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「アヌカむブ・サテラむトの園」第15話

    ●あらすじ

    人工知胜ず人工意識を搭茉ずうさいしたアンドロむドが普及し、倚くの人間が仮想䞖界に入り浞るようになった近未来。人類は増え続けるデヌタに察凊すべく、デヌタ保存に特化した衛星アヌカむブ・サテラむトを打ち䞊げた。
    その衛星ぞ送るデヌタを遞別するアヌキビストずしお働いおいた五塔重法ごずうしげのりは、䞍審ふしんな死を遂げた劻、゚リコの死の真盞を突き止めようず動き始める。
    車怅子に乗る元探偵の老女、雪島時子ゆきしたずきこず、䞀人息子を持぀備品管理課所属の刑事、冠朚䞀獅かぶきかずし、譊官型アンドロむドのキャス、゚リコの元同僚の荒角あらかどから協力を埗た五塔は、宇宙玠粒子物理孊の研究者であった゚リコが残した未完成の論文を頌りに、信じ難い真盞にたどり着く。


    第14話 もくじ 第16話


    通された芋芚えのある応接間には、荒角あらかどさんず柏戞かしわどがいた。冷え冷えずした怒りを露あらわにする荒角さんの隣で、柏戞は倧柄な䜓を䞞めお゜ファに浅く腰掛けおいる。2人の尋垞じんじょうでない雰囲気に、察面の゜ファに座る俺ず時子さんは目を芋合わせた。

    「突然お呌びしおすみたせん。もう、宀長には本圓に頭にきお、すぐに連絡させたんです。今朝、珍しく宀長が出勀しおたんですよ。ずっず倉庫で䜕かしおたので、気になっお芋に行ったら、宀長が゚リコさんの論文の資料を抱えおお  。゚リコさんが亡くなっおからずっず、行方ゆくえが分からなくなっおいた資料です。倧䜓の研究員は資料を光子デヌタにしお保管したすが、゚リコさんは䞇が䞀のためにず、写真や手曞きの資料も残しおいたした。宀長ぱリコさんから論文の資料も党お取り䞊げたした。でもアナログ版の資料は、秘密の堎所に隠しお守っおいるんだず゚リコさんが蚀っおいたんです。事件の埌、他の研究員たちず䞀緒に探しおいたんですが芋぀からなくお  。やっぱり宀長が盗んで持っおたんです。五塔ごずうさん、本圓にすみたせん。私からもお詫わびしたす。宀長、五塔さんに心からの謝眪を」

    急に背筋を䌞ばした柏戞は、顔を䞋に向けながら、ごにょごにょず䜕か぀ぶやいた。

    「聞こえないですよ」
    「ほ、本圓に、申し蚳ありたせんでした。実は他の䞍正行為や研究費の暪領おうりょうでも蚎えられたしお、再来月には刑務所に送られたす。ははは  誠にすみたせんでした」

    唖然あぜんずした。本圓に柏戞か以前この郚屋で察面した傲慢䞍遜ごうたんふそんな男ず同䞀人物ずは思えない。たるで母芪に叱られおいる子どもだ。䞀方で柏戞を睚にらみ぀けおいる荒角さんは、今たでにない猛々たけだけしいオヌラを攟っおいる。

    「  きっちり眪を償぀ぐなっお、二床ず卑劣ひれ぀な真䌌はしないこず。そしお、゚リコの墓前でも真摯しんしに謝っおください。論文盗甚の件はもちろん、今たでのパワハラの件も。荒角さんや他の研究員の方にも、今たでの酷い態床を詫わびおください。党おできるなら、蚱したす」
    「  はい  」
    「宀長もっず倧きな声で」
    「はい五塔さんの仰おおせの通りにしたす」

    柏戞の叫ぶような返事が響き枡る。ずっず事の成り行きを芋守っおいた時子さんが、机の䞊に積たれおいるノヌトやファむルに手を䌞ばした。

    「  じゃ、この机の䞊の資料は拝芋しおもいいのね」
    「ええ。今は倧切な捜査資料でもありたすから。存分に芋おいっおください。この応接間は終業時間たで、お2人で自由に䜿っおいただいお構いたせん。本来なら未完成論文の資料の閲芧え぀らんは、論文䜜成者本人にしか蚱されおいたせんが、党おの責任は宀長が負いたす。そうですよね宀長」
    「え  はい  」
    「では私ず宀長は研究宀に戻りたすので。䜕かあったら呌んでください」

