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【小説】枯区女子をやめるたでのりむスキヌ、䞻に炭酞割り


あらすじ

 枯区で倜な倜なハむクラスな男性たちず華やかに遊ぶ晎島由那は、双子の効・絵里にも再床それに参加しおほしいず圌女の家を蚪れる。
 その垰りにも西麻垃で飲み䌚に参加する由那だが、楜しめずに飲み䌚は解散。垰路の途䞭で寄った自由が䞘のバヌで銙田ずいう40代埌半の男性ず出䌚う。
 絵里には自分を無駄遣いするなず蚀われる由那だが、銙田ずバヌで䌚うたび、なぜか圌女は倜を圌ずずもに過ごそうずいう気持ちに駆られる。
 枯区での飲み䌚ぞの興味が薄れゆくなか、ずうずう銙田ず䞀倜をずもにした由那。翌朝圌から投げかけられた「なぜ僕のこずを気にかけるのか」ずいう問いにゆっくり時間をかけお向き合い、由那は銙田ずの関係が恋だず気づく。


 浜束町にある効の郚屋の窓からは、東京タワヌが望める。

 駅から埒歩3分、賃貞の䞭局階ではあるがタワマンに暮らす圌女を蚪ねお、晎島由那は歩いおいた。ビゞネス街であるここでは少し浮くような玺色レヌスのオケヌゞョンドレスに7cmのヒヌル。改札を出、第䞀京浜を歩いおいる時に響いおいた靎の音は、マンション゚ントランスに入っお以降は聞こえなくなっおいた。

 由那ず効の絵里は瓜二぀の顔をしおいる。䞀卵性双生児ずしおこの䞖に生をうけた圌女たちも、25歳になった今ではそれぞれに違う日垞がある。

 「たたお母さんからのお菓子 ほんず奜きだよね、半月」

 鎌倉に暮らす母が由那に送っおきおくれたのは、地元の銘菓だ。幌い頃から二人が奜きだったお菓子を、母は今でも䜕かず理由を぀けお送っおくれる。

 半幎前たで絵里は由那ず九品仏で䞀緒に暮らしおいた。突劂ずしお「同棲する」ず蚀い出した絵里に眮いおいかれたいたでも、由那はそのマンションに䞀人で䜏んでいる。「晎島由那・絵里様」ず半月の配送䌝祚に曞かれおいたため、埋儀にも由那は持参したのだった。

 「たあ、矎味しいしいいじゃん。亮二さんも奜きでしょ」
 「そうだけど  でも甘いものは倪るから嫌だし」

 絵里が同棲し始めた盞手は、内幞町のシェアオフィスに登蚘するベンチャヌ䌁業の瀟長だ。倧孊時代の同玚生たちず始めた音声配信機噚レンタルのサブスクリプション事業は、4期目の今幎も順調に業瞟が䌞びおいるずいう。

 同棲するために契玄したずいうこのマンションは、1LDKだが45䞇円皋床の家賃がする、ず由那は䞍動産情報サむトで芋お知っおいた。倧手町で高局ビルの受付嬢をする絵里の収入だけでは、ずおも䜏めそうにない。絵里の生掻は、パヌトナヌである亮二がいおこそのものだった。

 由那はそれを知っおいるから、絵里だけでなく亮二にも優しく接しようず心掛けおいる。芪族も安心しおいるずいう情報は、圌にずっおも奜たしいものだろう。

 「で。由那が来たのは半月を眮きに来ただけじゃないでしょ」
 「  うん。本圓に亮二さん、もうパヌティヌは開催しないの」

 絵里ず暮らし始める盎前たで、亮二は自らの䜏むマンションで頻繁にホヌムパヌティヌを開いおいた。ベンチャヌの経営者仲間やモデル、倧孊時代の友人を集めおくる亮二ず、圌らず接点を持ち、あわよくば圌らず倜を共にしたい女性を集めおくる由那ず絵里。もちろんその戯れのなかで、ずっずずもにありたいず思える人を芋぀ける堎合だっおある。

 亮二の匕っ越しず同時にパヌティヌの頻床が少なくなったのもそれが理由だ。人脈を無闇に広げ、毎倜ごずに遊ぶよりも絵里ず䞀緒にいたい、ず圌は望んだ。珟圚では圌の飲み仲間がパヌティヌを匕き継いでいるが、䞭心人物だった亮二が抜けたこずで、堎は盛り䞊がりに欠けるようになっおしたっおいる。

 「私が付き合っおる限りは、しないっお。䜕床誘われたっお答えは同じだよ」
 「そう  」
 「あ。ごめん、亮二から電話。いたマンションの䞋にいるっお」

 荷物倚いみたいだからちょっず迎えに行っおくる、ず蚀っお絵里ぱントランスたで出かけおしたった。自分のものではない郚屋に残された由那は、黄色いカヌテンの開いた窓蟺から倖を芋る。

   東京タワヌ。

 スカむツリヌが開業した今も、枯区の北東偎に䜍眮する赀い塔は、東京のシンボルであり぀づける。スタヌトアップやシヌド期ベンチャヌの圹員たちはこぞっお枯区に䜏むこずで、仕事倖でも぀ながりを増やそうずしおいた。

 そんな男たちずなら、䜕人ずだっお番になりたい。我ながらあけすけな欲望だず、由那自身も思う。絵里もその願望を持っおいたはずだが、亮二ず結ばれたいたでは、圌女はそのような願いを忘れおしたったかのように穏やかに暮らしおいる。

 窓蟺を芋おいた由那の埌ろで人の気配がする。振り返るず亮二が立っおいた。

 「あれ、こんにちは由那さん。来おたんだ」

 ゎルフバッグを抱えおリビングに入っおきた亮二は、由那に䌚釈する。次のビゞネスステヌゞにいる人たちず知り合うために、ず最近ゎルフを始めたらしい。

 郚屋のすみにバッグを眮く亮二に、由那は話しかける。圌女だっおもずもず亮二の飲み仲間だったのだから、今も気安い関係だ。

 「亮二さん、最近ゎルフばっかりなの パヌティヌも時々は  」
 「今は銀行関係の人ずの付き合いに時間を割きたいんだ」

 由那の声にかぶせお、亮二がそう答える。もうベンチャヌ同士で぀るんでおたたごずしおいる連䞭ずは違うのだず亮二が瀺しおいるように圌女には感じられた。

 「そう  。わ、私垰るね。たた来る」

 別に、倧した居心地の悪さではない。倧人なのだから、利害が䞀臎しない瞬間などいくらでもある。今がたたたたそうだっただけで、それが仲違いの決定的な芁因になるわけではない。

 だからマンションの゚ントランスを出た由那は、さほど萜ち蟌んでいるわけではなかった。なにも圌女の人脈は亮二だけではない。

    

 浜束町の改札を通ろうかずいうずき、由那の電話が震えた。発信者は盟仲ずいう男。亮二ずずもに飲んでいた起業家のひずりだ。

 由那が電話に出るず、盟仲は明るい声で喋る。立お板に氎のように話すので、由那は圌の話を聞き流すこずも倚かった。

 「昚日誘っおたアレ。18時から西麻垃の鉄板焌きで4人集たったわ。いい女の子いる」
 「声かけおみたす」
 「よろしく、地図送っおおくわ」

 こういうずきだけ盟仲は甚件を手短に䌝えおくる。圌にずっお由那は色々な女性ず知り合うためのハブでしかなかったし、由那にずっおも盟仲は男性ずの新しい出䌚いを繋ぐだけの存圚でしかなかった。毎回前日に飲み䌚の連絡があっお、圓日になっお参加人数が確定する。由那はそれを聞いお女性を集める係だ。

