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このパーティの中に1人、魔王の手先がいる! 【創作大賞/ファンタジー部門】

    ■あらすじ

    善なる女神に選ばれた勇者パーティ。外道ながらも腕だけは超一流の彼らにある日、真実の予言が告げられた。「この中に一人、魔王の手先がいる。その者は人類を裏切り、勇者を殺す」 ありえない。この中に裏切りを目論むような外道など、たった一人であるはずがないのだから!

    手始めに予言を伝えた賢者を始末した後、誰が裏切り者なのかと動き始める勇者達は、それぞれの抱える過去の秘密に踏み込みつつ、ついでの片手間でダンジョンを踏破していく。結局裏切り者の正体が特定されないまま魔王との戦闘に突入しあっさり撃破。彼らは世界を救い平和をもたらしてしまう。

    しかし、結果的に予言は成就することになる。その狂気的なレトリックとは……

    ■このお話について
    2025年10月1日から10月16日までに小説家になろうにAIイラスト表現の練習ついでに連載していただいぶ邪道なファンタジー小説。この度、Noteで創作大賞が企画されるということで一部加筆修正を加えて転載しました。内容は加筆前の時点で約5万5千文字程度。だいたい90分くらいでさくっと読める内容です。イラストはPixAI.Haruka v2を使用しています。



    この物語はフィクションです。
    この物語には社会的倫理観から
    著しくかけ離れた描写があります。


    プロローグ

    0-1:勇者パーティの和やかな食事風景

     世界は今、魔王の闇に覆われています。
     日の光は閉ざされ、人々は恐怖に怯えています。

     しかし安心しなさい、人の子よ。

     光の前に、闇は必ず消え去るが定め。
     今、魔王を討つため、
     曇りなき心の戦士たちが立ち上がりました。

     善の心と愛を知る彼らならば必ずや魔王を討ち、
     混沌の世界に光と秩序を取り戻すことでしょう。

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………」

     女神クリアに選ばれ集った5人+1の勇者パーティ。

     ここまで数々のダンジョンを攻略し、魔の罠を退け、
     レベルを上げると共に絆を結んできた彼らだが、
     今、温かく豪華な食事を前にして
     誰一人笑顔が浮かばず、会話もかわされていない。

     その理由は、先刻、
     賢者ハイセから授かった予言にあった。

    ――あなた達の中に一人、
      魔王の手先が紛れ込んでいます。
      その者は人類を裏切り、勇者を殺します。

     賢者ハイセの予言は絶対である。
     その言葉は彼女の知識と慧眼によるものではなく、
     賢者のみが使える魔術によるもの。

     アカシックレコードにアクセスし、
     絶対の真実のみをハイセの口を通して語る
     口寄せに近い術である。

     真実は真実であり、思想も目的も持たない。
     賢者ハイセにしても、具体的に誰が裏切り者かわからず、
     勇者達を疑心暗鬼に落としてしまう言葉と理解できても
     その言葉を紡ぐことを止められなかったのだ。

    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………」

     事実、5人は疑心暗鬼に駆られている。
     実際彼らには、それぞれ同じパーティ内の仲間を疑う
     疑念の種とも言える秘密を知っていたのだ。

    (魔王の手先の目的は間違いなく……)

     ちらりと一瞬だけ盗賊シールの顔を覗いて
     即座に目線を食器に戻す勇者ヒイロ。

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    (間違いなく、こいつには魔に堕ちる理由があるんや。
     いや、むしろこいつの正体は……)

     そんな視線に気付きつつ、
     逆に勇者ヒイロの様子を覗う盗賊シール。

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    (私は裏切り者の正体を知っています。しかし)

     僧侶スターシは淡々と食事を摂りつつも、
     騎士イットの動きだけには注意を払う。

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    (動けば互いを道連れにする、か)

     その騎士イットも、僧侶スターシを警戒しつつ
     いつも通りの落ち着きを保っている。

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    (もしもわたし達が仲間割れするようなら……)

     そんな4人のやり取りを
     どこか邪悪な笑みを浮かべて見守る魔道士メイ。

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     ……改めて紹介しよう。

     これこそ、女神クリアに選ばれた
     善の心と愛を知る曇りなき心の戦士たち。
     魔王を討つべく長い旅をし、
     数々のダンジョンを攻略し、魔の罠を退け、
     レベルを上げると共に絆を結んできた
     勇者パーティ一同の和やかな食事風景である!

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     まさかこの中に一人裏切り者が、
     魔王の手先がいるなど、誰が信じられようか。

    (絶対こいつなんだよなぁ……)
    (わいはお前の正体知ってるねんで……)
    (どこで始末しましょうか……)
    (できるだけ穏便に、事故に見せかけて……)
    (ひとりは寂しいよね……ふふ……ふふふ……)

     誰・が・信・じ・ら・れ・よ・う・か・!

     と、そんな和やかな食事風景の中、
     6人目とも言えるパーティの仲間、
     妖精のティカが大慌てで飛び込んでくる。

    「み、みなさん! 大変です!
     賢者ハイセ様が……死んで……!」

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    「なっ……!」

     まさかの展開に全員が同時に立ち上がる!

     賢者ハイセが再度アカシックレコードに
     アクセスできさえすれば、
     この中の裏切り者の正体を暴けたというのに!

     予・期・で・き・る・は・ず・が・な・か・っ・た・この未曾有の危機を前に、
     勇者達5人の心は1つになる。

    (((((そりゃ口封じするよなぁ……)))))

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     世界は今、魔王の闇に覆われています。

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     日の光は閉ざされ、人々は恐怖に怯えています。

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     しかし安心しなさい、人の子よ。

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     光の前に、闇は必ず消え去るが定め。

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     今、魔王を討つため、
     曇りなき心の戦士たちが立ち上がりました。

    画像

     善の心と愛を知る彼らならば必ずや魔王を討ち、
     混沌の世界に光と秩序を取り戻すことでしょう。

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    0-2:盗賊シールについての考察(from勇者ヒイロ)

     俺の名はヒイロ。勇者、ヒイロだ。

     早速だが、俺達パーティの中に紛れているという
     魔王の手先の正体を暴露しよう。

     それはズバリ、盗賊シールだ!!

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     東方の盗賊ギルド「オニワバン」に所属し
     ニンジャのスキルを操るシールは
     戦闘でも探索でも頼りになる仲間だ。

     ワーウルフの少年である彼はパーティ最年少。
     どこか幼さの残るそのどこか中性的な顔は、
     男女問わず魅了してしまう魔性を持つ。

     同じ男としてキモい男にまで色目を使われるのは
     同情したくなってしまうが、こいつはそこから堂々と
     『色で誘い暗殺するクノイチの術が使えるやないか』と
     笑ってしまうのだ流石と言わざるをえない。

     まぁ、実際に同じ男としていっしょに
     風呂に入ったことはあるのだが、
     ワーウルフだからなのか、
     乳首が8つあったのは初見ちょっと引いた。
     ちなみに耳も4つあるが、
     おかげで四方八方、様々な音を聞き分けられるらしい。

     で、こいつが裏切り者である理由だが、
     単純明快。こいつは……

     超のつく守銭奴なのだ!!

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     こいつの裏切りは、なにも今に始まったことじゃない。
     思い起こせばあれは冒険が始まったばかりの頃のこと。

    ~~回想

    「お、勇者のあんちゃん、こんなとこで何しとるん?」
    (しーっ! 声が大きい!)
    (なんやなんや……何見て……あー……)

     俺が茂みに隠れてこっそり見ていたもの。
     それは……

     魔道士、メイの行水だった。

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    (あんちゃん、何隠れてんのや。
     堂々と入ってけばええやろ)
    (な、何言ってんだお前!)

    (だってあのエルフのねーちゃん、
     勇者のあんちゃんの許婚やんか)
    (……うん、まぁ)

     許婚といっても双方の親同士の合意ではなく、
     向こう、メイの側の一方的なものだ。
     エルフの里から魔道士を勇者パーティに送り出す場合、
     その魔道士を勇者の嫁とするのが
     エルフの伝統なのだそうだ。役得。

    (ねーちゃんからの好感度も低くないやろ?)
    (そうは言ってもまだ高くない!)

    (……あんちゃん、どーてーか?)
    (どどど、どーてーちゃうわ!)

    (はいはい。まぁそうやろなぁ。
     ちょっとでも女性経験があれば、
     とりあえず押し倒すのが正解って
     わかってるはずやもんなぁ)
    (何言ってんだお前!
     お前だってどーてーだろ!)

     百歩譲って俺がどーてーだと認めるにしたって、
     4つも年下のガキにそんなこと言われる筋合いは……

    (わい、普通に房中術使うが?)
    (……は?)

     ……ぼ、ぼーちゅーじゅつ?
     防虫術のことじゃないよな? まさか……

    (あんちゃん、尻使うか?)
    (冗談はよせ!!)

     まぁ、そんな頼りになるヤツなのだが。

    (さて。じゃ、エルフのねーちゃんに教えてくるわ。
     覗かれとるで、って)
    (ちょっ!? おまっ!?)

    (言われんの嫌か?)
    (嫌に決まってるだろ!!)
    (なら……)

     にやりと笑みを浮かべ、
     指で丸い輪を作り。

    (わ・か・っ・と・る・や・ろ・?)
    (くっ……!)

     こうして口止め料を要求される。
     まぁ、そこまではいい。
     そこまでは、百歩譲って許していいのだ。
     問題はその翌日だ。

    「勇者君」
    「ん? どうしたの?」

    「君、わたしの行水覗いてたんだってね。
     見損なったよ。戦闘中、後ろにも気をつけてね。
     わたし、範囲攻撃魔法苦手だから」
    「はぁぁぁぁああああ!?」

     冷ややかな目とゴミを見るような目を向けてくる
     僧侶と騎士を無視して、俺は盗賊に詰め寄る。

    「どういうことだてめぇ!
     口止め料払ったよなぁ!?」
    「あぁ、もろたで。
     もろたが、その後でな、
     エルフのねーちゃんに聞かれたんや。
     誰か覗いてなかった? って」

    「口止め料払っただろ!」
    「あぁ。だから知らん言うたんやが、
     ねーちゃん、あんちゃんの倍のカネを握らせたんや。
     だもんで、全部喋ったで。
     あんちゃんがどーてーのことまでな」

     俺は頭がくらりとし、その場に倒れ込むのだった。

    ~~回想終わり

     と、こいつはそういうヤツだ。

     結果、今は俺を含めてパーティの4人が
     こいつに『友達料』を払っている。
     それはこいつのスキルにも由来している。

     俺達パーティの中で、
     戦闘中にHPを回復させる魔法や技が使えるのは3人。
     言うまでもなく専門家の僧侶スターシに加えて、
     全体回復が出来る勇者の俺と、
     ニンジュツの技で回復も出来る盗賊シール。
     そして、この中で最速なのがシールである。
     すなわち、本当に命が危ない時、
     盗賊の回復が最後の命綱になってくる。

     にもかかわらず、
     戦闘中『いのちをだいじに』の指示に変えた時、
     こいつが回復系の術を使う優先度は
     残りHPの割合と危険度判断に加えて
     その友達料による補正がかかってしまうのだ!

     文字通り、地獄の沙汰もカネ次第、
     友達料をケチると、結果的に六文銭を失うことになる。
     なんてやつだ!

     しかも、そんな友達料を
     決してケチれない理由がさらにもう1つある。
     それが先日の魔将軍との戦いの中でのこと。

    ~~回想

    「追い詰めたぞ! そこまでだ!」

     相手は魔王軍でも名を馳せた悪辣な魔将軍。
     卑劣な数々な罠を突破し、
     俺達はついに魔将軍をダンジョンの奥まで
     追い詰めることに成功したのだが……

    「ほほほ、バカな勇者だこと。
     追い詰められたのが自分達とも知らず」
    「ふん。強がりはよせ。
     既にダンジョン内の魔物はすべて経験値に変えた!
     後はお前だけだ!」

    「そうね。魔・物・は・もういないわね」
    「……どういうことだ?」

     にやりと笑った魔将軍が、俺達の後方を見て叫ぶ。

    「さぁ今よ! 裏切りなさい守銭奴の坊や!
     そこから罠を発動すれば、こいつらは終わりよ!」
    「なぁっ……!」

     4人が一斉にしまったと盗賊に振り返る。
     が、やつはニヤりと笑って……

    「ちぃと、足りんかったなぁ……」

     足元の罠のスイッチを、踏み込む。
     同時に巨大な落石が、魔将軍の上に落ちてきた。
     哀れ、魔将軍はぺちゃんこだ。

    「お前、買収されてたのか!?」
    「あぁ、されたで。されとったが……
     貰った額が、あんちゃん達4人の
     友達料合計よりも少なかったんで、
     買収されたふりだけして、ちゃんと最後に味方として
     あいつにトドメ刺しとったんや。
     今・後・と・も・お・お・き・に・、あんちゃんら」

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    ~~回想終わり

     と、それで俺達は今も友達料を払っているのだが、
     つまり、4人の友達料合計よりも多くが支払われば、
     こいつは間違いなく裏切るということ。

     だから魔王の手先の正体は盗賊シールで、
     裏切りの原因はカネなのだ!

     そもそもカネは人の欲望の象徴。
     犯罪の多くがカネ目当てだ。
     カネで裏切るというのは、最も「らしい」理由だ。

     ……と、同時に。
     実はこいつが裏切り者である理由はもう1つある。
     それは消・去・法・だ・。

     こいつは全員から友達料を受け取り、
     行水の覗きなどを含めた他のパーティメンバーからの
     悪意をガードするという、結果的に言えば
     パーティ内の警官的な役割を果たしている。

     つまり、誰・か・が・裏・切・り・行・為・を・働・け・ば・、
     こ・い・つ・が・間・違・い・な・く・気・付・く・の・だ・。

     そして、パーティ内で最も隠密技能が高いこいつを
     出し抜くことは他の誰にもできず、
     他3人の合計以上の友達料を1人で支払える
     個人的な資金力も俺達の誰にもない。

     故に、裏切り者は盗賊シール以外にありえないのだ!

    (と、わかった上で。問題はどう解決するか。
     こいつの技はこれからの戦いに必須だし、
     むしろカネで裏切っているなら
     カネで裏切り返すことができるということ。
     都市国家で政治家をやってたうちの親父から
     俺はその手の権謀術数を学んで育った。
     魔王の手先をこちらの味方につければ、
     魔王側の情報が手に入るということで、
     むしろこの状況はチャンスだ。
     問題は、こいつがいくら貰っているかと、
     その額以上のカネをどう調達するかだが……)

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     と、勇者のあんちゃんは考えとる。
     僧侶のアネさんも考えそうやな。
     だが、勇者のあんちゃんは
     この先を含めた別のことを考えてる。

     何故ならあんちゃん。

     裏切り者は、あんただからや。

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    0-3:勇者ヒイロについての考察(from盗賊シール)

     わいの名はシール。盗賊や。
     いや、もう守銭奴やと名乗った方がええか?

     これから裏切り者の魔王の手先である
     勇者のあんちゃんの話をするんやが、
     その前に聞いといて欲しいことがあんのや。

     それは、わいら全員人間やということ。
     つまり、嘘を言うということや。

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     はは、嘘言われたら話わからんやんって?
     そのとおりやな。
     だから、嘘と言ってもつく嘘は2つだけや。

     全員「お前裏切り者か?」って聞かれても
     必ず「ちゃうわ」と答えるということ。
     それと隠したい情報に関して「知らへん」と
     答える場合のみや。わかりやすいやろ?

     他の嘘はついても苦し紛れや。
     白い粉の実物を前にして「コムギコカナニカダ」って
     汗を垂らしながら言うとかな。

     あと、自分が裏切り者であることに繋がる話は
     絶対に喋らんで。
     ま、知ってることを言わんのは嘘とちゃうな。

     ちゅーわけで、わいに関する話は全部ほんまや。
     わいが守銭奴で、買収された額に応じて
     動きを変えるのもほんま。
     4人から貰っとる額以上を持続的に渡されるなら
     魔王の手先にだってコロっと寝返るで、わいは。
     魔王のカネも女神もカネも同じカネやからなぁ!

     そんでもわ・い・は・裏・切・り・者・と・ち・ゃ・う・。
     裏切り者は十中八九勇者のあんちゃんや。
     今からその話をしたろ思うで。

     さてさて。デカい裏切りをやるには2つの要素が必要や。
     裏切る動機と、身内を殺した経験や。

     裏切る動機は言うまでもないな。
     気分で裏切るようなやつはそもそも仲間にできんわ。

     身内を殺した経験は、アレや。
     所謂心のリミッターのカットや。
     一度身内を殺して良心を麻痺させとかんと、
     いざって時に体が動かんのや。

     そしてわいら5人は、エルフのねーちゃん以外、
     その2つの要素を満たしてる悪党や。
     あ、ちなみにわいはニンジャの任務で元仲間を、
     僧侶の姉さんは教義上の理由で背教者を、
     騎士のドラちゃんは力の暴走で前のパーティを殺しとる。

     だが、勇者のあんちゃんはその身内殺しが特に濃い。
     なんせあんちゃんが殺した身内は、実の兄やからなぁ!

     これはわいが「オニワバン」の任務で
     将来勇者として旅立つヤツを監視するため
     都市国家に潜入してた頃の話や。
     ほな、回想いくで。ト書きも標準語にしとくわ。

    ~~回想

     国王が統治する王政の国が多い中、
     勇者ヒイロは選挙で選ばれた民衆の代表が
     話し合いで統治する統治システム、
     所謂「民主主義」の都市で生まれた。

     勇者の親父は政治家で、その親父もまた政治家だった。
     代々政治司る家庭に生まれた勇者ヒイロには
     瓜二つの見た目の双子の弟ステッツがいた。

     幼い頃に女神クリアから下った神託に従い、
     兄ヒイロは将来勇者として立つべく、
     剣と魔法の修行を重ねていた。

     一方の弟のステッツは
     親を継いで政治家になるための権謀術数を学んでいた。

    「すまないな、ステッツ。
     本来父さんの跡は兄の俺が……」
    「いいんだよヒイロ兄さん。
     兄さんは勇者に選ばれたんだ。
     それは弟の僕にとっても誇りだ。
     それより兄さん、よそ見はしない方がいいぞ!」

     キンキンと剣が交差する音が響く。
     弟ステッツは本来勇者に選ばれた身ではなかったが、
     それを補って圧倒的な努力ができる才能を持っていた。
     政治の学習に加え、兄と同様の剣術と魔法の訓練も行い、
     兄の修行相手でライバルとなるべく努力してきたのだ。

     だがそんなある日。弟ステッツに魔が差した。

    (僕は兄さんより強い。
     兄さんより努力もしてきた。
     なのに何故、ただ選ばれただけの兄さんが勇者なんだ?
     勇者としてふさわしいのは……)

     おそらく、そんなことを考えたのだろう。

     事故が起きたのはその日のこと。
     真剣を打ち合っての実戦訓練はいつものことで、
     その中で相手を殺してしまうことは
     ごく当たり前にありえる話だった。

     訓練中、弟ステッツの剣が兄ヒイロの腹に突き刺さる。
     どう見ても即死の致命傷だった。
     これが事故なら、刺したステッツの顔は
     驚愕と絶望に染まるはず。
     だが、あの時のステッツは……

     嘲・笑・っ・て・い・た・の・だ・。

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     そして悲鳴を聞いて駆け付けた人々の前で、
     ステッツは堂々とこう宣言する。

    「急いで治療術師を呼んでくれ!
     修行中に弟を……ステッツを刺してしまった!」

     そしてステッツは名を捨て、ヒイロとなった。

     元より瓜二つの双子。
     入れ替わりに気付いたのは家族の他ごく一部だ。
     しかし、全員がこの入れ替わりを見て見ぬ振りをした。
     何故なら、明らかに弟ステッツの方が
     兄ヒイロよりも勇者としての能力が高かったから。
     誰も口には出してこそいなかったが、
     ある意味で全員がその日の『事故』を喜んでいたのだ。

     ヒイロは間違いなく最強格の勇者だ。
     魔王を倒し、世界を救おうという思いも強く、
     政治を学んだ故のカリスマ性もあり、
     そこにごく普通の青年並の感性も備わっている。
     誰もが認める英雄で、愛される勇者だ。

     だが、盗賊だけは知っている。
     盗賊だけは見ていた。

     あの男が、目的のためには手段を選ばないことを。
     双子の兄を嘲笑って殺したことを。
     そもそもあのヒイロは選ばれた勇者ではない、
     偽物の『悪党』であるということを。

