
あの子は本当にズルい子?
私には、持病がある。
国が指定する難病。
今も治療を続けながら、病気と一緒に暮らしている。
こう書いてると、すごく重くて大変な病気のようだけど😂
大丈夫。
日常生活にはほぼ支障はない。仕事もできるし、どこへだって行ける。
今日は、九大へ定期検診の日だった。
病院の待合室は、たくさんの患者さんで溢れていた。
みんな一見すると、病人には見えない。
それでも、それぞれが病気を抱えて、この場所に来ている。
それを見ていると、私は、かつて担任したある子と、子どもたちを思い出す⸻
「何で私だけ遊びに行っちゃいけないの!」
昼休みの保健室。
Uちゃんは、かなりイライラしていた。
「仕方ないよ。この数値だし、安静にしとかないと。倒れたりしたら大変。外遊びはまた今度にしよう。」
保健室の先生からそう言われ、ますます不機嫌になる。
Uちゃんも、私と同じように、病気と一緒に生きている子だった。
彼女はいつも、小さな機械を身につけていて、その数値を確認しながら、学校生活を送っていた。
今日はモニターの警告表示が消えない。
一見、とても活発で外遊びが大好きな、
普通の小学1年生。
数値がある一定のラインを超えると、モニターに警告が表示される。
今日Uちゃんは、友達と鬼ごっこの約束をしていた。
「明日、鬼ごっこの続きをするの!」
彼女は昨日から楽しみにしていた。
いつもなら、保健室で対処すると、しばらくして警告表示が消えるのだが……。
「嫌だ!いつも我慢ばっかり!約束してたもん。外で遊びたい!なりたくて病気になったんじゃないのに!」
Uちゃんは椅子を蹴り倒し、泣き出した。
「……先生たち、Uちゃんのことがとても大事。だから今日はお部屋で遊ぼう。先生も一緒に外で遊ぶの我慢するよ。
外遊びできる日に、またみんなで鬼ごっこしよう。」
私はどうしてあげることもできないもどかしさを感じていた。
モニターに警告が出るたびに、彼女は教室を抜けて保健室へ行き、対応をしないといけない。
授業中だろうと、休み時間だろうと、
モニターはいつでも警告を出す。
1年生の小さな体で、Uちゃんは毎日そんな生活を送っていた。
彼女は、この病気とうまく付き合いながら生きていかなければならない。
そんなある時、
教室で子どもたち数人が集まって、こんな話をしているのを耳にした。
「Uちゃん、また遊べないってさ。」
「えー、また?元気そうなのに、保健室に行くのズルいよね。」
クラスの子どもたちには、入学してしばらく経った日に、Uちゃんの病気のことを少し話していた。
Uちゃんの保護者も、「クラスの友達に理解しておいてほしい」と希望されていたからだ。
ただ、他の子どもたちには、保健室でのUちゃんの葛藤は見えない。
……これはいかん。
私は、子どもたちに考えさせることにした。
ある日の授業中、
Uちゃんのモニターに警告が出た。
Uちゃんが保健室へ行ったのを見計らって、私はクラスの子どもたちに言った。
「ねぇ、メガネかけてる子、何かズルいから外してくれる?」
子どもたちは驚いていた。
「先生、何言ってんの?ズルくないよ!」
「そうだよ!メガネ外したらMちゃん、お勉強できないじゃん。」
何人かが口々に言った。
「そうだね。授業は一旦ここまで。みんなに少し考えてほしいことがあるから、わざと意地悪言ったよ。メガネの子を先生が“ズルい”と言ったら、みんなはどう思った?」
とクラス全体に問いかけた。
「メガネをかけないと見えなくて、ぶつかったりとか危ないからしてると思う。」
「メガネだからって、そんなこと言ったらかわいそう。おかしい。」
「わざと目が悪くなったわけじゃないよ。」
など、子どもたちは言った。
「そっか。みんな優しいね。
クラスの友達がメガネをかける理由をちゃんと知って、分かってあげてるのが伝わってきたよ。“ズルい”とは違うよね。
じゃあ、Uちゃんはどう?」
教室が一瞬、静まり返った。
「僕、覚えてるよ。Uちゃんは、モニターが鳴ったら保健室に行かないといけないって、先生が前、言ってた。」
「私もちゃんと覚えてる!モニターが鳴った時は、体がピンチの時だったよね。」
「よく覚えてたね。保健室に行かないと、体が大変なことになるからだったね。
……でもさ、Uちゃん、元気そうに見えるよね。遊ぶ約束をしてたのに、遊べなくなる時もある。保健室に行くって……ズルい?」
また教室が静かになる。
「いや、ズルくない!」
「そうだよ。だって保健室に行かなきゃ、Uちゃん大変なことになるよ。」
「もしかしたらUちゃん、遊べない時、寂しいと思ってるかも。」
何人かが声を上げた。
「そうだね。Uちゃんはパッと見ただけでは病気には見えないけど、『自分の体を守るために、そうしないといけない』ことがあるよね。それはメガネをかけている子と同じ。
みんな気づいてくれて、本当にありがとう。」
「何の話?」
Uちゃんが保健室から帰ってきた。
「あ、おかえり。今ね、Uちゃんが保健室に行く理由をみんなで考えてたの。じゃあ先生の話もしようかな。実は、先生もUちゃんと同じで、病気と一緒に暮らしてるんだよ。」
「え!そうなの?」
「でも、先生はUちゃんみたいに保健室には行ってないよ?」
「あはは。Uちゃんとは別の病気だから。先生は、朝と夜にお薬を飲みながら生活してるよ。
でもね、どんなに力のあるお医者さんでも、どんなにすごいお薬でも、今は治せない病気なのは、Uちゃんと同じなの。
Uちゃんと先生は、ある日突然、それになった。誰でも突然病気になることはある。見た目だけじゃわからない。
じゃあみんな、自分と違うことをしている友達がいたら、これからどうしたらいい?」
授業は遅れたが、
1年1組はその日、子どもたちの思いやりとアイディアで溢れた。
あの日から何年か経った。
今日、九大の待合室でたくさんの患者さんを見ながら、私はUちゃんのことを思い出していた。
あの後、ある保護者から
「うちの子は、Uちゃんの陰口は言ってないのに、授業を止めてまで全体に話す必要はあったんですか?『ズルい』と言ってた子だけ話せばよかったのでは?」
と、連絡帳に書かれていた。
確かに、そう思う人もいるだろう。
でも、子どもたちの中で話がどこまで広がっているか分からないし、私はどうしても伝えたかった。
私たちは、見た目だけでは分からないものを抱えて生きている。
元気そうに見える日もある。
普通に笑って、遊んで、働いて、旅行にだって行く。
それでも、見えないところで薬を飲んだり、休んだり、諦めたり、我慢したりしていることがある。
「あの子はズルい」
そう思う前に、
「何か理由があるのかもしれない」
と想像できる人でありたい。
あの日、子どもたちに伝えたかったことを、
今は私自身も大切にしている。
※ 実際の出来事をもとに、個人が特定されないよう一部内容を変更しています。