
ごりちゃんとご近所さん (#創作大賞2026)
今日も良い天気でございます。
きくちゃんはちょっと眠たそう。
最近くだらないことやちょっとした悩み事を、こそこそタブレットに話しかけているんです。
すると、なんだか知りませんが、画面に文字がトタタタっと大量に出てきて、それをふむふむと真剣にきくちゃんが読むんです。それがAIだとか。
きくちゃんはあまり字が読めないわたしに、何とお返事が返ってきたのかゆっくり読んでくれるので、きくちゃんの気持ちが少し知ることができるのです。
きくちゃんが朝起きて、ご飯を食べて、それから「いってきます」を元気に言ってくれる毎日ですが、そんな胸の中にもいろんな悩みがあるのですね。
わたしは、そんなAIに頼るような悩みもなくて、ゴリラでよかったって思います。
わたしのもっぱらの話し相手は、通りすがりのお客さんたちです。
猫やら、犬やら、鳥やら、ほかにもなんかもう、もりだくさんで。
みなさんいろんなところにお住まいなものですから、いろんなお話を聞くことができます。
それに、かわいいかおをしてらっしゃいますから、うちの家族にもさわがれることもなく、ふらっとやってきては、勝手にくつろいでいます。
昔は「しっし」と追い払うのが礼儀だったようですけどね、最近はそういうごあいさつもなくなりました。
その中に、おしゃべりの九官鳥さんがいらっしゃるんですが、彼女は自分のおうちのご主人様の目を盗んで時々(というか、ほとんど毎日)遊びにきてくださるんですよ。
まあ、これが物まねも上手だし、よくしゃべるとことをやめられないというか、プログラミングされているというか・・・。
こればかりはしょうがないってこと、あなたの身近にもよくあるでしょう。
この九官鳥さん、どんな話をするかというと、九官鳥さんのおうちには毎朝目玉焼きばかり食べるお父さんと娘さんがいらっしゃるんですって。
ある日、お母さんが卵を買い忘れて、朝ごはんに目玉焼きが出せない日がありました。
そしたら、そのお父さんと娘さんは、ものすごくだだをこねだしたんですって。
「どうして朝に目玉焼きが出てこない日があるなんて」と悲しい顔するお父さん。
「目玉焼きを食べないと、学校にもいけないし、一日だいなしだよ!」と娘さん。
困ったお母さんは、急いでお店に卵を買いに出かけました。
そして、汗だくになって帰ってきてから、また目玉焼きを作り、2人のいる食卓に出しました。
食べ終わったお父さんと娘さんは、ありがとうもなんにもなく、いつもどおりの顔して出かけて行ったんですって。
なんだかぐったりとしてほっとしたお母さんは、そのあと急に九官鳥さんに話しだして、ずっと止まらなかったそう。たとえば、そんなに目玉焼きが好きなら、ニワトリ飼えばいいでしょっ、とかね。
だから、わたし九官鳥さんに言ってあげたのよ。
「あなた、たまごをうむ係でなくてよかったわね」って。
そしたら急に汗かいて、飛んで逃げかえってしまったわ。
何かいやなことを言ってしまったのね、わたし。
悪いことしちゃったみたいで、少し落ち込んじゃいました。
それから今日は、きくちゃんが学校から帰ってきてから、二人でお買い物に出かけました。
100円ショップが大好きで、わたしがいつも行くお店にはとても背の高い、なんかちょっと話しかけにくい店員さんがいらっしゃいます。
彼は、大きなドクロのお顔イラストがかかれた真っ黒なTシャツを着て、ズボンはぴっちぴちに足にはりついているものを履いていて、見た目は本当棒ような姿なんです。けれど、靴にはサイのツノのようなものが生えていてよく目立つので、店番にはうってつけなんですよ。
わたしは「人間は「ようふく」をみにつけている」って、きくちゃんのお母さんに教わりましたから、今はなんにも変だなんて思いません。
でも、足のツノはちょっと・・・。
わたし、小さいころにサイに追いかけられたことがありまして、あの足だけがちょっと怖いんです。
前にきくちゃんと来た時に、あれはただ靴にくっついているだけだからさされたりしないよ、だいじょうぶって教えてもらいました。