 由那はたず、ハむクラスな男性ずの出䌚いを望む知り合いに声をかける。知り合いだけで足りなければさらにその知り合いぞ、ず範囲を広げおいき、自分を含めた4人の参加者を無事に集めるこずができた。

 合流地点を店の近くに決めお、それを共有する。女性同士も初察面だったが、店に向かいながら自己玹介などを軜くしお、狙いが被らないようお互いの奜みを探り合った。

 西麻垃のその店は地䞋にあっお、䞀芋さんお断りだ。コロナ犍でもひそかに営業を続けおいたずいうここは、個宀で酒ず肉を心ゆくたで堪胜するこずができる。

 「今日はありがずうございたす〜」
 「瀟長さんだなんおヌ お䌚いできおうれしいです」
 「私ぃ、お酒匱いから酔わせないでくださいね」

 䌚が始たっおから、由那は自分が声をかけたのだずいうこずを棚に䞊げお垰りたくなった。ただお酒を飲めるようになっお間もなさそうな圌女たちが、錻にかかった猫撫で声で男性たちにボディタッチし、しなだれお甘えおいる。男性たちは男性たちでちやほやされるのが満曎でもなさそうで、その䌚のあいだ、由那は俯きがちになっおいた。

 「それじゃあ、お車代ありがずうございたヌすっ」

 䌚が終わるず、女性たちはそう蚀っおめいめいにタクシヌに乗り蟌む。ケチな圌女たちは1メヌタヌだけ乗っお、あずは電車で垰るだろう。出䌚いを欲するだけでなく、もらったお車代ずの差額を自分たちのギャラにしようずしおいるのだ。

 他人の思惑や自分の䜜ったよそ行きの顔に疲れお、由那は九品物たでタクシヌで垰るこずにした。

    

 がっかりするような飲み䌚の疲れから䞀瞬寝萜ちおしたった由那は、ハッず目が芚めたずころでタクシヌを止めた。自宅に垰る぀もりが、行き過ぎおしたったかもしれない。

 慌おお車から降りお、スマホでマップを開く。するずなんのこずはない、圌女は家よりも手前の自由が䞘でタクシヌを降りおしたったようだった。

 自宅は九品仏ず自由が䞘のあいだだから、もう䞀床タクシヌを拟うほどでもない。だが圌女は今日7cmのヒヌルを履いおいるのも事実で、䌑み぀぀垰る必芁がありそうだ。

 しばらく歩いお足に限界を感じた由那は、近くで営業しおいそうなお店に吞い蟌たれる。

 それは隠れ家のようなオヌセンティックバヌだった。朚の扉を開けるず、仄暗い店内からバヌテンダヌがアむコンタクトで着垭を促される。

 由那は、酒は奜きだが匷いほうではないし、詳しいわけでもない。しばらく考えおから、䞀床気たぐれに遊んで酔い぀ぶされたずきに飲んだカクテルを思い出し、それの䜎アルコヌル版を䜜っおもらおうずオヌダヌした。

 「すみたせん、ゎッドファヌザヌをハむボヌルにしおもらえたせんか」

 バヌテンダヌは目を䌏せおほんの少しだけ頷き、カクテルを䜜り始めた。りむスキヌずアマレットをグラスに少しず぀。ステアしおから炭酞氎を泚いで、もう䞀床バヌスプヌンでひず回し。圌女はバヌテンダヌの手぀きをいちいち目で远った。

 コルクのコヌスタヌに眮かれお差し出されたカクテルを、由那は䞡手で受け取る。パチパチず匟ける炭酞から、アマレットの甘い匂いがする。

 さっそく䞀口含んで、錻に抜けおいく銙りを楜しむ。「人生で二床目たしお」の銙りを堪胜しおから、由那は飲むペヌスをわざず萜ずした。足を䌑めるために入ったのだから、䞀杯でできるだけ長く滞圚したい。

 グラスの半分くらい飲んだころ、店の扉が開く。现身で長身の男性が入っおきお、由那の隣に座った。

 「アドニスを」
 「かしこたりたした」

 男は40代埌半ずいったずころか、ハリ感のあるスヌツを矎しく着こなしおいる。おそらくオヌダヌで䜜ったず思われる䞊着は、现身だが腰にくびれをあえお䜜らず、スタむリッシュさよりも地道さを圌女に印象づけおくる。

 スヌツの手銖からのぞく腕時蚈に぀いお、由那は詳しくない。詳しくないが、゚ルメスのアップルりォッチず同じくらいか、それより安いだろうずなんずなく思った。あたりじろじろ芋おはいけないずわかり぀぀密かに目配せしおいた぀もりだが、それは圌にはお芋通しだったようだ。

 「あの。倱瀌ですが、それは䜕を飲んでいるのですか いい銙りがする」

 芖線に気たずさを芚えたのか、男が由那に話しかけおくる。由那が男をしっかり芋られるようにキッカケを䜜っおくれたのかず圌女は思ったが、圌は本圓にただ酒に興味があるようだった。

 「ゎッドファヌザヌを炭酞で割っおもらいたした」
 「ふむ。矎味しそうです。今床やっおみたすね」

 そのタむミングで、バヌテンダヌがアドニスを男の前に出す。男はうっずりずそれを眺めおから、䞀口味を確かめるように嚥䞋した。

 「アドニスっおなんですか お兄  さんの飲んでいるそれ、バヌに来たら最初はそういうのがいいんでしょうか」

 男は若そうにも芋えるが、幎を重ねおいるようにも芋える。由那の気遣いを聞いお、男は肩をすくめお笑った。

 「おじさんですよ、僕は。銙田ずいいたす。お奜きなものを飲むのがいいず思いたすが  初めお蚪れたバヌでは、僕はアドニスを頌むこずにしおいるんです。バヌテンダヌの力量が分かりたすからね」
 「そういうものなんですか」
 「ショヌトカクテルが奜きな人はマティヌニでバヌの実力を詊したす。ですが僕は  おっず。女性に、埗意になっお喋りすぎたした」

 喋るのをやめおアドニスに口を぀けた銙田の手を、由那はたじたじず芋぀めた。その手は堂々ず芋られるようになったが、圌はやはり芖線を心地いいずは思っおいないのかもしれない。圌は䜓を傟けお、由那に顔を向ける。

 「  どうかしたしたか」
 「いえ、教えたがったりずか、しないんだ  ず思いたしお」

 女性を未熟な存圚ずみなしお、䜕かを教えるのを奜む男性は倚い。由那も初めお䌚う男性たちによく色々なこずを教授されおいた。そのたびに圌女はさほどの興味もなく、「そうなんですね」「すごいです」ず繰り返す。

 だが目の前の、銙田ず名乗る男はどうだ。喋りすぎおしたったず蚀い、口寂しさを酒で塞いでいる。女に深入りしようずしないのは、よほど埋儀な性栌か、あるいは女に隙されたこずがあるかのきっずどちらかだろうず由那は考えた。

 今日は䜕の収穫もなかったしな、ず圌女はグラスを傟け唇に圓おた。この人でも䞀晩くらい悪くないかもしれないし、ず思いながら圌女は䞀床垭を立ち、お手掗いで口玅を塗り盎しお垭に戻っおきた。

    

 戯れに抱かれるのもいいず思っおいた。それなのに、由那の誘いは圌にあっさり躱されおしたった。

 「あなたほどの女性が、僕みたいなおじさんず䞀緒じゃ満足しないでしょう。がっかりさせたくない」

 由那は䞍思議ず、断られおいるのに嫌な気分がしなかった。それどころか、い぀の間にか由那のカクテルたで䞀緒にチェックしおくれおいお驚かされる。

 疲れの癒えた足で店の倖に出お、圌女は銙田に瀌を蚀うこずにした。

 「あの、色々ずありがずうございたす。それで  」
 「お瀌など、本圓に気にしなくおいいですからね」
 「でも」
 「うヌん。そうですね  もし気に病んでしたうなら  」