    ~~回想終わり

     おそらくだが、勇者のあんちゃんが実の兄を殺した理由、
     それはただの嫉妬とか、妬みとか、
     そういう感情由来の暴走やない。

     優れた自分が勇者として立った方が世界のためで、
     魔王を倒せる可能性も高いと踏んだ、完全な合理故や。

     間違いなくあんちゃんは『正しい』ことをした。
     だから事故は事故として処理され、
     まわりも何も言わんかったんや。

     わいはそんなあんちゃんに2つの思いを抱えとる。
     『恐怖』と、そして、『頼もしさ』や。

     あんちゃんは確実に魔王を倒せる勇者や。
     あんちゃん以上の勇者なんておるはずがない。
     強さもそうだが、チートなのはその判断力。
     いかに魔族の連中が強く、かつ、狡猾だとしても
     あんちゃんと旅する限り、わいらは負けんわ。

     だがそのあんちゃんが魔王の手先なら話が別や。

     生憎まだあんちゃんが裏切り者っちゅー
     決定的な証拠はどこにもない。
     わいがこの一癖も二癖もあるパーティ全員の
     監視役をしとるってゆーても限界はある。
     隠そうと動くなら見抜くんは難しいし、
     こいつら全員別の隠し事があって紛らわしいんや。

     けど、あんちゃんは闇落ちの素質がある。
     実の兄を手にかけて嘲笑える『悪党』なんやからな。

     ……と、同時に。実はあんちゃんが
     裏切り者であると警戒する理由はもう1つあんねん。
     それは危・険・度・や・。

     カネで裏切ったなら、より多くのカネを渡したらええ。
     感情で裏切ったなら絆したらええ。
     それこそエルフのねーちゃんが胸でも見せたったら、
     どーてーのあんちゃんならイチコロや。

     けどな、正しい情報認識からの合理で裏切ったやつは、
     絶対に元には戻ってこないねん。

     かつ、体術と魔法の両方がハイレベルのあんちゃんは
     敵に回して一番厄介な相手や。
     あとこれはあんちゃんに限った話やないが、
     わいらが仲間割れした際に、
     エルフのねーちゃんは絶対向こうに着く。
     勇者のあんちゃんとエルフのねーちゃんが手を組んだら、
     残りの3人じゃ絶対に勝てないねん。

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    (と、わかった上で。問題はどう解決するかや。
     あんちゃんは最強の勇者、
     魔王を倒せるのはあんちゃん以外におらへん。
     合理で裏切ってんのなら、味方に戻すこともでけへん。
     なら……脅迫か、拷問以外にあらへんな。
     タイミングを見計らって拘束して、
     心を徹底的に壊して従わせるんや。
     問題はそのタイミングと……)

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     と、盗賊の坊やは考えてるんでしょう。
     私は勇者サマの過去を知らないけど、
     この子が一人や二人殺してるくらいはわかるわ。

     でもね、今回に関しては見当違いというものよ。

     確かに一番怪しいのは守銭奴の坊や。
     一番危険なのは賢く強い勇者サマ。

     それでも……私はもう、知ってるの。

     裏切り者は、騎士ちゃん。あなたでしょ?

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    0-4:騎士イットについての考察(from僧侶スターシ)

     私の名前はスターシ。僧侶よ。
     敬遠なる神のしもべにして、あまねく愛を届ける者。

     これから魔王の手先、騎士イットちゃんの話をするわ。
     これは私が偶然知った秘密に由来する推測だけど
     その秘密を考えれば手先はこの子しかありえない。
     だってこの子……

     魔王の娘だもん。

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     私はその秘密に気付いたのは、
     この子が一度死んだ時だったわ。

    ~~回想

    「イット! おいイット嘘だろ!
     目を開けろ! 頼むから目を開けてくれイットぉ!」

     魔将軍との戦いで騎士ちゃんは命を落とした。
     私へのの直撃コースだった魔法の刃を
     その身を賭してかばってくれたの。

    「くそっ……ドラちゃん……
     あんたは騎士として超一流だがド三流やで……
     躊躇いなく仲間の盾になれる騎士は超一流。
     けど、それで死んじまう騎士はド三流や……!」
    「僧侶さま! どうにか蘇生をお願いします!」

     私は躊躇っていたわ。
     確かに私は蘇生魔法が使える。

     けど、蘇生魔法はまさに切り札。
     気軽に使える魔法じゃない。
     それも、ここまでの致命傷なら
     全力で詠唱しないとダメ。
     妖精ちゃんのレベルじゃもう無理ね。

    「確かに私なら騎士ちゃんを蘇生できるわ……」
    「本当か!? なら頼むスターシ! イットを……」

    「けど、ここで切り札を使えばおそらく……
     私はこの旅の中でもう二度と蘇生魔法が使えなくなる」
    「っ……!?」

    「そう。つまり魔王を倒すために必要不可欠である
     勇者サマが死んだ時に取り返しがつかなくなるの」
    「それは……」

     そう、ここでちゃんと悩めるのが勇者サマの凄さ。
     この子は一時の感情に流されずに大局が見れる。
     ここで蘇生魔法を温存することが戦略的な正解だと
     冷めた目で言えてしまう子なのよ。

    「今は危機的かつ難しい状況よ。
     それでていて一刻を争うの。
     だから、勇者サマ。
     勇者として、このパーティのリーダーとして
     私に命令しなさい。
     このまま騎士を見殺しにしろと」
    「…………」

     それでもこの子には優しさが……
     いえ、優・し・い・人・だ・と・見・せ・か・け・ね・ば・な・ら・な・い・対・面・性・が・あ・る・。
     ここで冷徹に命令すれば、
     この子の勇者としてのカリスマが消えてしまう。
     だからこの子は、そう命令まではできない。

    「命令が聞こえないわね。
     では、私の好きにさせてもらうわ」
    「……っ!」
    「僧侶のアネさん!?」
    「僧侶さま!」

     私は全力で魔法陣を展開し、蘇生術式を紡ぐ。
     当然でしょう? だって……

     この子にかばわれなければ私が死んでいた。
     私はこの子の愛を受けたから今生きている。
     愛を受けたら愛を返すのは、
     神のしもべとして当然のことだわ。

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     蘇生魔法は愛の奇跡。
     私がそれを即座に使えなかったのは
     もう1つ理由があるの。それは……

     この子の命に触れる過程で、
     私とこの子の心が重なってしまうから。
     私はこの子の心に踏み込むと同時に、
     私はこの子に心を踏み込まれてしまう。

    (けど、関係ないわ。
     ここで見殺しにすることを、
     私の神は許しはしない)

     蘇生術式の過程で、私はこの子の過去を見た。

     見習いだったころ、力を暴走させ
     自分以外のパーティを壊滅させてしまったこと。

     トマトが苦手で薄~く切られていないと
     食べられないこと。

     その呪いと毒への完全耐性は、
     日常的に呪われ毒を盛られる生活で会得されたこと。

     変温動物故に夜と朝の寒暖差が大きい日は
     おもらし対策でおしめをはいて寝る日があること。

     そして……

    「バカっ! パパのバカっ!
     私の鎧、パパの鎧といっしょに洗濯しないでって
     ずっと言ってたよね!?
     キモいんだよパパは!
     特に第2形態で背中から生える触手が!
     あーもう決めた! 家出してやる!
     それで勇者パーティに参加して、
     パパを絶対にぶち殺してやるっ! イーッ、だっ!」

     この子が魔王の娘であることを。

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    ~~回想終わり

     この世界で最も強い力。
     それは言うまでもなく、愛よ。
     男女の愛、同性の愛、他種族への愛。
     その中でも親子の愛は、なによりも強い。

     この子は純粋よ。エルフちゃんと同じでね。
     私を含めた3人のような薄汚れた心を持たないの。

     だからその魔王への殺意は、
     ただの思春期の娘による反抗以上の意味を持たない。
     むしろ本当はお父さんのことが大好きなんだと
     心に触れたからこそ私にはわかってしまう。

     そういう意味ではこの子は裏切り者じゃない。
     裏切っているという自覚がないから。
     この子は、最・初・か・ら・魔・王・の・手・先・な・の・よ・。

     それでもこの子は純粋ないい子。
     ここまでいっしょに冒険してきた私達に
     強い愛着を持ってくれている。
     最近は盗賊くん相手に好意も寄せてるみたいだし。
     好意というよりただの発情かもだけど。

     だからこそ私はこの秘密を言わない。
     この子を愛で救いたい。
     この子の愛なら、魔王を倒す以外の方法で
     世界に平和をもたらせるかもしれないのだから。

     ……と、同時に。
     私がこの子を警戒する理由がある。
     それは……

     この子はその時の蘇生術式で私の心に触れ、
     私が女神クリアを裏切っていること知っているから。
     あなたがそれを暴露しようものなら、
     私は躊躇わずにあなたに即死魔法をかけるわ。

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     あぁ、そうさ。
     あたいは僧侶の秘密を知ってる。

     あたいは魔王の娘で、
     こいつは女神クリアの敵。

     魔王の手先というには少し違うが、
     あたい達が裏切り者であることは事実。
     アカシックレコードが所謂「言葉の綾」で
     そのどちらかを魔王の手先と表現したのが
     おそらく今回の真実なんだろうね。

     とにかく、あたいは親父をぶち殺す。
     それでシールと愛の巣ダンジョンを作って子作りをするんだ。

     そのためには僧侶、
     あんたを始末しなきゃならない。

     命の恩人であるあんたを。
     邪教の信徒であるあんたを。

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    0-5:僧侶スターシについての考察(from騎士イット)

     あたいの名前はイット。騎士イットだ。
     天涯孤独のドラゴニアスの竜騎士、
     ということになっているが、まぁお察しの通り。
     そう、あたいは魔王やってるクソオヤジの娘だよ。

     これからあたいは魔王の手先……
     いや、魔王の手先って言うには言葉の綾だけど。
     ともあれ、裏切り者であり、命の恩人でもある女、
     僧侶スターシの話をするよ。

     僧侶は私を蘇生する中で、その本性を晒した。
     こいつの正体は、人間社会の中で言うなら……

     神に仇なす背教者だ。

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    ~~回想

    「よし! ダンジョン踏破完了!」
    「今回もガッポガッポだったなぁ!
     がはは! ここまで来ると普通の魔物も
     たんまり稼いでやがるヤツばっかや!」

     寄り道ダンジョンを攻略したあたい達は
     恒例の報酬分配タイムとなっていた。

    「ん、この防具は今のやつより強いな。
     メイさん、貰っとくといい」
    「ありがとう、勇者君」

     と、勇者が魔道士に防具を渡そうとするが。

    「ちょぉぉぉっと待ったぁ!」
    「盗賊君?」

     ここでシールがカットイン。

    「その防具に変えて上がる防御力はたったの2や!
     一方、その防具の売値は2万5千で、
     今着てる古い方は3800!
     こんなんアップデートせずに売るの一択やろ!」
    「……お前なぁ」
    「相変わらずですね……」

     やれやれとジト目を向ける2人だが、
     あたいはシールに頼もしさを感じていた。

     そう、強い魔族は財宝を蓄えるもの。
     カネ持ちはいい魔族の証明だ。
     そんなところも含めてシールは、
     あ・た・い・の・赤・ち・ゃ・ん・を・孕・む・に・最・高・の・雄・な・ん・だ・よ・……!

    (……背中に隠してる触手が疼くなぁ)

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    「っ!?」
    「ん? どったの?」
    「今なんか殺気みたいな……」
    「気の所為だろ。
     もうこのダンジョンには俺達しかいないぞ」

     あぁ、かわいい。かわいいなぁ、シールは。
     と、もじもじ顔を赤らめていると、
     突然バシンと背中を叩かれて。

    「神は仰いました。『恋せよ乙女』と」
    「…………」

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     ある意味では心強い人間なんだよなぁ。
     あたいの正体を知っても何も言わないし。
     といっても何も言わない本当の理由は……

    「それじゃ勇者サマ。
     私はダンジョンを『浄化』して参りますので」
    「アッ、ハイ」
    「いてらー」
    「わたし手伝います!」
    「…………」

     その理由は、あたいが僧侶の秘密を知っているから。
     致命的な秘密を握っていると
     お互いに理解しているからだ。

     今日も僧侶はさも当然とばかりにダンジョンに向かい
     魔道士のサポートで大規模魔法陣を展開していく。
     楽しそうに鼻歌を歌うその表情は背中からはわからないが、
     おそらく、にやつきを通り越した狂気と歓喜に染まっているはず。

     僧侶のこの義務、もとい趣味は、
     『浄化』と字面にすれば綺麗なのだが、
     やっていることは成体になっていない魔族の幼体や
     その卵の完全消滅。

     あまりにあまりな言葉なので流石に言いにくいが、
     現実をそのまま直視したい人は浄化の前に
     別の単語をつけてくれてもいい。
     KONZETUとかZETUMETUとかMINZOKUとか。

     この世界の神である女神は、
     魔王オヤジによる暴虐を否定してこそいるが、
     魔族もまたこの世界に生きるひとつの命として
     秩序の元であれば光を授けるという。

     だが一部の人間のみが信仰する『邪神』は別。
     世界で生きていいのは人類種のみ。
     中でも大きな祝福を受けるのは邪神の信徒のみで、
     その教義は一言で言えば『愛』だが
     ようするにちょめちょめなねちょねちょだね。

     実際この辺はかなり複雑で曖昧。
     どこまでが女神の信仰で、
     どこからが邪神の信仰かは一目ではわからない。
     どこの世界でも宗教ってやつは複雑だ。

     だから他の3人は気付いていないし、
     私もそういうものだと思っていた。
     が、この人の心に触れて私は理解した。

     この人は純粋な邪神のしもべだ。
     最終的に、女神クリアの『神殺し』を目指すレベルの。

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    ~~回想終わり

     聞いたことがある。
     犯罪の動機の多くはカネだと。

     そして、本当にやばい犯罪者は、
     自分の犯罪は合理的に言えば正しいと思っていると。

     だが、歴史的に見れば。
     最も危険で行き過ぎたコロシの動機には
     宗教的狂信が絡んでいる。すなわち。

    (この人は魔王オヤジと同じか、
     それ以上にヤバい人間だ……!)

     あたいは知らなかった。
     人間がここまで残虐になれることを。

     魔王の手先と言うには違うかもしれないが、
     とにかくこいつはオヤジ以上に危険な人間。
     賢者様の予言が下った以上、
     もはや生かしておくわけにはいかない。
     だって……

     こんなにも純粋な悪をあたいは、
     オヤジ以外ではも・う・1・人・し・か・知・ら・な・い・か・ら・……!

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    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     ここで一度整理しよう。

     勇者ヒイロは裏切り者を盗賊シールだと思っている。
     裏切りの動機はカネだ。
     加えて僧侶スターシに言い知れぬ危険性を感じている。

     盗賊シールは裏切り者を勇者ヒイロだと思っている。
     裏切りの動機は合理的判断だ。
     加えて騎士イットに言い知れぬ危険性を感じている。

     僧侶スターシは裏切り者を騎士イットだと思っている。
     裏切りの動機は思春期の歪んだ親子愛だ。
     加えて勇者ヒイロに言い知れぬ危険性を感じている。

     騎士イットは裏切り者を僧侶スターシだと思っている。
     裏切りの動機は宗教的狂信だ。
     加えて盗賊シールに邪な思い(ある意味)を抱いている。

     ここまでに名前が出ていない人物は2人。
     その片方である妖精のティカに関して言えば、
     全員の共通の見解を持っている。

     ちょっと頭がおかしいだけのマスコット。

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     一方でもう1人。魔道士のメイに関しては……

    「メイさんは絶対に裏切り者じゃない」
    「エルフのねーちゃんはシロやな」
    「エルフちゃんは裏切らないわ」
    「魔道士だけは絶対に違う」

     それが全員からの印象。絶対的なシロ。

     だが、その上でこうも思われている。

    ――そんなこと関係なく一番やばい。

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    0-6:魔道士メイの独白

     わたし、魔道士メイは、
     範囲攻撃魔法が苦手です。

     優れた魔法素質を持つエルフは
     勇者パーティに加わり旅をするのが定め。
     わずか数名で数万から数億までの魔族に立ち向かう旅は
     帰らぬ者の数の方が圧倒的に多いものです。

     魔王を倒した暁には勇者の嫁となるという伝統も、
     絶望的な戦いでの吊り橋効果が恋愛感情に繋がるため。
     最初からそれを肯定し「ご褒美」として置くことで
     戦いに命を賭けるように仕向けるため。
     わたしは今のところあまり興味がありませんけどね。

     中にはこの旅をただの自殺行為だと言って逃げ出したり、
     逆にエルフでありながら世界全体を統治して力を集結し
     数には数で魔族と立ち向かった女王も居たとか。

     しかし、わたしはそんな人たちが理解できません。
     だって、こちらが少数で、敵が無数ということは……

     狙・い・を・定・め・る・必・要・が・無・い・で・は・あ・り・ま・せ・ん・か・。

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     ご覧のとおり、わたしはエルフです。
     森から生まれ、木々の中で育ちました。

     生まれながらに高い魔法素質を持っていたわたしは
     師匠の大おばさまから最初に風魔法を習いました。
     先天的にエルフは、風魔法が得意なんだそうです。

     こうして風魔法の基本を習得したわたしが
     次に習得を目指したのは炎魔法でした。
     理由は簡単です。

     広・い・森・も・一・人・で・燃・や・せ・る・か・ら・で・す・。

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     この火魔法は、風魔法ととても相性がいいものでした。
     わたしは気付いたのです。

     炎が燃える理由はマナではない。
     風の中の2割ほどを構築する
     2・本・の・手・を・持・つ・精・霊・の力だと。

     小さな火に風魔法をぶつければ、
     またたく間に火は消し飛んでしまいます。
     しかし、ある程度以上に大きくなった火の場合、
     地面を這うように下から風魔法を送れば
     一気にその炎が燃え盛ると。

     これに気付けたおかげで、
     わたしは一度に4600万ヘクタールの森を燃やせました。
     これはわたしの半生で一番の記録です。

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     そんなわたしの努力がエルフの中で
     高い評価を得るのは当たり前のことでした。

     燃える森インフェルノの悪夢ナイトメア。
     それがわたしがいただいた2つ名です。
     2つ名をいただくエルフはほとんどいません。
     私の記憶では他は全員猟奇殺人鬼ですので、
     まともなエルフでの2つ名持ちは世界に私1人だけです。

     此度の魔王討伐の任にも女神様の指名に加えて
     長老様方満場一致で選んでいただき、
     二度と帰るなとありがたいお言葉をいただきました。

     死んだエルフは森に帰る。それを帰るなとはつまり、
     わたしにかける期待の大きさであり
     絶対勝利を信じた激励の言葉なのです。

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     こうしてはじまった勇者君との旅。
     範囲攻撃の苦手なわたしは
     頻繁に勇者君や騎士さんを巻き込んでしまいましたが
     他のみなさんのサポートで
     たくさんの魔族を燃やせました。

     僧侶さんは特にわたしに良くしてくれました。
     特に、火山のまわりに広がる毒ガスの一部が
     火により爆発的に燃えると教えてくれたことが大きく、
     ダンジョン内にガスを送った後に火を放つことで
     より効率的な攻撃ができると知ったのは大きな発見です。
     わたしの学びはまだまだ尽きません。

    「ふふっ……ふふふっ……」

    「なぁあんちゃん」
    「どうした?」

    「エルフのねーちゃん、わいらの味方で良かったな」
    「それは本当にそう思う」

    「敵だと困るのはそうなんやが、
     それ以上にあのねーちゃん。
     魔族と戦ってなければ、放火魔か爆弾魔になってたで」
    「音楽が彼女を救ってくれていたと思いたいよ俺は」

     ともあれ、わたしは幸せものです。
     心が綺麗で優しく素晴らしい人間のみなさんとの旅で
     魔族を生きたまま焼き払えるのですから。
     熱に喘ぐ魔族の声は、至高の音色ラウド・ロック。
     森が焼け落ちる音ヘヴィ・メタルの次に好きです。

