
高校野球怪談(ショートショート)
バッターボックスに立つ奴なんて、もうとっくにいない。
山田が消えたのは梅雨の終わりだった。翌週には田中がいなくなり、夏が来る頃には佐藤の姿も消えた。休部届も出さず、急に連絡が取れなくなる。親も学校も、なぜか深く追及しようとしない。まるで最初からそんな部員は存在しなかったみたいに、一人、また一人とグラウンドから消えていく。
蝉の鳴き声だけがうるさい夕暮れ、残ったのはキャッチャーの渡辺と、ピッチャーの俺だけだった。
「おい、投げろよ」
夕日に照らされた渡辺が、マスク越しに低く言った。静まり返ったグラウンドで、俺は大きく振りかぶる。
――すっぽ抜けた。
ボールは一直線に渡辺の胸元へ飛んでいく。鈍い破壊音。渡辺は胸を押さえて崩れ落ちる。そして信じられないものを見る目で俺を見た後、ゆらりと立ち上がり、何も言わずに校門の方へ歩いて行った。
その日以来、渡辺も部活から消えた。
誰もいないマウンドに一人で立つ。俺が投げたのは「死球」だった。あいつらをグラウンドから消していたのは、怪異じゃなかったのだ。
俺は次のボールを握りしめた。うちの野球部は今、幽霊部員たちがひしめき合っている。
読んでいただきありがとうございました。
お題企画を見かけたので、試しに1本挑戦してみたところです。ショートショートというのは短い中で綺麗にまとめる難しさがありますね笑
最近短編小説を書きはじめました。
よろしればそちらもぜひ覗いてもらえると嬉しいです。