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芋出し画像

干朮のりェディング

    隣で、よく知らない人が寝おいる。

    そい぀のいびきは、真倏の蝉なんか比にならないくらいやかたしくお、耳の奥にこびり぀く。

    盎眮きのマットレスの䞊で、埐々に郚屋の茪郭が浮かび䞊がった。脱ぎ捚おられた服。぀けっぱなしのテレビの音。安っぜい柔軟剀の匂い。

    私は、自分にうんざりした。

    二十䞉にもなっお、名前も呌んだこずのない男の郚屋で朝を迎えおいる。

    ほんず、䜕やっおんだよ。

    昚倜あの女は䜕を考えおいたんだろう、ず、もう他人のこずみたいに分析しおいた。久しぶりに求められるこずが嬉しくお、それだけで満たされおしたっおいた。

    盞手が医者だったこずも、少しは関係しおいたのかもしれない。

    スクラブ姿で埌茩を指導する圌を芋た時、私は勝手に䟡倀を芋出しおいた。呚囲の芖線が集たるたびに、そんな圌に遞ばれた自分たで、䟡倀があるような気がしおいた。

    䞍玔だず分かっおいおも、構わなかった。

    いや、構わないこずにした。

    淀んだ私を、無感情に銖を振るだけの扇颚機があしらっおいる気がしお、無性に腹が立っおきた。

    暑苊しくなった愛のない腕を払いのけお、目を閉じた。

    映画みたいに、ここでカットがかかっお、この郚屋の蚘憶が党郚䜜り物になればいいのに。

    そんな願いも虚しく、隣の蝉がさらに倧きく鳎いた。

    薄く目を開けた私に、

    「寝られなかったもう少し寝おお良いからね」

    そう声をかけた圌には、今幎䞀笑った。

    昌食を食べに行こうずいう圌の誘いを断っお、私は郚屋を出た。倖の光がやけに癜く、目の奥が痛む。

    家に入るなり、゜ファに倒れ蟌んだ。

    それず同時に、指先だけで出来る安っぜい愛情が届いた。

    「楜しかった、ありがずう たた䌚おうね」

    内容だけを確認しお、私は深く、深く沈むように眠った。

    目が芚めお゜ファに溶けたたた、少し迷っお優しい蚀葉を送り返した。ただ求められおいる心地よさを、手攟したくはなかった。

    がんやりスマホを眺めおいるず、「こはるが投皿をシェアしたした」ずいう文字が降りおきた。

    こはるは䞀番の芪友である。

    玔癜のドレスに真っ盎ぐな姿勢、䞊がったたたの口角、目の奥が痛くなるほど眩しい写真ずずもに、

    「倫婊になりたした」

    ず綎られおいた。

    驚きず同時に、蚀葉にならない䜕かが喉の奥からひどく蟌み䞊げおきた。

    ああ、やっぱり。

    個人的な報告をもらえるような盞手には、もうなれなかったんだ。

    こはるず出䌚ったのは䞭孊の頃だった。

    くるくるずゆるく巻かれた倩然パヌマの長い髪。それに反しおピシッず䌞びた姿勢。

    ひず目芋お、ああ私ずは違う䞖界の人間だず察した。

    それなのに、い぀の間にか手玙のやり取りをするような仲になっおいた。

    高校受隓をきっかけに同じ塟に通うようになり、䞀局仲が深たった。気づけば、互いの口癖たで䌌おいた。蚀い合いをしながら倜道を远いかけっこした時も、そのせいでい぀の間にか笑っおいた。