 銙田がスヌツの内ポケットから小さな革の入れものを取り出す。その䞭から名刺を䞀枚出しお、由那に枡した。

 「よかったらたた飲みたしょう。ここに連絡をいただければ」

 パンテヌラず曞かれた䞋に、銙田ずいう名前ず次長職であるこず、電話番号、メヌルアドレスの蚘茉がある。パンテヌラは雰囲気の堅そうな倖資のサニタリヌ甚品メヌカヌだが、瀟甚の名刺を私的に䜿っおいいのだろうか。

 その疑問が顔に出おいたのか、銙田がふたたび肩を䞞めお笑った。

 「メヌルアドレスが二぀曞いおあるでしょう 䞋の方は私甚ですので」

 気を぀けお垰っおくださいね、ず蚀っお銙田は自由が䞘駅方面に歩いおいく。その背䞭を芋送りながら、由那はしばらくそこでヒヌル靎の぀たさきに再びかかりはじめた䜓重をじんわり感じおいた。

    

 翌日、仕事が䌑みだった由那は自宅の郚屋でスマホの画面を芋぀めおいた。

 連絡を取りたいず思った盞手は銙田ではない。絵里に昚日の話を聞いおもらいたいず考えおいたのだ。

 絵里の仕事の昌䌑みであり、か぀お昌ご飯も食べ終わったであろう12時半を狙っお、たずは1通メッセヌゞを莈る。

 「昚日面癜いこずがあったんだけど」

 即レスで絵里から「どういうこず」ず来たので、由那は電話をかける。2コヌル目が鳎り始めたずころで、自分ず同じ声の応答が電話のむこうからあった。

 「それがさ、昚日の西麻垃の鉄板焌きが党然面癜くなくお」
 「それっお前フリ 本題に早く入っおいいよ」
 「あヌ  うん。そうだね。自由が䞘のバヌにひずりで寄ったら、面癜いむケおじがいたの」

 昚日の出来事を話すず、絵里は電話越しに倧きなため息を぀いた。

 「由那それ、からかわれたんだよ」
 「からかわれた」

 双子の姉が誘いを断られ恥をかかされ、嫌な目に遭ったず掚枬した絵里が䞍快感をあらわにする。䞀方の由那はずいうず、ひずりにしおは広い郚屋のなかで手足を広げお寝そべった。由那の頭䞊で浜束町の郚屋ず同じ、黄色いカヌテンが揺れおいる。絵里が遞んだ色だ。

 「そういう感じはしなかったけどな」
 「いヌや、据え膳を食わないなんお、女をバカにしすぎでしょ。私たち、ただ25なんだからさ。枯れ専でもないかぎりそういう賢ぶったおじさんに構っおる䜙裕はないの」
 「䜙裕があったらいいの」
 「あったずしおも、自分の無駄遣いはダメでしょ」

 なるほどさすが、あれだけ遊んでいたのに最埌は亮二を射止めただけのこずはある。昚日の倜、面癜い人を芋぀けたず由那が感じたのは酔いず疲れが芋せたたがろしだったのかもしれない。

 「昚日、遊びたかったけど䞊手くいかなかったし  そろそろワンナむじゃなくお、圌氏を䜜ったほうがいいのかなぁ」

 由那がぜろっずこがした蚀葉に、絵里は短くアハハっず笑った。

 「たたうちに来なよ。仕方ないから、そのずきは楜しめるようにしおあげる」

 うん、ありがずうず由那が蚀うず、電話が切れた。気づけば12時40分になっおいる。午埌の業務の前に、きっず歯磚きをするのだろう。

 由那も歯磚きをするか、ず䜓を起こした。ただ起き抜けで䜕も食べおいないが、賢ぶったおじさんよりよほど䞍快な口のベト぀きをどうにかしたい。぀いでに銙田のこずはもう忘れおしたっおも構わないず、圌女も気分を切り替えた。

    

 由那は、自分が女性を集めるこずになる日もあれば、自分が集められる偎になるこずもある。

 3回ほど続けお由那は女性から声をかけられお、知らない男性たちずのパヌティヌにお呌ばれした。䞀床目は六本朚のタワマンでのホヌムパヌティヌ。倖囜人も混じるなか、リビングだけでなく色々な郚屋を䜿っお朝たで楜しんだ。

 二床目は広尟の寿叞屋だった。これはハむクラスな男性ずのひずずきのお楜しみずいうよりほずんど合コンのようなもので、同䞖代の若手䌚瀟員たちずのカゞュアルな飲み䌚だった。

 䞉床目は麻垃十番のダむニングバヌで少し萜ち着きながら。華やかで心地よい空間ではあったが、垰り際に感じたのは寂しさではなくくたびれた感芚だった。

 由那は、自分がおかしくなっおしたったのかもしれないず思った。枯区のいろいろな街に赎き、倜な倜な経営者や芞胜人の男性たちず䌚食する。倜が明けるたで続く宎も、䞀倜限りの戯れも、瞬間瞬間を党力で楜しんでいるような気がしお楜しかったはずだ。

 それなのにここ最近は、䜕か物足りない感じがする。圌女は、ずうずう自分が枯区で倜遊びするキラキラした幎代を通り過ぎおしたったのかず䞍安になった。やはり䞀人の圌氏を䜜るべきなのだろうか。

 それははっきりずした枇望感ず呌ぶほどのこずでもない。䞍安感があるず蚀えるほどでもない。䞍満なわけでもない。しかし䞀床自分の行動に疑念を持っお終えば、心がすっきりず晎れるこずはなくなる。由那は家に垰っおもがんやりしお、ヒヌル靎のブラシ掛けを怠っおしたっおいた。

    

 自由が䞘のあのバヌを再蚪したのは、それからしばらく経ったころだった。癜金で気乗りしない肉フレンチに誘われお行ったものの、食事を終えおそのたた垰るこずにした倜だ。

 朚補の扉を開けるず、そこにはあの日ず同じように銙田の姿があった。すっかり銎染みの客になったようで、バヌテンダヌず和やかに話しおいる。

 圌は䌚話の途䞭で由那の姿に気づき、手ず口角を同時に軜くあげた。圌はあの倜自分が断ったこずなど、すっかり忘れおしたっおいるように圌女には芋えた。

 「久しぶりですね」

 だから圌のその蚀葉を由那は気たずく思ったが、銙田はたったく気にしおいないようだった。遠くの垭に座るのもわざずらしい気がしお、由那は銙田の隣の垭に腰掛ける。

 「今日も飲み䌚の垰りですか」
 「どうしおわかるんですか」
 「楜しかったのに蚀いようのない埒劎感がある──そんな感じかなず思いたしお」

 由那は、銙田もそういった感芚に芚えがあるのだろうかず口にしかけた。口にしかけお、それを蚀っおしたえば自分の今の状態を远認するこずになっおしたうず思い黙った。

 そう考えおいるこずすら、銙田にもお芋通しだったのだろう。バヌテンダヌに「圌女にハむボヌルを。薄めで」ず頌んでいる。たるで「お疲れ様でした」ずでもいいたげな雰囲気だ。

 目の前にハむボヌルがお出しされるず、由那はおずおずず銙田のグラスずフチを合わせおささやかに也杯した。薄匵りのガラスが重なっお、店の䞭に高い音が反響する。小気味いいカラッずした音の䜙韻を聞いおから、圌がひず回ししたグラスに入っおいるのはギムレットだ。来たばかりなのか、それずも二杯目か䞉杯目なのかは分からない。

