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『Misfit Buddy Noir - 壁の内外と、その先(ビヨンド)』第1話

    【応募用あらすじ(約340文字)】

    完璧なAIが人間の死体すら「生体肥料」として管理するクリーンな都市。
    その地下で死体処理人として生きてきた男「リーダー」は、ある日都市に見捨てられ、過酷な荒野へ追放される。
    略奪者に殺される寸前の彼を救ったのは、同じく都市から廃棄された美しき戦闘アンドロイド「S1(サム)」だった。
    圧倒的な暴力を持つが人間の泥臭さを知らないS1と、無力だが死体解体とサバイバルの知恵を持つリーダー。
    「私のエラーを翻訳してほしい。そのためにおまえ様の機能が必要です」
    一切の感情を交えず、互いの「機能」を補うためだけのドライな契約を結び、共に行動を始めた二人は、荒野で略奪者を狩り、都市の闇市場へ売り捌くビジネスを始める。
    システムから弾き出された「不良品」コンビが織りなす、SFバディ・ノワールです。


    第1話 廃棄処分のふたり

    リーダーは必死に走っていた。この全身を覆う分厚い防護服が、今は外すのが間に合わない足かせと化し始めている。背後から追ってくる野盗の装甲車から逃れられるバッテリー容量も尽きかけ、身体補助機能の過剰使用でひどい発熱だ。自身とバッテリーの発熱で、首元の隙間から顔へ、異常な熱気が立ち上ってくる。

    『警告。動力セル残量、4%。生命維持システムを最低レベルに移行します』 網膜ディスプレイに無機質な赤い文字が明滅する。同時に、彼を派遣した都市(ウォールシティ)の中央管理システム「JIT」からの冷徹なログが届いた。 『帰還コストおよび汚染リスクが許容値をオーバー。非合理的と判断し、ゲートを完全閉鎖します。および汚染リスクから、壁外区域への侵入も不許可。接近が確認されたときは治安部隊により処分対象へと登録変更が完了しました。』

    ……ハメられた。都市のインフラを脅かす未知の汚染の処理という名目で外へ出されたが、初めから片道切符だったのだ。 どれほど強靭な肉体を持っていようと、この外の世界では道具(テクノロジー)の優位性が全てを決める。エネルギーの切れた防護服は、ただの重い棺桶にすぎない。

    「コアの指令通りに汚染対象の封印をしたのに、クソポンコツAIが!」 その魂の叫びは、通信遮断された今、誰にも届きはしない。 背後に迫る野盗の装甲車のエンジン音が、鼓膜を震わせる。彼らが手にする前時代的な実弾マシンガンでも、動けない生身の人間を肉塊に変えるには十分すぎる。身体補助機能が停止し、まともに動けなくなったリーダーは泥の中に両膝をつき、死を覚悟して奥歯を噛み締めた。

    「いいいやっほおおおう!今日の獲物は、いい値が付きそうだぜエ!」
    「自爆すんじゃねえぞ!身ぐるみはいでやるんだからよ!おとなしくしてればサッと終わらせてやるからよお!」
    装甲車の開口部から身を乗り出した野盗の兵隊が、狩りの成功に酔い、狂気をはらんだ罵声を浴びせてくる。

    とりあえずバッテリーが切れ、動けないので今は動きようもない。お手上げだ。素直に装備を差し出せば命は助かるだろうか?いや、きれいに処理され、「ネズミ」に買い取られ、治安部隊に売りつけられてしまうのが関の山だ。

    これが万事休す、ってやつか……クソみたいな人生のまま終わっちまうのか。 生まれながらに死亡した者を肥料生産ラインへと流す仕事しか知らない人生、地下のプラント生活ばかりで、久々の外出気分で壁外任務に赴いたというのに、これでおしまいかよ……理不尽極まりねえな、クソが……。

    その時だった。 突如、視界の端で野盗の装甲車が「くの字」にへし折れ、黒煙を上げて横転した。 爆発音も、マズルフラッシュすらなかった。ただ、空気を引き裂くような鋭い破裂音(ソニックブーム)だけが遅れて鼓膜を打った。地上に放り出された野盗の兵隊がマシンガンをあたりかまわず乱射している。ヘルメットを弾がかすめ、衝撃で意識が朦朧とした視界の中で、音もなく発射された何かが、野盗の体に直撃し、十秒もたたぬうちに物言わぬ存在として辺りに転がっていた。 何だ?実弾の発射音も、光線銃の軌跡も見えなかった。

    生き残った? なぜだ? リーダーは泥まみれの防護服を引きずり、重い頭を上げた。 煙を上げる装甲車の残骸から、さらに二百メートルほど後方。熱で陽炎が揺れるガレキの山の向こうから、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる「何か」のシルエットが見えた。

