好きな人に会いに行くような気持ちで向かうパン屋さん
好きな人に会いに行くような気持ちで向かうパン屋さんがある
仕事を終えた帰り道、なんとなく駅から自宅への正規ルートを外れて歩いた
そうして入り込んだ裏路地に
その店は小さな窓から灯りを溢して、ひっそりと佇んでいた
バー?雑貨屋?
夜の暗さも手伝って
外からは中の様子は伺えず
特に看板も出ていない
『一見さんお断り』の雰囲気に近寄れず
その日はただ店の前を通り過ぎた
ある休日の昼下がり
やはりあのお店が気になり
また裏路地を目指した
店の外に出された小さな椅子とテーブルが見えた。そこに腰掛けてパンとコーヒーを食べてる人
あの夜には椅子とテーブルがなかったな、と思いながらお店の扉を開ける
中は2、3人入ったらいっぱいになる程狭く
そして置いてあるパンの数もとても少なかった
クロワッサン、固そうなパン、と小さなタルト
クロワッサンを一つ取りレジに向かうと、レジ前に掲げられた小さなドリンクメニューが目に入った
冷たいカフェオレを注文する
このまま食べて行きたい事を伝えて、外の小さな椅子にわたしも腰掛けて待つ
間もなく店主がクロワッサンとカフェオレを運んで来てくれて、ごゆっくり。と微笑んでくれた
カフェオレを一口飲んで、クロワッサンを手に取る
クロワッサンは温かく、店主が温め直してくれたみたいだった
そうしてそのクロワッサンに齧り付いた 瞬間、
頭の中がスパークしたような衝撃を覚えた
クロワッサンの層を歯で噛み砕いた瞬間の
バリバリとした歯応え
噛むたびに溢れ出るバターの芳香に体中が満たされる
口の中に入っているクロワッサンを飲み込む前に次の一口へかぶりつく。大事に食べたいから落ち着けという理性の伝令を振り切って、脳が勝手に手と口を動かしてしまい、あっという間に食べてしまった
わたしはこの時
初めてクロワッサンを知った
それから度々そこのパン屋さんに会いに行く
店主が一人でされている小さなお店で
パンはいつも限られた数しか作られず
行っても既に完売で早々にお店を閉めていたり
店主のご都合でお休みしている事もしばしばある
そのような時は心からショックで
まるで振られた気持ちで一日を過ごす
今日はお店やってるかな?
パンはあるかな?と
お店に行く前から胸が高鳴る
裏路地を少し歩く
椅子とテーブルが見えてくる
この2つが出てるということは
今日はお店がやっている合図
そしたらもう、わたしは嬉しくなって
ちょっとだけ早歩きになる
扉を開ける瞬間にニヤつく顔を少し整えて
わたしは今日もそのパン屋さんに、会いに行く