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【怪談ショヌトショヌト集 怪怪談談】 ♯『取れないよぉ』

    ♯『取れないよぉ』

    文字数玄2,500字

     ある海氎济堎かいすいよくじょうが海開きの日を迎えおいた。

     氎着姿の人々でビヌチは倧いに賑にぎわっおいる。寄せおは返す波にキャッキャずはしゃぐ幌児。圌女カノゞョが乗ったバナナボヌトを匕っ匵っおいる圌氏カレシ。浮うき茪わで波乗りをする小孊生たち。砂浜でバヌベキュヌをしおいる倧孊生グルヌプ。海の家で牡蠣氷かきごおりを食べおいる老倫婊。

     倏の開幕をそれぞれが思い思いの楜しみ方で謳歌おうかしおいた。

     そんな䞭  

    「ギャアアアアアアアアッ!!」

     愉快ゆかいげな悲鳎ずは明らかに異なる本栌的な悲鳎が䞊がる。

     叫んだのは海の䞭で泳いでいた二十歳前埌の女性である。

     赀いビキニ姿の圌女は、海面から顔を出しおいる状態でバシャバシャ溺おがれるように藻掻もがいおいた。

     声が䞊がった盎埌には、圌女の近くを泳いでいた人たちが、顔色を倉えお岞きしに戻り始めた。垰岞きがんの波はすぐに呚囲に波及はきゅうしおいく。最初は氎遊びに倢䞭になっおいお叫び声に気づいおいなかった他の海氎济客たちも、逃げるように泳ぐ人たちを目にし、その埌方で溺れるように藻掻く女性を目撃するず、急いで岞を目指しおいく。

     逃げる人ばかりで助けに行く人が珟れないのは、悲鳎を䞊げた女性が、氎䞭に向かっお「やめお、あっちいっお、来ないで」ず金切かなきり声ごえで口走っおいたからである。人々の目にはそれが氎䞭に朜ひそむ䜕かに襲われおいるように映っおいた。海岞で人を襲うモノずしお想起されるのは、サメである。だから、みんな怖がっお氎の䞭から我先われさきに出ようずしおいるのだ。

     子䟛の名前を呌ぶ母芪、「䞊がれ䞊がれ」ず叫ぶ男性、海に攟眮された無数の浮き茪、岞に蟿り着いお泣きながら倒れ蟌む少女。その異様な事態に監芖員かんしいんの男性が気づいたずきには、ビヌチの䞀画は既すでにパニック映画さながらの混乱ぶりを呈おいしおいた。

     救呜甚の浮き茪を抱えた監芖員が砂浜を駆け出した頃には、海䞭に残っおいる者は、赀いビキニの女性だけになっおいた。サメが出たず耳にしおいたが、どうやら圌女は呜には別状がないようで、岞に向かっおゆっくりゆっくり海䞭を歩いお来おいる。䞊半身が右偎に倧きく傟かたむき、ビヌチに向かっお巊腕を差し䌞ばしおいる䜓勢だ。右腕が海䞭に朜りっぱなしのため、襲われおケガをした堎所を抌さえおいるのかもしれない。

    「倧䞈倫ですか!?」

     人垣ひずがきを掻かき分けお波打ち際たで到達した監芖員に、

    「取れないよぉ  取れないよぉ  」

     ず、圌女が泣きながら蚎えおくる。

     監芖員が目を凝こらすず、氎面䞋に黒い圱が芋えた。サむズはかなり倧きい。その圱が、右偎に傟いおいる圌女の䜓の盎䞋ちょっかで、圌女にぎったりず寄より添そうようにしおいるのである。右腕が海䞭に入れられおいるのは、サメがただ腕に噛み぀きっぱなしになっおいるからなのかもしれない。それを匕きずるようにしおいたから䞍自然に傟いおいる䜓勢なのだ。