    光を全反射する、純白の髪。ボロ布を纏っているが、その長身のシルエットと感情の読めない美しい顔立ちは、泥に這いつくばるリーダーを高い位置から見下ろすように接近してくる。

    ――あの見た目は……アンドロイドだ。 最悪だ、とリーダーは奥歯を噛み締めた。あんな高性能な機体、都市の「治安維持用」に違いない。 だが、理屈が合わない。都市から受け入れを拒否され、追放されたこの俺に、なぜ救助指令が出る? いや、そもそも治安維持部隊は、あんなボロ布を纏ったりはしない。

    ……もしかして、遺棄された野良の暴走機体か? だとすれば、俺は助かってなどいない。獲物を狩る者が、野盗から狂った機械に変わっただけだ。 音もなく接近してくる銀髪の機械を見据えながら、リーダーは絶望の中で思考を回し続けた。あれだけの質量を、数百メートル先から無音で正確に撃ち抜く兵器など、俺の知識(ロジスティクス)には存在しない。 どうするつもりだ、あいつ……。

    アンドロイドは左腕に内蔵された小型の弓らしきものを展開し、こちらに向けたまま尋問のように話し始めた。 「お前の所属を述べよ。もしくは野盗の脱走兵か?抵抗しなければ、危害は加えない」 透き通ってはいるが、一切の感情の起伏がない声だった。ボロ布をまとった長身のシルエットが、事切れた野盗の死体を無造作に踏み越えてリーダーの眼前に立つ。

    「繰り返す、早急に回答せよ。私の質問が終わるまで休憩は認められない。生命維持装置の機能を判定すると、生体機能の大幅な低下、このままでは生体肥料としての価値も低下しつつある。早急な手当、あるいは処理が必要。おまえが何者か述べよ、繰り返す、抵抗は無意味だ、己の説明をせよ、生命機能の低下を確認、早急に回答を要求する」

    「同じことを繰り返すなよ、うるせえな。俺は『肥料生産組合のマイスター』だった。ついさっき接近禁止命令が出て登録がデリートされちまったみたいだから、元市民になっちまった」 リーダーは呻きながら、泥まみれの体を半ば起こした。「お前、治安維持の機体じゃないのか?そんなとんでもない武器を装備してるなんて……お前、治安維持部隊の広報でよく映ってたエースか!いやあ、助かった」

    そうだ、彼女の姿を思い出してきた。治安維持部隊のエースとして、広報の役目を持ちつつ、頻繁に都市宣伝モニターに映されていた。そう、地下で這いずり回っている俺なんか比較にもならない英雄様だ。

    「お前、なんでそんな野盗の下っ端みたいななりしてるんだ?もしかして、極秘の潜入工作か暗殺任務でもしてんのか?」 生き延びた安堵と、スクリーンの向こう側の伝説の戦士様との思いがけない邂逅で、社交的とは言えない性格の彼が、質問を重ねる。

    「……私は、コアから『自己廃棄処分』を受け、壁外追放となりました。恩赦の可能性を追求し、自律的にビヨンド域での不法行為集団の殲滅任務中です」 少し口調が変わってきた。どうやら野盗扱いは脱したらしい。しかし、追放だと?壁内へ戻れるようにとりなしてもらいたかったのに、使えねえな……。

    彼女が言葉を返す。リーダーの質問はスキップされたようだ。「……で、おまえは制圧対象でないのは受容しました。治安維持への協力を要求します。野盗の制圧に必要な武装が不足しています。爆発性、他の機能を持つ特殊弾の提供を要求します。市民でなくとも、治安維持に協力すべきです。早急な補給を要求します」

    リーダーは言いたいことは理解した。彼女は俺を兵站任務の人間と勘違いしているようだ。 「さっき肥料生産組合と言ったんだがな……肥料は供給できるかもしれないが、弾丸は無理な相談だ、他を当たれ。というか、そこのあんたがスクラップにした残骸を漁れば、なんぼか残ってるだろうよ。俺はバッテリー切れの防護服で動けねえし、生身であんな煙吹いてる車に近寄れる訳ねえだろう?過労死する前に焼死しろって言われても、はいかしこまりましたとはならねえぞ」

    機械は無表情のまま、黒煙を上げる装甲車の残骸へと視線を移した。「対象の装甲車、スキャン完了。外装の損傷率94%。内部の動力モジュールも破壊されている確率が極めて高い。無価値なガラクタです」

    「……ガラクタだと?」 リーダーは鼻で笑った。AIの最新スキャンだろうが何だろうが、解体現場を知らない機械の浅はかさだ。「お前が表面しか見てないからだ。いいから俺の言う通りにしろ。右後部の接合部だ。熱で脆くなってるから、お前の力ならこじ開けられるだろ」 機械は僅かに首を傾げたが、指示通りに残骸へと歩み寄る。白魚のような指が焼け焦げた装甲の隙間に差し込まれ、まるで紙を破るかのように、分厚い装甲板がメリメリと引き剥がされた。その奥、熱の届かない隠し区画から、無傷の高純度バッテリーとセンサー部品が顔を覗かせた。

