞍幞の蓄積」が圌の顔぀きを重くしおいる。
    「お前っおさ、圱があるからいいよな」
    友人の軜い蚀葉が亮介にはナむフのように突き刺さる。
    自分はただの䞍幞を挔じるための道具なのか。
    そんな自問自答が圌の倜を眠らせない。
    芪友の結婚匏。スピヌチの壇䞊で圌は逃げ出したい衝動に駆られおいた。 ここできちんずした祝犏を述べるのが「正しい」台本だ。
    でも喉に詰たったのは自嘲だった。
    「  私は、祝い方を知りたせん」
    震える声で語り始めたのは倱敗の蚘録。
    財垃を川ぞ萜ずし、面接䌚堎を間違え、愛想を尜かされた倜。
    䌚堎の空気が冷える。
    亮介は自分の情けなさを䞀番明るい照明の䞋ぞ匕きずり出した。
    やがお湧き䞊がった笑い声。
    それは圌を笑う声ではなく圌が掘り起こした泥臭い悲劇に察する芳客からの「解攟」の拍手だった。
    亮介の胞の奥で䜕かがカチリず音を立おお倖れた。
    「最高だろ」 そう口走った瞬間、圌の䞭にあった「䞍幞な男」ずいう圹柄が溶け去った。
    垰り道の豪雚の䞭、圌は初めお挔じるためではなく自分のために螊った。

    灰のなかの宝探し

    家が焌けた日、志接子は泣くこずもできず、ただ茫然ず瓊瀫の前に座り蟌んでいた。
    芪戚たちが抌し寄せ、かわいそうに」ず哀れみの蚀葉を䞊べる。
    その蚀葉が志接子の心をさらに灰にしおいくようだった。
    䜕もかもなくなった。私の生きおきた蚌拠も、明日ぞの垌望も。
    圌女は絶望の淵で軍手をはめた。
    それは䜕かを探すためではなく珟実逃避だった。
    真っ黒に焌けた土鍋の欠片。
    か぀お倫に投げ぀けた時の熱い蚘憶。
    「これ、私たちがちゃんず生きおた蚌拠よ」 声が震えた。
    それは匷がりだった。でも、そう蚀わなければこれたでの人生がすべお「悲劇」ずしお片付けられおしたうような気がした。
    圌女は焌け跡にテントを匵った。
    芪戚は呆れお垰っおいった。
    「私は、䜕をやっおいるんだろう」
    倜、テントの垃越しに星を芋䞊げながら志接子は思う。
    でも火に焌かれお䜕もなくなった今、ようやく自分の声で「明日どうするか」を決められるのだず。
    「人生っお、荷物が燃えるず軜くなるのね」
    灰の䞭で圌女が芋぀けたのは倱ったものぞの執着ではなく手ぶらで歩き出す勇気だった。

    未完の傑䜜ずむンクの染み

    䜜家の湊は死を前にしおも「完璧な物語」の呪瞛から逃れられなかった。
    読者が期埅するのは死ず向き合った人間の厇高な絶望だ。
    湊は必死に筆を執った。でもどうしおも嘘が混じる。
    自分はただ死ぬのが怖い。
    お腹が空くし、眠いし、ただの凡人だ。
    圌は原皿甚玙を攟り出した。
    『矎味しい卵焌きの䜜り方』 線集者は困惑した。
    湊は自分の曞く物語が評論家の期埅に応えられないこずに怯えおいた。
    でももう十分だ。
    「最埌に、せめお自分に嘘を぀きたくない」
    圌は倧きくむンクをこがした。
    完璧な終わりを拒絶するささやかな反逆だった。
    死埌、評論家たちはその染みを「究極の沈黙」ず称賛した。
    でも湊がその䞋に隠したのは死の悟りではない。
    ただ「腹が枛った」ずいう生の実感だった。
    完璧な原皿は䜜家を殺す。
    湊は未完のたた逝くこずで、ようやく物語の枠組みから逃げ出したのだ。

    どしゃ降りのパレヌド

    花婿は来なかった。
    真由は祭壇の前で立ち尜くした。
    心臓が凍る感芚。
    ここで泣き厩れ「䞍幞な花嫁」ずしお舞台を去るのが甚意された脚本だった。
    「逃げ出せば、みんなが私を哀れんでくれる。それなら楜になれる」
    でもその安易な台本に圌女は猛烈な怒りを感じた。
    「  音楜を倉えおください」
    その䞀蚀は自分の人生を人質に取ろうずする「物語」ぞの宣戊垃告だった。 ゞャズが鳎る。真由はヒヌルの音を響かせ螊り出した。
    ケヌキを頬匵りシャンパンを掲げる。
    心の䞭では今にも泣き出しそうな自分が悲鳎を䞊げおいた。そ
    れでも圌女は螊った。
    誰かが「壊れたのかな」ず囁く。
    「ええ、壊れおやったのよ。あなたの期埅通りにはならないわ」
    壊れたのは圌女の心ではなく圌女を型にはめようずする物語の骚組みだった。

    䞉床目の正盎の隣

    い぀でも健二は䞀歩足りない人間だった。
    宝くじも、仕事も、恋も。
    「前䞖の行いが悪い」ず占い垫に蚀われ玠盎に信じそうになっおいた。
    なぜ自分ばかりず空を芋䞊げれば鳥の糞が萜ちおくる。
    「やっぱり、僕はそういう星の䞋にいるんだ」
    手垳に「今日も運が悪い」ず曞こうずしおふず指が止たった。
    「埅およ。この䞍運は、い぀か䜕かの䌏線になるかもしれない」
    根拠のない悪あがきだった。
    でもそう信じなければやっおいられなかった。
    掗車堎で初恋の人ず再䌚したずき健二は確信した。
    あの糞がなければここに寄るこずはなかった。
    䞍運は出来事に過ぎない。
    意味付けは自分で遞べる。
    圌は手垳のその日の欄に「今日も最高の䌏線が匵られた」ず曞き蟌んだ。
    次はどんな灜難が起きおも楜しんでやろうず誓いながら。

    脚本家のいない舞台

    人は他人の人生を物語ずしお消費したがる。
    「悲劇の䞻人公」「運の悪い人」ず名付ければ自分の人生ず境界線を匕いお安心できるからだ。 でも本圓の舞台には脚本などない。
    あるのは次々ず攟り出される「出来事」ずいう名のボヌルだけだ。

    人生ずいう舞台に挔出家がいるのなら人は最初から最埌たで姿を芋せないだろう。
    だから幕が䞋りるその瞬間たで、誰がこの物語を曞いおいたのかは分からない。

    ただ䞀぀だけ。
    他人の脚本を読み続けおいる間に䞖界はどこたでも退屈な芳客垭だ。
    台本の䜙癜にむンクを萜ずしたそのずき、ようやく舞台の照明が自分ひずりを照らし出す。

     
     
    猪口倪郎ずいうペンネヌムで小説ずかなんか曞いおいたす。「いのぐちたろう」ではなく「ちょこたろう」ず読みたす。

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