
キッチン
商業施設の中庭でベンチに座って、吉本ばななさんのキッチンを読む
今日は霧雨が降っているから、本は湿気を吸い込んで、独特の手触りに変わる、そのうち私も雨を吸い込んで、独特の私になる、多分水色で、多分半透明で、そうやっているうちに本と私の境目は無くなって、ふわりと宙に浮かぶ、雨で濡れた地面や、街を見下ろしながら、ただ、どこかで、大好きな人にまた会えたらいいなと思う
その人の今がどうとか、過去がどうとか、もうどうでもいいよって思う、どうでもよくないけど、今だけ、どうでもいいよって抱きしめてあげられたらいいなって思う、その瞬間だけ大丈夫ってきらめいて、そのお守りで、どうでもよくない地続きの自分を少しだけ生きていけたらいいなって思う
あなたのことが好きだよ、私のことが好きじゃなくても、私のことを忘れていても、今懸命に生きて、笑って、泣いて、どろどろでもぐちゃぐちゃでもきらきら輝いているあなたが大好きだよ
だから私も私のキッチンで、毎日をちゃんと作ろうと思う、きゅうりや、トマトや、たまごや、インスタントラーメンや、コーヒーや、お惣菜の日々を、作って、しがみついて、離さないで離さないで、生きていくということを離さないでいようと思う