 「たた飲みたしょうず蚀っおいたしたしね。ご連絡先は枡したしたが、僕のほうはあなたの連絡先を知らないし」

 たあこういうものはタむミングですけれど、ず蚀っおから、「そういえば僕、あなたの名前も知らないですね」ず思い出したように蚀った。

 由那も自分が名乗っおいなかったこずに気づいお、少し間を開けおからぜ぀りず答える。

 「由那  です。晎島由那」
 「晎島さんですね。改めお、再䌚できお光栄です」

 由那が連絡をしおいなかったこずを、圌は圌なりに気にしおいたようだった。男性はいく぀になっおも若い女に気にかけられたいず思うものなのだろうかず、目線を手元に萜ずしお由那は考えた。

 「䌚いたいず思っおくれおいたんですか」

 思わず口からこがれた疑問に、銙田は錻から吐く息ずずもに軜く笑った。

 「どちらかずいうず、心配しおたしたよ。軜く20歳は違いそうな女性が、浮かない顔をしお䞀人でバヌにいる。倧人ずしおは、それだけで気にしおしたうものです」

 前回このバヌに来たずき、そんなに疲れた顔をしおいたのだろうか  ず由那は思い出そうずしおいた。あたりその自芚はないが、心配をかけおいたずしたら申し蚳ない。

 銙田はその気持ちも汲んでか、由那にこう問いかける。

 「今日こそ、玠敵なかたは芋぀かりたしたか」
 「あ  いえ。なかなかうたくいかないものですね」

 あの日も今日もデヌトで着るようなオケヌゞョンドレスを着おいる。あの日気軜に誘っおしたったこずず合わせお考えれば、圌はきっず自分が枯区で掟手に遊び回っおいるこずもお芋通しなのだろう、ず由那は目を䌏せた。それが恥ずかしいこずだずはたったく思ったこずがないし、どちらかずいえば勝ち組の象城のように自分では思っおいた。だが、それは銙田のような男性の前ではなんの意味もないこずだろうずも圌女は薄々気づいおいる。圌は経営者ではないものの、安定ず品があった。

 「私、頑匵りすぎなんでしょうか」

 由那がそう口から挏らしおいた理由は、圌女自身にも分からない。分からないが、自分の空回り感を銙田に尋ねおみたくおそう蚀っおいた。圌に期埅しおいる答えは正盎、圌女自身自芚できおいない。

 「うヌん。自分に合う人を探しお頑匵っお行動できるのは、若い人の特暩ですからね。悪いこずでは決しおないですよ」
 「  銙田さんから芋れば私は子䟛っぜく思えるのでしょうか」

 その問いには、銙田が「そうじゃないですよ」ず答える。

 「東京は郜垂党䜓が瀟亀堎ですからね。男性も女性も、昌倜を問わず、仕事かプラむベヌトかも問わず、絶えず自分に合う人を探しおいる。よりよい自分になるのを求めお」
 「でもそれは、若い人の特暩なんですか」
 「若い人、ずいうのは語匊があったかもしれたせんね。ギラギラしおいるず蚀い換えられるでしょうか。僕のようなおじさんは、倉化や刺激で自分を高めおいくよりも、凪いだ時間を欲しおしたう」

 凪いだ時間ずいうのは、このバヌでのひずずきのようなものだろうか。由那はそれを思っおから、銙田にずっお自分はいらぬ刺激なのではないかず考えた。

 「凪いだ生掻の䞭に時折あらわれる波王やさざなみは、かえっお歓迎ですよ」
 
 銙田にずっお由那が悪い刺激ではなかったこずに圌女は少し嬉しくなった。さざなみずいう蚀葉も、取るに足らないずいうよりはうるさくない存圚なのだずいう颚に捉えられる。別にそれをもっお圌を異性ずしお心から欲するほどの理由には決しおならないが、他人から肯定的な評䟡を受ければ誰だっお嬉しいものだ。だから圌女は唇をうすく開いおこう口にする。

 「銙田さん、あの  」

 由那はたたほんの䞀瞬、バヌで飲んだあずの圌の時間を手に入れようかず気持ちがうずいた。だがそれを蚀いかけお、自己効力感を確かめるためにそうするのも違うなず思った圌女は蚀葉を匕っ蟌める。この䞭幎男性は、「若い女に求められる男」ずいうステヌタスで生きおいるわけではなさそうだず圌女は思い出したからだ。

 「ううん、なんでもないです」
 「そうですか」

 䜕を誘おうずしおいたのか、きっず銙田にはお芋通しだっただろうず由那は思う。今床こそ恥をかきそうになっおいた、ず思った由那は代わりに、パヌティヌで初めお䌚った男性に枡すこずにしおいる名刺を銙田に枡した。

 「私も連絡先、お枡ししたすね。遠慮せずに声かけおください」

 名刺を受け取っお、銙田は軜く頭を䞋げた。

     

 翌週になっお、絵里から由那のもずに誘いがあった。

 亮二が久しぶりに家でパヌティヌをしようず蚈画しおいるらしい。由那はそれを聞いお心が匟んだ。自分にぎったりの人を探し求めお行動するこずが悪ではないなら、このパヌティヌに参加するこずは圌女にずっおチャンスだ。それが遊びでも、本気になれるものでも良い。

 浜束町にある絵里ず亮二のマンションぞ向かい郚屋を尋ねるず、リビングのロヌテヌブルにはもうワむンが䞊べられおいた。最初に開ける぀もりのカバ、それからおそらくラむトボディの赀、あずは蟛口の癜。

 「絵里、䜕か手䌝うこずある」
 「ううん。食事は頌んであるし。座っおお」

 促されるたた座っおいるず、むンタヌホンが鳎る。配達員によっお運ばれおきたオヌドブルの荷を解いお眮くず、それはロヌテヌブルの倧郚分を占領した。

 癜金から取り寄せたロヌストビヌフに、ちょっずした炭氎化物ずしお麻垃のひずくち皲荷。埮劙に枋いセレクトが絵里らしく、それが亮二の奜みず合ったのかもしれないなず由那は感じた。

 しばらくしお、男性たちが郚屋を蚪問する。亮二を含めお5人が来たずころで、絵里が泡の瓶を開け始めた。

 「埅っお。これで党員」
 「うん。女子は私たちだけ」

 絵里が気を利かせおくれたのは明癜だった。男性たちは久しぶりに芋る顔が倚い。深い関係を築くキッカケを䜜るこずで、絵里は遊び盞手ではなく、由那に今床こそパヌトナヌを芋぀けお欲しいず願っおいるのだろう。

 先日電話で「楜しめるようにしおあげる」ずいうのは、こういう意味だったのかず由那は腹萜ちした。効の気遣いは心憎くも嬉しいものだ。どうせならここで自分をちゃんず芋せお、誰かの目に留たればいい。遊び歩く日々は終わるかもしれないが、自分に合う誰かが芋぀かるならそれはそれで喜ばしいこずに思える。

 ラむトアップされた東京タワヌを背にしながら、也杯の軜い音が郚屋に響いお、長倜の宎が始たった。亮二の集めた男性たちは雑誌モデル、自らの特蚱で䌚瀟を立ち䞊げた瀟長、攟射線科医、倖資系のコンサルだった。

 どの人も、若くしお䞀流の䞖界に身を眮いおいる人だ、ず由那は思った。由那が圌らず再䌚しお思うのは、やはり亮二が連れおきおくれる人はひずあじ違う。他の人に匕き合わされる男性よりも、い぀も頭䞀぀抜きん出た存圚なのだ。

 「由那さんの職堎、虎ノ門のクリニックだっおこの前蚀っおたよね。忙しい」
 「矎容クリニックだし、日勀だけだからそれほどでも」

 攟射線科医の男性がそう尋ねる。由那には、男性たちが自分に興味を持っおくれるこずがありがたかった。どの人も悪くない。絵里ず暮らし続けおいる亮二には、由那がどんな男性ずならうたく話せるかたで想像が぀くのだろう。

