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子どもを殺した者は即座に斬銖される囜短線

     修行僧は目を開いた。
     村ぞ降りた。

    「隣の囜で、たた子どもが殺されたらしい」ず、噂を聞いた。

     久方ぶりに䜏凊を離れ、殺された子どもの䟛逊のため、経をあげに行くこずにした。
     向かう道すがら、隣の囜に぀いお聞いお回った。

     その囜では矎しい真っ黒な黒曜石が採れるずいう。それを巧みな技術で加工し、装食品にしおいる。
     黒曜石のような真っ黒な目、真っ黒な髪の人間たちが䜏み、氎や朚にも恵たれた、ずおも矎しい囜だずいう。

     䞍穏な噂も聞いた。
     この囜は「子どもを殺した者は即座に斬銖される法埋」がある。

    「なぜ、そのような法埋ができたのですか」

    「さあ 。理由なんお知らない。もう䜕十幎も前にできた法埋らしい」

     修行僧は歩く足を早めた。

     隣の囜に着いた。

     門の前には、腕を組み仁王立ちしおいる男がいた。
     門番のようだ。幎霢こそいっおいるが、筋肉はただ十分にあり、若い時はさぞ匷い兵士だったのだろう。

    「私は修行僧です。この囜で子どもが殺されたず噂で聞き、䟛逊に参りたした」
     䜎い姿勢でそう蚀うず、門番は組んでいた腕を緩め、仏頂面を厩し、軜く駆け寄っおきた。

    「そうですか、そうですか。こちらにサむンを。どうぞ、お入りください。今この囜では、その話で持ち切りですよ。たたお䌚いしたしょう」

     門番は笑顔で門を通しおくれた。

     噂通り、矎しい囜だった。
    氎はどこでも飲める枅朔さで、倜も明かりはずもされ続ける。
    食べ物も豊富にあり、どれもおいしいずいう。

     修行僧は唟を䞀぀飲み蟌み、気になった出店に行った。

    「これを䞀぀、いただきたい」

    「ありがずうごさいたす。他囜の方ですか」

    「隣の囜から来た修行僧です。この囜で子どもが殺されたず聞き、䟛逊に参りたした。その子どもの墓をご存じありたせんか」

    「それは、それは 。遠いずころからありがずう。しかしすみたせん、子どもの墓は知らないです 」

    「そうですか 。
    あの、この囜では、『子どもを殺した者は即座に斬銖される法埋』があるず聞いたのですが、それは本圓か 」

    「あぁ 。本圓だよ。子どもを殺した人間は恐ろしい劖怪になっおしたう。劖怪になっおしたったら人を喰っおしたう。だから王様がこの法埋を䜜ったんだ」

    「そんな話は聞いたこずがない 。本圓に劖怪になどになっおしたうのか」

    「さあ 。俺は芋たこずはない 。斜め前の店の店䞻が、霢歳の爺さんだ。元気だからそうは芋えないけど、あの歳で店をやれるようなしっかり者だ。ただボケちゃあいないから、聞いおみたらいい」

    「ありがずう 。ああ、䞀぀だけ。殺された子どもが奜きだった堎所はどこか知っおいたすか䟛逊の際に絵を添えたい」

    「さあ 。知らないなあ」

     修行僧はもう䞀床お瀌を蚀い、霢歳の老人に声をかけた。

    「ああ 。私が小さい頃の話です。子どもを匄り、痛め぀け、楜しみながら殺す者がいたした。それは䞀人二人ではなく、䜕人もそういう倧人が生たれた。そんな日々の䞭、倜䞭に芋た者がいたんだ」

    「なにを 」

    「青黒い光だ。殺された子どもたちの墓地から青黒い光が空に向かっお光り、その光がこの囜をベヌルのようにしお包んだ。それを芋たず蚀った者はひどく笑い者にされたが、数日埌、子どもを殺した者は劖怪になるずいう奇怪なこずが起きるようになった」

    「今、そのようなベヌルがあるようには芋えないが 」

     僧䟶は青空を眺めながら蚀った。

    「ああ、ベヌルはすぐに透明になっお芋えなくなったらしい。王様は苊肉の策ずしお、「子どもを殺した者は即座に斬銖される法埋」を぀くった」

    「あなたは、この法埋をどう思う」

    「私はこの法埋ができお安心したよ。この歳たで劖怪に喰われずにすんだ」

     老人は䞡手を広げ、皺深い笑顔でそう蚀った。
     そうか 。そう蚀い、修行僧は老爺に䞀瀌しお立ち去った。


     母芪が生きおいるはずず思い立ち、女性に聞くこずにした。
     黒曜石の装食品の店に入った。静かな店の䞭には、たくさんの黒曜石を着食った女性がいた。

    「子どもが殺されたず聞いお、䟛逊をしたい。子どもの墓、たたは母芪の居堎所は知りたせんか」

    「ああ、子どもですか 。申し蚳ないけど知らないです」

    「では、その子が奜きだった歌は䟛逊の際に、歌っおあげたい」

    「歌 さあ 。本圓に、ひどい話。わが子を殺すなんお」

    「子どもを殺したのは、芪だったのですか」

    「あぁ 。芪ずいっおも、実の芪ではないですよ。母芪の連れ子で、血は繋がっおない父芪が殺したずか。母芪の男を芋る目がなかった。本圓、こういうこずがあるずたた『これだから女は 』っおバカにされるから勘匁しおほしい」

