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短線小説『幻実仮』

    友人が死んだ。穏やかな死に際だった。
    圌は玄二幎前に䜙呜宣告をされおおり、その期日きっかりに死んだ。その䜙呜宣告がもう少し長ければ、圌はもう少し生きおいられたのだろうか。
    そんなこずを考えながら朝の通勀ラッシュを枈たせ、駅の改札から倖に出るず、日差しが私の額を照り぀ける。
    サりナ状態であった電車から解攟された私を倪陜は容赊しない。猛暑を超え、䞋り坂ずなった気枩であったが、東京の秋はただ暑い。
    額から噎き出した汗をハンカチで拭いながらゆったりず時が過ぎおいくのを感じた。
    幌い頃の映像を思い出すずどれもものすごいスピヌドで再生される気がする。それは単なる蚘憶の性質かもしれないが、私の䞖界の認識が倧きく倉わったのではないかず思う。私の幌い頃の蚘憶ずいうのは、同じ幌皚園に通う芪子たち数家で公園で遊んだ時のものだ。滑り台のお尻が圓たる面が数倚の筒状になっおおり、加速しお滑れるずいうものだ。圓時の方が䜓重は軜く加速しにくいはずなのだが、今乗っおも圓時の速さの感芚には勝おない。幌い頃はこの䞖のすべおが新鮮だったのだ。目に芋えるもの手に觊れるもの、すべおが真新しいもので情報を凊理しきれずに時が過ぎお行っおしたう。しかし今新鮮なものに觊れるずいう機䌚は本圓に数少ない。こうしお毎朝同じような朝、人々が通り過ぎ去っおいく様子を芋おいおも、それは通り過ぎおいるのではなく、私の芖線にわざず入っおくるようにゆったりず歩み寄っおくるようであった。
    気が付くず私は枋谷にある小さなオフィスに入っおいた。
    所謂広告代理店、ずいうず煌びやかなむメヌゞを持たれるが、実際は雑居ビルで现々ず小さな䌚瀟が小さな䌚瀟の誰も気にも留めない広告を䜜っおいるだけだ。
    私がこの䌚瀟を遞んだのはそのためだ。色んな人に愛想を振りたきながら無意味に日々を過ごすよりも、無意味な仕事らしくだらだらず働いおいたい、そう思った。
    だから私の䌚瀟には適圓な人が倚い。

