
ショートショート|モーゼッタイ、海にはいかない。
水着を流された。
辺りを見回しても見つからない。
なぜ私は紺色の水着を着てきてしまったのか。
海に同化して見分けがつかない。
そして私は一人だ。
友人とはぐれたとかではなく、
ひとり海水浴場に来た。
いろいろ選択肢を間違えた上、
絶体絶命のピンチを迎えている。
助けは来ない。
ビーチには楽しそうにはしゃぐ人々。
全裸で立ち尽くす私。
海の透明度から、腰の深さでは危うい。
胸より下の水深が、見えない国境として存在する。
イケメンや女性であれば、
周囲は気を使い助けてくれるだろう。
しかし、わがままボディを携えた私が、
このまま陸に上がれば、
モーゼの様になるだろう。
割れるのは海ではなく悲鳴だが。
しかし嘆いていても仕方がない。
後悔先に立たず。
私は無事にあの陸に立たなければならない。
まず思い付くのが、
客が帰るまでここに居ること。
一番無難な方法だろう。
しかし、ずっとここに居ては、
監視員に怪しまれる。
誤魔化すために泳いでも、
この体では、一日中は無理だ。
次に考えるのは、
ビーチから離れた所に上がり、
服を取りに行くという方法。
もちろん却下。
取りに行くまでに、
人ゴミの中を進まなければならない。
人をゴミと思えればいいが、
ゴミの目で見られるのは私だ。
そして私は閃く。
海藻を海パンにすれば助かると。
色もそう悪くないし、
遠目ならばバレないだろう。
私は早速行動に移る。
潜水し、海藻を探す。
ある訳がない。
ここは海水浴場だ。
もっと遠く、磯の方へ向かわなければ。
道中見つかるのは、少し小さかったり、
美味しいのか小魚が隙間に入り込みくすぐったい。
これでは私の前ビレが目立ってしまう。
さすがに探し疲れたので、
誰もいない磯に上がり休憩する。
休憩ついでに、
代わりになるものがないか、
辺りを見渡す。
これも私の日頃の行いの成果だろう。
そこにはベールのようになびく、
1枚の布切れ。
運命的な出会い。
どれだけ汚れていても、
私には純白の美しい花嫁に見える。
私はそれを腰に巻き、
ビーチへと戻る。
そして海から上がり、
何事も無かったかのように、
荷物へ向かう。
誰も私を見ていない。
誰も私を気にしていない。
楽しげに笑うカップル。
私の生還を喜んでくれているようだ。
しかし、突然の割れんばかりの悲鳴と、
爆心地のように広がる人ゴミ。
目を落とすと、
布は無く、紐だけが腰に残っている。
まるで国境線のように。
どうやら不法入国してしまったようだ。
裸の私は変質者という汚名を着せられた。
濡れ衣ならまだ良かったのに。
そして私の姿は、
今もなおネットの海で泳ぎ続けている。