    「あ、ダメそう」
    「何がや?」
    「音楽でもメイさんは救えなさそう。
     今、なんとなくそう直感した」

     そんなある日。とある古代遺跡の探索が
     わたしにさらなる飛躍をもたらしました。

    「随分と古い遺跡だな……」
    「数千年前にこの地に繁栄していた先史文明の遺跡ですね。
     この平らな石の壁や透明なクリスタルの板が特徴です」

    「オニワバンの任務で遠目に見たことはあったが、
     中に入るんははじめてやなぁ」
    「なんでだろう。ドラゴニアスの住む岩山とは
     まるで違うのに、何故かとっても懐かしくて
     心が落ち着くような気がするよ」

     そんな古代遺跡の奥でわたしは、
     奇跡的に風化を免れていた魔導書を発見します。

    「ロスアラモス……マンハッタン……」
    「読めるの!? メイさん!」
    「少しだけ……でも全然意味がわからない」

     魔導書の内容はほとんど理解できませんでした。
     しかし、その中にあった絵に
     わたしはインスピレーションを受けます。

    「精霊の絵だ……」
    「精霊? これが?」

    「うん。たくさんの手と雲を持つ精霊」
    「手と、雲……?」

    「うん。雲の中にはさらに小さな精霊がいるの」
    「よくわからないな……」

    「92個の雲……
     その精霊の数が増えていく……
     そんなことができるの……?」
    「うーん、俺にはさっぱりだなぁ……」

     わたしがぶつぶつと仮定を呟きながら
     魔導書を解読していると、
     外で警戒していた盗賊君が遺跡に駆け込んできます。

    「やばいであんちゃん!
     凄い数の魔族や!」
    「なんだって!?」

    「ついにあたし達を危険な存在と
     認めてくれたようだね……!」
    「しかし数がいるのは面倒ですね。
     エルフちゃん、お願いできますか」

    「精霊に精霊をぶつけて精霊を増やして、
     増えた精霊をさらに別の精霊にぶつける……」
    「エルフちゃん、後にして。
     今はここを切り抜けるわよ」
    「あっ! ご、ごめんなさい!」

     後ろ髪をひかれつつ、とりあえず数冊の魔導書を回収し
     外に出たわたし達を待っていたのは……

    「……まじかよ」

     砂漠の地平線を埋めるほどの魔族の大軍勢でした。

    「……どうする? 勇者サマ」
    「逃げる」
    「なんだって!? あたいは戦うぞ!」
    「落ち着けドラちゃん。
     こいつの判断は正しい。
     いくらなんでも多勢に無勢や」
    「はわわわわ!
     みなさん集まって! 集まって!
     とりあえず出来るだけ遠くにテレポートしますので!」

     即座に撤退を判断する勇者君の判断は多分正しい。
     わたしもあんなに多くの魔族を見たことはなかったので。
     燃やし放題とはいえ、全力の火災旋風でも
     あの数は流石に分が悪いと言わざるをえません。

     しかし……

    「妖精さん、テレポートの用意を」
    「もうしてます!
     はやく手につかまって!」

    「流石です。でもちょっと待ってください。
     試してみたい魔法があるんです」
    「こんな時に何を!」

    「いや、少しでも数を減らすのはいい判断だ。
     だけどメイさん、1発だけだ。
     全力の1発を詠唱したら、
     着弾を見ずにテレポートするぞ!」
    「わかった」

     わたしは深く息を吐いて、精霊に意思を伝えます。
     しかしそこでわたしは生まれて初めての経験をしました。

    (精霊が、拒絶を返す?
     世界が滅びる?)

     ごくりと息を飲みつつも、
     わたしは精霊にもう一度命令します。

    (知らない。ここでやつらを滅ぼさないと……
     やられるのは、わたし達だっ!!)

     精霊も渋々お願いを聞いてくれるとのこと。
     わたしはお礼を言った後で、
     魔導書に記された詠唱を行います。

    「我は死なり! 世界の破壊者なり!
     古代魔法、APOCALYPSEアポカリプス!
     いっけぇぇぇぇええええ!」
    「飛ぶぞティカ!」
    「はいっ! テレポート、いきまーす!」

     こうしてわたし達は妖精さんの力で
     数百kmの距離を移動したのですが……

    「……なんや、あれは」
    「火のキノコだ……」
    「エルフちゃん、まさか……」
    「あれは、君が……?」

     わたしは小さく、首を縦に振りました。
     こうしてわたしは、おそらく今この世界で
     わたしだけの独自の魔法技術体系。
     核分裂魔法スキルを習得したのです。

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     そんな危機を乗り越えて、今。
     わたし達のパーティに新たな危機が訪れます。

    (わたし達の中に、裏切り者がいる……)

     わたしはとても信じられませんでした。
     勇者君も、盗賊君も、僧侶さんも、騎士さんも、
     おまけの妖精さんも、みんなとてもいい人です。
     魔王の手先になっているなんて、
     わたし達を裏切ろうとしているなんて、
     絶対にありえません。

     だけど、もし。
     もしも本当に誰かが裏切っているなら。
     その方にはきっと、その方なりの思いがあるはず。
     正しさがあるはず。

     そしてなによりその人は、孤独なはず。
     裏切りに成功しても、失敗しても、
     必ずひとりぼっちになるはず。だから……

    (もしもわたし達が仲間割れをするなら、
     わたしは裏切った方に。
     数が少ない方につきます。
     どうせ戦いになってしまうなら、
     私は数が少ない方がいい。何故ならば……)

    ――わたし、魔道士メイは、
      範囲攻撃魔法が苦手だからです。

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    0-7:女神クリアについての考察(from妖精ティカ)

    「…………」

     …………

    「…………」

     あの。

    「……ちょっと待って」

     はい。

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    「……よし」

     ……?

    「よし。よしよしよしよし!
     行けっ! いけるっ!
     お前はやれるっ!
     私はお前を信じてる!
     今日こそ! 今日こそだ!
     差せッ! 差せ差せ差せ!
     あっ! ああっ! ああああああ!」

    画像

    「差しすぎだぁぁぁぁああああ!!」

    画像

    「…………」

     …………

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    「……ふぅ」

     …………

    画像

    「はわわわっ!
     何か私に御用でしょうか!?」

     なるほど、
     ちょっと頭がおかしいだけのマスコット。

     ……ちょっと?

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    「あ、はい。そうでしたね。
     女神クリア様に関するお話と
     私の自己紹介でしたね!
     私は女神クリア様より勇者一行の
     サポートを任されました
     妖精種のエリート中のエリート!
     かわいく優秀なティカちゃんです!
     きゃぴっ☆」

     なお本編の登場キャラクターは
     『自分は裏切り者ではない』と
     『知らない』以外の嘘は
     つかない仕様となっている。

     一見すると嘘にしか見えないものは、
     すぐに嘘であると露呈するケース。
     もしくは、本人がそれを
     完・全・に・真・実・だ・と・信・じ・て・い・る・場・合・の・み・だ。

     といっても、これが完全な誤りかというと
     そうでもないのだろう。

     勇者パーティは彼女のテレポート能力に
     何度も助けられており、
     戦闘中以外ならほぼ無尽蔵に使用できる
     回復スキルに加えて、
     死亡後すぐ、かつ傷が大きくなければ
     応急蘇生魔法も使用できる。
     まさに勇者パーティーの縁の下の力持ちだ。

     それを考えれば、ちょっと頭のおかしい
     ギャン中、アル中、ヤニ中であっても
     まぁそこまで気にすることはないのだろう。

     ちなみに彼女にとってのギャンブルは
     カネを増やす手段ではなく
     スリルを楽しむ遊びである。
     普通に硬い賭け方をすれば
     ほぼ確実に収支をプラスにできるだけの
     頭脳もあることは付け加えておこう。

    「さて、ご納得いただけたようですので、
     我らが世界の女神にして、
     勇者のみなさんを選んだ慧眼を持つお方、
     女神クリア様に関してお話をさせていただます」

    「といっても、話せることは
     そこまで多くありません。
     クリア様は現世に直接介入はできませんし、
     人の子に力を与えることもできません。
     ただ、人の『才』を見抜く力に長けており
     クリア様に選ばれた以上、
     私達より個々のポテンシャルが高い者は
     現在この世界にはいないということです」

    「そんなクリア様の性格は、
     一言で言えば善性の塊です。
     決して悪意を持つことがなく、
     不正を嫌い、どこまでも人を信じるお方。
     ようするに……」

     ふっ、とティカの雰囲気が変わり。

    「世間知らずのバカですね」

    画像

    「人間ってそんな綺麗な生き物じゃねーんですよ。
     引きこもりで外の世界を知らない箱入り女神が。
     愛とか正義とか、そんなものより
     欲望と狂気の方がよほどデカい力があんですよ。
     魔王の存在だって、強大な敵がいるからこそ
     世界が戦争をせずに1つにまとまれてる。
     本質がなんもわかってねーんです。
     あんたがその『才』を見抜く目で選んだ6人が
     全員クズって時点で気付けないんですかね」

     はぁぁぁぁと、クソデカため息をついた後。

    「ともあれ、私達が『腕だけで言えば』
     最強勇者パーティであることは間違いない。
     私達は魔王を倒・せ・て・し・ま・う・んです」

    「だからこそ、裏切り者の存在は
     世界を正しく維持する鍵かもしれません。
     綺麗すぎる水に魚は住めない。
     女神クリア、あんたはそれがわかってねーんですよ」

     ここで話を打ち切って、カチッとライターを響かせ。

    「……ふぅ」

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    「では私、今日はオフなので。
     高設定台に並んできます。
     何かありましたらテレポートしてきますので」

     そう言い残して森の中に吸い殻と
     空いた酒瓶と割れた通信水晶を残し
     妖精ティカは姿を消すのだった。

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     ……改めて、勇者パーティを紹介しよう。

     勇者ヒイロ。
     徹底した合理主義のマキャベリストで、
     本物の勇者の兄を殺した偽勇者。

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     盗賊シール。
     超のつく守銭奴であり、
     カネ次第で平然と味方を裏切る。

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     僧侶スターシ。
     優生主義で享楽主義の邪神の信徒であり、
     趣味は異端審問と神の名の下の浄化。

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     騎士イット。
     思春期で家出した魔王の娘であり、
     その素直すぎる直情で暴走突撃する。

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     魔道士メイ。
     純にして無垢な心から力と炎に酔い、
     一度世界を破滅させた禁断の魔術を操る。

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     妖精ティカ。
     女神クリアを堂々とバカと批難し
     人の邪心を全肯定するギャン中アル中ヤニ中。

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     この中に一人、魔王の手先がいる!

     ……ひとりだけぇ?


    第1章:賢者殺人事件編

    1-1:現場検証・遺体解剖

     賢者ハイセの予言。
     アカシックレコードにアクセスし、
     確実な「真実」のみを語るその言葉に
     間違いはありえない。

     魔王城を目前にした勇者パーティは、
     ハイセの元を訪れ予言を求める。
     勇者ヒイロの口から出た質問内容は。

    ――魔王を倒しに向かう勇者達が
      敗北する可能性要素は残されているか?

     合理主義のマキャベリストであるヒイロは
     石橋を叩いて壊して鉄橋をかける男だ。

     十分すぎるほどのレベリング、
     寄り道を重ねて後方の憂いを絶つ、
     魔王軍の動向についての徹底した情報収集。

     ほぼ確実に魔王を倒せる状況を整え、
     それでもなお万が一を嫌う。
     これは盗賊シールが彼を恐れると同時に
     頼もしく思うのも頷けるだろう。

     そして、この質問に対して返された予言が。

    ――あなた達の中に一人、
      魔王の手先が紛れ込んでいます。
      その者は人類を裏切り、勇者を殺します。

     この言葉だったという話。
     つまり、潜んでいる魔王の手先は
     魔・王・に・敗・北・す・る・要・素・に・な・っ・て・し・ま・う・の・だ・。

     予言は一問一答。
     当然一同は次の質問を求める。
     すなわち「その裏切り者は誰か?」と。

     次の予言を行うため、
     魔力回復の個室で瞑想に入っていたハイセ。
     彼女が殺されたのはその密室の中だった。

     ハイセが時間になっても戻らないことと
     不思議に思った妖精ティカが、
     鍵のかかった個室にテレポートで飛び込むと、
     そこには血を吐いて息絶えていた
     賢者ハイセの亡骸があったという話だ。

    (((((そりゃ口封じするよなぁ……)))))

     当然そうなるという納得。
     それは日頃から邪な発想に慣れていない
     騎士と魔道士ですら至れる当然の帰結だった。

     では逆に言えば。
     何故彼らはこの展開を予期していながら
     防ぐ手を打たなかったのか?

    (裏切り者の正体は盗賊シールだ。
     裏切っている理由はカネ。
     ならばカネで裏切り返せるわけで、
     その際に手に入る魔王の情報は
     まさに値千金の価値がある……
     こいつは大切な仲間コマだ。
     故に全員の前で答えを表にはできない)

     というのが勇者ヒイロの理由。

    (裏切り者の正体は勇者ヒイロのあんちゃん。
     あんたには闇落ちの要素が揃ってるんや。
     しかし、あんちゃんを欠いては
     魔王は倒せんし、仲間割れが始まれば
     そっちに着くエルフのねーちゃんもあって
     わいらは絶対に勝てないねん……
     今答えが明かされたらわいらは終わりや)

     というのが盗賊シールの理由。

    (裏切り者の正体は騎士のイットちゃん。
     あなたは魔王の家出娘だものね。
     けど、パパを愛するあなたの素直さは、
     魔王を倒す以外の方法で戦いを終わらせる鍵。
     世界は力ではなく愛で完結するの。
     だから今は答えを明かさない。
     そしてあなたも、面倒なことを言わないで)

     というのが僧侶スターシの理由。

    (裏切り者の正体は僧侶スターシ。
     こいつは邪神の狂信者で、
     クソオヤジ並に危険な人間。
     あのキモ野郎がそうであるように、
     こいつも自分の危機となれば本性を表し
     あたいを道連れにしようとするはず。
     だからこいつはあたいが事故に見せかけて
     穏便に始末する以外にない)

     というのが騎士イットの理由。

    (よくよく考えたらそうでした!)

     で、魔道士メイと。

    (まぁ裏切り者は居た方がいいですし)

     妖精ティカである。

     だが、それはそれとして。

    「……賢者様を殺したのも
     俺達の中の裏切り者か。
     どうにかこの凶行の犯人を
     突き止めなければな」

     と、言わざるをえないのが、
     勇者の対面性で。

    「……そうやな」
    「えぇ、そうですね」

     その対面性にあわせるのが
     盗賊と僧侶で。

    「当然だっ!
     人を殺して許されるものかっ!
     絶対に反省してもらう!」
    「はい! 必ず犯人を突き止めましょう!」

     純粋に答えるのが騎士と魔道士。
     もっとも、騎士の発言は
     半分が当てつけなわけだが。

    「ティカは?」
    「今日はシフト外やな」
    「じゃぁ仕方ないか……」

     このあたりは今日も平常運転。

     勇者の過ぎた合理的な戦略を肯定し、
     盗賊に友達料を支払い、
     僧侶の虐殺を見てみぬふりし、
     騎士と魔道士の素直さをそのまま受け入れる。
     ここまでに彼らが培った絆とはつまり、
     一線を越えない不干渉協定なのだ。

    「よし、では死体を解剖しようか」
    「もうやっとるで」
    「死因は毒ね。もう少しでさらに詳細な……」

     と、平然と美しい賢者の亡骸に
     無礼を成している3人だったが。

    「……さようなら、賢者様。
     どうか、安らかに。
     美しき炎よ、かの魂の滅却を」

     謎を解く鍵とも言える遺体を、
     直前まで瞑想していた部屋ごと消し炭にする
     魔道士メイであった。

    「ああああああああああ!
     ちょっとメイさん何してくれてんのぉ!?」
    「そうやでねーちゃん!
     犯人を探す鍵がパーやで!」
    「あなたがせずとも、埋葬の儀はちゃんと
     私が後でするつもりでしたのに……」

     当然のように魔道士に詰め寄る3人だが。

    「……勇者君、盗賊君、僧侶さま」
    「「「……っ!?」」」

     魔道士の冷たい目線が、3人を威圧し。

    「いかに御三方と言えども、
     死者の亡骸をこれ以上辱めることを
     わたしは見過ごせません」

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     このド正論に勇者と僧侶は。

    「……そうだったな、すまない」
    「そうね、ごめなさい」

     対面性と主義から謝らざるをえず。

    「わ、悪かった! 悪かったて!
     だから魔力の練成はやめい!
     やめいな! な!?」

     盗賊は命の危機を感じて謝罪する。

    「わかってくれればいいんだよ」

     こうして、密室殺人ミステリーが始まったかと思えば
     犯行現場とその遺体、
     すべての推理材料が消し炭になるホットスタート。
     一体ここからどうするというのだろうか?


    1-2:勇者と僧侶の情報交換

     すべての物的証拠は消し炭となった。
     ならばもうここで足を止める意味はない。

     魔王の玉座を守るべく険しい渓谷に建造された
     堅牢な魔要塞を抜け、最後の樹海を抜けた先。
     魔王城はもう目と鼻の先だ。

     賢者の言葉で語られた裏切り者の存在は
     あくまで敗北する可能性要素。
     解決しなければ必ず負けるという話ではなく
     逆に言うならそれ以外で負ける要素はない。

     ならば足を進めよう。
     その上で道中にて個々から事情を聞き出し
     賢者殺人事件の真相を暴く。
     それが彼らのひとまずの結論だった。

     魔道士と妖精以外の4人は
     既に裏切り者の目星をつけている。
     しかし、決定的証拠はまだない。

     今回の賢者殺人事件は
     裏切り者がはじめて堂々と動いた一件だ。
     しかもこの殺人は、
     予想外の形での裏切りの露呈から
     短いタイムリミットの中で行われた
     突発的犯行。必ずどこかにア・ラ・があるはずだ。

     裏切り者が目星をつけたものなら、
     入手した決定的証拠から脅迫し、
     穏便にことを解決する。

     そして、もしも目星をつけた人物とは
     別の犯人像が浮かぶようなら
     早めに軌道修正をかけ、
     次の一手を考えねばならない。

     もしこれが一般的な推理小説ならば、
     登場人物はみな、当たり前にこう考える。

    『殺人犯と同じ場所にいられるか!
     俺は一人になるぞ!
     誰とも会うつもりもないぞ!
     殺人犯かもしれないやつとも
     話なんかできないからな!』

     しかし彼らは曲りなりにも
     世界最強級の勇者御一行様。
     1対1なら己の身を守れる自信があったし、
     全員でいれば互いの凶行を監視できた。

     つまり、問題はそれ以外。
     特に3人がまずい。
     1対2の状況が作られれば終わりなのだ。

     と。ここまでを前提としての道中。
     賢者殺しの犯人を探すための
     事情聴取が始まる。

    「で、話を聞かせて欲しいんだ、スターシ」

     勇者ヒイロ。
     彼が話を聞きに行ったのは僧侶スターシだった。

    「一応聞きますけど勇者サマ。
     私を疑っているということでよろしいのかしら?」
    「そうだな。スターシも・疑ってる」
    「ふふ……流石ね、勇者サマ」

     僧侶にしてみれば模範解答だった。

     犯人でない自分を疑っているというなら
     勇者の人を見る目を疑わざるをえない。
     一方で、まるで疑っていないのなら、
     それはそれで能天気と言わざるをえない。

     犯人かもしれないという疑念をゼロにはせず、
     その上で自分に話を聞きに来た。
     その理由は……

    「断片的に遺体を調査した結果。
     その死因の毒の情報を聞きに来た」
    「流石だ、スターシ」

     勇者にしてみても、これは模範解答。

     疑われたことから弁明するでも逆上するでもなく、
     疑われるのは当然とした上で、
     何故確信的に疑われているわけでもない自分に
     最初に話を聞きに来られたのか。
     それを俯瞰的視点から考察できた僧侶は、
     勇者にしてみれば本当に頼りになる相手だ。

    ((だからこそ))

     2人は同時ににやりと笑うと同時に
     冷や汗を流す。

    ((こいつが裏切り者だと、まずい))

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    「……それで?」
    「はい。毒についてですね」

     2人はお互いの心の内を理解した上で
     小さく深呼吸を挟み
     頭のリセットボタンを押した上で、
     情報交換を開始する。

    「完全な調査が終わる前に
     遺体が燃やされてしまいましたので、
     詳細・確実な情報ではありません」
    「それはわかってる。
     だが毒は盛られていて、
     それが死因ではあったのだろう?」