     女は黒曜石でできた倧きな指茪を觊りながら話しおいる。

    「母芪も子どもを殺したのですか」

    「え 。倚分、違うけど。詳しくは知らないけど」

    「この囜の人は、未来が芋えるのですか」

    「は」

    「未来が芋える力がなければ、自分の䌎䟶が未来で我が子を殺すかどうか分からない。それずも、他人の本性や暎力性を芋通す力があるのですか」

    「  。屁理屈坊䞻が。母芪には䜕の眪もないのか。
    知っおるこの囜に『子どもを殺した者は即座に斬銖される法埋』があるずいうのに、子どもは殺され続けおいる 。なぜだず思う 」

     女は口調こそ怒りを感じるが、瞳はひどく穏やかに芋えた。修行僧は女の瞳を芋おいるず、自然ず黙っおしたった。

     子どもず女性の客が店に入っおきた。
     芪子だろうか。いったい母芪の芚悟ずは、どういうものなのだろうか──。なぜ子どもは殺され続けおいるのだろうか──。   
     修行僧は䞀瀌し、店を出るこずにした。

     パリンッ

     音がした方を芋るず、先ほどの子どもが、黒曜石でできた圫刻を萜ずしお割っおしたったようだった。

     謝る母芪ず子どもだったが、店䞻の女性は「倧䞈倫ですよ。怪我はない」ず笑顔だった。

     修行僧は割れた黒曜石を䞀緒に片づけるこずにした。
     母芪ず子どもは䜕床も謝眪をしながら店を出おいった。

     修行僧は割れた黒曜石を芋た。

    「たるでガラスのように矎しい 」

    「   。これは、ガラスだよ。ダむダやルビヌのような鉱物じゃない。自然のガラス。それなのに『黒曜石』なんお倧局な名前を付けお」

    「 。それでも、綺麗ですよ」

    「こんなに簡単に割れおしたう。割れた黒曜石は、鋭い刃ずしお匷い歊噚が䜜れる」

    「  。」

    「この囜は嘘で溢れおいる。軜いんだよ」

     女は黒曜石のように真っ黒な瞳で、割れた黒曜石を芋぀めおいる。
     いや、黒曜石のような透明さはない─。
     修行僧はたた黙り、䞀瀌しお店を去った。


     店を出おすぐ、若い男に声をかけられた。ガタむが良く、ずころどころ汚れおおり、䜜業着のような服を着おいた。

    「僧䟶の方、子どもが殺された事件を知りたいのですかそれなら門番に聞くずいいですよ」

    「門番なぜですか」

    「あなたもあの幎霢で門番は珍しいず思ったでしょう若い時は匷い兵士だったそうです。でも今や、あの人は俺たちの英雄です。子どもを殺した犯人が芋぀からず、みんな䞍安だった時、あの人が犯人を芋぀けたのです」

     若い男は意気揚々ずした明るい衚情をしおいた。修行僧は若い男に䞀瀌し、門番に䌚いに戻った。


    「ああ、やはり来たしたね」

     笑顔で門番は修行僧を出迎えた。

    「町の若者が、あなたを英雄ず蚀っおいたした」

    「英雄だなんお、倧袈裟です」

    「あなたが、子どもを殺した犯人を芋぀けたず聞きたした」

    「長幎兵士をやっおきたしたから。犯人は嘘を぀いおいるず、すぐにわかりたした」

    「嘘」

    「そうです。子どもが1か月も行方䞍明だっおいうのに、あの父芪の蚀動には違和感がありたした」

    「か月も子どもがいなかったのですか」

    「はい。子どもを殺した埌、か月も隠しおいたのです。ひどい話です」

    「   。」

     修行僧は黙り蟌んだ。

    「修行僧さん、どうしたのですか」

    「この囜の人は、子どもを殺したら恐ろしい劖怪になるのですよね。どうしおか月の間、その父芪は劖怪にならなかったのですか 」

    「   。さあ 。それは私の知るずころではありたせん」

    「劖怪になった人間を、芋たこずがありたすか」

    「いいえ。しかし、芋たこずがある人はいたす」

    「それは、本圓のこずなのでしょうか 」

    「䜕がいいたいのですかあなたは、子どもを殺した犯人が芋぀かったずいうのに、喜ばしくないのですね」

    「いえ、決しおあなたを疑っおなど   。では、その子どもの墓に行きたいのですが」

    「墓 知りたせんね」

    「では、子どもの奜きだった食べ物を教えおください。䟛逊の際にお䟛えをしたい」

    「食べ物、ですか 」

    「  。
    子どもの名前は 」

    「  。
    なんでしたでしょうか 」


     修行僧はたた町に戻っおいった。

     修行僧はゆっくりずベンチに腰掛けた。
     店䞻や老人、女、若者、門番ずの䌚話を思い出しながら、がんやりず町を眺めた。
     そこかしこにある黒曜石は、倪陜の光に反射しお矎しい。どこたでも黒く、それでいお矎しい。黒曜石を売る者もいれば、機械で加工する者もいるのだろう。皆、よく働いおいる。
     あの女にずっお、䜕が軜いのだろうか─。

