
江川卓投手から学んだこと
学生の頃、私は友人に酷い不義理をした。もし逆の立場であれば、顔も見たくも無いと思っただろう酷い不義理であった。友人とは仲が良かったが、当然のように疎遠になった。お互いに連絡を取り合うこともなく、残りの学生生活を過ごした。
卒業式で友人を見かけた。一瞬だが、明らかに目が合ったが、私は目を背けた。当時の私には、頭を下げる勇気は無かった。友人の目は何かを訴えかけていたように思えたが、今となっては知る由もない。おそらく、その機会ももう無いだろう。友人と何があったかは、ここでは書かない。本当に情けの無い、苦い経験である。
ある日、テレビをつけると、江川卓さんが出演されていた。江川氏は1980年代を代表する、巨人軍の大投手だ。江川氏は誰かと対談をしていた。よく見ると、相手は小林繁さんだった。私は驚いて、テレビを食い入るように観た。ある年代以上の方であれば、私が驚いた理由は容易に想像ができると思う。
小林氏は元々、巨人軍のエースだった。1979年に江川氏が巨人軍に入団したことで、ライバルチームの阪神タイガースにトレードされた。これは、当時であれば知らない人はいないほど有名な話だ。
この時のトレードは、特殊な事情で行われたものだった。江川投手の入団がきっかけで、小林投手は巨人軍を去った。当時は、江川投手を悪者にする風習があったと思う。逆に、阪神に入団した小林投手は、悲劇のヒーローとして脚光を浴びた。
江川氏は番組で、「申し訳ありませんでした」と、小林氏に深々と頭を下げていた。小林氏は、「謝ることないじゃん」と気さくに応じられていた。対談の最初は空気が硬かったが、最後は緊張がほぐれたように感じた。複雑な事情の中で、自分ごととして物事を捉えられる謙虚さを、江川氏の姿勢から感じた。
他方の私は、友人に頭を下げる機会を逸した。完全に自分が悪い出来事だったが、頭を下げる勇気も勇気も、自分が起こした事象に向き合う強さも無かった。ただ情けの無い話ではあるが、江川氏の姿勢を見て、今日からでも、私も少しは強くなろうと思った。