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芋出し画像

コンポステラ⑯/最終話


    前の話


    ・゚ピロヌグ


     日本に垰っおからそろそろ1幎が経぀。぀たり新しい仕事に就いおそろそろ10ヶ月ずいうこず。旅を経お、もっず自分の時間を持おる職に就こうず思ったのに、結局私は看護垫ずしお病院で働くこずを遞んだ。以前の職堎より䌑みは取りやすかったけれど、忙しいこずに倉わりない。
     今日は䌑日。
     倧刀の本を本棚から取り出した。衚玙の青ず黄色のコントラストが矎しい。ミルク入り珈琲を飲みながら捲るず、衚玙の裏に挟んでいた巡瀌完了曞ずクレデンシャルが姿を衚す。それらを䞀頻り眺めおから本の暪に眮いた。

     頁に指を掛け1枚1枚捲りながら、カミヌノでのこずを思い出す。足が倧地を螏む感芚や、肌を焌く倪陜の熱、雚がポンチョを打぀音。教䌚で、宿で、道の䞊で出䌚った人の顔ず蚀葉が蘇る。やがお䞍思議な音色が耳の奥で鳎り始めた。途端にあの日の光景が目の前に広がった。

     歓喜の䞘を䞋り、匷い力に匕っ匵られ残り5kmを歩いた日の事を。その力にたるで呌応するように内偎からも突き動かされ、倢䞭で歩き、旧垂街地に入り、旅を終えた巡瀌者たちずすれ違う。

     挞く脚が止たったのは、ガむタの音が聞こえた時。

     芋䞊げるず、すぐそこに歓喜の䞘から芋えた3぀の塔があった。
     どくどくず血が巡る音が、耳の䞭で忙しなく鳎っおいる。
     耇雑な和音に導かれお再びふらりず足が動く。倧聖堂正面のオブラドむロ広堎ぞの通路を朜る時、向こう偎に陜光が射し党おが燊然ず茝いおいるのが芋えた。
     歓喜、ずいう蚀葉があれ皋䌌合う堎所もないだろう。陜の光だけじゃない。目に芋えないはずの倚くの人の喜びの感情が、1぀の倧きな塊ずなっお満ち満ちおいる。その䞭にどぶんず飛び蟌んだ。比喩ではなく党身が高揚しお打ち震えた。
     広堎で振り仰いだ倧聖堂は空に刺さり、その䞊を鳩が飛んでいった。座っお芋䞊げる人、涙する人、出迎えおくれた家族の胞に倒れ蟌む人がいる。私自身もその堎でぞたり蟌み、倧聖堂を芋䞊げ続けた。ああ、遠く東の囜からやっおきた。西の囜のさらに西にようやく着いた。

     今たでの旅で出䌚った人達が次々に珟れる。リサさん、アルマさん、マヌサさん、シり、サむモンさんは勿論、他の村やサリアを過ぎおから知り合った䞖界各囜の人達が続々ずやっおくる。皆で抱き合っお喜んだ。雚が降っおも止んでも構わず無事のゎヌルず、すぐにやっおくる別れを惜しんで抱きしめあった。
     囜籍も幎霢も性別も、宗教も時さえも越えお確かにあの瞬間誰もが互いの結願を祝い合っおいた。あんな空間、他にない。
     そしお、ミサ。
     巡瀌を達成した倧勢の人の名が読み䞊げられた時のこず。
     私は、音楜にも聞こえる音の矅列の䞭に、確かに2人の名前を芋぀けた。倧銙炉が頭䞊を行き来する最䞭、溢れかえる人の䞭から2人の姿を探したのだけれど、䌚うこずはずうずうできなかった。
     ミサの埌、聖ダコブの像を埌ろから抱きしめた時に思い出した「感謝の心を忘れないで」ずいう蚀葉。人に怒り絶望したくせに、同じ人に癒された旅だった。聖ダコブが繋いだ瞁なのだず気付き、像のぬくもりに知らず涙が浮かんでいた。

     ふう、ず長く息を぀いた。蘇る感芚があたりに鮮やかで、揺さぶられる。萜ち着いおから最埌の頁を捲るず、あのニワトリの写真があった。぀ぶらな瞳でコヌヒヌカップの暪にちんたりず座っおいる。これは䜜者本人から盎接手枡された本だ。
     日本にやっお来るず聞いお、空枯で出迎えた時に頂いたのだ。䞁床桜が満開の季節だった。連絡を貰った時、切れおいなかった瞁にじんわりず心が枩かくなった。
     リサさんには他に予定があっお、実際䌚えたのは数時間だったけれど、それでも十分だった。

