
#20望月麗子シリーズ#生きた証
「人工呼吸器をつけたら——」
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医師の言葉が、静かに響く。
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「自分の力で呼吸はできなくなります」
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「声も、出せなくなる可能性が高い」
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「排泄や入浴など、すべてに介助が必要になります」
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ひとつひとつの言葉が
現実として、突き刺さる。
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彼は、黙って聞いていた。
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そして、小さく笑った。
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「ほらな」
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「やっぱり、無理だろ」
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「こんなの」
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視線を、私から逸らす。
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「お前みたいなやつが背負う人生じゃない」
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わかってる。
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綺麗ごとじゃない。
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現実は、もっと重い。
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毎日の介護。
終わりの見えない時間。
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それでも——
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「それでもいい」
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自分でも驚くくらい
迷いはなかった。
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彼が、ゆっくりとこちらを見る。
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「……なんで」
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一歩、近づいた。
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「好きだから」
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それだけだった。
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「理由なんて、それで十分でしょ」
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涙がこぼれる。
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「どんな未来でもいい」
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「どんな形になってもいい」
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「私は——」
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震える声で
それでも、はっきりと
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「あなたと生きたい」
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静寂。
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彼の目が、大きく揺れる。
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「……後悔するぞ」
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かすれた声。
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「しないよ」
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すぐに答えた。
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「だって」
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「私の人生は」
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「私が決めるから」
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長い沈黙のあと
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彼は、目を閉じた。
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そして——
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小さく、うなずいた。
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手術の日。
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白い天井。
冷たい空気。
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ベッドの上の彼は
少しだけ、怖そうに笑った。
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「……なぁ」
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かすれた声。
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「最後にさ」
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「声で、言わせてくれよ」
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胸が、締めつけられる。
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「……うん」
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彼は、ゆっくりと息を吸った。
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「愛してる」
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その言葉が
世界で一番、重かった。
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涙が止まらない。
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「私も……」
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声が崩れる。
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「愛してる」
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看護師に呼ばれ
彼は、オペ室へと運ばれていく。
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手を、離したくなかった。
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でも
離さなければいけなかった。
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遠ざかっていく背中。
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その時
彼の目から
一筋の涙が流れた。
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それはきっと
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“生きる”と決めた涙。
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