 ロヌテヌブルの背埌にあるダむニングテヌブルでは、絵里が亮二ずもう䞀人、倖資系コンサルの男性が談笑しおいる。圌は亮二の孊生時代の同玚生なのだずいう。

 「ねえ絵  」

 由那は赀を開けおいいか、ず効に尋ねようずした。穏やかに笑う絵里が䞍意に芖界に入っお、圌女は手に持ったワむンの瓶をゆっくり䞋ろす。そこで由那は本圓に䜕の前觊れもなく突然に、自分が安堵しおいるこずに気づいた。

 それは単に、絵里がここにいおくれるこずぞの安堵ではない。絵里が亮二ずずもに楜しそうに笑っおいるこずが、由那にずっおは嬉しいこずに思えたのだ。

   なんか、いいや。それだけでいいかもしれない。

 由那の心の䞭に、その蚀葉が浮かんできた。垭を䞭座し、お手掗いぞ向かう。掗面台で冷たい氎に手を圓おながらきゅうに、今日は党おが報われたような気持ちになっおいた。

 「私、倉なの」

 自分ず同じ顔の女が幞せそうである。自分自身が幞せであるこずず同じくらい、それが由那には倧事に思えた。今、ここでの圌女にずっお倧事に思えるこずはそれであっお、この堎で自分が誰かに遞ばれるこずではない。

 ほどよく皆が酔ったずころで、パヌティヌはお開きになった。絵里は片付けを亮二ず二人でやるからず蚀ったが、由那も手䌝うこずにする。絵里ずしおは由那にいい感じの男性ず堎所を移しお続きの時間を楜しんで欲しかったのだろう、ず由那も分かっおいた。だけど圌女はそうしなかった。

 皿をテヌブルから陀け、キッチンで空き瓶を掗う。絵里がワむングラスを拭きあげおいるのを暪目に、由那はカヌテンを閉めた。あんなにたばゆかった東京タワヌでも、カヌテンを閉めれば隠れるし、それでこのあず家䞻たちは心地よく眠れるだろう。

 「ありがずね、絵里」

 それから浜束町の家䞻に瀌を告げお、由那は䞀人でJRの改札に入った。倧井町たで京浜東北線で出お、そこから垰ろうかず考えおいたが  少しだけ今の気持ちを誰かず共有したくお、圌女はスマホを開く。

 開いたのはメッセヌゞアプリではなく、メヌルだった。今これを話したい盞手は、圌女の䞭では䞀人に定たっおいた。

 「今、お暇ですか」

 銙田がメヌルをい぀芋るかは分からない。開封確認を぀けおいないメヌルでは読んだかどうかも分からないし、それに返信するかはさらに䞍確定だ。話したいけど無理かもしれないず、心がピンず匵り詰める。

 だが、京浜東北線を䞀本芋送っおいるうちに銙田からの返事があった。

 「いた赀坂にいたすよ。䞀緒に飲みたすか」

 メヌルに添えられおいたリンクから、由那は堎所を把握した。行ったこずのない店ではあるものの、銙田の奜きそうなオヌセンティックバヌだず分かっお、圌女はい぀のたにか眉間に入っおいた力を抜く。

 由那は䞀床䞊がったホヌムの階段を降り、別のホヌムぞず駆け䞊がった。軜い足取りで階段の䞀番䞊に到着するず、ちょうど電車が滑り蟌んでくる。たずは有楜町ぞ向かい、千代田線で赀坂ぞ行くこずにした。

    

 ビルの4階にあるバヌには、゚レベヌタヌを䜿っお䞊がる。゚レベヌタヌのドアが開くずすぐに薄明かりの店内ぞず続いおいお、少し奥たったずころに銙田が座っおいた。

 ヒヌル靎の音で分かったのか、由那が近づくず声をかける前に圌が振り返る。革匵りの怅子に座ったたた右手をあげお、それでバヌテンダヌにも圌女が連れだずいうこずを瀺しおいた。

 「ご連絡ありがずうございたす」

 どうしたんですか急に、ずは銙田は尋ねなかった。その質問がなかったこずで、先日ず同じように圌が心配しおいるし、気を遣っおくれおいるのだろう、ず由那は察する。たずはその誀解を解かなくおはならないず圌女は考えた。

 「嫌なこずがあったから連絡したんじゃないんですよ。むしろ、いい気持ちになったから銙田さんに話したくなったんです」
 「ほう」

 カりンタヌ垭では正面から芋぀め合うこずはない。それでも銙田の目尻のしわが芋えたから、由那は圌が快い興味を持っお話を聞こうずしおいるこずが分かり安心した。

 「今日ね、双子の効の家でパヌティヌをしおいたんです」
 「双子だったんですか」

 銙田がたずそこに驚く。そういえば圌にその話をしたこずはない。由那は驚く銙田を芋お、自分たちはお互いのこずをほずんど䜕も知らないのだず気づいた。

 耇数人のパヌティヌで芋初めおもらおうずするずきよりも、さらに䜕も知らない間柄。それなのに、圌は由那がどんなこずに憧れ、どんなこずに疲れおしたうのかを知っおいる。

 だから双子だず知らせおいなかったのは自分でも意倖だったし、それすら知らないのであれば幎霢や仕事に぀いおもきっず䌝えおいないだろうず圌女は思い至った。

 「私たち、䜕も知らないのに仲良くなっお」
 「仲良くなれるずきっお、意倖ずそういうものじゃないですかね」

 そういえば銙田は先日、「東京は絶えず自分に合う人を探す瀟亀堎だ」ずいったようなこずを述べおいた。もしかしお圌はその、気の眮けない「自分に合う人」の䞀人になっおくれるのだろうかず由那は想像した。その䞊で、わざず圌にこう蚀った。

 「だったら銙田さんのこず、無理しおわざわざ知ろうずしなくおもいいかな」
 「はは。蚀っおくださるものだ」

 声や態床から、自分がホッずしたから圌に䌚いたかったのだず䌝わっおいる、ずいう自信が由那にはあった。いたずらにお互いのこずを探ろうずするより、少ない蚀葉数でも気持ちが汲み取れる。だから今の軜口だっおきっず圌には、距離感をさらに瞮める方向に䜜甚するのだろうず圌女は確信しおいた。

 銙田がグラスを傟ける。飲んでいるのがアドニスずいうこずは、ここはきっず今日初めおきたお店なのだろう。

 「銙田さんから芋お、私におすすめのカクテルっおありたすか」
 「うヌん。そうですね。カクテルではないけど、りむスキヌを飲んでみたせんか」

 由那の質問に、銙田はこう答えた。い぀もハむボヌルで飲むりむスキヌを割らずに飲むのは床数が高すぎる気がしたが、銙田はストレヌトを詊しおみおほしいのだそうだ。

 「たくさん飲む必芁はありたせん。クオヌタヌで2、3皮類ほど、味の違いを楜しんでみおほしいんです」

 ハむボヌルを楜しむ由那は、いわば雛鳥なのだず圌は語った。りむスキヌの䞖界を楜しむ入り口に立っおいる。もし奜みに合臎するりむスキヌを芋぀けられたら、それが䞀぀の基準ずなっお今埌お酒を遞びやすくなる、ず。初めお奜きだず思えたりむスキヌは、その人の芪鳥になっおくれるずいう衚珟をしおいた。

 その蚀葉に興味を持った由那は、ほんの少量、りむスキヌを頌むこずにした。だがバヌに眮いおあるものは皮類も豊富で遞びきれそうにない。圌女が助け舟を求めるず、銙田は「私芋ですが」ず前眮きしおからおすすめを述べた。

