【メモ】あなたの居場所はいくらで買える?
探偵。それはとてもミステリアスで、大衆の興味を引くキーワード。スパイと同じくらい非日常。でも、交通事故と同じくらいには身近に思える。
僕らは探偵の日常をよく知らない。
大泉洋さん演じる探偵みたいな毎日を過ごしてはいない。それくらいはわかる。でも、浮気調査や人探しをしてるんだろうなってくらいしかわからない。裏社会とどれくらいの距離にいるんだろうってことも気になる。
僕は過去に一度だけ、探偵に人探しを依頼したことがある。まだ二十代だった頃に、会社の先輩社員の捜索を。
入社三年目くらいだった僕。当時喫煙所でよく話す仲のいい先輩社員がいた。彼の名は徳永さん(仮名)、四十代の独身ヒラ社員だった。ギャンブル好きで、酒と女にも金を惜しまず、ペットのポメラニアンを溺愛する男だった。
まあ、経緯は色々あったんだが、僕は彼に二十万を貸した。名目は愛犬の手術代。彼は同じ口上で社内の数人から総額百万ほどを借り、飛んだ。きっと「酒と女」の方で借金があったんだと思う。いなくなってすぐに金融関係の鬼電が会社に入りまくったし。
僕ら被害者の会は一ヶ月くらい探し回ったが、地元にも戻っておらず足取りはつかめなかった。誰もが勉強代だと諦めようとしていた。だが僕は諦めなかった。世の中で「逃げ得」ほど許し難いものはないと思っていたから。
それからは損得ではない。僕の個人的な戦いだった。探偵事務所を訪れ、内容を相談し、ヒントになりそうな情報を全て渡した。
対応してくれた探偵さんは、僕の親くらいの歳に見えた。元警察だという彼は、僕の話を目を逸らさずに頷きながら真剣に聞いてくれた。そして、自信たっぷりの表情で「三日で見つけます」と言った。
結果、二日で見つかった。
僕たちが数人で手分けして一ヶ月探しても、なんの手がかりも見つけられなかったのに。たった二日で、住んでいるアパートと、職場まで。といっても派遣で肉体労働をしていたので現場は日替わりだったけど。
徳永さんのアパートに踏み込んだ僕は、いくつかの肉体的、精神的手順を踏んで彼を黙らせた。元先輩だとかそういうのはもう関係なかった。やがて従順になった彼を無理やり消費者金融に連れて行って、貸していた金を全額返済させた。
探偵さんは同行してくれて、僕が手にした二十万を右から左で受け取って帰って行った。僕には、自分の正義しか残らなかった。
いや、職場の被害者たちに徳永さんの情報を売ったから、手元に少しは残ったけど。
彼の住所の価値は、一人三万だった。
後日、探偵さんと飲む機会が一度だけあった。それも繁華街でたまたま会っただけ。別に仲良くなったからというわけではない。
そのとき彼に酒の勢いで「どうやって見つけたの。ちょっとだけ教えて下さいよ」と絡んだが、詳細は教えてくれなかった。「それが飯のタネですから」とはぐらかされた。だが、これだけは教えてくれた。
某団体に情報渡して待ってただけ、だと。
彼はグラスを傾けながら、「探偵って、ヒマで、忙しいんですよ」と笑った。
あの日、動いたのは徳永さんの人生で、止まったのは僕の感情の方だった。探偵の仕事は人を探すことじゃなくて、誰かの人生の逃げ道を潰すことだ。
少なくとも僕の一度の経験からは。
