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サスケ 8. 31世紀を生きる新人類と旧人類

    チャド・アスカ マザーより最高機密使命と十六戦士を与えられる

     巨大なドームの中央真下に、チャド・アスカはいた。
     チャドの全身は、頭部を除いて肌に密着した白い衣服で覆われていた。
     他に、何も身に着けているものは無かった。
     ここは、ニューマン全智全能母体機構施設の最中心部だった。
     周囲にある機器の電子音の聞こえない音が、耳鳴りのように微々と鼓膜を揺すって来ている。
     密着した衣服は、特殊クリーン防護服だったが、チャドの神経は研ぎ澄まされたように凍えていた。
     「チャド・アスカ、よく来てくれました」
     目の前にあるマザーのシンボル、クリスタルタワーの中心部が光りを放って、チャドに呼びかけた。
     チャドの耳には、鈴の音のような神々しい女神の声に響いた。
     「チャド・アスカ、ご指示に従い参りました」
     「ご足労掛けました。今回はあなたの任務の重要性に鑑み、わざわざ来てもらいました」
     「チャド・アスカ、マザーのご指示であれば、何ら厭うものではありません」
     「ありがとう。では、さっそく幾つか、質問をさせてもらいます。よろしいですか」
     「はい、何なりと。私が知りうる限りお応えします」
     クリスタルタワーの光りが反応したように揺らいだ。
     「では、よろしいですか。ここ数年に亘ってのことです。このニューマンの社会のシステムではあってはならない、不都合な事実が少なからず生じていますが、おそらくはアーバが関わったものと思われるものがほとんどです。あなたの考えはどうなのでしょう」
     この問いかけは、チャドの予測していた範囲だった。
     「はい、現在の私は、その全容の詳細を把握できるという立場にありませんが、アーバが関連する事柄では、大枠の部分は承知しております。おっしゃられます通り、最初の徴候の出来事からすれば、五年余りを経過しているように思われます。さらに、顕著化してからも、三年は経っております」
     「具体的なことも述べてください。どのような出来事がありましたか」
     「はい、まず第一に、ニューマン・ニューロ現有体孵化育成施設への何者かの侵入の形跡が数回に渡っていて、待機現有体の不良廃棄の激増が見られます」
     「第二に、これも数字は公表されていませんが、二重再生による高度警戒隔離施設が、やはり異常な隔離者数となっているようです。これは、再生システムの想定外に不具合によるものと報告されています」
     「第三です。ここ一年間で、ニューマン専用区でのテロ破壊行為が、百件を超える報告がされています。これは私たちニューマンの行動ではあり得ないことですので、確証は取れていませんがアーバの可能性が高いものとおもわれます」
     「第四です。未登録アーバの顕在化です。むろん、これはニューマン・アーバの協定締結時にも、潜在的にあることは周知のことでしたが、ここ最近になってその存在がとみにあからさまになって、その総人数も新たに増加傾向となっています」
     「第五に、これはかなり危機的な状況と思われます。アーバの一部のセクトによる大量破壊兵器の開発が、施設の建設から、兵器の製造の段階に入っているという報告があります。その種類も、複数と推測されています」
     「第六です。私たちのこの地球上での最終目的であります異星移住計画への不当参入と阻害行動があります」
     「第七です。これは、確かな情報というには確証がないのですが、また、非常に重大でかつ深刻は問題として認識しております。それは、アーバによるニューマンのコントロールと社会への侵入です。特に、ニューマン上層管理クラスと思われますので、デリケートな問題として扱われています」
     クリスタルタワーの光りの揺れが早くなった。
     「それは、どういう意味ですか」
     チャドは、少し躊躇ったが、言葉を繋いだ。
     「はい、いまの私の立場では確かな情報収集も十分とは言えませんので、完全に確証のあることは申し上げられません。ので、未確認情報とご承知ください」
     クリスタルタワーの光りの揺れが少し緩やかになった。    
     「それは、このニューマンの社会の管理上層部の中に、アーバの意識を埋め込まれた人がいるのではないかという事です。それも、全人格という事ではなく、重要な案件を決定するときに、アーバの意識が支配するとされています」