    「毒は盛られていました。
     しかし、死因とは限りません」
    「というと?」

    「盗賊の坊やが遺体を解剖していました。
     その直前に私は、解剖される前から
     ついていた刺し傷を見ています」
    「それが死因だったかもしれない、と」

    「使われた毒の致死性は高く、
     毒だけでも死んでいたはず。
     ただ、賢者様に毒耐性がないとは限らない」
    「イットのようにか……」

     騎士イットは呪いと毒への完全耐性がある。
     騎士本人はドラゴニアスの種族特性だと言い
     僧侶以外はその言葉を信じている。

     が、僧侶はそれが彼女の悲しい生まれと
     周囲に敵しかいなかった幼少時代故と知っている。

     僧侶はそこに愛故の憐憫を覚えており、
     騎士が魔王の娘だという真実を語ることこそあれど、
     呪毒耐性の秘密に関してだけは誰にも話すつもりがない。

     歪んだ狂信の中に生きる僧侶だが、
     その口から語られる『愛』は
     完全な邪悪ではないということだ。

    「加えて、毒が先か、刺し傷が先かはわからない」
    「犯人が念を入れて両方の方法で
     殺そうとした可能性と……」

    「そう。3・人・のうちの誰かが、
     それぞれ賢者を殺そうとした可能性がある」
    「3人? 刺したやつと、毒を飲ませたやつの
     2人じゃ……はっ! そういうことか!」

     気付いた勇者に僧侶は頷く。

    「なるほど。あなたの思う本命は
     盗賊の坊やということね。
     だから今このタイミングで気付いた」
    「……まぁな」

     賢者は誰かに刺され、毒を盛られ、
     その死体を盗賊が解剖した。

     だが、解・剖・さ・れ・た・の・が・死・体・だ・っ・た・と・は・限・ら・な・い・。

    「解剖の名目でトドメを刺した……」
    「可能性だけどね」

     と、ここまでは僧侶の考察に
     勇者が追いついた形。

     だがここで、勇者は僧侶を超える。

    「……3人じゃない。4人……
     いや、1人だ」
    「というと?」

    「スターシ、君自身が一番わかっているはず。
     もし君があの時、イットを蘇生していなければ、
     君は賢者を蘇生する魔力が残されていたはずだ」
    「無理よ。いくら私と言えど、
     いえ、私以上の回復蘇生魔術の使い手だとしても。
     燃えて消し炭になった賢者様の蘇生は……ハッ!」

     勇者は頷いて。

    「蘇生術の使い手が世界のどこかにいる以上、
     賢者にトドメを刺したのは魔道士、メイだ」

     これが賢者殺人事件の最終的結論。
     少なくとも賢者を殺したのは魔道士メイである。

     が、しかし……

    「けど、勇者サマはその結論を受け入れない。
     エルフちゃんは本当に遺体に敬意を払って
     完全な善意で遺体を焼いただけのこと。
     賢者様を殺そうと意思を持って動いたのは
     直前までの3人の内の誰か。
     少なくとも、エルフちゃんが裏切り者だとは
     思っていない、と」
    「あぁ。それは、スターシ。君もだろう?」
    「…………」

     沈黙は肯定だった。
     魔道士はただ火力キチなだけ。
     その行動理念に悪意はない。
     これは全員の共通見解だ。

     しかし、ここで勇者は僧侶の沈黙から
     別の意図を見出す。

    「俺のこの結論は本命と合致していない。
     そう、俺の本命は盗賊シールだ。
     だがスターシ、君の本命は違う。
     そして、その推理内容は
     賢者の殺し方と合致していない。違うか?」
    「……流石ね、勇者サマ」

     僧侶は降参とばかりに両手をあげて首を振り。

    「一応私は私を犯人じゃないと知ってるから
     それを除外した上で語らせてもらうけど。
     毒を盛ったのは勇者サマか妖精ちゃんか盗賊の坊や。
     あの子なら毒を使わない。
     刺したのも勇者サマか妖精ちゃんか盗賊の坊や。
     あの子なら刺し傷はもっと派手になる。
     その後で盗賊の坊やが解剖し、
     エルフちゃんが燃やして終わらせた。
     ここまでが裏切り者が口封じのために動いた
     賢者殺人事件の犯行だとすれば
     この犯行そのものが、私には納得できないの」

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     ここまで言えば勇者にも
     僧侶の本命が騎士イットであることはわかる。

     勇者の本命は盗賊で、動機はカネ。
     その解決方法として、
     既に支払われた額以上を支払うことを考えており、
     ここで僧侶からカンパを求めるのが
     彼の最終的な目論見だった。

     だが僧侶の本命は騎士。
     勇者としては魔道士と同じくらいには
     ありえないと推理から除外していた人物。

     その上で今の僧侶の目からは
     その本命に至った理由は絶対に話さないという
     強い信念のようなものが感じられた。

     ならばもう盗賊が犯人だと説明し
     カンパを求めても僧侶は頷かないだろう。

    (まずいな……)

     ここに至って勇者は、改めて覚悟を決める。

    (この一件、複雑な事情が絡み合いすぎている。
     俺達が今まで、一癖も二癖ある仲間を
     半端に理解した気になって一線を越えないままに
     旅をしてしまったツケが……
     今、俺達全員に請求されているんだ)

    画像


    1-3:盗賊と騎士の結託

     馬車から離れ、
     聞き耳も届かない距離で
     2人会話する勇者と僧侶。
     その後姿を盗賊が悔しそうに見る。

    (流石や、勇者のあんちゃん。
     足の速さではわいがパーティ最速でも、
     頭の速さではあんちゃんが最速や。
     僧侶のアネさんに手をつけるのが
     一歩……遅かったわ)

     盗賊シールは、
     勇者を裏切り者と見ると同時に
     最大限の危険視を向けていた。

     同時に僧侶のこともまた、
     その頭のキレの良さから危険視している。

     勇者が裏切った理由は合理的判断。
     そして、その言葉に最も共感してしまう
     可能性が高いのが僧侶だった。

    (下手するともうここで、
     あの2人に共謀されたか……?)

     冷や汗を流しつつここからの
     逆転の手を考える盗賊。
     その背後から近寄るのが……

    「なぁ、シール」
    「ん? どうしたドラちゃん。
     なんかわいに用か?」

     ドラゴニアスの騎士イット。
     その表情には迷いと不安が見える。

    「シールじゃ……ないんだよな?」
    「賢者様を殺したのがか?」

    「うん。それと、裏切り者も……」
    「わいとちゃうで。
     ドラちゃんもやろ?」
    「うん……」

     と、優しい笑顔で返しつつも。

    (ま、誰にしたって同じやけどな、今の話。
     誰も自分が犯人だなんて言わんわ)

     そうため息を挟んだ後で、気付く。

    (待てよ?
     ならなんで、そんなこと聞いた?)

     改めて騎士の顔を見る盗賊。
     表情から伺えるのは、迷いと不安と、
     プラスのなにか。

    (……好かれとるとはちゃうな)

     ちゃうんとちゃうわ。

     勇者のことをどーてーと小馬鹿にしていたように
     盗賊には房中術の覚えがあるし、
     その前提の恋愛経験もあった。
     では何故彼は騎士の思いに気付けないのか?

     その答えは、魔族である騎士が盗賊に向けるのは
     恋愛感情というよりも生物的発情であり、
     彼女はその背中に隠した触手をもって
     人間とは致命的に異なる方法で
     盗賊のカラダを求めているため。
     その表情も雰囲気も、ごく普通の女性が向ける
     恋愛感情とは微妙に異なるものだったのだ。

    (この表情は、好かれてるんとちゃう。
     ありえへん。だってその表情は
     好いた男に向ける顔やない……)

    ――う・ま・い・メ・シ・喰・う・前・の・顔・や・!

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    「シール……シールは、
     勇者とも魔道士とも僧侶とも違うよね?」
    「そりゃそうやで。わいはわいや」

     多分そういう質問じゃない。

     そもそもだが、
     他の3人がジョブ名呼びなのに
     君だけ名前呼びなあたりから
     気付いてやってもいいはずなのだ。

    「うん。あたい、
     シールのこと信じてるから」
    「ははは! わいもやで!
     わいもドラちゃんを信じとるで!」
    「!!」

     この、告白が通ったかに見えるやり取り。
     しかし双方の今の心の内は。

    (シールもあたいのこと、好きだったんだ……!)
    (騎士の盾を信じずして戦えるわけないやろがい)

     致命的なすれ違いを無視して高鳴る騎士の心。
     その乙女がさらなる一言を求めてしまう。

    「シール、あのさ……
     あたい、かわいいかな?」
    「うん? ははは!
     なにいうとんねん!
     ドラちゃんはかわいいやろ!」
    「!!」

     改めて2人の心の内は。

    (あたいのこと、かわいいって言った……!
     ちゃんとあたいで発情できるんだ……!)
    (ほんまドラちゃんはかわええなぁ。
     小さい頃飼っとったわんこを思い出すで)

     もはやこいつが裏切り者でいい気もする。
     少なくとも女の子の気持ちに関しては
     全力で裏切っているのだから。

    「しかしドラちゃん。
     こんなことがあってドラちゃんは
     いつも通りに戦えんのか?」
    「え?」

    「敵の攻撃からわい達の盾に
     なれるんか聞いとるねん」
    「シールは守れるよ!」

    「わいは、か。エルフのねーちゃんや
     勇者のあんちゃんや僧侶のアネさんは?」
    「魔道士は……
     後衛範囲火力は優先的に守らないと、
     パーティ戦略が瓦解する」

    「そやな。騎士の基本や。で?」
    「勇者と僧侶は……その……」
    「……なるほどな」

     すぅ、と息を整えて。

    (本命は、わいと同じか)

     僧侶に関して言えば、その通り。
     彼女は僧侶の本性を知っている。
     邪神の狂信者であるその本性を。

     その一方、何故騎士は勇者に不審を向けるのか。
     その理由は……

    (勇者の力……
     クソオヤジを殺せる唯一の力。
     その力で後ろから斬られたら、
     あたいに生き残る術はない)

     生物的本能からの恐怖だった。

     が、この事実に関しても
     盗賊は別のものを見てしまう。

    (わいらのジョブ構成なら
     騎士は基本的に
     後衛の魔道士と僧侶の盾になる。
     前衛でもわいは滅多に当たらんし、
     あんちゃんはそもそも
     騎士に次ぐ防御力がある。
     だが、それにしても……
     思・い・返・せ・ば・ド・ラ・ち・ゃ・ん・が・あ・ん・ち・ゃ・ん・の・
     盾・に・入・っ・た・こ・と・が・ほ・と・ん・ど・な・か・っ・た・)

     それは勇者に背中を見せられない、
     魔王の娘の本能だったのだが。

    (僧侶のアネさんを怖がるのは、
     こないだ一度死んだからや。
     流石に死の恐怖は強烈だったんやろな。
     が、あんちゃんを守らないのは、
     わいと同じで、わかっとるからや。
     あんちゃんの、危険性を。
     アホ……もとい、素直ないい子のドラちゃんは
     それを雰囲気から感じ取ってるんや!)

     一瞬アホとか言った時点で
     盗賊からの男女の好感度がフラットなことがわかる。
     かわいい子だとは思っていても、
     そのかわいいの意味が致命的に違う。
     盗賊は騎士のことを、デカくて人語を話す
     ゴールデンレトリバーくらいしか見ていないのだ。

     そもそも彼の好みはおねーさんであり、
     あえて言うなら一番のタイプは僧侶。
     あくまで顔と体だけで言うならだが。
     流石に彼も僧侶の危険性を
     直感的にはビンビンに理解していた。

    「もしかして、シールも……」
    「ん、あぁ。わいもあの2人は苦手やな」
    「やっぱり……」

     少なくとも同じ敵を共有する2人。

     その上で騎士は盗賊を信頼している。
     その理由は言うまでもなく片思いの恋愛補正。

     一方で盗賊も騎士を信頼している。
     その理由は。

    (このアホの子に裏切りとかそういう
     複雑で高度なムーヴができるわけないやろ)

    画像

     と、そんな絶望的すれ違いを見せつつも。

    「……なぁ、ドラちゃん」
    「なに?」

    「この先なにがあっても、
     わいのことだけは信じてくれへんか?
     わい、ドラちゃんになら
     なんでも話すさかい……ダメか?」
    「っ!! う、うん! 信じる!
     あたいシールを信じる!
     シールにならなんでも話すよ!」

    「そっか……ははっ!
     そうかそうか!
     今後ともおおきになドラちゃん!」
    「こちらこそだよシール!
     あ、これ今月の友達料だよ!」
    「まいど!!」

     こうして勇者と僧侶が結託したと
     勘違いした盗賊は、
     騎士と結託するに至る。

     一方の騎士は盗賊と結託したつもりはない。
     彼女にしてみればここで、
     盗賊とは恋仲になったつもりなのだ。

     もしもここを僧侶が見ていれば
     こんな絶望的なすれ違いは起きず、
     盗賊は即座にフレイルで脳天をかち割られた後で
     おざなりな蘇生魔法がかけられていたはず。
     しかし今ここに僧侶の目はない。

     魔王の娘、騎士イットよ。
     もしもこの旅が無事に終わるなら
     君にはこのショタを孕み袋にする権利がある。

     そしてもしも盗賊に逃げられたなら、
     平和な世界で君は注意して生きねばならない。
     君には絶対に足を踏み入れてはならない場所がある。
     ホストクラブってところなんだけど。


    1-4:魔道士と妖精の推理

    「みなさんどうしてこそこそお話しを
     はじめてるんでしょうか?」
    「賢者様を殺した犯人を探してるんだと思うですっ!」

     今までと違うパーティ内のぴりぴりした雰囲気に
     寂しそうな表情をする馬車の中の魔道士。
     そんな彼女に御者務めていた妖精が
     能天気な平常運転を返す。

    「なるほど!
     みなさんが探してるなら
     きっとすぐ見つかりますね!」
    「あはは! そうですよそうですよ!」

     これにさらに魔道士からの能天気な返し。
     結局のところこの娘は底なしのいい子である。
     ちょっと放火が好きなだけで。

    「でもわたしも少し
     考えてみようと思います。
     お付き合いいただけますか?」
    「はい喜んで!」

     と、ここから余り物2人の推理ごっこが始まる。

     そもそも今回の一件、
     証拠物件がすべて燃えている上に、
     全員がそれぞれの腹に何かを抱えている状況。

     賢者にトドメを刺してしまったのが
     結果的に言えば魔道士だったという
     意味のない結論には至ったものの、
     賢者を刺し、毒を盛ったのが誰かなのかという
     最も重要な謎には誰も至れていないし、
     至れるはずもないように思えた。

    「最初の予言を貰ってから
     殺されてるとこが見つかるまでの間、
     誰がどこで賢者様と会っていたかわかれば、
     推理も簡単になると思うんですけど」
    「あ、私わかりますよ」
    「なら簡単ですね!」

     と、まさかのジョーカー。
     全員が能力的にも動機的にも
     完全にスルーしていた妖精ティカが、
     謎を解く鍵を普通に持っていたのだった。
     というのも。

    「ほら、私みなさまのテレポートを担当してるので。
     みなさまそれぞれがどこに居るのか、
     半径50m圏内ならわかるんですよ」
    「なるほど!」

     妖精がこれを表に出していれば、
     特にこの情報が勇者か僧侶か盗賊に届けば、
     スマートな解決も見えたかもしれないというのに。
     それがわかって言い出さなかった理由は。

    (私は犯人見つからない方がいいと思ってますし、
     賢者様は死ぬべきでしたし、
     女神様もそういう人の複雑な闇も知るべきなんです。
     大丈夫ですよ、みなさんならもうこのくらいで
     魔王に負けることはありませんって)

     という確信犯で。

    (それでも一応サポート妖精として
     手伝ってる体裁は取らないとですし、
     騎士様と双璧を成すアホの子の
     魔道士様なら話しても大丈夫でしょう)

     という二重の舐めプである。

    「えっと、確か賢者様は毒殺されたんですよね?」
    「はい。あと、刺し傷もあったみたいです。
     どっちが致命傷になったのかはわかりません」

    「でも犯行現場は密室だったんですよね?」
    「そうですね。もう燃えちゃったので、
     本当に密室だったかはわかりませんけど」

    「毒はあらかじめ盛られたかもとして、
     刺されたのは密室の中ですよね?」
    「何か遠隔的なトリックがあったの
     かもしれませんけどね。もう燃えてますけど」

    「で、賢者様に近付いたのは?」
    「全員ですね。それも5人全員1人ずつ。
     直接飲み物や食べ物を渡したかまでは
     わかりませんけど、近くの飲み物に
     毒を入れるくらいはできたはずですね。
     遅効性の毒なら、会った順番も関係ないですし、
     最後に会ったのは魔道士様です。
     その時刺されてる痕跡ありましたか?」
    「なかったなぁ」

     やはりそううまくは進まないもの。

     ここで1人でもチャンスがなかったとかなら
     消去法が1つ進んだというのに。

     そもそもせっかくの密室トリックにしても
     燃えてしまった今、ノーヒントどころか
     解決の糸口自体が存在しないのだ。

    「やっぱりなんにもわからないですね!」

     と、最低限のサポートの仕事は
     こなしましたよと話を終えようとする妖精だが。

    「でも、犯人が誰かは簡単ですよね。
     とってもシンプルな話です」
    「え? でももう燃えてて何のヒントも……」

    「ここまで全員の行動がわかって、
     密室というノイズが燃えてシンプル化した今、
     もはやトロールでも解ける謎解きなんですよ」
    「え? え? えっ!?」

    「だって、最後に鍵を開けたのが妖精さんなら、
     テレポートで部屋に入ったのも妖精さん。
     あなた、トリックとかなんにも関係なく、
     賢・者・様・を・刺・せ・る・唯・一・の・人・物・で・す・よ・ね・?」

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    「…………」(ちっ……)

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    「刃物系のスキルを持たず、
     小柄な体で力がなくても。
     毒で体が動けなければ、
     刺せますよね?」
    「…………」

    「証拠はすべて燃えてしまいました。
     もしかしたら遠隔操作系のトリックの痕跡が
     残されていたのか・も・し・れ・な・い・。
     ですが、かもしれないをいい出したら、
     な・ん・で・も・か・ん・で・も・か・も・し・れ・な・い・。
     そして最後に会ったのはわたしと教えてくれた。
     その時はまだ刺されていなかった。
     ならば現状、ここから犯人を考えるなら。
     妖精さんしかありえないんですよ。
     ね? と・っ・て・も・シ・ン・プ・ル・な・話・で・し・ょ・う・?」
    「…………」

     これが舐めプの結果である。
     もはや言い逃れの余地はない。
     なによりも。

     この表情がすべての答えである。

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    「でも……」
    「ひぃっ……!」

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    「かもしれないはあるよね~」

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    「で、ですよね~!!」

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     このパーティには、1人魔王の手先が居る。

     このパーティには、1人しか魔王の手先が居ない。

     そんなパーティにおいて唯一の確白。
     ただちょっと頭がおかしいだけの
     エルフの魔道士メイ。

     果たして彼女がどこまで正気で
     どこから狂気なのか。

     全員を即座に壁に焼き付く影に変える
     4000℃の核熱魔法が使える点を含めて
     謎の鍵と全員の命、その両方を握っているのが
     彼女であることは間違いないようだ。

     賢者殺人事件、迷宮攻略開始。
     攻略完了の兆しなし。


    第2章:魔要塞挟撃絶体絶命編

    2-1:勇者の作戦立案能力

    ~~回想

     勇者ヒイロ。
     その力の真髄は、作戦立案能力にある。
     彼の作戦は、勝利のためなら手段を選ばない。

     その真価が発揮されたのが今から数ヶ月前。
     西の支配魔城攻略の戦いだった。

    「あれが支配魔城……デカいな」
    「大きさもそうだけど、位置がまずいわね。
     山を背にした配置で、
     攻め入る道が一本しかないわ」
    「当然その道には無数の大砲が
     備え付けられているんだね。
     あれだけの集中砲火はあたいでもきついよ」
    「石作りの城は炎にも強い。
     遠距離から魔法で削るのも無理ですね」

    「そしてその支配魔城の主が……」
    「魔将軍トスタス。亀の魔物で、
     守りに徹した用兵術知られるらしいわ」
    「昔聞いたことがあるよ。
     臆病な性格だけど、防戦の指揮に回れば
     たとえクソ魔王が敵に回っても
     攻略は手こずるだろうって言われてる」
    「わたし達がここ通ると知ってから
     城の回りに堀を作って水を貯めたらしいです。
     わたしの炎魔法への対策も
     先手を打たれてるってことですね」