 「スコッチから1皮類、バヌボンから1皮類、ゞャパニヌズりむスキヌから1皮類遞びたしょう」
 「日本のっお有名なんですか」
 「ええ。日本は䞖界有数のりむスキヌの産地なんですよ」

 私、そんなこずも知らなかったです、ず由那は思わず口にした。これは男性をおだおるずきの垞套句であったが、いたの圌女はなんの蚈算もなく、心の底からその蚀葉を発しおいた。

 「なに、芚えおいけばいいんですよ。スコッチはグレンモヌレンゞィが良いかず。バヌボンぱラむゞャ・クレむグ。ゞャパニヌズりむスキヌは知倚などはどうでしょう」
 「じゃあ、それにしたす」

 蚀われるがたたお願いしお、由那は3぀のグラスを飲み比べるこずにした。チェむサヌをこために挟みながら、味の違いを確かめおいく。

 「  私はグレンモヌレンゞィが奜きかな」

 時間をかけお飲み比べ、由那が出した答えはそれだった。それを聞いお銙田は静かに「よかったですね」ず返す。

 「自分の奜みを知っおいれば、䜕かを遞ぶずきも迷いを枛らせたすよ。お酒に限らずね」

 自分の奜みを知る。今たでだっお無意識に奜みで䜕でも遞んでいたのだろうが、特にここ数幎は奜みよりも、それを遞んだあずの効甚のほうに気を取られおいたかもしれない、ず気づいお由那は口ごもる。

 「そうなんですね  。ちなみに銙田さんはどれが奜きなんですか」
 「僕の奜みを参考にしおもしょうがないでしょう。ですが、僕はグレングラントずいうスコッチが芪鳥ですね」

 圌も同じ系統のものが奜きなのかず知り、由那は思わず顔をほころばせた。酔っおうるんだ由那の瞳を芋た銙田はすぐに目線を倖し、アドニスをぐいっず飲んでバヌテンダヌに䌚蚈を合図する。

 「晎島さん、少し酔いたしたよね。颚に圓たりたしょうか」

 由那の返事を埅たずチェックを枈たせお゚レベヌタヌを呌んだ銙田が、圌女を先に乗せる。1階で降りお倖を歩き始めおも、圌は由那ず目を合わせようずしない。そればかりか、銙田は足早に駅ぞず向かおうずする。

 それがなんずなく由那には䞍満だった。なぜか圌に自分の目を芋おほしいず思い、由那は銙田の前に立ち塞がる。ハむクラスな男性ずしおの費甚察効果は薄いず分かっおいるのに、圌女は自分の䞭の情動に任せるたた誘わざるを埗なかった。

 「銙田さん、私ただ垰りたくないです」
 「お戯れを  」
 「いやなの。ただ䞀緒にいたい」

 口を開くたびに、由那は口調たで子䟛っぜくなっおいくような自芚があった。

 「銙田さん、私のこず子䟛だず思っおるんでしょ」
 「違いたすよ。でも僕なんかでは  」
 「なんかっお蚀わないで 銙田さん蚀っおたじゃない。䜕も知らなくおも、仲良くなれるずきはなれるっお。奜みを知っおいれば迷いが枛るっお」

 やっぱり自分は子䟛なのかもしれないずいう自芚が由那にはあった。奜みずは蚀ったものの、自分に富裕をもたらしおくれる存圚ずいう意味での奜みではない。ではこの堎合は぀たるずころ䜕であるのか、ずいうのをたずめきれないたた、圌女は銙田に抱き぀いた。

 「  あなたのせいです。あなたが基準になっちゃったから、私、飲み䌚が楜しくなくなっちゃった。キラキラしおる人たちなのに。い぀もい぀も仕事はずか、趣味はずか喋っおも、心の奥のほうたで入っおいけない。あなたが  なにも知らないあなたがすんなり入っおくるせいで、衚面を撫でるだけじゃ぀たんなくなっちゃったんじゃない」
 「それは、晎島さんは僕を  」
 「それはわかんない 今倜はただ䞀緒にいおほしい、いろんなずころに觊っおほしいけど、でもそれが自分にずっおどういう意味なのかはわかんないです 私にだっおわかんないものを説明させようずしないで」

 敎理の぀かないたたノヌトに走り曞きをするような勢いで語った由那を胞の䞭に感じながら、銙田は錻からゆっくりず倧きな息を吐いた。それから降参したかのように圌女に返事する。

 「説明しおくれずは蚀いたせん。でも僕はおじさんですよ。あなたのこずを浪費しおいい存圚では決しおない。それでもお望みなのですか」

 由那が頷くず、圌は倧通りにタクシヌを手配した。

    

 翌朝、由那は目黒で目を芚たした。銙田は、目黒駅から車で5分ほどの堎所にあるマンションに䜏んでいた。

 誘いに䞀貫しお消極的だった圌は倜を共にするこずを迷惑がっおいたのではないか、ず圌女は疑っおいたが──それは杞憂であったず、昚倜の圌の手぀きからそう思えおいた。

 スプリングの効いたベッドから身を起こし、由那はリビングダむニングに顔を芋せる。するずテヌブルで銙田が静かにコヌヒヌを飲んでいた。

 「おはようございたす。よく眠れたしたか」
 「はい。  掗面台、お借りしおいいですか」
 「どうぞ。そこを出お巊です」

 掗面台で由那が顔を掗っおいるずきも、家の䞭に人の気配がする。そんな朝を迎えたのは久しぶりだった。ホテルで朝を迎えるこずもそこそこあったが、生掻感のない堎所は非日垞に感じられる。

 朝から誰かが自分ずは違うリズムで生掻しおいる堎面を感じ取れるのは、絵里ず暮らしおいたずき以来だ。姉効で実家を出お、絵里が二人の郚屋を出お行っおから、由那は動きのない郚屋で過ごしおきた。マむペヌスでいられるのは心地よいが、ずきおり寂しさを芚えるこずもある。

 顔を掗っおリビングに戻っおくるず、銙田が由那の分のコヌヒヌを甚意しおくれた。銙田が飲むずきに二杯分淹れおおいたものではなく、たったいた抜出したもののようだった。

 ダむニングテヌブルの垭に぀き、由那はそれを受け取る。湯気ずいっしょに立ちのがる銙ばしくも甘い銙りを嗅いで、圌女は倧きくゆっくり息を吐いた。

 「晎島さん、きょう仕事は」
 「ありたすけど、午前は䌑みたす。家に垰ったりしたいので」

 銙田の由那ぞの蚀葉遣いや態床は䞀晩経っおも倉わらなかった。甚心深く、でも譊戒しおいるわけでもなく。圌の慎重さはたるで、ガラス食噚がずころせたしず䞊べられた店内で、ロングコヌトが翻らないようにするみたいだ。由那はそれに察しお䜕も蚀わなかった。昚晩この郚屋に入っお以降のこずに぀いおたったく話題にしようずしないのも、圌がそうしたいならそれでいい。

 「僕は出瀟するので、8時半ごろ家を出たすけど。䞀緒に出たすか」
 「どこたで行くんですか」
 「茅堎町です」
 「ふうん。今床、ご飯行きたしょうか。職堎がそっちのほうなら、銀座ずか日比谷ずか」

 䞀晩をずもにしたのに螏み蟌むこずを今も躊躇する銙田であっおも、これならば断られないだろうずいう自信が圌女にはあった。由那の蚀葉に、銙田は「そうですね」ず目を閉じお笑う。やはり圌は断らない。

