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最近、ミコによく会うようになった。
ミコが初めて姿を現したのは、2年前の、夏ぐらいだっただろうか。私はいつものように学校をさぼって放浪していた。駅前のマックでMサイズのポテトをボソボソとつまんでいたとき、気がつくと彼女は隣にいた。

一瞬だけ、きゅっと内臓が縮んだ。
ん…久しぶりだね、ミコ。
ただ微笑んでくれた。ような気がした。足が宙ぶらりんになる窓際の席で、ひと時の間そうしていた。
実体もないような脚には力が入っていなくて、もも裏が冷たい座面のふちに引っかかって、うっ血しているような多少の不快感があった。一方、ミコの体には実体があった。私と同じようにハイスツールにぶら下がった彼女の脚は、気まぐれな振り子のように運動した。ただ、確実、すこやかに息をしていた。
彼女はその背の高い椅子から、ネコのような動きでするん、と床に着地した。何も言わず、伸びをしながら夕方の街に消えていった。








ふと思い出すことがある。
大抵夢の中で、あるいは日の角度によって、ふっと部屋に差し込む光によって。



現実のレールを今日も歩いて、家に着いた途端にどっと疲れがくる。それは本来、純粋な水のようなものである。水圧のように重くのしかかるが、その重さは案外心地いいと感じるものだと私は思っている。そのうちの一部は身体に浸透し、乾いた身体を守ってくれる。その間に、私たちは私たちの内側に、湧水を見つけること。そしてそれはきっと知らぬ間にそこに存在し、ある日ふと恩恵を受けていることに気づくのだろう。
しかしこの水は無自覚にあらゆる物質を吸収し、汚染されていく。その最たるものが「自己否定」である。川の水のように濁ったそれは、ゆっくり、じっとりと私たちの身体を蝕んでいく。目の前を覆う霧(フォグ)により、自身についてのあらゆることを認識できなくなった人間は、自身の内なる声に抵抗してもがくたび、底なし沼に沈んでゆく。




眠るのが怖い時期も、時々やってくる。
嫌われる夢。かといってこちらを突き放すことはせず、私にだけ分かるような鈍痛を身体に埋め込まれていく。  ●  捨てられる夢。去り際はかっこよくいられたって、その後は──  ●    存在価値を否定される夢。今ではそれを「間違った言葉」だと認識し、自分を栄養することができるようになってきた。それでも尚、傷は抉られる。



さて、肝心なそういう、全ての光を無くした「陰」には、大抵彼女は居ない。ミコは決まって「陽」に現れるのである。
私が創作の世界の扉を再び開いた時、ミコはとびきり嬉しそうに笑った。昔描いたしょうもない漫画、今じゃ笑うしかないような圧倒的エネルギーを放つ、1コマ1コマの愛すべきキャラ達の表情に、腹がよじれるほど笑った。これえぐすぎ、ねぇミコ…と振り返ると彼女は居なかったけど、不思議と孤独は感じなかった。
一人暮らしのシングルベットの枕元には安心の色が灯って、その夜は数ヶ月ぶりによく眠れた。


何がつらいの?
そうだね、わかんない
そうか、今は


今は進みたかったはずの道もやりたかったはずのことも、全てどうでもよく思えてくる。家を出ようとする時、心臓がドキドキしてくるの。
でも、たった1日だけでも自暴自棄になるともう消えてなくなりたくて、たまらない。
自暴自棄がね、行き着く先ってなんで生きてるんだろってことなんだよね、私の場合だけど。
こんな自分のことどうでもいいと思ってるはずなのに、生命力があるんだって、最後の最後で気付かされるんだ。私は動物だったんだって。気持ち悪い。こんな…存在で、一生という暇に悩みを創り出して、暗闇に守られるような真似をしているんだ。

息苦しいのも動悸も吐き気も、意味がわからない。まるで言葉で上手く表せないからとにかく泣いて気を引こうとする子供みたいだよ。恥ずかしい




  来た、来たよ。
あのね、対処出来るんだと思う。本当はね。でもずっとこれを乗り越えるのが怖いの。

乗り越えてどうするの?ミコ…そうしたら私は強い人間になるの?


「そんなことないよ、別に。ヤヨちゃんはヤヨちゃんのままだよ。昔も今も、これからもずっと」




随分と大人びたな、とミコの涼しげな横顔をぼんやりと見つめた。ミコは、私よりも正しいことを知っているのだろうか。きっとそうだ。そんな気がする。







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