     勇者は地図を睨んで唸る。
     これは、本当に厳しい戦いだ。

    「勇者サマ。
     私もあまりこういうことは
     言いたくないだけど」
    「わかってます。
     無視しろって言うんでしょう?」
    「勇者! 僧侶! でも!」
    「でもここまで来たら、
     サブクエストのフルコンプも
     目指したいんですよね。
     勇者君、道中の頼み事は
     大小にかかわらず全部聞きますからね。
     お姫様の救出から迷い犬の捜索まで」

     それが勇者の旅だろうさ。
     だが確かにそれにしたって、
     この城攻略は難しい。
     ここを落とすとしたら……

    「メイさん、前の古代遺跡で使った
     あの火のキノコの魔法は?」
    「まだうまく使えません……
     あれを使おうとすると
     何故か精霊が物凄く嫌がるんです」
    「アテにはできないか……」

     こちらの切り札は使えないらしい。
     後は斥候に出ている盗賊の帰還を待つわけだが。

    「戻ったで!」
    「どうだった?」
    「兵数は12万。兵糧も1年分は溜め込まれてて、
     やっこさん防衛戦の準備は完璧や。
     ちょっかい出してもまず釣られへんやろな」
    「なるほど……」

     相手は完全に長期戦の構えだ。
     それをわずか5人+1の勇者パーティに見せるのだから
     現状で魔王軍最大の敵が彼らであることは明白だった。

    「地元の人たちの協力は仰げるか?」
    「無理なこたないやろが、
     戦えるやつはほとんどおらんで?
     弾除けにするにももうちょいマシなもん使えや」

    「よし、わかった。人を集めてくれ」
    「おいおい、まじで弾除けするつもりかいな」

    「いや……ただ、土を掘るだけだよ」
    「……は?」

     そこから勇者は人々を指揮し城のまわりの
     土を掘り始めた。その奇妙な動きは
     支配魔城の天守閣からも見て取れた。

    「勇者のやつら、一体何を……」
    「魔将軍トスタス様!
     敵の策はわかりませんが、
     ほとんどは雑兵にもならない有象無象!
     ここは城から打って出て……」

    「バカを言え!
     それこそ勇者の罠だ!
     わしにはこの地を守れという
     魔王様直々のお言葉が下っている!
     絶対に城からは出ないぞ!
     絶対だ! いいな!?」
    「は、はい!」

     こうして何もせず城に引きこもる魔王軍12万。
     そしてついに、勇者の策が完成する。

    「ま、魔将軍トスタス様! 大変です!」
    「どうした朝から。
     ついに勇者が攻め込んできたのか?」

    「い、いえ……外を! 外を御覧ください!」
    「外だと……なっ、ななっ! なんだこれはぁ!」

     天守閣から顔を出したトスタスが見た物。
     それは、一夜にして周囲を川で囲まれ、
     水没した支配魔城の姿だった。

    「火薬の多くが濡れて使い物になりません!」
    「ぬぬぬ……勇者めぇ! 弓だ!
     弓を出せぇ! どの道攻めてくる道は1本だ!
     矢の雨を浴びせてやれぇ!」

     大慌ての魔王軍の様子を
     勇者は高台から見て嘲笑う。

    「治水工事は統治者の仕事だ。
     政治を学んだ甲斐があったな」

     思いも寄らない方法での攻城に舌をまく一同。
     だが、勇者の真の恐ろしさはここからだった。

    「で、どうするんや?
     飛んでくるのが火砲から矢に変わっただけやで。
     向こうのメシは1年分や。
     まさか1年待とうってのか?」
    「まさか! スターシ、浄化魔法を頼む」
    「かしこまりましたわ」
    「浄化って……まさか勇者!」
    「うわぁ……」

     この状況で勇者の言う浄化。
     それはつまり。

     水に毒を流すことだった。

    「なんて酷いことを……!」

     思わず表情を歪める騎士。
     言うまでもなく、騎士道から外れた外道だった。

    「せやなぁ。メシだけあっても、
     水は飲まな死ぬわなぁ。したら、後は
     ぞろぞろ一本道から出てきたやつらを、
     エルフのねーちゃんが燃やせば……」
    「いや。それを待つ必要はない。
     メイさん、炎魔法を」
    「え? 目標は? こんな水だらけの中だと
     火もすぐに消えちゃいますけど」

    「それでいい。目標は、城のまわりの水だ」
    「……なるほどね。流石勇者サマ。
     あなたが味方で本当に良かったわ」
    「ど、どういうこと!?
     勇者! あんた一体何を……」

     にやりと邪悪な笑みを返す勇者。
     とりあえず言われたままに
     城の回りの水に向け炎を放つ魔道士。
     炎はすぐに消えるが、
     熱せられた水が蒸発し、水蒸気に変わる。

     揮発性の毒が解けた、水が。

    「得意の風魔法をお願いするよ。
     こちらにガスが流れてこないように、
     軽く風の向きをいじるだけでいい」
    「はい!」

     ばたばたと倒れていく魔族。
     興奮に目を輝かせる僧侶と魔道士。
     ドン引く盗賊。嘔吐する騎士。

    「さて。そうだな。
     今日の夕食は蒸し餃子にでもするかい?」

     勇者ヒイロ。
     その力の真髄は、作戦立案能力にある。
     彼の作戦は、勝利のためなら手段を選ばない。

    画像

    ~~回想終わり

     勇者ヒイロ。
     その力の真髄は、作戦立案能力にある。
     彼の作戦は、勝利のためなら手段を選ばない。

     しかし、その力の真髄は今、
     完全に封じられている。

    「…………」

     地図を睨みつけて顔を歪ませる勇者。
     彼は今、この先に待つ魔要塞攻略プランを
     新たに考え直そうとしていた。

     魔要塞。魔王の玉座がある魔王城前の最後の難関。
     長い一本道にあたる険しい渓谷の
     中央に作られた最後の要塞で、
     迂回は極めて難しい。

     むしろ、無理に迂回してしまえば
     魔王城での戦闘時を後ろに刃物を
     突きつけられた状態で挑むことになる。
     確実な勝利を目指すという意味でも
     魔要塞の攻略は必要不可欠だ。

    (この策はもう、使えない)

     魔要塞を突破するために
     勇者が考えていた策。
     それは、精霊との対話を終えた魔道士の切り札
     核分裂魔法を使う策だった。

     魔道士の核分裂魔法は絶大な威力と
     攻撃範囲を持つ反面、無数の欠点がある。
     最も致命的な欠点は射程だ。
     その射程は、なんとわずか1mである。

     魔道士得意の炎魔法の射程は有視界で、
     これはつまり、地平線が見える開けた土地では
     射程約4.5kmということになる。
     騎士の手を借りて空を飛べばさらに伸びるが
     魔道士の視力の都合で
     最大10kmと言ったところだろう。

     同じような射程で核分裂魔法が使えれば、
     魔要塞が見えたと同時に終わるのだが。
     射程1mとなればどうしようもない。

     そして射程1mの核分裂を放てば
     当然魔道士も4000℃の熱で消し炭になる。
     そこで、妖精の力を借り放つと同時にテレポートする。
     この方法でしか使用できないのだ。

     なお、他にも数多の問題がある。
     特に、場所によっては爆熱が収まった後に
     謎の呪いが土地を犯すケースがあるらしく、
     この呪いは僧侶でも解呪が不可能だ。
     それは「精霊が使うのを渋る」のも多少頷ける。

     呪いが発生するかしないかはランダムで
     魔道士本人も研究中らしい。
     曰く、精霊の体重と雲の数が関係しているらしい。
     未知の感覚的すぎてまるでわからない。

    (以前に考えた攻略プランは……)

     まず、パーティを分割する。

     勇者・盗賊・僧侶の3人で陽動をかけ
     敵を要塞に釘付けにする。

     この陽動の中、騎士が魔道士をかかえて
     妖精と共に飛び、魔要塞に屋上に着地。
     核分裂魔法を使用し、テレポートで離脱する。

     あとは全員で合流した上で、
     核分裂の呪いをケアし魔要塞を迂回して終わりだ。

     この手が使えなくなった理由。
     それがパーティの中にいる裏切り者の存在だ。

     6人で動けば問題ない。
     1対1でも問題ない。
     しかし、3人で動くのはまずい。

     そして、もしも裏切り者が
     魔道士か騎士か妖精だった場合。
     ここで仲間割れが発生し、
     核分裂魔法が不発に終われば。
     勇者パーティは、終わりだ。

    (完璧な作戦は常に、優秀なコマと共にある。
     指示を聞かず勝手な意思を持つ
     未知の駒Xが1つ交じるだけで……
     俺の作戦立案能力は、ゼロになる)

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    2-2:魔要塞攻略前夜

    「イット、少しいいか?」
    「勇者? あたいに何か用か?」

     騎士イットに声をかけた勇者。
     騎士はいつものような
     素直で優しく純粋で、
     それでいて騎士の誇りを感じる信念を持った
     顔つきを返したのだが。

    (気の所為でなければ、
     表情になにか違和感が見えたな)

     この違和感自体は気の所為ではない。
     生物的本能から勇者を恐れる騎士。
     ここまでの旅で培った信頼補正はあれども、
     根源的な恐怖感情は決してゼロにならない。

     そして勇者がその小さな違和感に気付いた理由が
     僧侶が騎士を疑っているというバイアスだった。

    (今はもういつものイットだ……
     優しく、素直で、純粋で、誇り高い。
     とても信頼できる仲間つかいやすいコマ。
     この子が裏切るなど、想像できない。
     スターシ、一体君はイットの中に
     何を見ているんだ?)

    「おいおいあんちゃん、
     何怖い顔してんのや。
     にらめっこか?
     ドラちゃんが怖がるやろ」
    「シール!」

     無意識に勇者の足が半歩下がる。
     勇者の中での本命、盗賊シール。
     そんな彼が駆け付けてのイットの顔を見て
     勇者は理解した。

    (……君、シールが好きだったのか)

     どーてーの勇者ですら一目で気付く真実。
     盗賊の目は節穴らしい。

    (となると、まずいな。
     そういうことだったのか)

     つまりは、こうだ。

     盗賊は魔王軍に買収されていた。
     が、その額は友達料の合計より少ない。
     よって盗賊は前と同様、
     買収された『ふり』だけをして
     『まだ』俺達の味方で居る。

     しかし、その複雑な動きを
     素直な騎士は理解できなかった。
     愛する盗賊が買収され、
     既に裏切っていると誤解した騎士に魔王軍が接触。
     愛する男の力になるため、
     彼女に裏切りを決意させた。

     一方の盗賊はそれを知って泳がせる。
     騎士を通してより魔王軍の情報を入手し、
     いざというタイミングでは
     騎士から自分への好意が裏切りを防ぐと信じた。

     だが、それまでに追加の賄賂が渡されれば
     当然盗賊は裏切るし、渡されずとも
     騎士との恋の炎が燃え上がった上で
     向こうに傾けば2人で裏切る。

     僧侶がこの事実を知っていたのはおそらく
     同性ということで騎士から恋の相談をされたから。
     流石に騎士も同性というだけで
     あの頭のおかしい2人には相談するわけがない。

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    (親父がいつも言っていた。
     政治家は女を近くに置くなと。
     女への好意は、いつだって俯瞰視点を曇らせ
     正しい判断力を失わせる。
     確かに俺はどーてーだが、
     役割を考えればこそ、俺の恋人は右手でいい。
     すべてを失って女1人を手に入れたいと願うほど
     俺はロマンチストじゃない)

     これこそが合理主義のマキャベリスト。
     最強の勇者の思考である。

     勇者は2人に背中を向けず、
     にじりにじりと後退りで距離を取る。
     2対1は、勇者でも厳しい。

    「逃げないで話を聞きなさい。
     あなたも男の子でしょう?」
    「っ!?」

     と、そんな勇者を背中から
     軽く突き飛ばす僧侶。
     一瞬だけ心臓が跳ねたが、
     すぐにホッと安堵の息がこぼれる。

    (助かったよスターシ。これで2対2だ)

     勇者は僧侶を信じ切ったわけではない。
     だが少なくとも今のパーティで
     2番目に信頼できる仲間で、
     最も頼りになる仲間だ。

    (裏切っているはずがないと
     一番信頼できるのは魔道士なんだが
     頼りになるかで言えば別だ)

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     うーん、株価が勝手に下がる女。

     ともあれ突き飛ばされてしまったので
     その勢いでよろけたふりをして盗賊に接触。
     一方の僧侶もにやにや笑いで騎士に接触し。

    「お前、どこまで進んだ?」
    「あなた、どこまで進んだの?」

     その問いに2人は首を傾けて悩む。

    (魔要塞の内部調査の結果なら
     全部伝えてるつもりやけどなぁ。
     何のことやねんあんちゃん)

    (人類種の言うABCって
     エナジードレイン、触手貫通、洗脳じゃないよな。
     どういうプロセスなんだっけ)

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

    「では改めて、魔要塞の攻略計画を説明する」

     妖精を含めた5人の前で
     勇者はここまで悩みに悩み抜いた
     魔要塞の攻略計画を話し始める。

    「正面突撃。以上だ」
    「「「「「はぁぁっ!?」」」」」

     5人全員が驚きで立ち上がる。
     残された魔王軍最大の拠点を前にして
     あの時の支配魔城以上に難攻不落の要塞。
     それに無策で正面突撃するというだけで
     信じられないバカプランだが、
     それが『この』勇者の口から出たのが
     何より信じられない点だった。

    「驚くのはわかるが、まぁ座ってくれ」

     まぁまぁと5人に座るよう
     ジェスチャーを取って。

    「俺達はもう十分強い。
     支配魔城の時とはレベルが違う。
     魔王討伐も問題なく可能で、
     敵が数百万だろうが無双できる。
     むしろ、ここを魔王戦を前にしての
     最後の経験値稼ぎの場とする。
     目指すのは魔要塞の突破でも攻略でもない。
     ここに巣食う魔物を全滅させてのレベリングだ。
     もちろん、宝箱もすべていただいていく!」

     石橋を叩いて壊して鉄橋をかけるのがこの勇者。
     勇者は今ここに、魔王蹂躙に至る
     最後の鉄橋をかけようと言うのだ。

    「だが1つ。1つだけ懸念事項がある。
     それは……」

     改めて勇者が魔要塞周辺の地図を広げ、
     とんとんとペンを叩き。

    「この長い渓谷。前と後ろからの、挟撃だ」


    2-3:勇者パーティの連携戦闘

     逃げ場のない渓谷で前後を挟まれる
     絶望的状況で真に恐れるものは何か。
     そう、仲間に背中から斬られることだ。

     ただでさえ厳しい状況で
     裏切りの恐怖を感じながらの戦闘は
     絶対に避けたい。それは当然の発想だ。

    「まぁ挟撃は無いと思うで。
     他の拠点は丁寧につぶして回ったし、
     あんちゃんに言われて抜け道は
     調べに調べたんや。
     わいの力を信じぃって!」

     にかりと歯を見せて笑いつつ
     サムズアップをする盗賊に
     同じように見た目でだけは笑って
     サムズアップを返しつつ。

    (その『力』を信じてるからこそ怖いんだよなぁ)

     勇者からしても盗賊の力は本当に頼りにしている。
     だからこそ裏切らせるわけにはいかないし、
     疑っていると思われてもいけない。
     となれば、今彼が出来ることは。

    「あぁ、ここまでの調査ありがとう。
     これ、危険任務特別手当だ」
    「ほんまか!? おおきにぃ!」

     納得できる理由をつけて追加でカネを渡すことだ。

    「よし……では行くぞ!」

     かくして勇者一同は死地に踏み込む。

    「火砲来るよ!
     あたいの後ろに下がって!」
    「攻撃が止むまで耐えるぞ! スターシ!」
    「わかってますわ、持続回復はかけます。
     騎士ちゃん、お願い」
    「頼りにしとるでドラちゃん!」

     ここで一度火砲に耐えた後で。

    「メイさん!」
    「はい! それだけの火薬があるなら
     綺麗な花火になりますね!」

     魔道士の炎魔法で前線を薙ぎ払うと同時に
     これ以上の火砲使用を封じて。

    「突撃来るで!」
    「左は任せたぞシール!」
    「右は向かんわであんちゃん!」

    「僧侶! 魔道士!
     あんた達への攻撃は通さないよ!」
    「はい! 斬り漏らしを狙います!」
    「バフは十分にかかってるはずよ!」

     徹底した役割分担で
     突撃をかける魔物を経験値に変えていく。
     これぞ勇者パーティの本領であった。

    「前衛の布陣は全滅したみたいだな」
    「宝箱回収やでー!」

     渓谷を前に進むと同時に
     楽しい楽しい戦利品回収タイム。
     そこで、見慣れないオブジェクトが発見される。

    「なんだこれは。このダンジョンの仕掛けか?」
    「豪華な装飾やないか!
     こりゃ高く売れるでぇ!」
    「妖精さん、これは?」
    「ふむふむ。これはマーカーですね」
    「マーカー?」

    「はい。テレポート用の中継点です。
     これを残しておけば、
     いつでもここに飛んでこれますよ」
    「それは便利ですね!」
    「現状私が記憶しているテレポート可能な地点で
     一番近いのが50km手前の街の教会です。
     あとはパーティ分割に備えて
     馬車とみなさん個々を記録しているのみですね」

     まぁ、パーティ分割はしない、
     もとい、出来ないのだが。

     ともあれ、不慮の事態が起きた時、
     もう一度50kmを歩かなくてもいいのは助かる、
     ように思えるのだが。

    「……いや、破壊しよう」
    「そうね。私もその方がいいと思う」

     と、勇者と僧侶は冷静に判断する。

    「どうしてだい? 便利じゃないか!」
    「テレポートは俺達だけの専売特許じゃない。
     そのマーカーがここにある理由、
     俺達の冒険をサポートするためだと思うか?」

    「あ……そうか。魔王軍がここに
     戦力を送るためのリスポーンアンカー……!」
    「そういうことだ。
     これを無視して進めば挟撃されてしまう。
     破壊するぞ」

     そう決定されたわけだが、
     ここで盗賊が待ったを挟む。

    「待て待て待て!
     あんちゃんこいつをよく見ろ!
     どう思う!?」
    「どうって……?」

    「めっちゃ豪華でいい装飾品や!
     こいつは高く売れるで!
     持ち帰るんや!」
    「お前なぁ……」

     確かに言われてみればそんな気もする。
     カネに悩んでいれば回収一択だ。

     しかし勇者一行のカネは十分で、
     既に店売りのアイテムに関しては
     全アイテムをコンプリートしておつりが来る。

     もはやこれ以上のカネは、
     カネそのものを求める守銭奴の盗賊以外には
     無意味なものとなっていた。

    「わかったわかった。
     このダンジョン攻略後の報酬分配、
     俺の分も全部持っていっていいから」
    「そういう話やないんや!
     もったいないやろ!」

     思わず舌打ちを打ってしまう勇者。
     この守銭奴、本当にめんどくさい。
     裏切り者だとか関係なくめんどくさい。

    (やはりこいつが裏切り者で、
     俺達を挟撃するためのオブジェを
     守ろうとしている……
     わけじゃないんだよなぁ。
     どう見ても平常運転だよこいつ)

     脳内メーカーでカネしか出ない盗賊のこと。
     こいつは間違いなく正気だ。
     正気で狂気だ。

     だがそれでも。

    「……イット。頼む」
    「あいよ。ふんっ!」(ベキッ!)
    「あぎゃぁぁぁぁああああ!!」

     これを残すわけにはいかない。
     といっても自分で壊せばヘイトを買う。

     だから恋愛関係にある騎士に壊させる。

     こういう細かいところでも判断を誤らない勇者。
     彼は確かに、優秀なリーダーだった。

    画像


    2-4:裏切り者、処断

    「まさかとは思っていましたが。
     本当にここまで来られたのですか……姫様」

     魔要塞を指揮する魔将軍。
     カエル型の魔物ゲーロは、
     幼い日の魔王の娘、イットを覚えていた。

    「魔王様が気まぐれに襲った人間の女の娘……
     やはり、幼い内に殺しておくべきでしたな」

     仮に、魔王が突然崩御した場合。
     魔王の血を引く者が残っていれば
     魔王軍の内の権力闘争が厄介なことになる。
     少なくとも、事実上のナンバー2である自分が
     そのまま次期魔王に就けなくなってしまう。

     同じようなことを考え、
     幼いイットを亡き者にしようと企んだ魔将軍は
     1人や2人ではなかった。

     そんな幼少期の地獄が今のイットの
     呪いと毒の完全耐性を形成している闇。
     そんな幼少期の地獄を過ごしながら
     素直ないい子に育った光。
     騎士イットはまさに、光と闇の境界に立っていた。

    「しかし……助・か・り・ま・し・た・よ・、姫様。
     あなたが勇者と共に来てくれてね。
     あなたは勇者の隣に居てさえくれればいい。
     それだけであなたは、
     勇・者・パ・ー・テ・ィ・の・裏・切・り・者・と・し・て・機・能・す・る・の・で・す・。
     魔王様を裏切ったあなたが、ね」

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

    「第3波、来るよっ!」
    「こんちくしょぉぉぉぉおおおお!!」

     目の前で高価なオブジェクトを破壊された怒り。
     誰にも当たれないその感情が盗賊のバフとなり
     彼を無敵の狂戦士に変えていた。

    (結果オーライ……か?)