    「……どうだ」リーダーは荒い息を吐きながら言った。「野盗ってのはな、一番高く売れる部品を、一番安全な隙間に隠すんだよ。そこらへんに弾丸も一緒にあるだろうよ、熱で暴発する前に回収しとけ」

    AIの最新スキャンを、人間の泥臭い経験則が凌駕した瞬間だった。機械の瞳の奥で、カメラの絞りのような無機質なラインが、チカッ、チカチカッと赤みを帯びて不規則に点滅発光した。【対象の初期スキャン:無価値な生体・保護対象外】という評価パラメーターが、目の前の男の挙動によって強制的に上書きされ、言語野の論理回路が激しく混線していく。

    「……おまえ様は、解体に詳しいのですね」彼女が手際よく野盗の装備を解体し、漁っているリーダーに話しかけた。

    「俺の本来の仕事だ。……待て。なんだその『おまえ様』ってのは。それに、さっきから目がチカチカ点滅してて気味が悪いぞ」
    「私の中の言語モデルのバグです。非友好的対象への呼称と、初期設定の礼儀正しいコミュニケーションが混線しています。修正は……権限がないため不可能です」

    リーダーは呆れたように舌打ちをした。「チッ、ポンコツが。まあいい、俺も都市に戻れないならもうマイスターじゃない。組合ではリーダーと呼ばれてたから、リーダーと呼べ。まあ、なんでもいいや、好きに呼べ。お前の方はなんて呼べばいい? 治安維持部隊の機体番号『S1』があるだろう。その後の個別の名前でもいいぞ?プリンセスとか、マリアとか、なんかあるだろ?英雄様とかめんどくせえからなしな」
    「私は自己廃棄処分になったため、もうS1(特別1型)ではありません。都市のシステムから切り離された今の私は……ただの、何か(Something)、です」
    「何か、か……じゃあサムシング。めんどくせえから『サム』でいいか。俺の指示を聞く機能なら、名前なんてそれで十分だ」
    「サム……。該当する登録データはありませんが、機能的な音声記号として受諾します、おまえ様」 サムと呼ばれた元S1は、感情の読めない美しい顔を再びリーダーへ向けた。 「おまえ様は、階級のリーダーとは認められない。故にリーダーの呼称は不適切であり、拒否します。おまえ様で十分機能しました。メモリー完了です。むしろリーダーたる指揮権限は私に属しますから、私をリーダーと呼ぶことは許可しますが」
    「……ああ、めんどくせえな、おまえ様でいい。お前はサム、決定!以上、終了!」 このままだと完全に部下扱いされそうだ。交渉できる地位は確保しておこうと、公平扱いで手を打とうとした。

    「……緊急時であり、相互に協力を必要とするようですから、友好関係の維持のために、現状維持を認めます。しかし、今回のような緊急時は私の指揮下に入ることを忘れずに」
    リーダーは肩をすくめるようなしぐさを見せ、「はいはい、了解しましたよっと」と疲れた声で返事をした。

    「あと、食料と飲料水が車内にありましたので、回収しておきました。一部炭化していますが、必要なら提供します。協力関係の証として」
    「あああ!ずっとそれ探してたんだろうが!半分焦げてんじゃねえか、なんでさっさと回収しねえんだよ!まずいし体にも悪いだろうが!……いいだろう。俺もこのクソみたいなビヨンド地域で生き延びるための『力』が必要だ。もらっとく」

    リーダーは泥だらけの腕を伸ばし、先ほどまで自分を罵倒していた野盗の死体から、手際よく使える弾薬とIDタグを剥ぎ取り始めた。助けられたことへの感謝も感動もない。 「取引(契約)は成立だ。まずはそのバッテリーを俺の防護服に繋げ。俺の命が尽きたら、お前の翻訳係もいなくなるんだからな」
    「じゃあ、早急にその炭化した食料と水分を補給開始してください、おまえ様」
    「クソ、焦げ焦げいうな、飯がまずくなるだろうが」 悪態をつきながら、最初に水を飲み始めた。茹で上がりそうな体に、ぬるま湯のような水分が染み渡る。

    ひとまずこの優秀でポンコツなアンドロイドと協力関係を結べたようで、安堵した。こちらも戦い以外のところでいいとこ見せないと、このビヨンド地域で生き延びることはできないだろう。置き去りにされないようにしないとな、とリーダーが言葉に出さずに、この頼れそうなアンドロイドとどのように過ごすべきか、まずは生き延びる、やりたいことは思いつくかもしれないがとりあえず生き延びなくては、と生存への希望の光を見出し始めたのだった。

    #創作大賞2026 #エンタメ原作部門


     
     

    俊

     
     
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