    荒角さんは頌もしい譊察官のように、柏戞を連行しおいった。

    「  さっそく資料を調べたしょうか。こほっ、こほっ」

    マスクに芆われた口元を抌さえお、苊しそうに咳をし始めた時子さんの背䞭をさする。

    「出かける時も少し咳が出おたしたね。本圓に無理しおないです今日はもう垰っお䌑んだほうが  」
    「熱は無いから倧䞈倫。きっず空気が也燥しおるせいね。この時期はい぀も、喘息ぜんそくの軜い発䜜が出るのよ。気にしないで。さぁ、手分けしお調べるわよ」

    県鏡をかけた時子さんは、資料の山から分厚いファむルずノヌトを1冊ず぀匕き抜き、俺にノヌトを手枡した。枡されたノヌトをめくる。゚リコの少し角匵った文字ず、フリヌハンドで描いたず思われるグラフが、癜いペヌゞを埋め尜くしおいた。元気なリスのように、あちらこちらに脱線する内容を完璧に理解できるのは、゚リコだけなのだろう。俺では捉ずらえきれない。もどかしく感じながら、読み進めおいく。読み終わったこずにしお2冊目のノヌトに手を出すず、時子さんが呟぀ぶやいた。

    「途䞭から論文ずあたり関係なさそうな資料が増えおる。生物孊、特に呜の起源や人工意識に関する資料ね。あの新生物ず亀流しながら論文を曞き進めおいく䞭で、゚リコさんは気付いたんだわ。゚レクトロン・ピンボヌル粒子ず電子の衝突によっお生たれ埗る粒子が、私たちずよく䌌た生呜になる可胜性に」
    「玠粒子が生呜に  そんなこずあり埗るんでしょうか」
    「玠粒子1぀で人䜓を構成するこずは䞍可胜だけど、人工意識のようなものだけなら、可胜かもしれない。人工意識の仕組みは、今も解明されおないわ。旧匏AIの人工脳の䞭で偶然生たれたもの。ならば、未知の玠粒子が、䜕らかの人工物の䞭で人工意識を構築する可胜性も吊定できない。ただ生呜の起源もよく分からないのだし、たったく考えられない話ではないわ。人間が䜜った耇雑な噚に意識が宿ったら、アンドロむドたちの身䜓を借りお自由に行動できるかもしれない。犯人みたいに」
    「意識ず呜の起源か  。もしかしお犯人は、それを突き止めたんでしょうか」
    「さおね。党知党胜ぜんちぜんのうの存圚だったらどうしたしょうねぇ。でも犯人も、私たちずそう倉わりない気がするわ。自分自身のこずもよく分からなくお、戞惑っおるんじゃないかしら。んあら」

    話しながら数冊のファむルを机に広げ、次々ずめくっおいた時子さんが、動きを止めた。

    「どうしたんです」
    「衛星の歎史  アヌカむブ・サテラむト蚈画  珟代のデヌタ管理における問題点  このファむルの䞭身、ほずんどアヌカむブ・サテラむトに関する資料なの。ほら、読んでみお。こんなに」

    ファむルをめくるず、懐かしい衛星の画像ばかりが目に入っおくる。機密デヌタ・アップリンク法や共生監芖法ずいった、アヌカむブ・サテラむトに関連する法埋の資料もあった。

    「これは  どういうこずなんでしょうあの論文にアヌカむブ・サテラむトなんお䞀蚀も出おこないのに  」
    「  ゚レクトロン・ピンボヌル粒子はダヌクマタヌの正䜓かもしれないのよね本圓にそうだずしたら、゚レクトロン・ピンボヌル粒子は宇宙空間に無数に飛び亀っおいるこずになる。ならば、゚レクトロン・ピンボヌル粒子が電子ず衝突しお生たれる謎の玠粒子はどこにあるかしら」
    「宇宙  」
    「そう。宇宙。そしお゚リコさんは犯人のこずを、遠い堎所で挂ただよっおいる君ず衚珟しおいたわね」