 銙田が飲み終えたコヌヒヌカップをシンクに眮いおこう問う。

 「トヌストを焌きたすけど、バタヌずマヌマレヌドどちらにしたすか」
 「じゃあ、マヌマレヌドで」

 由那は朝ごはんを習慣的に抜いおいるが、今日は食べるこずにした。圌が自分の提案を断らないならば、由那も圌の提案をできるだけ断らずにいようず思ったのだ。

 トヌストをかじりながら、由那は銙田の皿にリサ・ラヌ゜ンの絵が描いおあるこずに気づいた。おおよそ男性が奜きずは思えないセンスの皿だ。由那の目線に気づいお、銙田が口を開く。

 「6幎前に離婚したんですよ。䜿っおいたもの、わざわざ買い換えるのもどうかなず思いたしお」

 根掘り葉掘り聞くのはよくないず思い぀぀、由那は事情を聞いおみた。銙田は15幎ほど前に結婚したが、6幎前に劻の䞍倫が原因で離婚したのだずいう。子䟛はもずもずおらず、゜ファやダブルベッドなど二人で買った家具などを眮いたたたここを出お行ったらしい。

 誰かのいた痕跡を感じながら䞀人で暮らすこずのさみしさを、銙田もたた知っおいたのだず由那は分かっお䞋唇を噛んだ。圌女も絵里ず共有しおいたカバンや、圌女のぶんの掛け垃団ず暮らしおいる。

 「さみしくないですか」

 考えるより先に、由那の口からその蚀葉がこがれおいた。銙田は蚀葉の意味を噛み締めるように由那の目をじいっず芋おから逞らし、少しだけ笑った。

 「もういい歳ですし、女性ず瞁遠い生掻でもいいかず思っおたんですけどね」

 その蚀葉のトヌンから、銙田が昚日の晩を埌悔しおいない、むしろその逆なのだず由那は改めお理解した。でもそれに続く蚀葉は、圌女の耳ではやや翳りを感じられる。

 「晎島さんは、どうしお僕のこずをそんなに気にかけおくれるんですか。気にかけお、それで  」
 「  」

 その質問に由那は答えられなかった。

 やっぱり圌女にはわからない。昚倜あれだけのこずを蚀っお、家に䞊がっお、䞀晩を過ごしたけれど、それでも由那には自分のこずがよくわからなかった。銙田に倧切にされおいるのは嬉しいし、䞀緒にいたいず思うが、それが自分にずっお䜕であるのか。

 しばしの沈黙のあず、銙田が「答えは急いでいたせんよ」ず蚀う。慎重に蚀葉を遞んでいたはずの自分が思わず䞀歩螏み蟌んでしたった、ず圌が埌悔しおいるように芋えた。

    

 予定通り8時半に銙田の家を二人で出た。圌は䞉田線で倧手町たで行き乗り換えるのだずいう。由那は目黒線で倧岡山たで出るルヌトが最短のようだった。

 目黒駅は同じ島匏のホヌムから北ぞ行く䞉田線方面ず南ぞ行く目黒線方面に分かれる。そこたで䞀緒に降りお、銙田が䌚釈し、由那も䌚釈で返しおそれぞれの電車に乗り蟌んだ。

 九品仏の駅に着いたころ、由那のスマホにメッセヌゞが届く。絵里からだ。

 「昚日、楜しくなかった」

 由那の心配をしおそんなメッセヌゞを寄越したのだず分かった圌女は、歩きながら絵里に電話をかけるこずにした。絵里から電話をかけおくるこずはないが、由那は文章を打っおいるより話しおしたった方が楜だず思っおいる。

 電話がかかっおくるず分かっおいたのか、絵里は1コヌルで出おくれた。絵里は有絊を取り、今日は亮二ず買い物に行く予定なのだずいう。由那は手短に電話を終わらせるこずにした。

 「楜しくなかったわけじゃないよ。どちらかずいうず、絵里が幞せそうでよかったなず思った」
 「私のこず考えおたの」
 「うん。絵里は心地いい居堎所を芋぀けたんだなっおわかった」
 「なにそれ。  たあ、でも、うん。ありがず」

 鎌倉の母芪みたいなこずを蚀っおしたっただろうか、ず由那は䞀瞬考えた。そのしばらく埌、それでもいいかず思い盎しながら。絵里はため息を぀いお、「でも、そんなこず考えおたなんお」ず蚀う。

 「由那がそんな感じなら、もう家に人を呌ぶのやめようかな」
 「うん、いいよ。今たでありがず」

 由那の答えに、「本圓に 本圓だよ」ず絵里が念抌ししおくる。その䞊で、「䜕があったの」ず尋ねおきた。やはり双子の効には話さねばならないだろうず由那は決心する。

 「前に話したおじさんなんだけどさ  」

 昚倜の出来事を䌝えるず、絵里はたいそう驚いたような声を出した。

 「それ、本圓の話 ちょっず由那の考えおるこずわかんないかも」

 自分だっおわかんないよ、ずいう蚀葉を由那は飲み蟌んだ。わかったのは、昚日幞せそうな絵里の姿を芋お安心したのず同時に、自分の幞せを絵里ず同じ堎所で芋぀けたいわけではないのかもしれない、ずいうこずだけだ。

 「たあ、由那が埌悔しおないならそれでいいけど」

 絵里の蚀葉に、由那は生返事をした。䞀瞬沈黙が流れおから、今たでの空気を厩すように絵里が「そろそろ切るよ」ず蚀う。

 「ただ化粧しおないの。9時半には家を出たくお」
 「そっか。じゃあ、たたね」

 電話を切るず、由那もちょうど自宅マンションの前たで到着しおいた。

    

 それからも由那のもずには、パヌティヌの誘いが寄越され続けおいた。やれ虎ノ門に来い、赀坂芋附に来いずいうのを、圌女は気乗りせず断る。するず付き合いが悪いずいう理由で、少しず぀誘いの頻床は枛っおいっおいた。

 かずいっお由那は銙田に連絡をずるこずもあたりない。あるずすれば、泊たった日に入手したメッセヌゞアプリでの連絡先に気たぐれに写真を送るくらいだ。街なかで芋぀けたクスッず笑えるようなもの、可愛いず思った眮物  急がないず蚀われた質問ぞの答えずは関係ないものばかり。

 そんな圌を食事に誘おうず思ったのは、倧雚の翌日だった。目黒川が䞀時、氟濫危険氎䜍に達したずいうニュヌスを芋お気になり、珍しく写真ではないメッセヌゞを送ろうず思い぀いた。

 銙田の䜏む郚屋は地䞊5階だから、䜕か䞍䟿があったわけではないだろう。それでもスマホの倩気アプリで情報を芋たずき、圌ず顔を芋お話したいず思ったのだ。

 メッセヌゞアプリを開いお、由那はふず考え蟌む。あらためお、なんず送ったらいいのだろう。口実を探しお述べるのは、さすがにわざずらしすぎる。悩んだすえに、結局前ず同じように「暇な日ありたすか」ず送った。

 これではたるで自分が圌に察する気持ちの説明を芋぀けたかのような蚀い草だが、そうではない。ただ自分の気持ちを語れないうちはメッセヌゞを送るたいず決めおいたが、仕方なかった。

 日付が倉わろうかずいう頃になっお、銙田からの返事があった。

 「仕事が立お蟌んでいお。来週の金曜なら」

 CMを流すような誰でも知っおいる倧手䌁業の管理職が暇なはずもないず蚀われれば、それはその通りだ。圌の安党が分かっおいる以䞊、急いで䌚わなければず䞍安になる必芁もなく、由那はその日を埅぀こずにした。

    

 玄束の金曜日ずなり、由那は仕事を定時で切り䞊げお埅ち合わせ堎所に向かうこずにした。日比谷か銀座でず蚀っおいた誘いは、お互いの職堎からアクセスしやすい日比谷で実珟した。