     一騎当千の無双をする盗賊背中を
     勇者が神妙な面持ちで見守る。

    (……隙だらけだな。今ならやれる。
     あの時の、兄さんのように)

     どくん、と勇者の鼓動が跳ねる。

     裏切り者、盗賊シール。
     その裏切りを未然に防ぐベストな方法が
     裏切る前に消・す・ことは、シンプルな帰結である。

    (あの時の……ように)

     勇者は既に覚悟のスイッチが入っている。
     ここで盗賊を失うのは大きな痛手だが、
     それでも魔王は十分倒せるはず。

     なによりこの乱戦だ。
     事故は自然に起きるもの。
     あの時と同じように。

    (悪いな、シール。
     今までありがとう。
     世界のためだ……死ね)

     稲妻をまとった必殺の勇者の剣が、
     盗賊の背中を、襲う。

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     確かな、手応えがあった。

    「ぎゃぁぁぁぁああああ!」

    「なっ……!」
    「嘘……?」
    「どうして……?」

     その一瞬を見た全員が、目を疑う。

     何故……

     何故勇者は……

     何・故・そ・の・タ・イ・ミ・ン・グ・で・盗・賊・を・守・れ・た・?

    (…………)

     全員が驚く中、一番驚いていたのは勇者自身だった。

    (突然、目の前に敵が現れた……!)

     次の瞬間。

    「あんちゃん! あぶねぇ!」
    「っ!?」

     突然感じた後ろからの殺気に
     勇者が強引に体をひねって反応するが、
     一瞬、間に合わない。

    (や・ら・れ・る・……っ!)
    「や・ら・せ・ね・ぇ・ぇ・ぇ・ぇ・え・え・え・え・!」

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     盗賊の一閃が、今度は勇者を守った。
     その直後、妖精が叫ぶ。

    「テレポートです! 乱戦の中で
     新手が直接送り込まれて来ています!」
    「なっ……!」

    「シールっ!」
    「わぁっとるわドラちゃん!」

     騎士が戦場を飛び、盗賊を回収。
     渓谷の後方、僧侶と魔道士の後ろに
     盗賊が再配置される。
     直後、後方に敵がリスポーンした。

    「挟撃される……!」
    「防戦だ! 前を俺が! 後ろをシールが!
     イットは中央の3人を守れっ!」
    「了解や!」

     ここまでの戦い、
     なんやかんや疑心暗鬼にありながら
     勇者も盗賊もお互いの背中を任せ合っていた。

     故に効率的に敵を殲滅できていたし、
     背中に隙が生まれていた。

     逆に、最初から一人で全方位を警戒するなら、
     唐突なリスポーンからの攻撃にも対応できる。

     精神と肉体、特に精神面の消耗が大きいが、
     この陣形ならテレポートを絡めた攻撃にも
     対応が可能となる。

     勇者パーティは一騎当千。
     魔王軍の側にすれば、最初の不意打ちが
     最初で最後のチャンスだった。

     そしてその最後のチャンスが、
     勇者による偶然の裏切りで、
     打ち消されたのだ!

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

    「次っ!」
    「ゲーロ様! もう戦力がありません!
     これ以上テレポートで戦力を送り込めません!」
    「くっ……勇者めぇぇ!」

     テレポートには、マーカーが必要だ。
     勇者たちは渓谷内のマーカーを破壊している。

     しかし、マーカー無しのテレポートを
     可能にする方法がある。
     それが、事前に契約した個人の体を
     マーカーにする方法である。
     実際妖精は、パーティ分割に備えて
     5人と馬車の馬と契約を結んでいた。

     一方の魔将軍ゲーロ。
     彼は、幼い日の魔王の娘イットを
     マーカーとして契約登録していた。
     これがゲーロが勇者パーティを始末するための、
     必勝の策だったのだ。

     が、しかし……!

    「そこまでだ! 最後の魔将軍!」

     その策が、今破られた。
     もはやゲーロに手駒はなく、
     彼の命運はここに尽きる運命だ。

    「ちぃっ……!」

     ゲーロが司令室に乗り込んできた一同から
     騎士を見て睨みつける。
     その無言の凝視には、意思が込められていた。

    (姫様……!
     あなたが魔王の娘なら、
     今ここで後ろから勇者を……!)

     一方の騎士は。

    (こいつ、親父と同じくらいキモいな……
     しかし、なんであたいのこと見てんだ?
     明らかにやばいのは勇者だろ)

     昔のことすぎて覚えていなかった。
     そして。

    (あーあ、言わんこっちゃない)

     最後は、呆れ顔。

    「覚悟ぉぉぉぉおおおお!」

     意識の外からの勇者の一閃が、
     ゲーロを一刀のもとに斬り伏せたのだった。

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     こうして勇者パーティは魔要塞を攻略した。

     が、ここにひとつ、
     謎が残っている。

    (どうやって敵を送ってきたんだ……?)

     勇者からは既に妖精に質問が飛んでいる。
     それへの回答は。

    「わ・か・り・ま・せ・ん・っ・!」

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     嘘である。彼女は答えを知っている。

    (騎士様がマーカーにされていました。
     騎士様はどこかで敵と契約していた。
     裏切り者は騎士様でしたか……意外ですね。
     ま、裏切り者が居た方がいいので黙っときますけど。
     全世界共通の敵である魔王を倒した後にあんのは
     人間同士の血みどろの戦争だって
     なんでわかんないんすかねあのアホ女神)

    「ふむ……」

     ともあれ勇者はこれを信じる。
     彼はこの妖精を
     ちょっと頭がおかしいマスコットと侮っており
     完全にノーマークなのだ。

    「しかし、そうなると……」
    「えぇ。ヒントはさっきのこの子の話」

     それはそれとして妖精の
     サポーターとしての能力は信じている。
     となれば勇者も僧侶も、
     先ほどの妖精の説明を思い出す。

    ――現状私が記憶しているテレポート可能な地点で
      一番近いのが50km手前の街の教会です。
      あとはパーティ分割に備えて
      馬車とみなさん個々を記録しているのみですね。

     そう、個人をマーカーに記録は可能。
     勇者も僧侶も、以前に同じ説明を受け
     妖精と契約を結んだのを覚えていた。

    「裏切り者の魔王の手先が、
     マーカーとして契約されている」

     故に、その結論に至って当然。
     そして、その危険性は言うまでもない。
     これを放置すれば、
     寝ている間に敵を送り込まれるという最悪もある。

    「ここまで寝ている間に送り込まれなかった理由は
     おそらくテレポート可能な範囲の問題ね」
    「あぁ。丁寧にダンジョンを潰した甲斐があった。
     しかし、この先は魔王軍本拠地で、
     鬱蒼とした樹海が広がっている。
     この先は、寝首をかかれる範囲内だ」

     つまりもう四の五の言えない。
     ここで裏切り者を処刑するしかないのだ。

    「さて……」

     大きく息を吐いて勇者が振り向く。
     その視線の先にあるのが。

    「うっ……!」

     この顔である。

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    「……もはや問答は不要だな。
     何か最期に言うことはあるか?」
    「う……あ……あぁ……」

     ちらりと盗賊が騎士に横目を向けるが。

    「…………」(ふるふる)

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    (女にも見限られたか……
     哀れなやつ)

     勇者はここに、この数日頭を悩ませた
     賢者の言葉に端を発する裏切り騒動の
     終わりを見ていたが。

    (……本当に?)

     僧侶はこの終わりが信じられない。
     裏切り者は騎士。
     彼女が魔王の娘である以上、
     幼い日の彼女を知る魔将軍が
     事前に契約をかわしていた可能性は極めて高い。

     が……

    (あの最後の魔将軍を見たこの子の目。
     あれは明らかに他人に向ける目だったわ。
     素直でいい子の騎士ちゃんなら、
     少なからず狼狽が表情に出たはず。
     なら、この子はマーカーじゃなかった?
     マーカーは盗賊の坊やだった?
     騎士ちゃんはただ魔王の娘という
     境遇を持つだけで裏切りとは無関係だった?)

     ともあれ状況は終わろうとしている。
     ここで勇者が盗賊を処刑し、話は終わりだ。

     と。その時。魔道士が動く。

    「はぁ。もう……だから言ったじゃん。
     ほら盗賊君。背中のそれ、出して」
    「う……っ!」

    「出・し・て・」
    「……うす」

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     と、なくなく盗賊が背中から抜いた、それは……

    「おまっ……これ!」
    「で、出来心だったんや!
     もったいなくてっ!
     ま・だ・機・能・す・る・な・ん・て・思・っ・て・な・か・っ・た・ん・や・!」

     騎士が破壊した、あのテレポートマーカーの
     オブジェ、その一部だった!

    「こ、ここだけでも売れる!
     高く売れると思って!
     だから! だからぁ!」

    「「「「…………」」」」

     全員がため息をついて、そして。

    「前の街まで、50kmだったか」
    「え……?」

    「妖精。こいつを飛ばしてやれ」
    「あんちゃん!?
     ゆ、許してくれんのか!?
     わいを許してくれんのか!?」

    「あぁ。だが妖精にも無駄な魔力を
     使わせるわけにはいかんな。
     慈悲は片道分だ。とっととそいつを売って
     帰りの50kmは走って帰って来い! 以上!」

     呆れ顔で消える盗賊を見送った
     勇者の表情は複雑だった。

     守銭奴のクソ。

     使い勝手のいいコマ。

     頼りになるヤツ。

     そして。

     命の、恩人。

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    (今・度・は・避・け・て・く・れ・た・よ・、兄さん)

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     勇者一行、魔要塞攻略完了。
     裏切り者は、まだ特定されず。


    第3章:霧と影の樹海遭難編

    3-1:勇者の本心

     パーティの中に裏切り者を抱えたまま
     最後の魔王軍拠点、魔要塞を攻略。
     最後の魔将軍も倒し、残るは魔王のみだ。

     魔王城はもう目と鼻の先。
     その最後の広がるのがこの樹海だ。

    「くそっ、霧でパーティが分断されたか……
     シール! スターシ! イット!
     メイさん! ティカ!
     聞こえたら誰か返事をしてくれ!」

     しかし、この土壇場でまさかの断絶。
     原因は言うまでもない。

    (舐めていた。
     自然の脅威を、舐めていた……!)

     一体何のために用意されたのか、
     普段使いに不便はなかったのか。
     勇者たちは毎回そんな疑問を覚えながら
     無駄に凝ったパズルめいた仕掛けの
     ダンジョンを突破していた。

     一方でこの樹海はただの樹海。
     仕掛けもなく、エンカウントする魔物も
     攻撃力最低の魔道士が素手でビンタして
     倒せる程度の強さでしかない。

     そんな油断でだらだら進んだ結果の
     この分断である。

    (またしても裏切り者が
     暗躍しやすい状況を作ってしまったな……)

     勇者は己の失策を悔いた。
     それもこれも、
     ここに来て気を抜いてしまった結果。
     盗賊を殺さずに済んで、安堵してしまった結果。

    (俺はもう、疲れていたのかも、しれないよ。
     兄さん……僕は、もう……)

     目を閉じればそこに、
     あの日の記憶が蘇る。

    ~~回想

    (僕は兄さんより強い。
     兄さんより努力もしてきた。
     なのに何故、ただ選ばれただけの兄さんが勇者なんだ?
     勇者としてふさわしいのは……)

    「お前だよ、ステッツ」
    「っ!」

     真剣を打ち合う危険な修行。
     その中にあって一瞬呆けた弟ステッツに
     兄ヒイロが斬りかかると同時に小声で囁いた。

    「ほらな。俺がそうやって余所見をした時に
     お前に本気で斬りかかられたら、
     俺の首は落ちてるだろうさ。
     だがお前はこうして反応できる」
    「僕はそんなこと!」

    「し・た・方・が・い・い・。
     勇者としてふさわしいのはお前だ」
    「そんなことはない!
     だって……だって僕は!」

    「僕は邪なことを考えてしまう!
     兄さんのような善人じゃない!
     僕は、卑怯者だ!」

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    「いや、それでいい。
     それでいいんだステッツ。
     俺はもし魔王を倒せても、
     その後に現れる敵を倒せない」
    「その後に現れる敵……?」

    「そう。俺は……民意に勝てない」
    「民意……はっ……!」

     ステッツにはその言葉の意味が理解できてしまう。
     今、世界が平和なのは。
     少なくとも人間同士で争わない理由は。
     魔王と魔物が非道を成し、
     憎しみのはけ口として存在しているから。

     魔王が倒れ、真の平和が訪れた時。
     人々は今度は暮らしへの不満をこぼし始める。
     やれ税が高いだの、やれ格差があるだの。

     そしてそれを誤魔化すため。
     権力者は戦争を決断する。
     より弱いもの達から物とカネと幸せを奪い、
     自国民に分配することで解決を図る。
     人間は、そういう生き物なのだ。

     そして、世界がそんな未来に進む時、
     魔王を倒した勇者は……

    「そうだ。政治を学んだお前ならわかるだろう。
     人類共通の敵を失い、平和になった世界で
     次に始まるのは人類同士の戦争だ。
     そこで魔王を倒した勇者は、
     真っ先に処刑される。俺はそこで、終わりだ」
    「そんなことはない!
     いや、その時は俺が必ず!
     兄さんを助ける!」

    「いや、ダメだ」
    「何故だ!?」
    「簡単なことだ、ステッツ」

    「勇者は助けられてはいけない。
     勇者は勝ち続けなければいけない。
     勝つために勇者は、
     敵を理解しなければならない。
     敵を知らねば敵には勝てない。
     そして敵は、民衆は、弱い卑怯者だ。
     弱・い・卑・怯・者・に・し・か・弱・い・卑・怯・者・は・倒・せ・な・い・」

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    「兄さん……っ!」
    「ステッツ。お前にはすまないと思っている。
     兄として俺は、お前に何もしてやれなかった。
     お前ほどの努力も、俺にはできなかった」

    「それは僕が兄さんを……!」
    「嫉妬していた。そうだ。
     お前は俺に嫉妬していた。嫉妬を力に努力した。
     お前は、勇者に選ばれた俺を……」

    「……あぁ、そうだ。僕は……
     いや、俺・は、兄さんを……!」
    「そうだ。お前はよく知っているはずだ。
     本当に強い力を持つのは、
     正義でも愛でも勇気でもない。
     悪と嫉妬と臆病さだ。
     それを理解し、己の力に利用した者が、
     この世で一番強い。強いのは、お前だ」

    「俺は……俺は、兄さんのことが……」
    「そうだ、ステッツ。
     これが俺が兄としてお前に出来る
     最初で最後の教えだ。
     ステッツ……想像しろ」

    「想像……何を……?」
    「俺より強く、勇者としてふさわしいお前が
     事故で俺を殺した上で
     『俺ヒイロは、弟ステッツを殺してしまった』と
     嘘・を・つ・い・た・時・の・周・り・の・大・人・達・の・顔・だ・。
     そして作るんだ。その、想・像・し・た・ま・ま・の・顔・を・」

    ~~回想終了

     俺は兄さんと本気で剣を打ち合う。
     兄さんは本気で剣を打ち返した。

     ここで俺に殺されることで
     兄として最初で最期の教えを果たす。

     身内殺しという大罪で俺の良心を壊し、
     俺を魔王にも、魔王の先に待つ
     弱い卑怯者の群れとの戦いのための心構えを
     俺に説いてくれようとした。
     無敵の勇者の、心得を。

    (ありがとう、兄さん)

     もしも兄さんが生贄になってくれなければ
     俺はここまで強くなれなかった。
     勝利のためどこまでも非情になれなかった。
     俺の中のマキャベリは、絵に描いた餅だった。

     そう、一・人・殺・し・て・し・ま・え・ば・後・は・も・う・、
     ブ・レ・ー・キ・が・壊・れ・た・ま・ま・先・に・進・め・る・の・だ・。

    (そうだステッツ、それでいい。
     さぁ、俺を殺してくれ)

     俺に殺されることを決意し、
     俺に殺される覚悟を決めつつも、
     兄さんは手を抜かなかった。

     俺は最後に、迷っていた。
     尊敬する兄を本当に殺していいのか。
     そんな大罪を成して強くなって、
     その強さに価値などあるのか。

     おそらくその日の俺は、
     今までで一番弱かった。
     そんな弱い俺にも兄さんは手を抜かなかった。

     手を抜かなかった、が……

    「違うな、兄さん」
    「っ!?」

     そう、違う。何故ならば……

    「兄・さ・ん・は・そ・ん・な・に・強・く・な・か・っ・た・ぞ・」

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     そして俺は、あの時と同じ顔で。
     兄さんに教わった通りの笑顔で。

    「兄さんは避けてくれなかった。
     お前も、もう、消えろ」

     俺・に剣を突きたて、トドメを刺した。

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    「なるほど……そ・う・い・う・魔・物・もいるのか」

     俺そっくりの影との戦闘を終え、
     剣についた血を拭ってから、
     俺は舌打ちをうつ。

    「無事で居てくれるか。仲間達は。
     俺と同じ、頼・れ・る・ク・ズ・共・は・」


    3-2:騎士と盗賊の逢瀬

    「ドラちゃん!」
    「シール!!」

     霧の中。不安に怯えていた騎士に
     盗賊の声が届いた。

     安堵でつい騎士の目から
     涙が流れてしまう。

    「大丈夫だったか?
     心配したで」
    「うん! なんとか……」

    「そかそか!
     この森、おかしな魔物がおるでな。
     もう会ったか?」
    「おかしな魔物?
     いや、まだ……」

    「あー、いや、ええんや。
     悪いな、不安になること言ってもうて。
     大丈夫やで、ドラちゃんは
     わいが守ったるわ!」
    「シール……!」

     今日の盗賊はいつもより優しい。
     いつもより、かっこいい。
     い・つ・も・の・よ・う・な・い・い・匂・い・は・し・な・い・が・、
     その言葉に騎士の乙女心が揺らいでしまう。

    「頼むでドラちゃん。
     わいを信じて欲しいんや。
     わい、ドラちゃんになら
     なんでも話すさかい……
     ドラちゃんもわいに、
     全部話してくれや。な?」

    「うん……うん!
     わかった! わかったよシール!
     シールにならあたいの秘密も
     全部話すから!」

     にじりにじりと騎士に近づく盗賊。
     乙女のスイッチが入ってしまった騎士は
     盗賊が背中に隠したナイフも目に入らない。

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    (はっ、チョロいぜ、
     勇者パーティとやらもな。
     あと3歩近づけば、
     回避を許さず首斬って終わりだ。
     さようならだな、恋する竜の騎士さんよぉ)

     その正体は影の魔物。先刻盗賊と遭遇し、
     盗賊の姿と記憶を完全にコピーした魔物は、
     その場での盗賊との接触を避けた。

     その理由がこれ。
     魔物は盗賊の記憶を読み、
     騎士が自分に惚れていることを理解し、
     騎士に甘い言葉を囁やければ、
     このとおり簡単に殺せると理解したのだ!

     ……記憶読まれた魔物にすらわかるのに、
     なんで本物はわからないんだ?

