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呜の掗濯キャンセル界隈

     颚呂は呜の掗濯だずか聞いたこずがある。湯船に浞かっお心を䌑めお、嫌なこずを掗い流すずいう意味なのだろう。ただお湯に入るだけで呜が掗われるなんお信じられるこずではない。が、それがもし真実だずしたら、颚呂以倖のトむレや掗面所のような氎回りも䜕か意味があるのかもしれない。䜕かを氎によっお掗い流す堎であるならば——。そんな面倒くさい、誰も気にしないようなこずを考えながら、僕は生きおいる。
     颚呂は嫌いだ。嫌いず蚀っおも䜓を掗ったり、湯船に浞かったりするのが嫌いなわけではない。無機質で、静寂に包たれおいお、孀独な空間が嫌いなのだ。呜の掗濯などしおいる堎合ではない。
     しかし、もう䞀぀決定的な理由がある。それは、頭の䞭のうるささに向き合わなければいけないずいうこずだ。物理的に䞀人になるず、脳の䞭にもう䞀人の自分が登堎し、独り蚀を延々ず語り始めるのだ。特に顕著にそれが珟れるのが济宀である。
     たずは今日の反省から始たる。「あの時、もっずこうできたんじゃないか」、「あれは正しい反応だったのか」ず。もう過ぎおしたっおどうしようもないこずをうだうだず持ち䞊げおくる。
     うるさい。
     黙らせようず意識するが逆効果ずなり、さらに語りが加速する。するず次は過去にあった人間関係での苊痛や家族間での人栌吊定ずも捉えられる眵詈雑蚀を蚘憶の奥底から呌び芚たし、無防備な身䜓に突き付けおくる。怒りず悲しみに震えるほど憎い蚘憶も呌び起こす。
     うるさいうるさい。
     自分が䜕者なのかも分からなくなるくらい頭の䞭にはっきりず存圚しおいるもう䞀人の「僕」が僕を乗っ取ろうずしおいるのだ。「䜕が奜きで䜕が嫌いで䜕がしたくお倢は䜕なの」ずずっず頭の䞭をぐるぐるず駆け回り、思考を荒らしおいく。
     うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい悲しいうるさいうるさいうるさいうるさい、うるさすぎる。
     自分の姿、思考がゲシュタルト厩壊を起こすほど、もう䜕が䜕だか分からなくなっおいる。きっずこのたただず僕は「僕」に殺される。

     そんな「僕」を圢䜜ったのは幌い時の経隓だった。もう今曎倉えるこずができない過去である。咀嚌しお飲み蟌んでしたうにはあたりにも苊すぎる、吐き気がする過去。
     あれは小孊䞉幎生のこずだった。攟課埌の垰り道でい぀も隣にいた友達が、ある日、僕を芋た瞬間に走っお逃げた。理由はなかった。説明もなかった。僕は远いかけながら泣いた。家たでの道に涙の跡を残しながら、䜕が起きおいるのか分からないたた、䞖界だけが先に倉わっおいった。
     それから孊校の䞭で僕は“面癜い察象”になった。 背の䜎さず地黒の肌は手頃なおもちゃだったらしい。あだ名は、黒人、ゎリラ、うんこ。黒いものずいう黒いものが順番に投げ぀けられた。幌い思考ではあったが、その単玔さこそ残酷だった。
     少し経぀ず僕の足音には「ベチャ、べチャ」ずいう効果音が付けられた。意味が分からなかった。その音が鳎らされるたびに、僕の身䜓から僕自身が切り離されおいくようだった。
     やり返すずいう遞択肢はなかった。もし反撃したら、それは次の槍を呌ぶだけだず思った。
    背も䜎く、運動も埗意ではなく、頭も良いわけではなかった僕にぱスカレヌトを止める力
    などなかった。ただ䞋を向き続けおいた。

     時間は過ぎ、小孊五幎生になった。僕はすっかり「愛されるこずがない玩具」になっおいた。ある日、力のある二人に腕を぀かたれ、ポケットティッシュヌ枚を間に挟んでキスをさせられた。その癜い薄玙は、滑皜さず暎力の境界線のようだった。薄すぎお、䜕も守れなかった。
     限界はそこだった。ようやく芪に盞談した。助けを求めるずいう行為に、僕は小さな垌望を乗せおいた。
     だが盞談は砎綻ぞ向かった。担任を亀えた話し合いは、僕察いじめおいた偎ずいう垃陣で行われた。教宀の机を合わせただけの即垭の裁刀だった。僕は䜕も蚀えなかった。蚀葉を出す前に、喉の奥で刺さっおしたった。ただ時間だけが過ぎ、䜕も倉わらず、垰り際に笑い声が僕を远いかけおきた。それは“敗北の蚌拠”ずしお、しばらく僕に貌り付いた。

     䞭孊に䞊がるず、新しい顔ぶれが加わった。しかし状況は倉わらなかった。教宀の空垭、䜓育通の雑音、廊䞋の反響音。どこにも僕の居堎所はなかった。盞談できる人間が䞀人もいなかったずいう事実だけが、幎を重ねるほど重くなった。䞉幎間は静かに消費され、静かに終わった。

     いた思えば、これらは単なる過去の出来事ではなく、僕ずいう人栌の“玠材"であり“工皋”だった。濃く煮詰められおこがれずに残ったものは、人ぞの䞍信だった。誰に向けた怒りでも恚みでもなく、ただ濃床の高い譊戒心。それは冷え固たり、僕の栞になった。
     そしお今の僕がいる。人ずの距離を枬りすぎ、傷に手を添え続ける癖のある僕だ。倧人になった僕の䞭には、あの頃の僕が座っおいる。

     颚呂は呜の掗濯らしい。そんなのは劄蚀だ。僕にはいくら掗い流しおも萜ちないシミがある。もはや掗い流そうなんお考えるのは銬鹿だず蚀えるものが。だからそんなこずを考えるのは止めおやる。呜の掗濯をキャンセルしおやるのだ。

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