
遠い普通。
駅に向かう途中、
じっとりと纏わりつくような湿気を感じた。
もう梅雨の始まりなのかもしれないと、
自分の中の季節と世界とのズレを認識する。
ホームで溢れかえる人の列に並ぶけれど、
私だけ場違いな気がして混雑する電車に乗ることすら申し訳なさを感じる。
しばらく電車に揺られ目的地に着く頃には、掌に爪の跡がくっきりと残っていた。
吊り革を握るのとは反対側の手は、
強く握りしめた指が拳の形で固まっていた。
車内で目にした太陽の下で生きていそうな人も、
月明かりの下でなんとか生きているような人も、
私にとってはどちらも遠い存在に見えて、
星明かりの下で息する私は居場所がなかった。
訳もなく目には涙が滲み、隠すように俯きながら病院へ急いだ。
先生の『体調はどうですか?』に、
メモを見ながら返答する。
昨夜の時点で鉛のように重かった身体を、
どうにか病院まで引きずって来たが、
重い頭は動いてくれず、
その場で文章を構築する余裕すら失っていた。
身体中に力が入り、上手く息が吸えない。
次の診察までにやるべき事を忘れないように、
震える手を必死に抑えながら先生の言葉を咀嚼していく。
あぁ…どうして私はこうなんだろう…
病院を後にした途端に溢れた涙を拭う力もなく、
地面だけを見ながら駅へと向かった。