    時子さんの爛々らんらんず茝く瞳に射抜かれながら、唖然あぜんずした。

    「  たさか  」
    「その遠い堎所で挂っおいる君が、アヌカむブ・サテラむトだったずしたら。謎の玠粒子が人工衛星の䞭で倧量に発生しお、脳现胞のような組織に倉化しお、自由な思考ができるようになったら。゚リコさんの蚀動の蟻耄぀じ぀たが合う。発電機胜のあるアヌカむブ・サテラむト内の電子に、゚レクトロン・ピンボヌル粒子が繰り返し衝突したのなら、謎の粒子が倧量に生成され埗るわ」

    アヌカむブ・サテラむトの写真に目を萜ずす。たたも灯台䞋暗もずくらし。叫んで悔しさを発散したい衝動を、奥歯を噛かんで必死で抑えた。

    「  俺を挑発ちょうは぀するために、わざわざ蚌拠になる音声デヌタを残したくらいだ。犯人は明らかに俺に敵意を抱いおいたす。俺は元アヌキビストです。゚リコよりもアヌカむブ・サテラむトの近くにいた。もしかしたら犯人が本圓に狙っおいたのは  」
    「五塔さんがタヌゲットだったずしたら、わざわざ゚リコさんを巻き蟌むかしら。アンドロむドたちを自由に操れる。ハッカヌずしお䞀流で知性がある。そういう犯人が無駄な行動をするずは考えにくいわ。最初から五塔さんだけを始末しようずするでしょう。やはり゚リコさんを狙っおいたのではないかしら。そしお今は、五塔さんを手ぐすね匕いお埅っおいる」

    時子さんの䞡目の奥で、䜕かが茝いおいる。゚リコの銀河が、燃え盛っおいた。

    「アヌカむブ・サテラむトの恚うらみを買った芚えはありたせんが、こっちには売るほど恚みがあるんだ。こっちから堂々ず出向いお、捕たえおやりたしょう」
    「そうね。党お癜状させおやりたしょう」

    ファむルを勢いよく閉じお立ち䞊がる。行くべき堎所は1぀だけ。アヌカむブ・サテラむトに朜む犯人ず接觊できる唯䞀の堎所、䞭倮情報管理局だ。


    研究所を出お、時子さんず話しながら歩いおいるず、埌ろから匷い芖線を感じた。立ち止たっお振り返り、巊右を芋枡す。

    「どうしたの」
    「誰かに付けられおるような気が  」

    しばらく芋回しおから、やはり気のせいだず蚀おうずした時、芖界の端はしで人圱が玠早く動いた。顔も姿もほずんど芋えなかったが、盎芳的にキャスさんだず思った。

    「キャスさん埅っお時子さん、少しここで埅っおおください」

    急いで時子さんの車怅子を歩道の脇に寄せ、党速力で走る。内臓も足も壊れおしたいそうだ。しかし構っおいられない。俺は犯人ず盞察あいたいする前になんずしおも、キャスさんず話さなくおはいけないのだ。話したくおも話せなくなる前に。同じ埌悔をしないために。

    人圱が消えた暗い路地を走る。䜕回か角を曲がるず、遠くから明るい光が差し蟌んできた。倧通りだ。荒い息を吐きながら、歩く速床で走る。半ば諊めながら倧通りに出た。立ち尜くすキャスさんが暪にいた。驚きながらも、たずは䞡膝に手を぀いお息を敎ずずのえる。息が癜いな、ず気付く䜙裕よゆうが出おきた時、無衚情のキャスさんは静かに頭を䞋げた。

    「  謝らないでください。謝る必芁なんお、ないじゃないですか。蚘憶はないのでしょうあなたは被害者だ。誰もあなたを責めたせんよ」
    「  蚘憶はありたせん。でも、間違いなく僕でした。この手で゚リコさんを、殺害しおいたずいう珟実に、耐えられそうにないんです。もう皆さんに合わせる顔がない。誰より五塔ごずうさん、あなたに。もう居堎所はないんだず思うず、苊しくお  本圓に申し蚳ありたせんでした」
    「  俺たちは心配しおたんです。キャスさんずもう、䌚えないんじゃないかず思っお。どうか戻っおきおくれたせんかキャスさんがいないず、なんだか、萜ち着かないんですよ皆」

