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Photo bysnafu_2020

『ぱらり、ぱらり』

    「初めまして、佐々木と申します。好きな言葉は『ぱらり、ぱらり』です」

    4月。新入社員の自己紹介で彼女はそう言った。一瞬の沈黙のあと、ぽつぽつと拍手が起きた。彼女は満足そうだった。

    みんながそれぞれの仕事に戻った後、私は彼女のもとへ行った。

    「はじめまして。新人研修担当の上田みのりです。よろしくね。」

    「佐々木です。よろしくお願いします。」

    彼女はとても愛嬌のある顔をしていた。

    「佐々木さん、『ぱらり、ぱらり』が好きってどうして?」

    「パラパラ、っていうとチャーハンみたいで。なんだか弱弱しいし、寂しいです。でも『ぱらり、ぱらり』は違う。一つひとつ丁寧に本のページをめくっているような、花びらがゆっくりと散っていくような、美しさがあります」

    「なるほど」

    一つ分かったことは、私と彼女は違うということだ。私は言葉に好きも嫌いもない。パラパラだか、ぱらり、ぱらりだか、なんて気にしたこともなかった。

    8月。お盆を前に社内が忙しく動き始めた。

    入社してから4か月経っても、佐々木ちゃんは本当に「ぱらり、ぱらり」としていた。少なくとも私からはそう見えた。いつも機嫌が良く、明るく爽やかな笑顔。上司や取引先とのやり取りも軽やかにこなしていた。

    私はどうだろう。ぱらり、ぱらりからは程遠い私の性格。いつでも人の目を気にして、大した成果も挙げられず会社にへばりつくように生きている。じとり、じとり。胸の奥で嫌な音が鳴った。


    「上田さん。上田さん。。上田みのりさーん!」


    佐々木ちゃんがぱらり、と現れて私ははっとする。

    「この間のA社との件、うまくいきましたよ」

    「それは良かった。佐々木ちゃん、相変わらず何でもパラパラこなしちゃうからありがたいよ」

    「パラパラじゃなくて『ぱらり、ぱらり』です」

    そう言って佐々木ちゃんは笑った。

    「私なんて『じとり、じとり』だよ。ダサいよね」

    私は自嘲した。こんなことを言うのが一番ダサいのに。ぱらり、ぱらりを前に本音がぽろり。

    「上田さんは『じとり、じとり』じゃないですよ」

    佐々木ちゃんがぱっと顔を上げて言った。



    「みのり、みのり」



    「え、私の名前?」

    「そうです。上田さんは『みのり、みのり』。樹のように力強く、しなやかに生きる」

    佐々木ちゃんはそう言って、いつもの笑顔で戻っていった。


    みのり、みのり。


    私は小さくそうつぶやいた。森の中で新たな芽が、太陽に向かってどこまでも真っ直ぐ伸びていく。そんな光景が思い浮かんだ。


    — 初めまして。上田です。好きな言葉は「みのり、みのり」です—



                                     


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