
ギリシャ人になりたい私と、何ものにもなりたくないO君、➕ロシア語🇷🇺
トマトソースの瓶とシュレッドチーズの大袋、冷凍ピザ生地、各々の皿とトースターに囲まれて、新大学一年生はInstagramとかLINE連絡先交換に勤しんでいた。と、いうのが大学受験の祝賀会である。
祝賀会と言っても第一志望に落ちた人が三人以上いた。私もその一人。
手持ち無沙汰になってしまって、ピザにナイフとフォークの身支度をしてやった。フォークで三角形の鋭角を巻いて固定し、ナイフで一口大に切る。知る限り一番時間のかかる咀嚼手段。
「え、すげー上品な食べ方」
横から唐突に言葉を投げかけられて、私は相手をせざるを得なくなった。メガネにパーカーの、名前を知っているけどそこまで親しくなかった男の子。
彼からするとそれは、「すげー」食べ方らしい。
彼の顔を見て、私は避け難い客観に至った。
待って、この食べ方よくよく考えるとお嬢様かぶりっ子の究極の二択なのでは?
青年は微笑む。私は自己の日頃の言動と、顔面偏差値のことを考える。
「別に…ナイフとフォークがあったから?」
もっとぶりっ子っぽくなってしまった。
その後弁明代わりに「フランス人のピザの食べ方らしい」とか言って、恥の二度塗り二度焼きをしてしまい、私はますます居心地が悪くなった。
ピザを食し、社交界の大変さをピザで希釈していると、◯◯さんはどうかな?と来た。どうかなって何だ。◯◯さんは私である。
どうやらハンド・マイクもどきは私に渡されたらしい。
心の中を駆け抜けていたのは、ラフカディオハーンもとい小泉八雲だった。なぜか大河の島津久光と、馬で。
「ギリシャ人」気付けばそう口にしていた。なんだギリシャ人になりたいって。帰化でもするのか。やじの飛び具合を聞くに、私の答えは馬を温めるのに正解だったらしい。
家に帰る。大学に毎日カヨウワケニハイカナイシ引ッ越サナイトネ、ソウダネソウナンダヨどこに引ッ越ソウカ…
履修登録をして、夢見た第二外国語を取る。必修授業と被っていない第二外国語で、食指が動いたのはロシア語だった。
人間はかけがえのない生命であると同時に、労働力としては代替可能だ。
中国語もスペイン語もフランス語も、私以外の人が私の代わりにとっている。
その日、誰かの代わりの私と、私の代わりの誰かが地球を回している夢を見た。
朝、五時起き。
山手線に乗ったのも満員電車も初めてだった。知っている駅は北千住だけだったし、東京に幾つの区があるのかなんて全く知らなかった。
そう、全て割り切ってしまおう。これから行くのは私が知らない土地、私を知らない土地だ。
バイバイ、
ううん、パカ!
注)パカПокаはロシア語でじゃあね、の意