
ショートショート|ライブが、はじまる
わたしは、ライブが好きだ。
ライブには、人生をコロっと変えてしまうような、つよい、つよい、力がある。
だからわたしは、ライブが好きだ。
ライブとは、旅である。
ライブハウスに、フェス。
アリーナに、ドーム。
行きたいライブがあるのなら、わたしは日本中を、いや、世界中を。
飛んで、飛んで、飛びまわる。
わたしの守備範囲は、お金で行ける範囲までだ。
宇宙でライブをするっていうのなら、知らない。
知らないけれど、ペーパービューを買うと思う。
宇宙でライブをするなら、どこでやるんだろう。
月かな?
人工衛星かな?
だったらペーパービューは、あるはずだ。
なかったら、おかしい。
だって、これが本当の“衛星”放送なのだから。
去年の夏、わたしはライブに行った。
というか、毎年。
わたしは夏に、ライブに行く。
否。わたしは毎年、ライブ感を浴びに行く。
ライブとは、生き物である。
わたしがそう思うのは、ライブには、機嫌があるからだ。
いっぱいお金を落としても、いっぱい応募をしても、ライブくんには、そっぽを向かれることがある。
「厳正な抽選の結果、チケットをご用意することができませんでした。」
犬がワンと鳴くように、
ライブくんは、こう吠える。
泣きたいのはこっちだよ、と思いながら、わたしはいつも、次の当落メールを確認する。
期待を返してくれ。
まさに、飼い犬に手を噛まれたような気分である。
信じてもらえただろうか。
ライブとは、生き物なのである。
まだ、信じられないだって?
大丈夫。安心してほしい。
わたしには、切り札がある。
そう、わたしは、ライブが生き物であるという決定的な証拠を握っているのだ。
わたしは知っている。
「二度と同じライブは来ない」ということを。
同じアイドルが、同じ会場で、同じ内容のパフォーマンスを三日間続けたとしても。
同じライブは、ひとつもない。
そう断言できる。
ライブごとに、ファンの顔が変わるのだ。
まず、日によって「誰が客席に座っているか」が、変わる。
次に、人によって「どんな気持ちでライブを楽しむか」が、変わる。
最後に、会場に居合わせたすべての人の、
「明日からの生き方」が、変わる。
おわかりいただけただろうか。
ライブとは、生き物なのである。
わたしは、ライブが好きだ。
ライブには、人生をコロっと変えてしまうような、つよい、つよい、力がある。
だからわたしは、ライブが好きだ。
ライブに行くたびに、自分が変われたような感覚がある。
ライブ感が、ある。
そういえば、人は、変わりたいから旅をするらしい。
みんな、自分から変わろうなんて、すごいなあ。
わたしなんて、今まで一度も旅に行ったことが。
あ。
ライブって、旅じゃん。
もしかしたら、わたしも一緒なのかもしれない。
わたしも、変わりたいからライブに行っているのかもしれない。
『ライブがはじまる』完