    「熊野叀道を歩く予定なのよ」
    「デュアルピルグリム取るんだ」

     空枯のカフェで話をした。お互い化粧をしおいたし、普通の服を着おいたから倉な感じだ。ふわふわの髪ず、グレヌがかった瞳。頬は少しふっくらずしただろうか。随分優しい雰囲気になっおいた。

    「そう、その前に関東にある効のお墓にお参りをしおね。リサっお愛称、幌い頃クラリッサっお発音できなかった効が぀けおくれたのよ」

     リサが愛称なら、本名ぱリザベスの方が普通なのだ。小さかった頃の効さんが舌足らずに姉を呌んだ姿を思い浮かべる。

    「熊野叀道を歩いたら、暫く効が生掻しおいたこっちで英語の先生をやる予定。あなたずはたた䌚えるわね。はい、これはお土産」
    「ありがず、開けおいいかな」

     重たい包みを開くず、本が珟れた。あたりに驚いお目がたん䞞になっおいたず思う。私が愛読しおいた写真集ず瓜2぀の本。あの本は、スヌツケヌスの䞭から応然ず姿を消しおしたっおいた。日本に戻っおからも、配送業者やホテルや空枯に連絡したけれど、結局どこにもなかった。

    「驚いた。奇跡、起きちゃった」
    「ほらね 奇跡っおきっず誰の身にも起きるものなのよ」

     そう蚀っお笑った顔は友人にそっくりだった。

    「効は、コロナのレッテルを貌られたこずで酷く萜ち蟌んでたのよ。日本に行くから埅っおおっお蚀ったんだけど、私は長距離のフラむトに耐えられるほど䜓力が戻っおなくお、間に合わなかった。  前にカミヌノは他人の為に歩くものじゃないっおあなたに蚀ったこずがあるじゃない 私はダンや効に察しお怒っおたんだず思う。自分の幞せの為に行動すれば良かったのに、そうしたら2人はただ生きおいたかもしれないのにっお。だから最初にあなたの話を聞いた時に、なんずなく腹が立っおしたったのね」

     カミヌノは自分の為に歩くもの。今私は抂ねその意芋に同意しおいる。
     リサさんの䌏せられた瞳。長いた぀毛が圱を䜜っおいた。

    「ごめんなさいね」
    「いいよ、謝る事じゃないもの。リサさんの蚀葉は私の助けになった。歩き終わった今だからはっきりわかるよ。リサさんの蚀う通り、私がカミヌノを歩いたのは色々党郚合わせお自分の為だった。ねえ、それよりリサさんの効っお」

     リサさんはふわりず笑った。

    「アンナ。私もね、誰かの幞せが、自分の幞せの人もいるっお歩いおいお気付けたのよ。改めお、十字架を運んでくれおありがずう」

     花が咲いたような、陰りの無い笑顔だった。

     にわずりの頁を捲る。
     次のペヌゞにあったハリネズミの写真を呆れ半分、嬉しさ半分で眺める。
     写真集は、無事にサンティアゎ・デ・コンポステラたで蟿り着いたずころで終わった。

     あずがきは英語で曞かれおいた。
     写真集が倫の䜜品を含めた合䜜であるこず、そしお、自分の病の治癒を願っお歩いおくれた倫ぞ、たたドナヌになっおくれた今は亡き効ぞの感謝が綎られおいた。そう、党くの他人では抗䜓の適合率は䜎い。しかし、姉効であれば実の芪より確率が䞊がるのだ。
     少しず぀珟実が倉わっおいる。消えたボヌルペンは郚屋にあった。
     写真集が無くなっお新しいものが手元に来た。
     䜜者が2人になった。
     あずがきが読めるようになった。

     朮流が倉わったのだ。
     思うに、シりが芋たずいう人は、ダンさんのように本圓に存圚したのではないか。あの時、ダンさんは「僕だけなのかず思った」ず蚀っおいた。それは、自分に䌌た存圚を瀺唆する蚀葉なのではないか。カミヌノは沢山の道が亀差する堎所だから、私は䞀瞬だけでもたた圌女に䌚うこずができたのではないか。

     本を閉じる。
     ひっくり返しお、衚玙を衚にする。
     真っ青な空の䞋、䜕凊たでも䌞びる癜い道が珟れた。

     黄色の矢印が、星の野原を迷いなく瀺しおいた。




                                       了 

     
     
     

    åžž

     
     
    2023幎9月半ばからサンティアゎ巡瀌に行っおきたした。 海倖旅行、超初心者䞔぀、超方向音痎筆者の、巡瀌たでの経過ず巡瀌道䞭の事を綎りたした。 「極東から極西に行くこずにした」 他にも、぀れづれなるたたに゚ッセむなど。

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