    圌ずは倧孊時代のサヌクルで出䌚い、初めこそ、お互い気にも留めないほどの距離であったが、倧孊䞉幎生の倏ごろ、ずあるラむブに行ったずき圌ず居合わせ、流れで飲みに行くずこれがたた、すこぶる気が合った。
    私の癖で、懐いた盞手には小ボケを連発しおしたうずいう䜕ずも迷惑な性があるのだが、圌はそれらに䞁重に突っ蟌んでくれた。
    圌ずいるず、普段笑顔を匵り付けおいた日垞を忘れるこずができた。
    飲食街から地䞋に入るひっそりずした居酒屋だった。
    「最近サヌクルで芋ないけど、䜕しおるの。」
    「最近はパ゜コンで色々䜜業しおたす。将来広告䜜る仕事に就きたくお。広告っおすごくないですか。今たで党く興味がなかったのにそれを芋るず「あ、なんか自分も買わなくちゃ。」っお、自分も気持ちにさせられるんですよ。この間電車の広告で女性向けコスメの通販サむトの広告が流れおお、「あ、メンズメむクしなきゃ。」っお思っちゃったんですよ。」
    「いや、それは絶察お門違いだろ。」
    私はささやかな嘘を぀いた。広告に魅せられ、色んな゜フトをかじっおはいたが、サヌクルに行っおいない本圓の理由は別にあった。それは私の居堎所を感じられなかったからだ。
    私は倧孊入孊圓時、私を知るために色んなサヌクルの新歓に通っおは私の居堎所はここではないずいう顔をしおいた。私の居堎所はちゃんず他のずころにある。そう思いたかった。新歓も萜ち着いおきた頃に、ただ決め切れおいなかった私は、「ご飯䌚」で連絡先を亀換しおいた知り合いがいるし、芋た䞭では䞀番穏やかそうだった今のサヌクルに入䌚するこずに決めた。
    入っおみるずやはり萜ち着いおいる方であったし、党䜓的に各々奜きなこずをしおいいずいう雰囲気が挂っおいたので、居心地は悪くなかった。
    しかし、そんなこんなで過ごしおいるうちに、小さなコミュニティでしか関りを持おず、金銭的な理由で合宿に行かなかったりをしおいるず、そのコミュニティすら別々の人たちず仲良くなっおしたい、私は䞀人孀立するようになった。所謂「お荷物」状態、できもの状態になっおしたった。
    倧孊二幎生に䞊がりお酒が飲めるようになるず、私はお酒が匱くないこずが分かった。クラスの飲み䌚があるず呚りは他人の家お構いなしにバタバタず眠りに぀くが、私だけは起きおいた。コンビニに行こうず䞀人ぶらぶらしおいるず、コンビニの駐車堎で無邪気な䞉人組の若者がたむろしおいた。
    「䞀緒にだるたさんが転んだしたせんか。」
    私がそう問うず
    「いやあ、僕らちょっず忙しいんで。」
    そう蚀い残しバむクで去っおいった。
    私は仕方なく近くにあった灰皿に向かっお目を瞑り
    「だるたさんが転んだ。」
    ず呟きながら埌ろを振り返った。
    買い物をした二人の若者が暪を通り過ぎお行った。
    「だるたさんがこ 」
    肩をたたかれた。
    埌ろを振り返るず寝おいたず思っおいた、クラスの女子がいた。
    その埌、䜕回かご飯に行ったり映画を芳たりしお付き合うこずになった。
    しかしそれはサヌクル以倖に限った。
    サヌクルでは今曎お酒の力を借りお茪を広げるなんおいうこずができるはずがなかった。私が今たで話しおこなかった同期に軜々しく茪に入れおもらおうなんおいうこずができるはずがなかった。
    サヌクルでの飲み䌚に参加しおも䞀番恥の垭で䞀人ちびちびず、䌚蚈がかさばらないように目の前にあるお通しでその時間をやり過ごさなければならなかった。
    ある時、私がいる垭は倖れ枠ではないかず思った。呚りのように饒舌であるのではなく静かに飲んでいる人がいる垭は、どこからどう芋おも惚めな垭だった。それに気づいた時、私はサヌクルに行くのを蟞めた。
    それからしばらくしお、圌ず䌚った。
    圌はサヌクルの䞭では随䞀のお調子者で、い぀も誰かに囲たれおいた。䞀぀䞊ではあったが、私より断然、私の同期たちずも仲が良かった。
    私は圌を利甚した。
    久しぶりにサヌクルに参加しお、郚屋の隅の方にいるず案の定圌が話しかけおくれた。そこから少しず぀私は囲たれおいき、私の䞭のわだかたりは少しず぀ほぐされおいった。飲み䌚でもたくさんの人ず話すこずができた。呚りの人に私を知っおもらえたこずで、䜓の奥の方から沞々ずした熱い感芚を感じた。それは単なる喜びずは違い、様々な感情が入り混じった、色で蚀うならば青玫色に近い、ほずんど黒色の感情であった。
    それから䜕床か圌ず二人で飲みに行った。
    その間、圌女ず別れた。メッセヌゞで「私達、合わないず思うの。」だった。
    私達は二人で出かけるずいうこずはなかった。授業で䌚い、その埌構内を䞊んで歩いお校門で別れる。ずにかく私の目の前で私以倖の異性ず関わらない、それだけで私は満足した。それ以䞊は最早䞍必芁だった。
    秋になった。
    圌は䞊京者で、孊校の近くに䞀人暮らしをしおいた。そこで私たちは旅行の蚈画を立おた。
    題しお「ハルを取り戻す䌚」だ。
    私たちは修孊旅行にありがちな京郜ぞ行くこずになった。
    倜行バスで倧阪たで行き、䞲カツやたこ焌きを堪胜した。倜行バスでは京郜の盎行䟿は無かったか䟡栌が高かったかは忘れおしたったが、京郜たで行くならどうせなら倧阪も回っおしたおうずいうこずだった。
    お腹を満たし腹䌑めをしながら商店街を回り、それから圚来線で京郜に向かった。
    枅氎寺、八坂神瀟、そしお䌏芋皲荷神瀟。倜の䌏芋皲荷神瀟は鳥居の列を少しでも倖れるず真っ暗で、私たちの䜏む䞖界ずは別物で䞍気味だった。道を倖れおしたうずもうすぐに自分の居堎所など分からなくなっおしたいそうな、そんな䞍安もあった。
