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水に祈りを | 脳内行動派! #28

    自宅から一歩も外に出ない日常を書いています。
    驚くべきことに、マガジンにまとめるという愚行を始めました。

    前回はこちら




    片栗粉入りの謎粉末を、適量の水に溶かす。

    緑色をした、ニラか何かのカケラが入っている。

    こんな少しばかりの緑を入れて、何か効果があるのか疑問だ。

    単に彩りということなのだろうか。


    手順は、効率良く進めることができるように考えられている。

    一切変えない。

    分量も、大雑把ではあるけど、だいたい合わせる。

    これは、味にも直結するはずだ。

    いかにバカ舌な私でも、2倍3倍ほどの誤差になれば、わかるに違いない。

    そんなデリケートな部分だから、分量には要注意だ。


    粉を水に溶かすときには、少しずつ進めなければいけない。

    水を入れてはかき混ぜる。

    かき混ぜては水を入れる。

    そうやって、丁寧に、丁寧に、水に溶かしていく。

    急いては事をし損ずる。

    調理台の上にある、ボールの中身は粉と水。

    これは、とてもデリケートなものなのだ。

    一粒ずつ、慎重に溶き崩していくのだ。

    丁寧に、スプーンをグルグル回していれば、そのうち液体に溶け切る。


    フライパンを火にかける。

    そこに入れるのは、また水だ。

    人間はいつでも、火にかけた道具に水を入れたがる生き物だ。

    鍋だろうと、フライパンだろうと。

    入れ物があるのだから、水を入れる。

    水を入れればなんとかなる。

    水力本願が過ぎるのだ。

    けれども、今回は、そのように指示されているのだから仕方ない。

    水に祈りを込めて、注ぎ込むしかない。

    あなたには、ナイアガラの滝つぼのように深い信心があるかも知れない。

    でも、それとは関係なく、水を灌ぐべきだ。


    人はいつの時代でも「祈る」という行為に頼ってきた。

    祈るということは、非日常への扉を開けるということだ。

    加持祈祷に全てをゆだねる、平安貴族のような面持ちをしながら進めればいい。

    「今日は方角が悪いから、出社せず粉を水に溶きます」

    「3分後に沸騰していたら、今年一年安泰だと出ました」

    水のお告げが、そんな感じのことを、なんとなく言っているはずだ。

    「具材がほどよく、水となじんでいますように」

    そう祈ったって、水だってそうそう、罰を与えるものではない。

    だから、思い切ってレトルトの封を切る。

    とっとと水に放り込んで、グルグル混ぜればいいから安心してほしい。


    ひと煮立ちすると、そこには水とレトルトが完全に馴染んだスープが出来上がる。

    そんな奇跡に感謝しながら、おもむろに豆腐を取り出す。

    この豆腐。

    私の手のサイズに対して、いつでも少し大きい。

    カットしているうちに、崩れ落ちてしまうことがある。

    ときとして、そのような運命のいたずらとも相対することがある。

    そんなことにならないよう、事は慎重を期す。

    ゆっくり、きっちり。

    落ちても無駄にならないよう、フライパンの上で。

    湯気にあぶられながら、精密な作業は進めなければならない。


    神か、仏か、水か、豆腐か。

    祈る対象なんて、正直なところなんでも良い。

    所かまわず、八つ当たりするようにひたすら祈ればいいのだ。

    そうしておけば、失敗したときには祈った相手に責任を擦り付けることができる。

    そこは仁義なき戦いだ。

    水だろうと豆腐だろうと、祈ってやったんだから叶える責任が発生する。

    それが社会というものだ。

    だから、問題ないと言える。

    うまくできない。

    だから、祈った。

    失敗したのはあんたのせい。

    この、単純明快かつ一寸の隙もない理屈でいいはずだ。


    今回は、きっちり、崩れた。

    フライパンの中へ、切りかけの豆腐がダイブした。

    スープが跳ねて、まわりが汚れた。

    保険をかけておいたのが、いかに正しい判断だったのかがわかる。

    拭きとりながら、思うのだ。

    「豆腐に祈っても、何も変わらなかったか」

    汚れたキッチンペーパーをゴミ箱へ投げ込み、手を洗う。

    レバー式の蛇口をヒョイっと上げれば、水が出てくるのだ。

    やはり万能なのは水だったのだと思い知らされる。


    一旦、火を止めて豆腐を全て入れる。

    真っ赤に染まったスープは、地獄の業火のように見えなくもない。

    そこに投入されるのだから、これはまさに契約不履行への罰だとも言えるだろう。

    ふたたび火を付けたフライパンの中は、グツグツと煮え立つ。

    怒りとともに、豆腐に軽く火が通るのを、腕組みして待っているだけだ。


    火を止める。

    そして、粉の溶け切った液体を、スプーンで少しずつ流し込む。

    ダマになっては台無しだ。

    ご飯は炊けている。

    そっとスプーンを取り出した。

    こうして、コップに入れた水に祈りを捧げつつ、できあがった麻婆豆腐を楽しんだ。




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    50代から、AIを相棒に新しい「遊び」を始めました。 なんとなく過ぎる毎日に、自分の手で形を作るワクワクを。 一歩踏み出す日々の試行錯誤や、小さな成功の瞬間を等身大の視点で発信していきます。 Amazonのアソシエイトとして、へろんは適格販売により収入を得ています。

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