本当に人間のみなさんは、「ようふく」をみにつけるなんて、ふべんでかわいそうって思っちゃうんですよね。
だって、わたしいつも毛皮でしょ。雨だってはじいちゃうし、着替えなくてもきれいですから。

それでね、そこで何がほしかったかというと、夏も近くなったので、緑色の蚊取り線香がほしかったんです。
けれど、すぐに見つからなくって、いつも見かける靴がツノのお兄さんが近くにいらっしゃったので、はじめて声をかけました。
彼は目当ての棚に案内してくれたんですけど、そこは空っぽで。
お兄さんも「そこになかったら、ないですね」っておっしゃってました。
まあ、しょうがないわ、こんな日もあるわね、と思ってしばらくお店の中を見てから帰ろうと思いました。
きくちゃんには、付き合ってもらったお礼に、大好きなぷにぷにシールを1枚買いました。
そして、お店を出ようと思った時、ツノのお兄さんが、今度は別のお客さんにすごく怒られてました。
「これ、壊れてるんですけど」ってお客さんが言うと、
お兄さんが悲しそうな目をして「すいません。新しいのに取り替えます。」って謝っていたわ。
お店の店員さんて大変なお仕事ね、ほんとに。
夕方ご飯の仕度をしていたら、塀の外に偶然あのお兄さんが歩いていました。
背が高いので、塀の上を首だけがゆらゆらと動くんです。
ちょっとゆうれいみたいだったわ。
こんな近所に住んでいると思わなかったから、わたしなんだかちょっとうれしくなって、外に出て、塀越しに思い切って声をかけてみたんです。
「今日は大変な一日でしたね」
「そうですね。商品が壊れていたので、怒られちゃいました。僕は壊れてたら直して使っちゃうほうなんで。でも、お店だと壊れててもよくない?とは言えなくて。」
「そうね、100円出すなら、わたしもきれいなものが欲しいわ。」
「そうですよね、普通はね。」
と言って、にやりと笑った顔がとても素敵で、ごりらなのにちょっとぽーっとしちゃいました。
いけないわ、わたしったら。
ご飯の時にきくちゃんにそのことをお話したら、
「近くに住んでるの、知ってるよ。」
って。
お兄さんは実は歌も上手で、屋根の上にのぼって、時々ギターを弾いてうたったりしているんですって。
「今日は夜のお空が晴れているから、いるかもね」なんて言ってました。
どうも、お兄さんときくちゃんは、秘密のなかまだったようです。
今日のわたしはお風呂デー。
ゆっくり湯船につかって、小さな窓から空をみていました。
星がとてもきれいな夜でして、明日は晴れだ~なんて思っていました。
すると、いつもなら気づかないのに、なんだか遠くからうたごえが聞こえてきました。
実はそのころ、きくちゃんはというと、今日買った蚊取り線香を持って、そのお兄さんのところへ、こっそり遊びに行っていました。
屋根の上でお兄さんは、「どうぞ」とさっと手をさしのべて、きくちゃんを隣に座らせます。
「今日は何をうたっていたの?」と聞くと、
「今日こわれたものたちへの感謝の歌だよ」ってお兄さん。
「それって、わたしたちが使っても使わなくても、こわれちゃったものに感謝しなきゃいけないの?」と聞くと、
「そうだね。こわれたものは何もなしとげられなかったけど、僕はほめてあげたいな、と思って。」とお兄さん。
「ふーん」と、わかったようなわからないような、きくちゃんの顔。
それから、じっくり歌を聞かせてもらいました。
「いつかデビューしたいね」なんてお話しながら、二人で「ほしのうた」もうたったりして。
二人はほんとうに楽しそうに過ごしました。
わたしはというと、歌もお湯も、あまりに気もちよすぎて、すっかりゆぶねの中でねてしまいました。それで、お父さんが心配して、わざわざ起こしにきてくれましたよ。
遠くからひびく歌ごえも、いつの間にかどこかに行ってしまって、きくちゃんも何もなかったかのようにお部屋でタブレットとお話していました。
それではこのあたりまでにいたしましょう。
今日も平和な一日でしたね。