    「……シール」
    「なんや? 大丈夫やで。
     わいを信じて。
     信じて近くにきてや」

     あと2歩……

    「いいの?
     本当に近くに行っていいの?」
    「もちろんや!
     わいはドラちゃんのこと、
     全部受け止めたるで!
     せやから……」

     あと1歩……

    「うん……じゃぁ。
     それじゃぁ……」
    「っぅ!?」

     ぞくりと謎の悪寒で、足が止まる。
     が、もう遅い。何故ならば……

    「もう、食べちゃうね」
    「!?!?!?」

     相・手・の・触・手・の・方・が・、射・程・が・長・い・か・ら・。

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    「あっ……がっ……!」
    「えへへ……」

    「や、め……」
    「いひっ……うぇひっ……」

    「あ……ぎ……」
    「うぇひひひひひひ……」

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    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

    「ドラちゃん!」
    「シール!!」

     霧の中。不安に怯えていた騎士に
     盗賊の声が届いた。

     安堵でつい騎士の目から
     涙が流れてしまう。

    「大丈夫だったか?
     心配したで」
    「うん! なんとか……」

    「そかそか!
     この森、おかしな魔物がおるでな。
     もう会ったか?」
    「おかしな魔物?
     あ、うん……会ったような、
     会ってないような……
     でも、なんだかとっても
     楽しい夢を見てたような……
     あっ! シールは!?
     シールは大丈夫だったんだな!?
     その傷、大丈夫なの!?」

    「あー、うん。
     全部返り血やさかい。
     大丈夫、大丈夫、なんやが……」
    「ほんとに!? ほんとにだよね!?」

     距離を詰めようと駆け寄る騎士に対し
     無意識で距離をあけてしまう盗賊。

     目をそらしつつ、己の獲物を構えたまま。
     盗賊はまだ、命の危機を覚えていた。
     そして。

    (まずいで……わいは……
     わいは、大変な秘密を知ってもうた……)

     その命の危機アラートは、
     おそらくこれからも永続的に響き続ける。

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    3-3:僧侶と魔道士の懺悔

    「みんなどこ行っちゃったんでしょう……」
    「深い森の霧ではぐれたみたいね。
     大丈夫よ、絶対そのうち合流できるから」

     不安げな魔道士に対して
     何の不安もなくマイペースの僧侶。
     方位磁石も効かない樹海の中、
     僧侶は魔道士に手を引いて歩き続ける。

    「僧侶さまは……」
    「ん?」

    「僧侶さまは、どうしてそんなに強いんですか?」

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    「……そうねぇ」

     僧侶は少しだけ悩んだ後、
     ぎゅっと魔道士の手を強く握って。

    「今のあなたになら、話してもいいわね。
     長い話になると思うけど、
     最後まで聞いてくれるかしら?」
    「もちろんです!」

     確認を取ってから、軽くため息をついて。

    「私はとても貧しい家に生まれたの」
    「魔物のせい、ですか?」

    「魔物とは関係ないわ。
     むしろ、魔物が暴れてるおかげで
     貧しい私の家が人間社会全体で言えば
     平均的な貧しさの家になっていた。
     魔物がいなければ、小さい頃の私は
     もっと強く己の貧乏を意識して
     卑屈になっていたと思う。
     魔王と魔物はそうやって、
     世界を平等化してるのよ。わかる?」
    「そういう考え方もあるんですね……」

     僧侶は言葉を探しつつ、
     ゆっくりとした口調で
     出来るだけわかりやすく語ろうと
     努力しながら説明をしているように見えた。
     そうでなければ、アホの子寄りの魔道士には
     説明が通らないと思っているのだろうか。

    「私のお母さんは敬遠な女神の信徒だったわ。
     日々女神に祈り、信仰を大切にすれば
     貧しい暮らしの中でも心だけは
     豊かに暮らせると教えてくれたの」
    「いいお母さんですね!」

     優しい言葉に優しい返答。
     そんな心温まる会話が。

    「本・当・に・そ・う・思・う・?」
    「っ……!」

     唐突に、終わる。

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    「あ、あの、手……
     少し、痛いです……」
    「あぁ、ごめんなさい」

     魔道士は一瞬ちらりと自分の片手を見下ろす。
     白い肌には、僧侶の爪の痕が残っていた。

    「別に教会にお金を寄付しすぎたとか、
     教会での祈りに時間を無駄に使いすぎたとか、
     そういう話ではないわ。
     うちには最初から寄付するお金も、
     無駄にする時間もなかったから。
     むしろ、教会には感謝してる。
     週に1度の教会のパンとシチューが、
     幼い私の毎週の楽しみだったから」
    「あ、そ、そうなんですね。
     なら、その頃の経験があって僧侶さまは僧侶に……」

    「えぇ。絶・対・な・る・も・ん・か・と・思・っ・た・わ・」
    「え……?」

    「信仰はね、言い訳なのよ。
     祈れば幸せになるんじゃない。
     祈れば幸せになると盲信するから幸せになるの。
     かわいそうな私はかわいそうなままでもいい、
     しょうがない、どうしようもない。
     そういう思考停止が信仰なの」
    「そ、それは……」

    「人が幸せになる方法は2つしかないわ。
     わかる?」
    「え、えっと……えっと……
     勉強で獲得できる知識の力と……
     あ、知識を気付かせてくれる友達の会話!
     あと、美味しいご飯とか、よく寝るとか……」
    「カネと愛セックスよ。それ以外にないわ」

     極論も極論。
     だが、僧侶の目には有無を言わせない力があった。

    「知識。それも重要ね。
     友達も、美味しいご飯も大切。
     趣味を持つのもオススメだし、
     ゆっくり寝たり、時には旅も悪くない。
     ペットを飼うのもいいわね。
     私は猫派。あなたは?」
    「ウサギ派です……」

    「そう。でもね。
     今のすべて、カネがないと成立しないの。
     といっても、盗賊の坊やの生き方は違う。
     カネを目的にする人生は愚かだわ。
     あれは結局カネに支配されているだけ。
     カネは道具よ。幸せになるための道具。
     そして、これが一番重要なこと。
     カネがあっても幸せになれるかは人それぞれ。
     でもね、カネがないと100%不幸になるの」
    「100%……」

    「そう。100%。そしてその数字は、
     信仰じゃ絶対に改善しない。
     貧乏と理解したらね、
     カネを稼ごうと努力するしかないのよ。
     貧乏を受け入れたら終わりなの」
    「なるほど……それは、わかりました。
     でもその、えっと……もう片方の……」

    「セックス」
    「そ、それ! それはわかんないです!」

    「そうね。けど、すればわかるわ。
     人間も動物だから。ケモノだから。
     セックスすると幸せだと勘違いしちゃうの。
     そういう悲しいサルなのよ、人間って」
    「そんな言い方は……」

    「人間も動物よ。
     ただし、社会を作る動物。
     だから、社会で幸せになるためのカネと、
     動物が幸せになるための愛セックス。
     これが結論なのよ」
    「……えっと」

     有無を言わせぬ圧力に。

    「反論できる?」
    「……その」

     息が。

    「反・論・し・な・さ・い・よ・」
    「…………」

     詰まる。

    「できない……です……」
    「はい。証明終了。
     だから女神の言葉は無意味で、
     私が信じる神様の言葉だけが真実。
     世間で言われる、邪神の言葉がね。
     話は終わりよ。そして、あ・な・た・も・終・わ・り・」
    「っ!?」

     どくんと鼓動が跳ね、胸が痛み出す。
     咄嗟に胸を押さえるが、もう、
     息が、でき、な……

    「即死魔法なんて字面だけで見れば
     インスタントに殺せるように見えるけどね。
     時間がかかるのよ、これ。
     だから話に付き合ってもらった。
     それに私、最近祈る時間が作れてないからね。
     こうしてわ・か・り・や・す・い・言・葉・に・し・て・
     反・論・で・き・な・い・こ・と・を・証・明・し・て・あ・げ・な・い・と・
     私・自・身・が・信・じ・ら・れ・な・く・な・る・の・よ・。
     この狂った教義をね」
    「……っ! ……っ」

    「残念ね。本当に残念。
     エルフちゃんの知識を共有し、
     私の心にも踏み込んだ影なら、
     反・論・し・て・く・れ・る・か・も・思・っ・た・の・に・。
     反・論・さ・え・し・て・く・れ・れ・ば・、
     あ・な・た・に・食・わ・れ・て・も・良・か・っ・た・の・に・」
    「……っ……ぁ…………」

    「じゃ、さようなら。
     あ・な・た・に・も・私・は・救・え・な・い・わ・」

     僧侶が握った片手を、離す。
     同時に魔道士の影の体が崩れ落ち、
     まもなく、動かなくなった。

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    「はぁ……」

     ひと仕事を終えた僧侶はため息をついて。

    「知識をコピーしても、
     性格や趣味嗜好はコピーされないの、
     少し面白かったわね。
     どこで入れ替わったのかわからないけど、
     あなたはエルフちゃんじゃない。
     エルフちゃんであるはずがない、
     致命的な理由があったのよ」

     息絶えた遺体を埋葬することもなく、
     僧侶は適当に歩き続ける。

     しばらく歩き進むと、
     足元に息絶えた魔道士の遺体が見えてきた。
     即死魔法で死んだ、目を見開いた遺体が。

    「同じとこに戻ってきちゃった。
     樹海って方向感覚狂うのよね。
     まぁいいわ。絶・対・そ・の・う・ち・合・流・で・き・る・か・ら・」

     そして僧侶はまた、歩き続ける。


    3-4:純粋な狂人

     深い霧の樹海。
     鬱蒼と生い茂る木で10m先が見えず、
     昼なのに陽の光がほとんど差さない闇の中。

     勇者はしばらく木に寄りかかって休憩していたが、
     やがて再び立ち上がって歩きはじめた。

    「まぁいい。絶対そのうち合流できる」

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

     盗賊は長さ5mの縄を片手歩く。
     その縄のもう片方は騎士が握っている。

    「し、シール、その……」
    「おぉっとタンマ!
     タンマやでドラちゃん!
     それ以上近寄るな!
     樹海の中ではこう歩くもんなんや!
     死んだうちのばあちゃんの遺言なんや!」

    「そ、そうなんだ……
     なんか、シールとお散歩してるみたいで
     あたい楽しいよ。ドキドキする」
    「そ、そうか?
     まぁわいも昔飼っとったわんことの
     散歩を思い出すっちゃ思い出すわな……」

    「シール、犬飼ってたんだ……
     かわいかったの?」
    「そりゃめっちゃかわいかったで!」

    「そっか……じゃぁさ。
     この縄のこっち側に首輪つけて……
     あたい、首にはめてもいい……かな?」
    「それは、その……
     ちょっと変態っぽくて、
     わいは、その、あんまり……な?」

     脳内で危険アラームが鳴り響き続く中、
     2人も歩き続ける。

    「まぁ、歩いてりゃそのうち……」
    「うん、絶対そのうち合流できるよね」

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

    「……ん、随分遅かったわね」

     足を止める僧侶。
     すんすんと鼻をならし、
     その匂いがする方へ向かうと、
     まもなくして視界が開いた。

     焼け落ちた木々。
     さらに先ではまだ、煙が立っている。

    「向こうね……ん?」

     ふと、焦げた匂い以外の
     嫌な匂いに足が止まる。

     何度嗅いでも慣れない。
     『浄化』の後の匂い。

    「……少しだけ心配していたんだけど、
     杞憂だったようね。
     それでも複雑な思いだわ。
     自分の焼死体を見るのはね」

    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

    「わたしは自分の時間を過ごしています。
     そこから抜け出したいのです」

     ロックめいた詩を呟きながら、
     魔道士は風魔法を詠唱する。

     それは魔道士が自らに貸した制限。
     炎魔法を使うのは、一度だけ。
     そこからは先は風魔法しか使わない。

     言うならば、紙飛行機遊びのようなもの。
     投げた紙飛行機が地面に落ちてしまわないよう
     強さと向きを考えながら風魔法を詠唱する。

     もちろん、これも1つのゲーム。
     できるだけ詠唱回数は少なく、
     使う魔力も最小限に。

    「あぁ、すべては偽りです。
     偽りで、神聖的な……倒錯」

     目の前に見えるのは情熱的な炎。
     かといってそれほど活気があるわけでもなく、
     胸のドキドキにも影響がない。

    「吐き気がします。
     吐き気がするほど……楽しい」

     それは当たり前の反射的行動。

     ドアが開いていたら閉める。
     ゴミが落ちていたら拾う。
     ボタンがあれば押してみる。

     改めてそれぞれに質問をしてみよう。

    ――何故そんなにカネを集めてるんだ?

    「いつの間にかカネが目的になっとったわ」

    ――何故シールが好きなんだ?

    「わかんないけどシールは好きだよ!」

    ――何故神を信仰するんだ?

    「その疑問を持つ時点で異端よ」

    ――何故森を燃やすんだ?

    「森が燃えるからです」

     高い魔力を持つエルフは、
     ただの言葉が言葉で終わらない。

     俗に言う「言霊|ことだま」となり
     因果に影響を与えてしまう。

     だから、忌み言葉の概念がある。
     恐るべきもの、忘れなければならないものは、
     決して名前を呼んではいけない。

     狂ったエルフは、個を抹消される。
     殺人鬼のような狂ったエルフは、
     2つ名で呼ばれ、誰も本名を呼ばなくなる。

    「うふふふ。うふふふふふふ……」

     木から生まれるエルフにとっての森は、
     母であり父であり神でもある。
     故に、それを平然と燃やす彼女の名は
     誰からも呼ばれることがない。

     燃える森インフェルノの悪夢ナイトメア。
     それが、彼女の……

    「メイさん!」

     名前が、呼ばれた。

    「あ、勇者ヒイロ君」

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     振り向いた魔道士メイの顔は、赤い。
     彼女は明らかに、興奮していた。

    「ちょっとまってね。
     燃やせるとこまで燃やすから」

     賢者ハイセの予言。
     曰く、このパーティの中に1人、
     魔王の手先が居る、と。

     その言葉から始まった疑心暗鬼。
     それでもなお、他の全員がこう考える。

    『メイさんは絶対に裏切り者じゃない』
    『エルフのねーちゃんはシロやな』
    『エルフちゃんは裏切らないわ』
    『魔道士だけは絶対に違う』

     でも……

    ――そんなこと関係なく一番やばい。

    画像

     影と霧の樹海、全焼。
     勇者一行、合流。魔王城突入。


    最終章:魔王瞬殺アフター編

    4-1:魔王の娘

     賢者ハイセの予言。
     曰く、このパーティの中に1人、魔王の手先が居る。
     その者が人類を裏切り、勇者を殺す。

     既に冒険はラストダンジョン。
     この魔王城の攻略中に裏切り者を特定しなければ
     魔王に敗北する可能性となる。

     とはいえ、その正体はまるで見えてこない。
     ここで勇者は改めて、その賢者の言葉から考え直す。

    (『手先』とは、なんだ……?)

     裏切り者を示す言葉は他にも考えられる。

     内通者。
     自己の利益のため、情報を漏らす情報提供者。

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     信奉者。
     相手に心酔し、その言葉を正しいと信じて動く者。

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     身内。
     相手と縁があり、情で揺らぐ者。

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     ここまでは基本的に皆、個人の意思が残っている。
     最終的な決定権は己の意思に左右され、
     より強い『思い』で行動方針を上書きできる。

     それが不可能な状態にまで支配が進んでいるなら、
     『配下』もしくは『下僕』といった言葉が
     使われることだろう。

     では、『手先』とは何か。

     様々な解釈が出来る言葉だが、
     勇者はここで自分の『手』を見る。

    (……俺の手は、その指先に至るまで
     すべて俺の物だ。俺の意思通りに動く。
     手も指も勝手に動かず、勝手に考えない。
     つまり、手先とは……)

     己・の・意・思・が・な・い・。た・だ・、使・わ・れ・る・だ・け・の・道・具・。

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     だが、そう言葉の意味を考え直したとしても。

    (全員、魔王と通じている様子がまるで見えない。
     俺の目から見てもそうだが、
     全員の行動を監視しているはずの
     盗賊の目も欺いているのはありえない)

     もう考えている時間はない。
     ここに至って、俺は強引に確信する。

    (俺達の中に魔・王・の・手・先・は・い・な・い・。
     少なくとも、こ・の・城・の・主・は・無・関・係・だ・)

     だからこそ。

    「よく来た勇者よ……」

     俺は今、後ろを信じて前を向き、剣を構える。

    「いくぞ魔王! 最後の戦いだ!」

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     そして俺達は魔王を倒した。
     万全を期してのここまでの旅。
     最初から魔王に負ける要素など、
     これっぽっちも存在しなかったのだ。

    「やったで勇者のあんちゃん!
     わいら、やったでぇぇぇぇええええ!」

     盗賊シールは心の底から笑っている。
     やはりこいつは、頼りになる仲間だった。
     魔王が落としたドロップは、
     すべてこいつに渡してもいいと心から思える。

    「ふぅ、分裂とかしたら面白かったんですけどね」

     魔道士メイは相変わらず範囲攻撃が苦手らしい。
     常に数が少ない方につき、
     1対多の戦いと炎に酔う狂人。
     仲間割れから敵になられなくて本当に良かった。

    「すべては神の御心のままに」

     僧侶スターシはこんな時でも、
     いや、こんな時だからこそ祈りを捧げる。
     信仰に疎い俺も彼女の言う神に違和感は覚えるが
     あくまで個人の主義。信仰は自由だ。

    「……最後までキモかったな。クソオヤジ」

     騎士イットはずっと優しく素直で純粋で、
     最後の戦いでも頼りに……

     うん? 今、なんて?

    「い、イット? その……
     今の、俺の聞き間違いじゃなければ、
     なん、だが……その……」
    「あぁ。もう隠す理由もないな。
     あたいは魔王の娘だよ、勇者」
    「な……」

    「なんだってぇ!?」
    「なんですってぇ!?」
    「……はぁ」
    「…………」

     あ、2人知ってたやつらがいる。
     ちくしょう、そういうことか。

    「勘違いしないで、勇者。
     あたいは自分の意思で親父と戦った。
     あんたのことは……
     いや、みんなことは仲間だと思ってるよ。
     だから今は、みんなと同じ気持ちだ。
     魔王を倒せた。旅がハッピーエンドで終わる。
     だけど、その喜びに浸る前に。
     少しだけクソオヤジに別れを言わせてくれよ」
    「……わかった」

     同じだ。今までの騎士イットと、同じだ。
     どこまでも素直で、どこまで純粋で……

     どこまでも誇り高い、騎士だった。

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    「ダメ、だったわね」
    「スターシ……?」

     魔王の遺体に祈りを捧げ、
     魂の葬送を進めていく騎士に手を貸すこともなく、
     僧侶はぼそりと俺に囁いた。

    「私はあの子の正体を知っていた。
     あの子を蘇生した時、
     その心に触れてしまったの」
    「あの時……」

     そうか、だから騎士の秘密を……
     騎士が魔王の手先で、
     裏切り者の正体だと、知っていたのか。

    「旅のきっかけはおそらく、
     ただの思春期の反抗期だった。
     けど、あの子はあの子なりの良心があり、
     魔王の非道に怒る人の心があった。
     あの子が父親への愛と、悪への怒り、
     その2つに折り合いをつけることができれば、
     こんな形でない結末が……
     愛で戦いを終えることが出来たのかもしれない。
     私にはそれが、少しだけ。
     少しだけ、残念だわ」
    「……そう、だな」

     それが、スターシ、君が……
     君が裏切り者がイットだと知りつつ、
     ひた隠しにしていた、理由だったのか。

    「……話してくれれば、俺にも。
     俺にも何か、出来たかもしれないのに」
    「無駄だよ」

     つい、ぼそりと溢してしまった俺に
     祈りを終えた騎士が決意の瞳で語りかける。

    「キモ親父は狂っていた。
     だから、それを止めるのも娘の役目だ。
     これはあたいの役目で、
     あたいの運命だったんだ」
    「……そうか。ありがとう。
     ありがとう、騎士イット」

     俺達の旅はここで終わりだ。
     ここから俺達はそれぞれの人生を歩む。

    (イット、君は……
     君はシールとどうか幸せに……)

     ふっ、と笑って俺は仲間の、
     いや、大切な友の笑顔を見ようと
     振り向くのだが。

    (……なんだその顔は。
     ここは幸せで笑うとこじゃないのか?
     お前さぁ……)

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    (まだなんか隠してるな?)


