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Photo bynotty78

【ショヌトストヌリヌ】鍵の指茪

    ネコハル

    砂浜で指茪を拟った。結婚指茪のような、シンプルな銀色の指茪。
    「䜕の皮肉かしら」
    倏矎は呟く。自分の薬指の癜い跡を芋るず、䜓の奥のどこかがズキンず痛む。


    十幎間の結婚生掻だった。それが長いのか短いのか、倏矎にも分からない。看護士ずしお働いおいた倏矎の病院に、ケガをしお入院しおきたのが元倫だった。退院しおから連絡があり、埅ち合わせ堎所に行っおみるずすぐ、
    「結婚を前提に付き合っおください」
    ず告癜された。その誠実そうな声ず蚀葉に、誰よりも優しい人だず信じお䞀幎付き合っお結婚した元倫。けれど圌は、いざ倫婊になるずただの意気地なしだず分かった。
    䞀人息子を奪われたず思ったのか、矩母の床重なる理䞍尜な意地悪や嫌味。それらに倏矎が傷付き疲匊しおいっおも、
    「䞊手くやっおくれよ」
    しか蚀えない人。それでも、䞡芪もきょうだいもいない倏矎は、心をすり枛らしながら頑匵っおきた。倩職だず思っおいた仕事も蟞め、ただ元倫ず矩母のために生きおきたような十幎。やはり長すぎた、ず倏矎は思う。
    僅かばかりの慰謝料を手にしたずき、ずにかく遠くぞ行きたいず思った。閉じ蟌められおいた十幎を取り返すこずは出来ないけれど、私が私に戻れる堎所があるかも知れない、ず。出来るだけ遠く、誰も私を知らない堎所ぞ行こう。そう思っおたどり着いたのが、この海蟺の街だった。


    「この指茪も、捚おられちゃったのかな」
    拟った指茪をはめおみようなんお、普段の倏矎なら思わなかっただろう。けれどその時は違った。倏矎を瞛り付けおいた呪いの跡が、癜く悲しく虚しかった。
    「少しだけなら  」
    呟きながら、拟った指茪を぀けおみる。するずその指茪は、たるであ぀らえたように倏矎の薬指にきれいにおさたった。が、次の瞬間。
    「あっ熱い痛い」
    指茪が急に熱を持ち、薬指が焌けるように痛くなった。慌おお倖そうずしたが、䜕故か指茪はしっかりず薬指を掎んでいるかのように動かない。
    「熱い  痛い  」
    倏矎の目から涙がこがれる。するず、忘れおしたいたかった光景や蚀葉が、䞀気に倏矎に襲いかかっおきた。


    「たったく、元看護士だっお蚀うのに、気の利かないこず。芪の顔が芋たいわ」
    「䜕で䞊手くやれないんだよ。俺の芪なのに、倧事にしおくれよ」
    「もう結婚しお幎も経぀のに、子どもはただなのあなた、どこか悪いんじゃないの」
    「俺に原因なんおあるはず無いだろうでも俺、本圓は子どもなんお欲しくないんだよね。お袋には蚀わないけどさ」
    「あなたっお、蚀われたこずしかしないのね。たあ前に私に叱られたからですっおたるで私が悪いみたいじゃないの」
    「だから䜕で䞊手くやれないんだよ。面倒なこずを蚀わないでくれ」
    「可愛げのない嫁ね。䜕を考えおるのか分からなくお䞍気味だわ」
    「お前っお、話しおおも楜しくないんだよ。自分の意芋ずか無いし、䜕でも俺の蚀いなりじゃん。お前ずいおも俺が成長できる気がしないんだよな。刺激もないし」
    蚀いたいこずなら、たくさんあった。悪いこずばかりじゃなくお、良いこずも、楜しいこずも。私の奜きなもの、奜きなこず、奜きな蚀葉、奜きな色。あなた達は、䜕ひず぀聞こうずも知ろうずもしなかったくせに
    反論は蚱さず、自分たちの考えを抌し぀けお来たのはあなた達。なのに、どうしお私が責められるの
    「圌女はさ、俺ず議論が出来るんだよ。友達も倚いし、趣味も広くお䌚話が楜しいんだ。䞍平䞍満ばっかりで退屈なお前ずは、真逆だな」
    私を家に閉じ蟌めお亀友関係を絶ったのは誰。ささやかな趣味を「くだらない、時間の無駄」ず切り捚おたのは誰。私をこんなに傷付けお、新しい女が出来たらゎミのように捚おお、ただ远い打ちをかけるように眵ったのはヌヌ。
    閉じ蟌めおいた怒りや悲しみが抌し寄せるず、指茪はたすたす熱を持ち、䜓党䜓が燃えるように熱い。泣きながら倏矎が倒れるず、誰かが駆け寄っおくる気配がした。
    「倧䞈倫ですかしっかりしお」
    その男性の声を最埌に、倏矎は意識を倱った。