     チャドは、クリスタワーの光りに変化がないのを確認して、言葉を締めることにした。
     「以上が、私が認識している、現状の懸案する問題事項です。そして他に、これは当面の問題というよりも、相当以前から懸念されいたことです。まだ私たちニューマンの誕生以来と言われていたと承知していますが、アーバからニューロに乗り換えを望むアーバがかなりに顕在化していることです。特に、アーバの特権階級化した層からと見られます」
     チャドは、ようやくの思いで言い終わって、マザーの言葉を待った。
     しかし、しばらくの間、沈黙が続いた。
     数分の後、光の色が変わって、マザーの声が響いた。
     「それで、チャン・アスカ。それらのことについて、あなたはどう対応したら良いと考えていますか」
     「はい、現状を申し上げます。むろんこれらに関連することに限らずですが、事故・事件など起きましたら、私と配下による懸命の捜査と調査を行っております。でき得れば、その防止と情報収集にも活動を行っております」
     「それであなたは、これら重要な事柄を解決できると考えていますか」
     チャドは、マザーの言っている真意が理解できなかった。
     「いいえ、当面の事故・事件に対応するだけで、まったくその見込みは考えられていません」
     チャドは、率直に思うままを言った。
     「そうですか。で、あなたの部署の人員はどうなっていますか」
     「私を含めて、ニューマンが十人で、ニューロが五十体配属されています」
     少しクリスタワーの光りが弱まって、しばらく沈黙が流れた。
     チャドは、少し疲れを覚えていたが、緊張の意識がまだ全身を支配していた。
     「分かりました。あなたの現状認識は、ほぼ私の認識と同等と思われます。由々しき事態でありながら、その解決の体制が非常に脆弱と認めざるを得ません。・・・チャド・アスカ。ここで、あなたに新たな任務について伝えます」
     チャドは、緊張の意識がさらに硬直したように感じられた。
     「チャド・アスカ、あなたを只今よりランクをトリプル S とします」
     チャドの全身に激震が走った。
     『まさか』
     一瞬、どう応えたらいいのか、脳内は激しく蠢いて混乱していた。
     「どうしました、迷っているのですか。しかし、これは選ばれた訳ではありませんよ。あなたが、これまでニューマンとして活動してきたその経験と実績の結果なのです。そして、その英知と勇気は、他に代わるものがないのです。あなたは、ニューロが突然変異のように自ら意思を持った最初の人たちの一人でした。そしてかつて、私を産み育てたあの人たちが、私を破壊して破棄してしまおうとしたことがありましたね。その時、自身の破滅を賭して私を救ってくれたのも、あなた達でした」
     確かに、それらはチャドも記憶していたことだった。
     しかし。
     「よろしいですか。このランクを有する人物は、現在の所、チャド・アスカ、あなた一人だけです。これより、あなたの指示は、どのような命令系統であっても、例え最高会議の決議であっても、あなたのものが最優先されます。行政の長を超える権限を合わせ、保安隊ならず保安全軍の指揮権を行使できます。そして、地位はいまのままであっても、あなたの行動には、何の支障も起こりません」
     その通りなのだ、だからこそという思いがチャドを恐れさせた。
     「確かに、いまのあなたの配下の要員では、全くの力が不足しているでしょう。ここであなたに、新たに十六人を親衛隊メンバーとして配属します。
    このメンバーの能力は、一万体のニューロ兵士に匹敵します。あなたの新しい任務に特化して、十分に働いてくれるはずです」
     チャドは、片膝ついて頭を垂れて、こう応えるしかなかった。
     「チャド・アスカ、マザーのご下命を謹んでお受けします。微力ながら渾身を持って、ご期待に違わぬよう働きます」
     クリスタルタワーの光りが変わって、一段と輝きを増した。 
     「ありがとう、結構です。いいですか、これからのあなたの任務は、アーバの保護管理だけでなく、戦いが始まるのです。戦う意志で向かってください」
     「はい、仰せの通り」
     「迷ったら、アカネ・プラーナに相談してください。あの人にも、まもなくトリプル S を与えるつもりです」
     「はい、ありがとうございます」
     チャドは、自分の肩に、この地球の重さよりも重い責任を課せられたのを感じていた。

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