    4-2:魔王の内通者

     俺達は、今までの長い旅の道のりの逆、
     凱旋の帰路を歩んでいた。

     立ち寄る街々で俺達は大歓迎を受ける。
     そこでの人々の笑顔を見るたびに、
     俺達は自分達の成し遂げた成果を実感する。

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     魔物の脅威は消え、
     世界に平和もたらされた。
     その平和を勝ち取ったのは、
     俺達5人+1の勇者パーティだ。

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     達成感と開放感が合わさり、
     幸せの中で笑うそれぞれの仲間たち。
     俺達6人の中の笑顔になれているのは。

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     いや、笑・顔・に・な・れ・て・い・な・い・者・は。
     3人だ。

    「よっ。なんやずっと気難しげな
     顔しとるやないかい、勇者のあんちゃん」
    「……鏡見て言えよ」

     その内の1人が、盗賊シールだ。
     あの魔王城の戦いで魔王にトドメを刺して以来。
     俺はこいつの笑顔を、見ていない。

    「イットは?」
    「腹一杯飯食って寝とるわ」
    「そうか。ならお前も
     俺に本当の話が出来るってことだな」

     盗賊は無言で酒瓶を差し出す。
     俺は軽くため息をついてグラスを返した。

     盗賊が俺のグラスに酒を注いだのを待って、
     俺はそのまま酒瓶を貰い受け、
     軽く瓶を確認してから、
     こちらでグラスを選んで、
     瓶の口をぐるりと一回転させつつ酒を注ぐ。

     キン、と乾杯の音色が響いた後。
     俺は酒に口をつけるふりだけして横目を見る。

     盗賊は何かに怯えたような表情のまま、
     無警戒に酒を口に入れて、ため息をついた。
     それを見て俺も酒を煽る。

    「わいな、内通しとったねん」
    「……そうか」

     知っていた、わけではない。
     だが予想はしていた。
     それほど驚くような話でもない。

    「最初から、ずっとや。
     わいは、オニワバンを通して
     魔王軍の誰かからカネを受け取り、
     オニワバンを通してあんちゃんらの情報を
     魔王軍に流しとったんや」
    「……そうか」

     今更だ。今更何も、言うことはない。
     魔王は滅び、魔王軍ももうない。
     それになにより。

    「俺達4人から受け取る友達料の方が、
     途中から多くなってたんだな」
    「あぁ。友・達・割・引・込・で・な・」

     ……ギリギリ、だったのか。
     あの時のダンジョンで、
     魔将軍から裏切りを唆された瞬間は。

    「まぁ、強い魔物ほどやたらカネを落とすからな。
     魔王城に近づくにつれ魔物が強くなるのなら、
     どこかで額が逆転するのも当たり前だったな」
    「この世界のインフレ率どうなっとんねん」

     それは俺も思う。
     最初の国の宿屋は4Gだったのに、
     この村の宿屋は1200Gだぞ。

    「裏切り者のわいを、斬るか?」
    「……なんのことかわからんな。
     お前はカネ次第で平然と嘘をつくやつだ。
     俺は今・更・お・前・の・言・葉・な・ん・て・信・じ・な・い・」

     微妙な顔を隠すようにそっぽを向いて
     酒を煽る俺。顔が赤いのは、酔っているせいだ。

    「……ありがとな、あんちゃん」
    「そう思うならここはお前が奢れ」
    「それとこれとは話が別や」

     ……あぁ、本当に。
     本当にこいつは。

     守銭奴の、クズ野郎だ。

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    「で? 話は終わりじゃないだろう?
     本題に入れよ」
    「…………」

     びくりと盗賊の背筋が震え、
     赤くなっていた顔が青くなる。
     やはり、ここからだ。

    「……わい、ドラちゃんに惚れられてるらしい」
    「らしいってなんだよ。
     どう見ても惚れられてんだろ。
     お幸せに。今晩もお・楽・し・み・じゃねぇのか?」

     そう冗談めかして言うと。

    「あんちゃんはどーてーだから
     そんなことが言えるんや!!」

     突然大声でセンシティブなことを叫ぶもんだから
     酒場内の目が一斉にこっちを向く。

     この野郎……!
     俺は勇者だぞ……!
     全世界に顔が割れてるんだぞ……!

     近い将来確実に英雄譚が書かれることになる
     俺のプロフィールの右端に
     『※どーてー』と書かれたらお前のせいだぞ!

    「……そんなにイットは凄いのか?」
    「すごいなんてもんやない。
     人間やないんやで、ドラちゃんは」

    「すまん。そんな震えた声で言われても
     俺には惚気話にしか聞こえん」
    「わいの体が持たんのや!!」

    「あーはいはい。ごちそうさまごちそうさま。
     もうお前の話には付き合ってられん。
     くそっ、心配して損した。
     ただ女の尻に敷かれてるだけじゃねぇか。
     せいぜい首輪でもつけとくんだな」
    「わいはそんな変態じゃないんやぁぁああ!」

     まったく。本当にくだらない話だった。
     ま、お前とイットに子供が生まれたら、
     名前くらいは俺が考えてやるよ。
     お幸せにな、相棒。

     まったく……
     いいんだよ、どーてーで。
     俺はまだ右手が恋人でいい。

     そう、俺の戦いは、まだ終わってない。
     むしろここからが本当の戦いだ。

    「そうだろ……兄さん?」

     夜風の中で星を見上げた俺の前に
     軽いそよ風と同時に香水の香りが流れてきた。

     そう、戦いはまだ終わっていない。
     終わっていないから、笑顔になれない。
     それは君も同じだろう?

    「こんばんは、勇者サマ。良い夜ね」

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     裏ボスとの戦いは、これから始まる。


    4-3:邪神の信奉者

     夜風の心地よい星空の下。
     にこりと微笑んだ僧侶が草の上に座る。

    「…………」

     俺はしかめっ面を維持したまま立つ。
     しばし無言の時間が流れた後、
     僧侶は軽くため息をついて、
     その白いローブを軽くはだけさせて素足を晒した。

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    「……はぁ」

     俺はその意図を理解し、
     腰の剣をその場においてから隣に座った。

    「するつもりなら鎧も脱いで欲しいのだけど」
    「あまりどーてーをからかわないでください。
     武器は持っていない。そういうことでしょう?」

    「女の武器は体から外せないのよ」
    「肩こりが大変らしいとは聞いています」

     くすりと笑いを返してくれる。
     わりとセンシティブな話題だったが、
     幸いにもジョークの範囲で受け取ってくれたらしい。

    「それで。これからの戦いについてですね」
    「そうよ。今のところ私はあなたに味方するつもり。
     あなたが、私の想像通りの勇者サマならね」
    「…………」

     どこまで、読まれている?

    「私達の中には裏切り者がいた。
     魔王との戦いの直前まで、
     それが誰なのかあなたには確信がなかった。
     賢者様の予言は絶対。
     それは確かに、魔王に敗北する可能性だった。
     にもかかわらずあなたは戦いを強行した。
     その理由は、時・間・が・な・か・っ・た・か・ら・。
     そう、あなたにはこのタイミングで
     魔王を倒すべき理由があったの」
    「…………」

     なるほど。流石です、僧侶さん。

    「こうして街々で歓待を受ける私達だけど、
     決して一晩以上は留まることができない。
     もう時間がない。寄り道もできない。
     最短ルートで帰らなければ、
     次・の・代・表・選・挙・に・間・に・合・わ・な・い・。
     ここを逃したら4年後だもんね」
    「……そのとおりです」

     すべて、読まれている。

    「私はあなたに投票するわ。勇者サマ。
     いえ……初・代・人・類・総・代・表・」
    「……そこまでの権力を持てるかは、
     まだわかりません」

     確実なのは小さな都市国家1つを動かす権力。
     ただし、勇者の俺が声をかければ、
     その傘下に入る国家の数は少なくないはず。
     その数が世界の7割に届くなら、
     初代人類総代表を名乗っても許されるだろう、が。

    「持てるわ。あなたは完璧にやり遂げた。
     戦略的に無視して構わなかったはずの
     魔王軍拠点をすべて潰し、
     王妃誘拐から子犬探しまで、
     あらゆるサブクエストをこなしてみせた。
     それはあなたという勇者が、
     世界中の万人の支持を得るための、
     言うならば選・挙・運・動・だった。
     あなたは勇者なんかではなく、
     政治家として生きるべきだった人ね。
     この旅は真の意味で伝説に残る選挙運動よ」
    「…………」

     そうです。
     勇者になるのは、兄さんで。
     俺は、政治をやる弟のはずでしたから。

    「改めて、おめでとう。
     あなたの勇者としての仕事はもう終わり。
     ここからは存分に政治のセンスを振るいなさい。
     おそらく私も、教会の中で相応の地位につく。
     あなたのためなら、教皇を目指して
     根比べをしてあげてもいいわ。
     教会があなたの背後につけば、
     世界の統治はスムーズに進むはずよ」
    「正直に言うなら、それは是非お願いしたいです。
     尤も……」

     言っていいのか、悩む。
     このままのなぁなぁの関係で
     表向きだけの協力関係を維持してもいい。

     しかし、目指すのが完全勝利なら。
     石橋を叩いて壊して鉄橋をかけるなら。

    「あなたが本当に女神クリアの信徒ならば、ですが」

     その石橋は、壊すべきだ。

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    「あなたが味方で良かった」
    「俺もそう思います」

    「あなたを敵にしたくないの」
    「俺もそう思います」

    「だから、気にしないで。
     私が邪神の信奉者であることなんて、
     本・当・に・ど・う・で・も・い・い・こ・と・だ・か・ら・」
    「…………」

     俺はちらりと反対を見る。
     剣は手を伸ばしても、届かない。

    「ならそれ、やめてもらえませんか?」
    「なんのことかしら?」

     俺は体を飛び起こし、
     僧侶を正面から押し倒す。

    「即・死・魔・法・の・詠・唱・を・止・め・ろ・と・言・っ・て・い・る・」
    「……ふっ」

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    「あなたはここで死ぬべき人間よ。
     少なくとも女神クリアならあなたを殺す。
     何故ならあなたはこれから、
     魔・王・よ・り・多・く・の・人・間・を・殺・す・こ・と・に・な・る・か・ら・」
    「詠唱を、止めろ」

     鼓動が、苦しい。
     これはおそらく、即死魔法の効果だけではない。
     効果が出るのが、早すぎる。

    「無駄よ。詠唱は脳内で考えるだけで進むの」
    「もうあなたを殺すしか止める方法はないと?」

    「あなたの剣で私を刺したら、
     その快楽で思考が中断されるかもしれないわ」
    「どちらの剣も抜くつもりはないんです。
     やめてください」

     俺はもう、身内を殺したくない。

     それに政治をやるなら、
     隣に異性は置いておけない。

     特にこういう、危険な女は。

    「…………」
    「…………」

    「……いいでしょう。
     殺すのは後にしてあげるわ」
    「ありがとうございます。
     俺も、後にしておきます」

     ふぅ、と大きく息を吐き、
     大きく、吸い込む。
     もう胸は、苦しくない。

    「やるじゃない。どーてーなのに」
    「からかわないでください」

     俺は改めて僧侶の隣に座る。
     ひとまずの危機は、乗り越えたらしい。

    「……関係ないのよ。
     私がどんな神を信じているかなんて」
    「そうは思いませんけど」

    「あなたは信仰の本質を理解していないわ。
     いや、まだ理解できている方かしら。
     だから祈っている相手を気にしてしまう。
     結局世の人々は、自分が誰に祈っているかなんて
     何も気にしていないのよ。
     自分が救われさえすれば、それでいいの」
    「……確かに。言われてみればそうなんでしょうね」

     教会の中の人たちまでがそうとは思わないが。
     それもこの人には、どうでもいいことなのだろう。

     勇者と共に魔王を倒したという実績。
     その殉教者として最大級の経験は、
     教会の中でこそ最大限の効果をもたらす。
     それこそ、本当に教皇になれてしまうほどに。

    「あなたの望みは?
     俺に投票する有権者としてのあなたは、
     人類の新たなリーダーに何を望むんです?」
    「魔王軍との戦争を終えての復興。
     全世界の民の生活レベルの向上」

    「当然、それは果たします」
    「その順序は?
     元から貧乏だった貧民の救済と、
     魔族の略奪で資産を失った貴族の補填、
     どちらから手をつけるつもり?」

     ……なるほど。それが本題か。

     答えは簡単だ。
     貴・族・か・ら・手・を・つ・け・る・。
     何故なら、そ・う・す・る・以・外・無・理・だ・か・ら・。
     そうしなければ、戦争が始まるから。
     いつか起きるかもしれない革命よりも
     確実に起きる戦争の方が、厄介なのだ。

     だがもしもそう答えようなら、
     俺はここで殺される。
     即死魔法は、まだ詠唱が中断されたに過ぎない。
     俺はまだ、脅迫されている。

     そして、俺がここで貧民からと答えれば、
     それは神の前での宣誓となってしまう。
     近く教皇となる教会最高権力者の前での、宣誓に。

    (ただでさえここからの敵は
     巨大だというのに、縛りプレイかよ……)

     だがそれでも。
     この先の物語を続けるなら。

    「貴族からだ」
    「ごめんなさい、聞こえなかったわ。
     もう一度聞かせて」

    「貴族からだ」
    「ごめんなさい、聞こえなかったわ。
     もう一度聞かせて」

    「貴族からだ」
    「ごめんなさい、聞こえなかったわ。
     もう一度聞かせて」

     選択肢なんて、最初からない。

    「……貧民からだ」
    「ありがとう。流石勇者サマ。
     あなたは私が待ち望んだ救世主。
     私・の・よ・う・な・女・を・救・っ・て・く・れ・る・人・よ・」

     まぁ、仕方ない。
     勇者など、最初から最後まで人身御供だ。

     それでも俺は俺のために死んだ兄さんに誓って
     最後まで人身御供を果たせねばならない。
     だからせめて……

    「俺が死ぬ時は、天国に行けるよう祈ってくれますか?」

     そのくらいの望みは、叶えて欲しいのだが。

    「無理ね。私もあなたも、
     行き着く先は地獄しかありえない。
     百歩譲って騎士ちゃんくらいよ、天国行きは。
     まぁ、親を殺した時点でもう無理だと思うけどね。
     覚えておきなさい。
     悪行を成したクズにハッピーエンドは、訪れない」

     確かに、そのとおりだ。
     ならばもう、しょうがない。

     ここから先が本当の戦い。
     どう足掻いても地獄しか繋がっていない旅。

     こうして裏ボスと俺の戦いが幕を開けたのだった。


    4-4:魔王の手先

    「おはようございます、総代表」

     朝、執務室に入った俺を
     秘書にクラスチェンジした妖精ティカが出迎える。
     相変わらずのギャン中アル中ヤニ中ではあるが、
     前と同様仕事に関しては優秀だ。

    「ありがとう。午前中の予定は?」
    「珍しく何もありません。
     3年振りの暇な午前です」

     この3年間、俺は神聖人類同盟の
     総代表として身を粉にして働いた。

     今この世界の教会権力を取りまとめる
     教皇サマの前で3年前に宣誓した通り、
     貧民の救済と、泥・棒・貴・族・の・粛・清・を進めていった。
     流れた血の量も、決して少なくはない。

    「本当に珍しいな。
     普通なら何か適当な予定を
     ねじ込むじゃないか、君が」
    「御主人様のメンタルコントロールも
     出来る秘書の務めというものです」

     確かにその通り。毎日本当に助かっている。

     優秀な秘書のサポートと、
     諜報と汚れ仕事を一手に引き受ける忍者の暗躍と、
     俺を全肯定する神の言葉を語る教皇の後見と、
     残された魔物との橋渡しである魔王姫との同盟。

     このどれが欠けても、
     今の俺の安定した世界統治はありえない。

     だがそれはそれとして。

    「なるほどな。ところで、
     観光復興計画の一貫のグランカジノ、
     今日でグランオープン1ヶ月だな」
    「……そうですね」

    「だいたい1ヶ月らしいな。
     スロットの高設定」
    「…………」

    「午後の仕事は3時からだ。
     それまでに戻ってくれ」
    「かしこまりっ!!」

     あいも変わらずどいつもこいつも、
     頼れるクソ野郎共だ。

    「やれやれ……」

     欲望は、コントロールできる。
     金持ちは喧嘩しないのだ。

     だが道徳は、コントロールできない。
     凶行に走るヤツは皆必ず正義を叫ぶ。

     人間の本質は悪だ。
     正義とか愛とか勇気とか、
     そういうのはすべて、
     社会がなぁなぁに動くためのお題目でしかない。

     契約するなら友情よりも、カネの方が信頼できる。
     カネさえ払い続ければ縁は切れない。

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     最も強い信仰は狂信である。
     その信念は絶対に揺るぎない。

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     強固な同盟は、婚姻と子供が利用される。
     その子供の生まれ方など関係なく。

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     オンオフは重要で、適度なギャンブルもいい刺激だ。

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     そう、俺達は知っている。
     綺麗な理性で生きる人間よりも、
     欲望を制御下に置いた人間の方が強くなれる。
     綺麗事では世界は動いていないのだから。

    「ただひとつ言えるとしたら。
     俺達はきっと全員、
     マシな死に方は出来ないだろうな」

     そうため息をついて、
     俺は昨日の夜のニュースを再生する。

    『神聖人類同盟を支配する勇者、
     ヤツはもはや魔王と何も変わらない!
     あの魔王を討たずして、人類に未来はない!
     ヤツがどれだけの人間を殺したのか!?
     どれだけの人間から土地とカネを奪い、
     無意味な浪費を行ったのか!?
     我ら正統連合王国は、
     魔王とその支配を受け入れるゴミ共を
     一掃するまで、決して戦いをやめん!
     ヤツらの言う一方的な話し合いなど、
     最初から最後まで無意味である!
     我々は戦う! 我々は魔王に抗う!
     そう、我らこそが勇者なのだ!』

     よく言う。権力にしがみつく貴族共が。
     だが、あれこそが人間の、本当の姿なのだろう。

    「……警告は何度もした。
     市民の退避勧告も入れた。
     まだ残っているなら、俺はもう知らん」

     俺は今、魔王と呼ばれている。
     仕方のないことだ。
     全員を幸せにすることなんてできない。
     人類は奪い合うことしかできない愚か者だからだ。

     だからこの世界もいずれ滅ぶ。
     俺が滅ぼさずとも、誰かが世界を滅ぼす。

     俺に出来るのは、
     それを少しでも先延ばしにすることだけ。
     その中で、最大多数の幸福を確保するだけだ。

     俺は自分の行動が正しいとは思っていない。
     そもそも、絶対に正しいことなど、
     世間知らずの女神様の脳内にしか存在しないのだ。

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     どれだけ己の行動を正当化しようとも、
     これから俺が大勢の人間を殺すという
     数字的な事実は変わらない。
     悪人も善人も同じ1人なのだから。

     仮に何もしなければ5万人が死ぬ未来を
     俺が1万人を殺して回避したとしても。
     俺は4万人を救った勇者ではなく、
     1万人を殺した魔王になってしまう。
     何故ならその死んだ5万という数は、
     死んだ『かもしれない』数でしかないからだ。

     さて。たった1人の人間がが
     1万などという大勢を殺す方法。
     そんなもの1つしかない。火だ。

     人類の歴史は、火の発見と共にある。
     この星のあらゆる生物の中で
     人類だけが火を使う。
     しかし、火は敵ではない。

     たとえ火が大勢の命を奪うとしても、
     どれだけ人が火を恐れたとしても。
     火はあくまで道具でしかない。
     火は意思を持たない。

     そうだ。火・は・、人・類・の・手・先・だ・っ・た・。

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     人は弱い。どこまでも卑怯な臆病者だ。
     それでも俺は力を振るおう。
     その力を振るう、意思を示そう。

     だから、誤解しないで欲しい。
     悪いのは俺で、俺の嫁となった彼女ではない。
     彼女は、魔・王・の・手・先・で・し・か・な・い・の・だ・か・ら・。

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     賢者の予言は正しかった。
     確かにあの時の俺達の中には、
     魔王の手先が紛れ込んでいた。

     そして勇者は、魔王の手先によって敗北する。
     ここに今、予言は成就する。

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     その正しさは後の歴史が決めるだろう。
     平和を愛する欲しがりの臆病者が書くことになる、
     歴史というフィクションが。

     この物語はフィクションである。
     そのフィクションから、考えて欲しい。
     『力』という手先の意味と、その使い方を。

     だがひとつ。ひとつだけ言うとすれば。

     悪行を成したクズにハッピーエンドは、訪れない。

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    クリエイターと研究職を反復横跳びしてきた理系の狂人にゲームウマ娘の話だけ書かせてます。ウマ娘の話しか書かせません。

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