
【短編小説】さるかに合◯
昔むかし、あるところに、
立派な柿の木がありました。
その柿の木は、
カニが一生懸命育てていて、
たくさんの柿の実をつけていました。
そこへサルがやってきました。
「お、柿かー、いい色してるじゃないか。
どれ、ひとつ味見してやるよ」
サルはスルスルと木に登ると、
柿をもぎ取って眺めました。
「ずっしりしてるねー。
うん、色がちゃんと回って、
上のほうまでムラなく色づいているし、
皮に張りがある。
いい柿だ」
「ありがとうございます。
僕が育てたんですよ」
サルはおもむろに腕で柿をこすって、
再び柿を眺めました。
「これは美しい。
夕空を手にしているような錯覚を
おこすぐらい綺麗な色だ」
「ありがとうございます。
僕には高い枝の柿はとれないので、
落としてくれませんか?」
「では、さっそく……」
サルは柿にかぶりつきました。
「いやいや」
シャク。
「……ん!……
(もぐもぐ)
ほれ、聞こえまひたか?
ひまの音(もぐもぐ)
いまの聞こえました?
シャクって音。
秋が小さく割れるようないい音だ」
「ちょっと遠くて聞こえないです。
っていうか、サルさん。
なんで勝手に食べちゃうんですか?」
さらにもうひとくち。
シャク。
「ちょっと!」
「(もぐもぐ)うん。
まず香りがいい。
青臭さが全然ない。
口に入れた瞬間は上品な香りなんだけど、
噛むごとに濃くなっていく、
これは美味しい!」
「いや、だから勝手に食べないで下さいよ!」
「このしっかりめの食感もすごくいい。
噛むたび甘い果汁が出てきて、
口の中に秋が広がっていく。
甘い。
甘さも直線的な甘さではなく、
角がなくて、丸みを帯びた柔らかな甘さ。
うん。
記憶にはしっかり残る甘さ」
「なんでずーっと食レポしてるんですか?」
「うーん、星で言うなら……
二つ半」
「それはありがとうございます」
サルは食べ終わった柿のヘタを見つめながら、しばらく黙っていました。
カニは腕を組んで言いました。
「……で?
早くとってください」
サルはひとつうなずき、カニに言いました。
「お前、これぐらいで満足するな」
「え?」
サルは木の幹をぺしぺし叩きながら言いました。
「甘さはある。でも、まだ伸びる。
柿はな、木任せに実らせるだけじゃ
だめなんだ」
カニは少しむっとしました。
「僕なりに頑張って育てたんですよ」
「知ってる。
だから言ってるんだ。
ここから先は“育てる”じゃない。
“仕上げる”んだ」
「何を言ってるんですか?」
「まず、実が多すぎる」
「え?」
「木を見てみろ、枝にびっしりだ。
一本の枝に実が多いと栄養が分散する。
実を間引くんだ」
「間引く……」
「もったいないと思うかもしれないが、
残した実に糖が集まる」
カニはサルに圧倒され、驚き固まっています。
そんなカニのことを気にもせず、
サルは小さい実や密集した実を落としていきました。
地面に落ちて割れる柿の実を見ながら、
カニは嘆きました。
「せっかく育てたのに……」
サルは言いました。
「全部を甘くしようとすると、
全部そこそこになる」
数日後。
残した柿は少しずつ大きくなっていきました。
サルは次の指示をだします。
「葉っぱも間引く」
「葉っぱまで!?」
「日当たりだ。甘さは光から来る。
混み合った葉を少し落とす。
すると風が通り、陽が入るんだ」
さらにサルが言います。
「水もやりすぎるな」
「え!?今まで毎日あげてましたよ!」
「実が色づく時期は少し控える。
木が頑張ろうとして糖をためる」
サルの指示通り、カニは毎日観察しました。
葉の色。
土の乾き。
光の量。
以前より木の様子を気にするようになりました。
そして収穫の日。
サルが木に登ります。
柿の実をひとつもぎ、腕で磨いて眺めました。
「……ほう」
ゆっくりとかぶりつきました。
シャク。
サルが目を見開きました。
そして、もうひとくち。
シャク。
沈黙。
サルが何も言わないので、
カニが不安になってきました。
「ど、どうですか……?」
サルは空を見上げてこう言いました。
「秋が割れた」
「?」
「前は秋が口にふわっと広がった。
今は秋のほうから来た」
「分かんないです」
サルは真面目な顔で言います。
「以前よりも断然甘い。
でも、甘いだけじゃない。
香りと甘さが順番待ちをしないで一度に来る。
これは凄い。秋の襲来だ」
「おぉ」
「口の中に赤とんぼが飛んでいるよ」
「急に不味そうになりましたよ。
え?……星、いくつですか?」
サルは静かにうなずきました。
「三つ」
「満点じゃないですか」
サルは木から降りながら言います。
「これだからカニは……
これで満足するなって言ったろ?」
カニは笑いながら、
「じゃあ来年は?」
サルは言いました。
「四つを目指そう」
「満点超えてるじゃないですか」
その年から、
山では毎年いちばん甘い柿が実るようになりました。
さるかに合作。
おしまい