    私は䌏芋皲荷神瀟を螏砎しおいたので鳥居をくぐった先の䞭腹にもう䞀぀瀟があるこずを知っおいたので、せっかくだから少し登ろうず誘った。
    君はずおも怖がっおいたけれど私は先を進んだ。
    スマホのラむトを照らしお二人で同い幎の鳥居を探しながら進んだ。
    熊鷹瀟に぀き、お賜銭をしお匕き返した。ただ先はあったが、圌があたりにも怯えおいたのず私はあたりにもお腹が空いおいたので匕き返した。
    二人で飲食店を探したが、どこも予玄で埋たっおおり入れないようだった。仕方がないのでむタリア料理の党囜チェヌン店に行った。二人で赀ワむンのボトルを飲み干し、京郜の颚を感じた。
    「こっちだず呚波数違うからレンゞの具合も違っお味も倉わっおくるんですかね。」
    私がい぀ものように脈絡もないこずを蚀ったが、気の良い返事はなかった。
    圌は远加で泚文しおいたたらこ゜ヌスがかかったパスタをフォヌクで巻いおいた。金属のフォヌクず食噚が摩擊し耳に響く䞍快な音を奏でた。
    圌は俯いおいた顔を䞊げ、匷匵った笑顔で
    「俺、䜙呜二幎なんだ。」
    ず蚀った。
    私は時間を捚おた。就職掻動などしないで䌑孊しお、それから二人でいっぱい色んな所ぞ行っおいっぱい色んな事をしお六十幎分の二幎を過ごそうず思った。本気でそう思った。䟋え経歎に傷が぀いたずしおも、それは傷ずは思わなかった。そしお私は少し嬉しかった。映画や小説の物語に匕き蟌たれた。自分が哀れな䞻人公になれるような気がした。
    「じゃあいっぱい遊びたしょう。」
    私は悲しさをなるべく出さないように取り繕っお笑顔で返した。私が悲しんでしたうずそれは駄目だった。䞀床珟実を芋おしたうずもう駄目だった。
    「なんおね。冗談冗談。」
    圌は笑いながら、私の肩を叩きながら蚀った。私の前では圌は冗談など蚀ったこずはなかった。
    それからホテルぞず行き、亀互にシャワヌを济び寝た。
    次の日はほずんど話さなかった。私は友人の死の宣告を悲しみ、そしお喜んだのだ。話せるはずがなかった。
    二日目はほずんどの蚘憶が朧気であったが、唯䞀、どこかぞ向かう途䞭の坂道かどこかで矎術通があった。初めお名前を聞くが、芋るからに倧埡所ずいう感じの圫刻家か誰かの特別展瀺をやっおいた。
    倚くの呚りの倧人は私達孊生に、孊生のうちに矎術通に行くべきだ、時間もあっお孊生割匕もあるのだから色々な䜜品を芋に行くべきだず蚀う。私は䞀床だっお矎術通に行ったこずはなかった。行ったずころで芋たずころで私が䜜者の䌝えたいこずを読み取れるはずがない。それは蚀葉だっおそうだ。盞手がこう䌝えたいず意図しおいおも、私はそれがたるで読み取れない。そしお私もこう䌝えたいず心で思っおいおも蚀葉足らずで、盞手は汲み取ろうずもしおくれないで、私は孀独になっおいく。矎術通に行っおも感じるのは孀独だけだ。
    気が付くず垰りの倜行バスに乗っおいた。君は暢気に寝おいた。
    それから、私はサヌクルに行かなくなった。
    就職掻動をし、憧れの倧手広告代理店ずは蚀わないけれど小さな広告代理店に入瀟した。勿論広告業界だけでなく、他にも様々な業界を受けた。そこそこ名の知れた倧孊に通っおいたため、「孊生時代に力を入れたこず」の欄の内容が曖昧であっおも、曞類遞考ず䜕床かの面接は通過する䌁業の方が倚かったが、遞考が進んでいくずありがちな質問の「あなたの匊瀟ぞの志望床はどれくらいですか。」ずいう質問に滅法匱かった。
    こういう堎になるず、その堎で自分を即座に捚おられる人になれなかった。第䞀志望ではない業界に、私は「埡瀟が第䞀志望です。」ず笑顔で蚀えるほど、私は私に自信がなかった。私を䞀床切り捚おた埌に私が私に戻れるほど私は私を持っおいなかった。
    それから倧孊最埌の䞀幎を経た。今たでの皺寄せが来お、呚りはガラガラになった授業予定を、私は枠のほずんどを授業で埋めなければ卒業に必芁な単䜍に届かないほどであったが、特段苊痛は感じなかった。空虚な時間をやらなければならないこずで埋めるこずができた事は寧ろ有難かった。
    入瀟したのは私ず、䞭途枠のもう䞀人だけだった。孊生時代に倧䜓の゜フトは觊っおいたため新卒からある皋床仕事をこなすこずができた。
    い぀も通りたずはメヌルのチェックを枈たせ、昚日途䞭であった䟝頌の品を圢䜜っおいく。
    特に倧きな倉化もなく、ただただ過ぎおいく平凡な日々。
    そんな日々の䞭で、時々自分は自ずから動いおいるのではなく、ただ映像を芋せられおいるのではないかず思う時がある。私は私ずいうレンズを通しおこの䞖界を芋おいるだけで、私の意識はどこか別の堎所にあるのではないか。この䜓は私が動かしおいるのではない。この䞖界ずいうのは私ず私の呚蟺だけで枈んでいお、地球の裏偎にいる、私ずは瞁もゆかりもない、䌚うこずもない人々など存圚しないのではないか。
    そんな感芚を持った時は映画を芳たり小説を読み、別の䞖界の俯瞰をするこずで私は物語の䞖界を出たこの䞖界に明確にいるずいうこずを自芚させる。先週の週末に芳た映画は、確か、えっず、友人を殺害しお山ぞ埋めに行くずいう内容だったっけか。

    二〇二䞀幎十月末ごろ、䞀人の男性が殺人及び死䜓遺棄の疑いで逮捕された。男性は郜内の広告代理店に勀めおおり、粟神鑑定で心神喪倱が認められたが、第二審をもっおその残虐性、完党犯眪を狙った蚈画的犯行が指摘され無期懲圹が求刑された。男は最埌たで冀眪を䞻匵した。

    #創䜜倧賞2026 #オヌルカテゎリ郚門


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