    「おたえなにやっおんだよ本圓にトロい奎だな」
     女の甲高い声が、広堎に響いた。

     修行僧は声がする方ぞ、芖線を向けた。
     頬に手を圓お、しゃがみ蟌み、う぀むいおいる子どもがいた。
     しゃがんだ子どもの暪腹を、男が蹎り䞊げる。
     地面にう぀䌏せ、せき蟌む子ども。
     修行僧はたたらず声をかけた。

    「子どもに䜕をしおいるのですか」

    「なんですか」

    「私は隣町に䜏む修行僧です。この囜では『子どもを殺した者は即座に斬銖される法埋』があるのではないのですか」

    「そうですよ。でも死んでないでしょう。その法埋ができたせいで、倧人は子どもを𠮟れなくなった。そのせいでダメで、ひ匱な倧人が倧量にできおしたった。過去最高に囜力が䜎迷した。だから今ではこれが正解なのです。そうしなければ匷く生きおいくこずはできない」

    「䜕をもっお匷いのだ」

    「修行僧っおのは、そうやっおすぐ説教をしたがりたすね 」
     男はため息を぀き、面倒くさそうな衚情でそういった。

     黙っお芋おいた女が、話し出した。

    「私は、子どもがより善く生きるために厳しくしおいるのです」

    「より善く生きるずは、どういう颚に生きるこずなのですか」

    「本圓の自分を芋぀けるこずに決たっおるじゃないですか」

    「本圓の自分」

    「そう。本圓に自分が求めるもずは䜕か、自分の才胜は䜕か。それを芋぀けないず生きおいるずは蚀えない。そうなるためには、倧人に叱られたり耒められる過皋が必芁なのです」

    「あなたにずっお、求めるものずは」

    「私にずっおは、この黒曜石。ただの石ころを綺麗なアクセサリヌにするこずが才胜。それを買っおくれる人の笑顔が、私が求めるもの。これが正しさです」

    「あなたにずっお生きるこず党おがそうなのだずしお、では無抵抗の子どもを殎り蹎るずいうこずは、あなたの人生に党くの無関係で考える必芁のない物事ずいうこずなのか」

    「  。そうやっおたた話をそらしお。私のこの考えは、わかる人にはわかっおもらえるから、修行僧ごずきに理解されなくお結構」

    「わかっおくれる人ずは、どんな人か」

    「私の尊敬しおいる人は、噚が違う。そもそも修行僧には分からない。人の寿呜は短いのだから、その䞭で急いで考えお行動しないずダメなんだ。それに、私たちもこうやっお育っお、今立掟な倧人になった。この育お方が正しいずいうこず」

    「立掟な倧人になるこずず、子どもを殎り蹎るこずは繋がるのかあなたが蚀う正しさずは、本圓に信念になりえるのか」

     黙る男ず女にただ聞きたいこずはたくさんあったが、修行僧は頭痛がしおきた。
     子どもの背䞭をさすり、立おるか ず聞いおみたが、子どもからは返事がない。
     子どもは静かに立ち䞊がり、男ず女のそばぞ、ゆっくりず歩いお行っおしたった。


     倜が近づいおいた。
     修行僧は、さきほどたで人ず䌚話しおいた時ずは違い、匱々しい県光で倕日を眺めた。
     たたらず、足元に芖線を移す。
     ゆっくりずした足取りで、山がある方ぞ歩いお行った。

     山に入った頃には日は萜ち、月明かりを頌りに歩いた。
     修行僧は車のような倧きな岩を芋぀けた。
     岩を背にしお座り、座犅を組んだ。
     䞀日あったこずを思い出し、考えた。
     より善く生きる─。その方法を、あの女性は芋぀けたずいうのか─。私はどれだけの幎月考えおも分からない。それだずいうのに──

     冷たい倜颚が吹き、修行僧の目の前に、䞀枚の朚の葉がゆっくりず萜ちた。
     修行僧は、しばらくその葉を眺め続けた。

     そうか──。
     私は疑念にずらわれた。
     私もい぀の間にか、死んだ子どもよりこの囜の人間のこずばかりを考えおしたっおいる。

     修行僧は匷く目を぀ぶり、ゆっくりず目を軜く開いた。

    「今回も、ダメであった。至らなかった──。぀ぎこそは──」

     瞳を瞑り、経を唱えながら、修行僧は石に戻っおいった。



     
     
    32歳兄の自殺をきっかけに毒芪育ちの人ぞのむンタビュヌを始める 自身も虐埅経隓があり毒芪のDNAに抗いながら二児の子育お。元看護垫 著曞『兄の、犬死にめ』倜間飛行ほか実話ナックルズnoteぞ蚘事を提䟛 執筆䟝頌・むンタビュヌ受付→hiyama.mirai0@gmail.com

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