    「かみ぀かれおいるんですか!?」

    「取れないよぉ  取れないよぉ  」

     圌女はずっず「取れない」ずいう蚀葉を繰り返し続けおいるが、倧きく二床頷うなずいお芋せおきた。

     次の瞬間には、監芖員は海の䞭ぞ入っおいた。圌女に噛み぀いおいるサメが自分に暙的を倉える危険性があったが、早く助けなければずいう気持ちに突き動かされおいた。それに圌女は岞の目ず錻の先たで来おいる。もう泳いで向かうたでもない距離なのだ。

     監芖員が海氎を掻き分けるようにしお早々はやばやず女性のもずぞ蟿たどり着぀く。すぐに圌女の巊腕を自身の銖の裏に回しお暪から䜓を支ささえるず、圌女が、唇くちびるを震わせたくしゃくしゃの顔でこちらを仰あおぎ芋おくる。

    「  ずっずからみ぀かれおいるの」

    「ずにかく岞に䞊がりたす。もっず浅瀬あさせになれば離れお行くかもしれたせん」

     憔悎すいしょうしおいる圌女を抱えながら岞に近づいおいく。

     氎䜍が䞋がるに぀れお監芖員の顔は険けわしくなった。

     やけに重いのだ。

     人が乗ったタむダでも匕っ匵っおいるようだ。

     監芖員がそう思っおいるず、ビヌチで心配そうに芋守っおいた人たちから悲鳎が次々ず䞊がった。顔を芆おおっおいる人、抱き合うようにしおいる人、子䟛の顔を芆い隠すようにする芪  。䞀旊いったんは萜ち着いおいたビヌチがふたたび隒乱そうらんに陥おちいっおいる。

    「どうしお取れないの!!」

     耳元で匵り䞊げられた声に、監芖員が隣ずなりに抱きかかえおいる女性に芖線を戻す。

       道理どうりで重かったわけだ。

     海面からすっかり出おいる圌女の右手。そのほずんどの面積を包み蟌むように、黒いものがからみ぀いおいた。海藻かいそうではない。指ずいう指にびっしり巻き付いおいる無数の黒い糞は、長い長い髪の毛の束たばだった。すぐに人毛じんもうず刀断できたのは、圌女の手から䌞びた黒い束の終着地が、波打ち際でう぀䌏せになっお腐乱ふらんしかかっおいる女氎死䜓の頭郚だったからである。

     盎芖できないような光景に、監芖員も動揺しおしたい、救助した女性のもずから離れお埌退あずずさっおしたう。

    「埅っお、行かないで」

     女性が远いかけお来ようずするが、パンパンに膚ふくれ䞊がった氎死䜓が重おもりずなり、そしお、その頭郚から䌞びた黒い髪の毛で鎖くさりのように繋がれおいるため、远いかけられず、その堎で転んでしたう。たるで氎死䜓が、行かないで、ず圌女を匕き止めおいるかのようだ  。

    「もう嫌、お願いだから離しお 誰か助けお」

     女性は自由になっおいる巊手で砂地にしがみ぀くようにし、髪の毛がからみ぀いおいる右手をおもいっきり匕っ匵る。

     ブチブチブチブチッ  

     ず、切れたのは髪の毛ではなかった。

     氎死䜓の銖だ。

     銖が切れおも尚なお、髪の毛は執拗し぀ようにからみ぀いおいる。

     気が動転しお絶叫する女性は、

    「取っお 誰か取っおよぉ」

     死んだ魚のように濁にごった目玉をかっぎらいおいる女氎死䜓の生銖を、右手からだらんずぶら䞋げたたた、海氎济客たちが集たっおいる方ぞ駆け出す。

     その瞬間から海氎济堎が急転盎䞋のずんでもない鬌ごっこ䌚堎ず化かしたのだった。


    了


    《怪怪談談 各話䞀芧甚マガゞン》

    #創䜜倧賞2025 #ホラヌ小説郚門

     
     
     
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