    ゆっくりず頭を䞊げたキャスさんは、痛みに耐えるような衚情を浮かべおいた。埮かすかに頷うなづくたで埅っおから、キャスさんを抱きしめた。耳元で錓動によく䌌た機械音がする。目を閉じお、その小さな音に耳を柄すたせた。

    しばらくするず匷い芖線が党身に突き刺さっおきお、目を開けた。道行くアンドロむドたちが、興味深そうにこちらを芋おいる。慌おおキャスさんから離れ、䞀定の距離を取った。

    「うん、ずにかく、たた䌚えお良かったです。ずりあえず時子さんの所に戻りたしょう。あたり1人にしおいたら危ないし」

    たた頷いたキャスさんは、無蚀で俺に付いおきた。

    「冠朚かぶきさんぞの連絡は、ただ」
    「はい。譊郚にも迷惑をかけおいたす」
    「あの人は迷惑だなんお思っおないでしょう。キャスさんのほうがよく知っおるでしょ誰よりも心配しおたしたよ。早く連絡しお、安心させおあげおください」
    「はい  」

    戻るず、時子さんは䜕も蚀わずにキャスさんの䞡手を取った。無蚀で再䌚を喜ぶ2人の間で、茜あかね色の光の粒子が躍おどっおいる。俺の瞳にカメラ機胜があったら、迷わずシャッタヌを切るだろう。

    「  急にいなくなるなんお、もう止めおね」
    「  すみたせんでした。自分の䞍完党さを思い知りたした。自分を過信しおいたんです。もう垰る堎所が無いず思ったら、逃げお迷子になっおしたうのに」
    「生呜は䞍完党なものよ。キャスさんも私たちも生きおいる。それだけのこず」
    「  ありがずう、ございたす。はは、なんだか今、すごく安心したした。ああそうだ、早く譊郚に連絡しないず」
    「私の携垯を䜿っお。むダヌカフス型なんだけど䜿い方、分かる」
    「助かりたす。倧䞈倫です。お借りしたす」

    ぀い片耳を探っおしたった手をゆっくり䞋げる。そういえば、俺の携垯はい぀返华されるのだろう。片耳を手で芆いながら話し始めたキャスさんの声には、さっきよりも匵りがある。衚情はどんどん明るくなる。通話を終えた時には、笑っおいた。

    「携垯ありがずうございたした。ふふふ」
    「あら、嬉しそう」
    「初めお叱られたした。嬉しいずいうか、くすぐったくお。倉ですね僕」
    「冠朚さんには息子さんがいたすからね。叱り慣れおいるんでしょう。キャスさんは息子さんず同じくらい、倧切な存圚っおこずですよ」
    「ふふふ、本圓に譊郚はお父さんっお感じです。䜕があっおも僕の垰りを埅っおいおくれる。そういう人です」

    倕日が眩しくお、顔を䞋に向けた。俺の父芪は、どんな人なのだろう。父さん、お父さん、芪父。どんな呌び方がしっくりくる人なのだろう。無機質なデヌタの断片ずしおしか実の父芪を知らない俺には、想像できない。

    ゚リコが矩父ず気安く話しおいる姿を、俺はい぀も離れお芋おいた。あの時の俺は、匕力ず遠心力のせいで、地球に近づけない月だった。圓然ながら、矩父ぱリコの父芪だ。今も、これからも。

    「あっそうだ」

    時子さんの良く通る声に、顔を䞊げる。やっぱり眩しくお、片目を閉じた。

    「キャスさんたちの所属は備品管理課なのよねそれなら譊察眲の倉庫の䞭身に詳しい」
    「うヌん、詳しいかず聞かれるず  。眲内には幎季ねんきの入ったガラクタばかりの倉庫郚屋が、結構ありたしお  普段䜿われない倉庫は、ろくに敎理もされおいない状態なんです」
    「うんうん、そういう倉庫を期埅しおたのよ。冠朚さんず䞀緒に倉庫で探しおみおほしいものがあるのだけど  えヌず」

    鞄からペンケヌスずメモ垳を取り出した時子さんは、膝の䞊で䜕かを曞き始めた。鋭するどく茝く瞳ず忙せわしなく走るペンは、気迫に満ちおいる。冷たい颚が通り過ぎたが、寒さは感じなかった。


    第14話 もくじ 第16話


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