連載『それゆけ!重さん12』~若者
若者
思えば、私が重さんと出逢った頃、
余命10年宣告から、
すでに15年以上の歳月が過ぎていた。
その頃の重さんの仕事は、
工事現場の警備員。
夜に出かけて行って、
一晩中働いて帰ってくる過酷な仕事だ。
重さんの家は、
小さなビルになったばかりで、
2階は、お母さんの喫茶&スナック、
1階は、コインランドリーになった。
家にいる時には、
コインランドリーと
そこに設置したタバコの自販機の管理を
重さんはやっていた。
私も元彼と共に、
お店を手伝い始めた。
ランチはお母さんが中心だが、
喫茶店でコーヒーを生豆から焙煎したり
手作りのケーキを作ったり、
夜のスナックを手伝うこともあった。
そして、その流れで、
私もコインランドリーで
時折重さんと一緒になった。
ーーーーー
ある時、
180㎝はありそうな、背の高い若者が
コインランドリーにふらりと入ってきた。
シルバーのトゲがついた
黒い革の服を着て、頭はモヒカン。
できれば関わりたくないような、
いかつい怖そうな若者だった。
その若者を見た途端、
重さんは、とんでもない暴挙に出た!
「おお! いい身体してるっ!」
と、突如、彼の胸板を両手で挟んで
思い切り叩いたのだ。
ばんっばんっ
(ぎゃー、なにやってんの!!!)
声には出さなかったけど、
私は心の中で叫んだ!!
ところが…
若者の反応は意外なものだった。
「あ、ありがとうございます!」
「何やってるの?
こんだけの筋肉は、そう簡単にはつかないよ。」
若者は照れくさそうに、
でもどこか嬉しそうに答えた。
「はい、鍛えてます」
私は目の前の光景が信じられなかった。
(すごいよ、重さん…)
重さんの行動には嘘がない。
本当に良い身体だと思ったから、
そのまま口にし、そのまま叩いただけなのだ。
褒められて嫌な気はしないのかもしれない。
20㎝は身長差がありそうな2人。
重さんは見上げながら、
若者は重さんを見下ろしながら、
会話してる。
まるで友達のように。
若者は少し照れくさそうに帰って行った。
何もなかったかのように
仕事を続ける重さん。
飾ることなく、委縮することなく
重さんはいつでも重さんなのだ。
今もあの緊張感が忘れられない。
13に続く
目次はこちら↓