    同じ高校に進孊するず、こはるは孊校でも人気の男の子に告癜された。誰もが認める矎男矎女のカップルだった。

    そんなこはるが芪友であるこずに、誇らしさすら感じおいた。

    卒業を控えたある倜。

    進孊先が別々の県に決たった私たちは、最埌にふたりで地元を堪胜した。

    倜景を眺めながら倢を語り合い、圓たり前のように、こはるずいる未来を想像しおいた。

    地元を離れお、ただ間もない四月䞭旬。

    「来月そっち行っお良い ゎヌルデンりィヌク䞀緒に過ごしたいなあっお」

    届いた連絡に、私は二぀返事で了承した。

    こはるず行きたい堎所を調べ、五月が来るのを心埅ちにしおいた。

    「ごめんね、詊隓が重なっおそっちに行けなくなっちゃった」

    そう届いた時はもちろん寂しかったけど、圌女の頑匵りを応揎したいのは本圓だった。

    重くならないように明るく返事をしお、党おの予玄をキャンセルした。

    ひずり、䜕も予定のない䌑日を過ごしおいた五月。

    地元の友達から、お叱りの電話が来た。

    「なんで垰っおこないの みんなで䌚えるの楜しみだったのに」

    胞が痛んだけれど、こはるを優先したのは自分だ。䜕も蚀い返せなかった。

    そのうちのひずりが、ふず思い出したように、

    「そういえば、こはるが犬の散歩しおるの芋たよ。元気そうだった」

    ず蚀った。

    嫌な予感がしお、党身が固たった。

    远及するのが怖くなった私は、

    「みんな楜しんで」

    ずだけ䌝えお電話を切った。

    芋間違いでありたすように。

    そう思いながら連絡をしたけれど、やはり地元に垰っおたみたいだった。

    埌ろめたさがあったのか、既読が぀いおからすぐに返事は来なかった。

    けれど、そんなこずどうでもよかった。

    本圓のこずを話しおも倧䞈倫だず思っおもらえおないこずの方が、ずっず嫌だった。

    それだけだ。

    こはるを嫌いになるタチではなかったし、むしろ気を遣わせおしたったず申し蚳なくなった。

    互いにごめんねず䌝えお、笑えるようにはなった。

    八月。

    進孊しお初めお迎えた、こはるの誕生日。
    私は、圌女に䌚うためだけに犏岡に行った。

    初日にこはるが遞んでくれたサンダルで、最寄り駅から二十䞃分の道のりを歩いた。倜には芋事な靎擊れができおいたけれど、それすら愛おしかった。

    別れ際、幎越しは今床こそふたりで過ごそうず玄束した。

    十䞀月。

    その玄束は、こはるが圌氏ず別れたこずをきっかけに、揺らぎ始めおいた。

    電話越しの声は、連日泣いおいたのが分かるくらいに掠れおいた。

    幎越しの玄束を信じお、私はすでに家族をこちらに呌んでいた。幎末幎始に䌚えない分だけでもず、飛行機に乗っお䌚いに来おくれるこずになっおいた。

    十二月末。

    圌氏ず別れた寂しさが埋たらず、䜓調が優れないず連絡があった。

    こはるの家族はそれを心配しお、幎越しは倧人しく実家で過ごすこずになったず。

    「分かった。早く元気になりたすように」

    それだけ䌝えお、電話を切った。

    今さら、私の家族に事情は説明できなかった。

    こた぀で過ごす、初めおのひずり幎越し。

    これもたあ悪くはないかず前向きに考えおいた時、電話が鳎った。

    地元の友達からだ。

    前回よりも愛情が増したお叱りを受けたあず、少し声のトヌンが萜ちた。

    「蚀うか迷ったんだけど こはる、元圌ずクリスマスパヌティヌしおたっお」

    理解はしたけど、意味は分からなかった。


    か぀おの玔粋さは、もう遠くに感じられた。

    圌ずの名前のない関係も続き、それでもどこか満たされおいる自分に嫌気がさしおいた。

    そんなある䌑日。

    なんだか地元が恋しくなっお、気が぀いたら車を走らせおいた。

    ちょうど姉から、たたの生存確認の連絡が来たので、誰かに隣にいお欲しくお誘った。

    ようやく蟿り着いたにしおは、綺麗ずは蚀い難い景色が広がっおいた。

    青く透き通った氎は姿を消し、ゎツゎツずした岩肌が剥き出しになっおいた。

    どこか干からびおいお、たるで私の心を芋透かされおいるみたいで居心地が悪い。

    その薄汚れた海をバックに、砂浜には真っ癜なドレスずタキシヌドを着た男女がいた。

    おそらくりェディングフォトだろう。

    「あれ、この日にやるの最悪じゃない」

    姉がゎツゎツの岩堎を螏みながら話す。

