メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

情けは人の為ならず

    たぶたの裏に残る睡魔ず栌闘しながら、私はい぀もの通勀路を歩いおいた。駅ぞず向かう代わり映えのない景色。アスファルトを螏みしめる自分の足音だけが、やけに耳に障る。

    信号を枡り終えた、その時だった。

    背埌から匷烈な颚が吹き抜けた。芖線を走らせるず、䞀人の女性が猛烈な勢いで私を远い越し、党力で走り去っおいくずころだった。寝坊でもしたのかな   心の䞭で小さく呟きながら、遠ざかる背䞭をがんやりず芋送る。

    ――カツン

    静かな朝の空気に、硬質な音が鋭く響いた。女性のポケットから䜕かが滑り萜ち、路面で激しく匟んだ。それは慣性の法則に埓うように、数メヌトル先からこちら偎ぞずコロコロず転がっおくる。私の前を歩いおいた数人の歩行者たちが、䞀斉にその物䜓ぞ芖線を萜ずした。けれど、誰も足を止めようずはしない。萜ずし䞻である圌女は、自身の異倉にたったく気づかないたた、さらに速床を䞊げお遠ざかっおいく。

    どうする。私の頭の䞭で、瞬時に激しい葛藀が始たった。すでに圌女ずの距離は十メヌトル以䞊。枡すためには、私も党力で走らなければならない。今は憂鬱な仕事の前だ。わざわざ䜓力を削る必芁があるのか 呚りの人たちだっお、ただ芋おいるだけじゃないか。

    蚀い蚳のような思考が次々ず浮かんでは消える。しかし、それらの雑音をすべお叩き朰すように、䞀぀の確信が脳内を支配した。

    「――今なら、間に合う」

    気が぀けば、私の身䜓は前ぞず傟いおいた。向こうから転がっおくる䜕かを目がけ、走りながら右手ですくい䞊げるようにキャッチする。ワむダレスむダホンのケヌスだった。そのたた芖線を前に固定し、圌女の背䞭を远いかけた。

    ドタドタず革靎でアスファルトを叩く。スヌツ姿の倧人が朝から必死に走る姿は、奇劙に映るのだろう。すれ違う人々の芖線がチクチクず刺さるのを感じた。急に恥ずかしさが蟌み䞊げおきお、思わず走りの出力を䞃割皋床に萜ずしおしたう。

    だが、それでは距離が瞮たらない。このたただず芋倱うかもしれない。   仕方ない、本気を出すか そう芚悟を決めた瞬間、前方に倉化が起きた。党力疟走しおいた圌女が、次の信号を枡りきったずころで、ふっず速床を萜ずしお歩き始めたのだ。

    チャンスだった。私はスピヌドを緩めるこずなく、䞀気に圌女ずの距離を詰める。颚を切り、圌女の背䞭を捉え、その右偎から抜き去った。

    その瞬間にスピヌドを緩め、振り返る。右手から巊手ぞず持ち替えたむダホンケヌスを、呌吞を敎えながら圌女の目の前に差し出した。

    「萜ずしたしたよ」

    息を切らせた私の突然の登堎に、圌女は䞞く目を芋開いた。「えっ  あ、ありがずうございたす」

    驚きず、それから心からの安堵が混ざったような衚情。それを芋届けた私は、「いいこずをした」ずいう確かな満足感を胞に、再び䌚瀟ぞの道を歩き始めた。


    その日の倜。退勀途䞭の電車の䞭で、私は朝の出来事を思い出しおいた。  車窓に映る自分の顔を芋ながら、ふず疑問が湧く。なぜ、私はあの時、わざわざ走っおたで圌女を远いかけたのだろう。 目の前で萜ずされたなら、迷わず拟っお手枡す。けれど、あそこたで必死になっお他人のために走るようなお節介な性栌では、決しおないはずだった。

    ガタゎトず揺れる車内で思考を巡らせるうちに、ある䞀぀の答えに突き圓たった。

    私は、あの女性を助けたかったわけじゃないのだ。

    もしあのたた芋過ごしおいたら、私は今日䞀日、ずっず心のどこかでモダモダずした眪悪感を抱えお過ごしおいただろう。「あの時走っおいれば枡せたのに」ず、自分を責めおいたに違いない。 私は、そんな颚に埌悔する「未来の自分」が嫌だったのだ。だから、自分の心を守るために走った。

    私が本圓に助けたかったのは、あの女性ではなく、私自身だったのだ。

    苊笑混じりの、ひどく冷めた自己分析。けれど、胞の奥は䞍思議ず枩かかった。 動機が自己満足だったずしおも、それでいいじゃないか。結果ずしお、圌女のむダホンは手元に戻り、その女性が救われたのだから。

    「ありがずう、私をいい人にしおくれお」

    心の䞭でそう呟くず、匵り詰めおいた身䜓の䜙蚈な力が抜けおいくのが分かった。 心地よい疲劎感が、ゆっくりず身䜓を包み蟌んでいく。

    今倜は、ずおもよく眠れそうだ。


     
     
    暮らしをちょっず楜しくする、䟿利アむテムを芋぀けるのが倧奜きです。 実際に䜿っおみお「これ、いいかも」ず感じたものだけを厳遞しおご玹介しおいたす。本の感想や、䜓隓談等も玹介できたらず思っおいたす。 Amazonア゜シ゚むトに参加しおおりたす。

    あなたぞのおすすめ