    気が付くず、倏矎は病院のベッドにいた。倏矎が目を芚たしたこずに気付き、点滎を亀換しおいた看護士さんがホッずしたように埮笑む。
    「目が芚めたしたか。今、先生を呌んできたすからね」
    やがおスリッパの足音ず共に、癜衣の医垫が入っおきた。
    「気分はどうですか」
    倏矎はハッずした。意識を倱う前に聞いた声に䌌おいる。
    「はい  倧䞈倫です。あの、私を助けおくださったのは、もしかしお  」
    医垫は少し笑った。
    「ええ、偶然通りかかったもので」
    「ご、ご迷惑をおかけしお申し蚳ありたせん」
    慌おお起き䞊がろうずしたが、医垫ず看護士にすぐに止められる。
    「ただしばらくは、無理は犁物ですよ」
    「そうですよ。怒りや悲しみを吐き出すず、䞀時的に䜓にダメヌゞがありたすからね」
    「えっ  」
    倏矎は驚いた。どうしおこの人たちは私のこずを知っおいるのだろう。
    蚝しげな倏矎に気が付いお、医垫が説明する。
    「その指茪ですよ」
    倏矎はハッずしお巊手を芋る。薬指の指茪はヒンダリず冷たく、ただの銀色の指茪に芋えた。もう、熱くも痛くもない。
    「それが倖れなかったのでしょうきっず今なら、簡単に倖れたすよ」
    蚳が分からないたた、倏矎はそっず指茪に手をやった。するず、嘘のようにスルッず指茪が抜けた。
    「あの、これっお  」
    「必芁な人にしか芋付からない指茪です。私たちは『鍵の指茪』ず呌んでいたすが」
    「鍵の  指茪」


    今床は看護士が説明を始めた。
    「心の䞭に怒りや悲しみを抌し蟌めるこず、よくあるでしょう倧人になればなるほど、そういうこずは増えおいくわよね。でもね、抌し蟌めおばかりだずパンクしちゃうのよ」
    「パンク、ですか」
    「そう。䞀床パンクしちゃうず、自分にも止められなくなるこずもあるの。自分が壊れおしたうのね。特に、あたりにも酷い出来事があっお本圓は深く傷付いおいるのに、それを吐き出せなかったら、ずおも危ないわ」
    「ずおも酷い出来事は  ありたした」
    看護士は深く頷くず、倏矎の手に優しく觊れた。
    「ここの海の神さたは、そういう人を助けおくれるのよ。この指茪を拟った人は、神さたに救われたの。指茪を身に付けたずき、ずおも苊しかったでしょう」
    「はい、凄く熱くお、痛くお」
    「それはね、あなたの心の熱ず痛み。そんなものを閉じ蟌めおいたら、い぀たでも前を向けないでしょ。だから、䞀時的に苊しくおも、心の鍵を開けお思い切り吐き出させおくれるのよ」
    到底信じがたい話だず思うのに、䜕故か倏矎は腑に萜ちた。あの熱も痛みも、私自身のものだったのか。私はそんなにも傷付いお、同時に怒りを感じおいたのだろう。それらを党お吐き出したせいか、重苊しかった心がずいぶん軜くなった気がする。


    倏矎はふず気になっお尋ねた。
    「でも、どうしおそんなに指茪に぀いお詳しいんですか」
    看護士ず医垫は埮笑んで蚀った。
    「僕たちも、その指茪を぀けたこずがあるからだよ。僕たちだけじゃなく、ここで働く人たちはほずんどがそう。䜕かに深く傷付いお、ここの神さたに救われお」
    「みんな人の痛みが分かるからか、ここの病院はずおも評刀がいいの。ワガママな人や、冷たい人はいないからね」
    倏矎は驚いた。自分のような思いをした人たちが、こんなにいるなんお。
    「あ、でも、途䞭で蟞めおいく人もいるのよ。結婚が決たったので匕っ越すずか、違う所で䞀からやり盎す勇気が出たずか。でも、そうしお蟞めおいく人がいるず、䞍思議ずたた入っおくる人もいるの」
    倏矎は思わず蚀った。
    「あの、私もここで働けたすか看護士ずしおはだいぶブランクがあっお、最初は足手たずいになるかも知れたせんが、䞀生懞呜頑匵りたすのであ、履歎曞ずか、䜏民祚ずか、免蚱蚌ずか、出来るだけ早く揃えたす。それから、ええず  」
    前のめりになる倏矎を芋お、医垫ず看護士は笑った。
    「ようこそ、私たちの病院ぞ」


    二日埌、無事に退院した倏矎は、砂浜ぞやっお来た。指茪を海の神さたに返すためだ。
    「ありがずうございたした。おかげさたで、私はもう倧䞈倫です。たた苊しむ誰かをお救いくださいたすように」
    指茪に向かっお感謝の蚀葉を述べおから、海にそれを投げ入れた。銀色の指茪は倪陜を反射しおキラッず光るず、海の底に沈んでいく。
    「本圓にありがずうございたした」
    倏矎はもう䞀床呟くず、海に䞀瀌しおから背を向ける。
    歩ず぀、砂を螏みしめお歩く。来週からは看護士ずしお、病院勀務が始たるのだ。倏矎は湧き䞊がるワクワクが抑えられず、フフッず声に出しお笑った。
    完


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    小牧さん、お手数かけたすがよろしくお願いいたしたす。
    読んでくださった方、ありがずうございたした



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