メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bytarostagram

高校野球怪談(ショートショート)

    ゆうが/Yuga

    バッターボックスに立つ奴なんて、もうとっくにいない。

    山田が消えたのは梅雨の終わりだった。翌週には田中がいなくなり、夏が来る頃には佐藤の姿も消えた。休部届も出さず、急に連絡が取れなくなる。親も学校も、なぜか深く追及しようとしない。まるで最初からそんな部員は存在しなかったみたいに、一人、また一人とグラウンドから消えていく。

    蝉の鳴き声だけがうるさい夕暮れ、残ったのはキャッチャーの渡辺と、ピッチャーの俺だけだった。

    「おい、投げろよ」

    夕日に照らされた渡辺が、マスク越しに低く言った。静まり返ったグラウンドで、俺は大きく振りかぶる。

    ――すっぽ抜けた。

    ボールは一直線に渡辺の胸元へ飛んでいく。鈍い破壊音。渡辺は胸を押さえて崩れ落ちる。そして信じられないものを見る目で俺を見た後、ゆらりと立ち上がり、何も言わずに校門の方へ歩いて行った。

    その日以来、渡辺も部活から消えた。


    誰もいないマウンドに一人で立つ。俺が投げたのは「死球」だった。あいつらをグラウンドから消していたのは、怪異じゃなかったのだ。

    俺は次のボールを握りしめた。うちの野球部は今、幽霊部員たちがひしめき合っている。




    読んでいただきありがとうございました。
    お題企画を見かけたので、試しに1本挑戦してみたところです。ショートショートというのは短い中で綺麗にまとめる難しさがありますね笑

    最近短編小説を書きはじめました。
    よろしればそちらもぜひ覗いてもらえると嬉しいです。


     
     
     
    ​物語と論理で人間関係の「距離感」「関係性」を解剖する鳥。ドラマ・小説の深掘り【考察】と近未来SF【自作小説】を発信中。火木連載『透明な無菌室のふたり』

    あなたへのおすすめ