『スマホが手から離れない』
最初は、
ただの疲れだと思っていた。
寝る前に少しだけSNSを見るつもりが、
気づけば深夜2時。
動画。
ニュース。
おすすめ。
また動画。
指が勝手に画面を滑っていく。
でもある夜、
異変に気づいた。
スマホを置こうとしても、
手から離れない。
「あれ?」
指が、
ぴたりと張り付いている。
まるで接着剤みたいに。
私は笑った。
「いやいや、
そんなわけ……」
けれど本当に、
離れない。
右手とスマホが、
完全に一体化していた。
無理に剥がそうとすると、
皮膚が引っ張られて痛い。
気味が悪くなって、
私は洗面所へ向かった。
水で濡らせば取れると思った。
しかし。
スマホは、
水に濡れても普通に動いていた。
画面だけが、
異様に明るい。
そこには、
見覚えのないアプリが増えていた。
黒いアイコン。
名前はない。
触れた瞬間、
画面に文字が出る。
『もっと見たい?』
背筋が寒くなる。
次の瞬間、
スマホが振動した。
ブブブブブ……
通知が止まらない。
SNS。
広告。
ニュース。
おすすめ動画。
延々と流れ続ける。
閉じても、
閉じても、
新しい画面が開く。
指が勝手にスクロールする。
止まらない。
眠ろうとしても、
画面の光が瞼を照らしてくる。
耳元で、
小さく通知音が鳴る。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
そして深夜3時。
真っ暗な部屋で、
スマホが急に喋った。
『……まだ見れるよね?』
私は叫びそうになった。
勢いよくスマホを床へ叩きつける。
ガンッ!!
しかし。
画面は割れない。
ゆっくり、
黒い画面に自分の顔が映る。
その顔は、
ひどく疲れていた。
目の下は黒く、
表情もない。
まるで、
魂だけずっと画面に吸われ続けているみたいだった。
その時、
気づいてしまった。
スマホが離れないんじゃない。
離せなくなっていたのは、
自分のほうだった。
深夜4時。
暗い部屋で、
また通知音が鳴る。
ピコン。
私は、
反射的に画面を開いてしまった。