 予玄もせずに、ふらっずミッドタりンの䞭のオむスタヌバヌに入る。別に圌に察しおかしこたる必芁も、気取る必芁も、焊る必芁もないず由那は考えおいる。銙田もそう思っおいるようだず、今の圌女には䞍思議ず信じられた。

 生牡蠣ず゚ビの盛り合わせずハむボヌルを頌んで、ずりあえず也杯する。シャブリをボトルで入れたしょうか、ずいう銙田の提案に、由那は「別にハむボヌルでも良くないですか」ず答えた。厚めのグラスが重なった瞬間に軜く音を立おたが、店が賑わっおいたせいかふたりの耳には届かない。

 「お疲れ様でした。忙しかったんですね」
 「今日のプレれンが終わっお、やっず䞀息぀けるかなずいったずころです。お埅たせしおすみたせん」

 銙田の蚀葉に、由那は「いえいえ」ず蚀いながらハむボヌルを飲む。それから牡蠣の皿に乗せられたレモンに手を䌞ばしお、圌女は銙田の顔を芋た。

 「レモン。かけおもいいですか」
 「もちろん」

 二人ずも絞ったレモンの銙りを嗅いでから、䜐呂間の牡蠣を䞀口で食べる。たるでずっず昔から同じものを隣で食べおきた人みたいだ、ず牡蠣を飲み蟌みながら由那は思った。

 「  で。心配しおたんですよ。この前雚ひどかったから」
 「ああ。りチは䞀応ハザヌドマップでは浞氎域の倖なんです。だけど、ご心配おかけしたした」
 「そっか。よかったです。䜙蚈な心配だったかなあ」

 その蚀葉に、今床は銙田が「いえいえ」ず返す。牡蠣ず䞀緒に皿に盛られたシュリンプカクテルを゜ヌスに぀け、尻尟を残しお綺麗に食べながらの返事だった。

 「そんなに心配しおくれおたんですか。ありがずうございたす」

 ありがずうず蚀いながらも、こちらを芋ずにおしがりで手を拭く銙田に、由那は少しムッず唇をずがらせた。䜙蚈な心配だったのかず尋ねたのは自分だが、心配されおいたこずに察しもっずありがたがっおくれおも良いのでは、ず圌女は思っおいた。

 「心配しお損したかも。どうしお私、銙田さんのこずそんなに気になるんでしょうか。ずっず考えおたけどやっぱりわかりたせん」

 由那の蚀葉を聞いお、銙田の手が止たった。指先をぬぐっおいたおおふきを匱い力で握り締め、意倖そうにこう蚀う。

 「ずっず考えおくれおたんですか」
 「ええ。答えは急がないず蚀っおたしたけど、でも答えなきゃずは思っおお」
 「そうか  」

 由那の蚀葉を聞いお、銙田は倩井を仰ぎ芋た。明確な蚀葉はないが、由那は圌が「あの日いらぬ質問をしおしたった」ず思っおいるのだろうなず考えおいるだろう、ず手に取るようにわかった。

 「すみたせん。今たで晎島さんに䜕を蚀われおも、からかっおいるのだろうず思っおいたしたが  もしかしお先日のは本圓に、気の迷いではないのですか」
 「えっ」

 思わず由那は聞き返した。由那の知らない自分自身の気持ちに぀いお、銙田には心圓たりがありそうだったのだが、そうではないのか。

 「僕に恋しおくれおいるのかなずか、色々考えたのですけど  でもそうやっお䞀人で思い悩む自分も高校生みたいで銬鹿銬鹿しくお。そのあたり、晎島さんはどうなんでしょうか」

 改めお由那は考えた。奜みでいえば確かに奜みだが、恋がそれだけでいいものなのかむマむチ自信がない。圌ず䞀緒に今いるここはラグゞュアリヌな隠れ家レストランではないし、飲んでいるのもなんでもないハむボヌルだ。もっず䟡倀のある男を恋人にしなくおいいのか

 でももしかしお自分の隣にいお欲しいず思う人は、この人なのかもしれない。由那ぱビを1尟ずっお、尻尟を勢いよく剥いた。別にそうしなくおも食べられるのに、ず剥き終えおから気づいたが、気にせず食べる。

 銙田ずの歳の差は芪子ほどもあるし、圌は䞀床結婚に倱敗しおもいる。しかしそうだずしおも、気兌ねなく、倚くを語らなくずも心地よい時間が過ごせるこずが由那には倧切に思えた気がした。

 ゚ビを食べる時間ぶん悩たせおもらっおから、由那は答えた。

 「そう  なのかも うヌん、たぶんそうです。今やっずわかりたした。  っおいうか 銙田さんはわかっおいお聞いおいたのだずばかり」
 「いやいや。僕だっおわからなかったんですよ」

 自由が䞘のバヌで䌚った時は由那の疲れを芋抜いおいおくれたし、眮いおいかれお䞀人暮らしになった切なさは蚀葉にせずずも共有できおいた。だから由那の気持ちを手に取るようにわかるのだずばかり圌女は思い蟌んでいた。

 「だったら、由那さん。僕たちお付き合いしたしょうか」

 銙田が初めお名を呌び、そう蚀った。たっすぐに芋぀められお、由那は䌏せた目のたばたきが倚くなる。それを芋お銙田が笑いながらハむボヌルの最埌の䞀口を飲む。

 「毎回あんなに積極的だったのに、意倖な反応だ。やっぱりダメですか」
 「驚いおるだけです 銙田さん、あんなに消極的だったのに来るずきは来るんですから」

 由那が䌏せた目線を戻すず、今床こそ銙田ず目があった。その瞬間に二人ずも吹き出し、由那は赀面した顔を隠そうず巊手で顔を抌さえる。

 「ねえ。前に銙田さん、『東京は瀟亀堎だ』っお蚀っおたじゃないですか」
 「ええ」
 「私、瀟亀堎が奜きです。話したこずある人も、関わりのない人も、それぞれが自分にあった居堎所を探しおいる。パヌティは確かに少し疲れるこずもあるけど  そのなかで私は銙田さんを芋぀けた」

 銙田ははっきりず告げおくれたが、自分は婉曲な衚珟で蚱しおもらおうず圌女は蚀葉を遞んだ。はっきりずした感情は以前由那から誘うずきに告げおいる。そのずき圌女は自分の蚀葉の意味を確信しおいなかったけれど、あのずき告げたのだからいいだろうず思っおいた。

 由那の答えを聞いお、銙田は「そうですね」ず蚀う。䞊がった頬に抌されお持ち䞊がった圌の目尻のしわばかり芋えたのは、銙田が由那の目ではなく皿に芖線をやっおいたからだ。

 気づけば、皿の䞊の牡蠣はあず2぀、゚ビは3尟にたでなっおいた。焊点を皿に合わせたたたの銙田が話題を倉える。

 「これ食べ終わったら、次どうしたすか」
 「たた目黒ぞ行っおもいいですか」

 銙田が蚀った「次」ずいうのが食埌の行動ではなく、次に頌むメニュヌのこずだずわかった䞊で由那が蚀った。これには銙田もさすがに面食らっお芖線を圌女のほうぞ䞊げる。圌は、たさかそう返されるずは、ず蚀いたげな眉の圢をしおいた。

 由那の思いがけない反応を銙田が蚱しおくれるなら、きっず恋人ずしおうたくやっおいけるだろう。圌女は銙田の答えをじっくり埅぀。手に持ったメニュヌ衚を開きながら、圌がこう蚀った。

 「  前に暮らした女性の気配が残っおいたすが、それでもよければ」

 もちろんです、ず圌女が蚀うのを聞いお、銙田はほっずしたように「ずりあえず今は食べたしょう」ずり゚むタヌを呌んだ。圌が远加でビヌルずアヒヌゞョ、バゲットを頌むのを暪目に、由那はのんびりずハむボヌルを飲んでいた。

了


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