
あの花が、まだ頭から離れない
3年前。
塊根植物を育て始めたばかりの頃。
県をまたいで植物屋を巡り、
求めている一株を探しては、店の中をくまなく見て回っていた。
YouTubeで見て、
「ここには絶対に行きたい」と思った店があった。
実際に訪れてみると、思った通り、珍しい植物ばかりが並んでいた。
せっかく来たのだから、ひとつは連れて帰りたい。
そう思いながら棚を眺めていると、
ふと、視界に入った。
綺麗な花をつけた植物。
自分の「欲しいリスト」にはなかったはずなのに、
名前を見た瞬間、心が引っかかった。
「マンドレイク」
子どもの頃に観た映画で、引き抜くと叫ぶあの植物だ。
実物を見るのは、これが初めてだった。
綺麗な花。
マンドレイク。
欲しい。
でも、3万円。
植物を育て始めたばかりの自分には、
まだ早い気がした。
枯らしてしまう未来の方が、簡単に想像できたから。
その日は結局、
「初心者でも育てやすい」と調べてきた別の植物を買って帰った。
——1年後
マンドレイクは、ずっと頭から離れなかった。
今年こそ、もしあれば買おう。
そう決めて、また同じ店を訪れた。
去年あった棚には、もうない。
店内をぐるりと回ってみても、見当たらない。
意を決して、店の人に聞いてみる。
「1ヶ月前まではあったんですけどね」
あっけなかった。
1年越しの決意は、
思いのほか軽く、空振りに終わった。
来年こそは。
あの花が、頭から離れないのだから。
——さらに1年後
今年は、行ってから落胆するのが嫌で、
先に電話で確認することにした。
去年「まだあった」と言われた時期より、
少し早めに。
「マンドレイク、ありますか?」
「今年は入荷していませんね」
「入荷の予定はありますか?」
「ちょっと、分かりかねます」
受話器越しの声は、淡々としていた。
今年は、
桜と一緒に散った。
……to be continued