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心の配達:#007 届きすぎた手紙

    看板には、こう書いてあった。

    「感情魔法の持続時間は最大15分です」
    「それを超える影響が確認された場合、回収処理を行います」

    ……でも、わたしたちは知っている。
    “届いた”はずの気持ちが、相手の心を追いつめてしまうこともある。

    だから今日の配達は、届けることじゃない。
    “届きすぎた想い”を、そっとほどきに行く。

    ◆

    本日の処方箋  
    ――
    〈あおぞらシロップ〉  
    効能:  
    “頑張りすぎていた自分”を、そっと抱きしめ直す時間をくれます。

    副作用:  
    涙腺がゆるむことがあります(予兆:胸の奥がぽわっと温かくなる)。

    依頼の主は、若い女性だった。
    数週間前、ふたりを通して“応援の魔法”を送ったという。

    「手紙は届いたと思うんです。……でも、彼、壊れてしまったみたいで」

    「壊れた?」

    「ずっと走ってるんです、毎日、誰よりも速く。
    でも目が笑ってない。」
    「…たぶん、あれは“頑張りすぎてる”んです」

    ミナが静かにうなずいた。
    「届きすぎたんですね、手紙の魔法が」

    ルナは、前の記録を開く。
    瓶の中に詰めたのは、純粋な“あなたならできる”という気持ち。

    「悪気はなかったのよね?」
    「もちろんです。……ただ、支えたくて」

    ルナは目を伏せてつぶやいた。
    「支えたつもりで、背中を押しすぎることって、あるよね」

    ◆

    ふたりは、街の運動広場へ向かった。
    そこには、早朝から走り続ける青年の姿があった。

    「……届いてる顔、してる」
    ルナがつぶやいた。

    目の奥が焦点を結ばず、ただ義務のように動き続ける脚。
    まるで“誰かの期待”だけで動いている機械のようだった。

    ふたりは距離を保ちつつ、静かに小瓶を準備した。

    「今度は、応援じゃなくて、“休んでもいい”って伝える魔法にしよう」

    ミナが瓶にそっと触れると、中に淡い水色の液体が現れた。
    それは、“安心して立ち止まれる”感情。

    「副作用は?」
    「少しだけ、涙が出るかも。あと、“寝落ち”することもある」

    「ちょうどいいね」

    ◆

    ふたりは、青年のベンチにそっと小瓶を置いた。

    キャップには、「つかれたとき用」と手書きの小さなラベル。
    風にふわりとゆれるリボンだけが、ふたりの存在を示していた。

    青年は最初、それに気づかないふりをしていた。

    けれど三周目、ベンチのそばで足がわずかに緩む。

    四周目、視線だけが、瓶の上をすべった。

    そして五周目。
    彼は、ベンチの前で立ち止まった。

    水を飲むふりで手をのばし、小瓶をそっと握りしめた。

    開ける音はしなかった。
    けれど、風のなかで、
    瓶の中の水色が、かすかにきらめいた。

    ◆

    15分後、ふたりは広場を離れていた。
    セプトが静かに鳴く。

    「ねえ、ルナ」
    「ん」
    「“届いた”ことと、“よかった”ことって、別なんだね」

    「うん。
    応援も、愛情も、たぶん“量”じゃない。
    ちょうどよさって、魔法より難しいかも」

    ミナはうなずく。

    「セプト、記録しておいて」
    「届けることより、届きすぎた想いをほどく方が、魔法っぽかったって」

    セプトは、しっぽを一巻きして、静かに瞬きをした。

    ◆

    記録係・セプトの追記:
    青年は、その日、はじめてベンチに長く座った。
    ひとくちの水と、静かなため息。
    そしてポケットから、小さく折られた手紙の端を取り出した。

    そこには、一行だけ書かれていた。

    「無理しなくて、いいよ」

    紙は古びていたけれど、
    その言葉だけは、今届いたばかりのように見えた。

     
     
     
    人生のこり二十年。 だからこそ、慌てずに、小さなことを大切にしたい。 40代で立ち止まり、静かに考えるようになりました。 習慣や感情との付き合い方を、少しずつ書き残しています。 よければ、あなたの「今日の1秒」—— お付き合いいただければ幸いです。 とっぴんぱらりのぷぅ

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