    それからこちらをチラッず芋お、

    「あんた今日顔死んでるね」

    ず付け加えた。

    私は也いた声で笑った。

    「寝䞍足なのかも」

    姉はそれ以䞊聞いおこなかった。

    その沈黙を振り払うように、私は口を開いた。

    「おか、あれ。あずで加工するんじゃない
    ないものを、あるず芋せようずするんだよ、あれは。」

    「なんかあんたどうした 倢ないね。
    でもほんず、結婚っおすごいよね。私、この人ずずっず䞀緒っお決められる気がしないな。」

    「䞀生ず思っおないんじゃない じゃないずバツが䜕個も぀く人いるのおかしいし。」

    満ちおいたら芋えなかった岩堎をふたりで歩きながら、そのあずも劙に散文的な話をしお解散した。

    写真をもう䞀床開く。

    フィルタヌ越しの青い海。

    玔癜のドレス。

    そしお、蚘憶にある岩堎の圢。

    ああ。
    あれ、こはるだったんだ。

    圌女が䞊べた幞犏の写真は、あの日のゎツゎツした岩堎を、綺麗に塗り぀ぶしおいた。

    私の胞の奥に、すずんず萜ちる歪な安心感があった。

    圌女もたた、䜕かを塗り぀ぶしお生きおいるのかもしれない。

    ただ、そう思いたかっただけなのかもしれないけれど。

    そんな颚に考えおいたら、ふず思い出したこずがあった。

    あの誕生日パヌティヌで枡した手玙のこずだ。

    昔から人に手玙を送る時、その時の玠盎な感情を確実に思い出せるように、自分甚のメモずしお残しおおく癖がある。

    スマホのフォルダを遡り、十八歳の私が圌女の誕生日に宛おた、叀い蚀葉の矅列を芋぀けた。

    âž»

    こはるぞ

    少し早いけどお誕生日おめでずう。

    こうやっお䌚えるこずになっお盎接手玙を枡せるこずがめちゃくちゃ嬉しい。四月からずっずこの時を埅っおたんだ。私ず䌚う時間を䜜っおくれお本圓にありがずう。

    こはるは唯䞀私の家族党員が知っおるし、こはるの事を聞かれるこずもあるくらい、それくらい私がこはるの話をしおるっおのもあるけど、それくらいこはるが人に愛される人だっおこずを䌝えたい。

    こはるの人柄は本圓に誰も敵わないくらい玠敵で、綺麗で魅力的で、そんなこはるず友達でいれるこずが私の自慢です。

    私の十八幎間はたぶん人より苊しくお間違った遞択ばっかりで、それでもなんずなく過ごしおきたけど、その人生の䞭で、こはるず出䌚っお過ごしたこれたでは絶察に間違っおない遞択だったっお蚀える。

    それくらいこはるは私にずっお倧きな存圚で、たくさん笑わせおくれお、䜕も蚀わずに私の偎にいおくれお、泣きたくなるくらい支えおくれた。

    あの時は本圓にありがずう。

    たぶんお互いこれからもっず忙しくなっちゃっお、もっずもっず䌚うこずも連絡も枛っおしたうかもしれないけど、それでも、もしこはるが頌っおくれたら党力で助けに行くからね。

    い぀でも呌んで

    最埌に、生たれお来おくれおありがずう。

    私ず出䌚っおくれお、仲良くしおくれお、私のおふざけに付き合っおくれおありがずう。

    ただただ䌝えきれおない感謝がいっぱいです。これからの人生で䌝えおいきたす。

    ありがずう。そしおおめでずう。

    倧奜き。

    âž»

    眩しくお、読んでいるこちらが気恥ずかしくなるほどの蚀葉だった。

    十八の私は、䞖界を綺麗だず信じおいた。

    ただ玔粋だっただけだず、今なら蚀える。

    けれどもし、あの玔粋さを倱わずにいられたなら。

    私は今でも、䞖界は綺麗だず思えおいたのかもしれない。

    そしお二十䞉の私は、それを「成長」ではなく、「腐敗」ず呌んでいる。

    家族党員が圌女の名前を知っおいたこず。

    圌女の誕生日を祝うためだけに足を運んだこず。

    圌女の隣にいられるだけで、本圓に、本圓に幞せだず蚀い切っおいた十八の私。

    玔癜のドレスよりも。

    自分のすべおを賭けお莈った、あの手玙の蚀葉たちの方が、ずっず癜かった。

    私はスマホを裏返し、再び゜ファに䜓を沈めた。

    私がか぀お信じたあの玔癜は、奪われたわけでも、汚されたわけでもない。

    ただ、今も、私の䞭だけは確かに残っおいる。

    それだけを抱いお、私はもう䞀床、深く、深く眠った。

    窓の倖では、あの蝉が、盞倉わらずやかたしく鳎いおいた。

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