
停電した焼肉屋で恋愛ドラマを楽しむ
ある日のお昼の事、仕事の日は基本お弁当を持参して社内の休憩室で過ごしているが、時よりお弁当作りが面倒になりこの日は職場近くの焼肉屋に行く事にした。
仕事のお昼休みに焼肉!?と驚く人もいるかも知れないが1000円程度のランチセットにしてはかなり本格的な量のお肉が出され満足度が高いと噂になっていたので行ってみる事にする。
お弁当を作らず社外で昼食を済まさなきゃ行けない時に限って雨が振っているが人生とはこんなものだと言い聞かせ焼肉屋に向かう。
焼肉屋に着くと雨にも関わらず店内は焼肉屋らしく盛り上がっていた。ここの焼肉屋はオフィス街にあり、お一人様での来店も多いのか焼肉屋には珍しくカウンター席があった(珍しくなかったらごめん)。当然私はカウンター席に通され、お店の作りとしてはカウンター席を背にテーブル席が広がっており、ラーメン屋みたいな焼肉屋だなと思った。
しばらくしてランチセットが運ばれたので私はスマホで恋愛映画を見ながら昼食を楽しむ事にした。
30手前の私は流石に物語として人気若手俳優達の恋愛ドラマが好きな訳ではないが、たまにキュンが欲しくなる瞬間が訪れる。今がそう。もはやありきたりでいい、ヒロインのライバルに邪魔されていいし、最終的にヒロインの良さに気づいて結ばれていい。
ちょうど味も物語もお互いがお互いを邪魔にしない優雅なお昼休みを過ごしていた。
が程なくして私は箸を止めた。
今日がその「最終的にヒロインの良さに気づいて結ばれる」回だったのだ。この好きと伝える一世一代の告白シーンは流石に集中して見よう。私は中学生の頃の自分を降ろしドキドキを味わう態勢に入った。
その瞬間、現実世界で近場に大きな雷が落ち店内は停電した。
賑わっていた店内は一瞬の悲鳴のち静まり返った。
しかし、私はそれどころではない。今一世一代の告白が始まろうとしているのだ。
私は停電した焼肉屋で1人停電を気にせず焼肉ではなくドラマに集中した。
その結果停電もあって私のスマホがより輝き、まるで映画のような臨場感で告白は成功した。そしてラストにはお約束のキス。私はまだ昼休みだが今日はいい日になったなと手応えを感じた。
我に帰ると店内のお客さん達は停電に慌ててるでもなく、唖然としてるでもなく何となくクスクス笑っているなと感じてテーブル席がある後ろを振り返るとほとんどのお客さんがこちらを覗いていた。
なんと真っ暗な店内で唯一私のスマホだけが光っていたので変に目立ち、店内のお客さん全員にキスシーンを見ているのがバレたのだ。そりゃ笑われても仕方ない。
ベットシーンでもないし恥ずかしがる必要もないのだが何だか私は急に恥ずかしくなり食べるスピードを早くした。
しかしドラマはキスの後も余韻が続き今もなお続投している。
キスしたってことはもうそろそろ終わる。ここまで来たら最後まで見届けたい。
今もなお停電が続く中私はドラマを再開した。
しかしここで気になってきたのが隣に座っているカップルだ。先ほどまでは告白からのキスというドラマのクライマックスだったので周りが気にならないくらい集中して見ていたが、あとはもう余韻の話だったり一度キスシーン見ていることを周りにバレた事で周りが気になったりでどうも隣のカップルの会話が気になる。
「あーくん怖いよー」
「大丈夫、俺がいるから」
という停電して怖がる彼女を彼氏が慰めているかなり寒い会話をしていた。キスシーンに大興奮していてドラマの世界に浸っている私ですら寒いと感じたのでシラフの状態でその会話を聞いてしまったらきっと寒さで1枚上着を脱ぐだろう。
いかん集中せねば!!!今一度集中しようと試みる。
しかしそもそも何故基本一名様用っぽいカウンター席にカップル2人がいるんだとか、何故ハット被ったままご飯を食べているのだとか余計に気になってしまい集中から遠ざかってしまっている。
「いつ明るくなるのー怖いよー」
「まーちゃんこっちおいで」
とうとうそのカップルは彼氏の膝に彼女が座り始めた。
流石に集中力が切れ、私はそのカップルを睨みつけた。(暗闇なので睨んでいるのがバレないと確信した上で)
その睨んだ瞬間電気が復活し店内が明るくなった。
ま、何だかんだあったが一件落着、隣のカップルも怖がらなくなったようで安心した。
すると店員さんが慌てた様子で私に駆け寄り、
「大変申し訳ございませんでした!!」
とかなり丁寧に謝罪をしてきた。しかも店内には他にもお客さんがいるのにも関わらず何故か私にだけだ。
後から気がついたが多分隣のカップルを睨んでいた瞬間に電気がついたので、店員さんがパッと店内を見渡したら1人すごい睨みながらブチギレている人いる、と勘違いして急いで謝罪しに行ったのだろう。大変申し訳ないことをした。