
🐾 異世界との間(JTCの理・妖怪編 第四話)後編
「世界の淵で・後編」
トラブルは、今日も“儀式”のように進んでいった。
原因は単純。
手順の確認不足。
事前のチェック漏れ。
誰が見ても分かるレベルの凡ミス。
でも、それは問題ではない。
この会社では、
「失敗をどう演出するか」
のほうが重要だからだ。
当事者は、夜まで残って対応した。
いや、正確には“対応しているふり”をしていた。
実際の作業はとっくに終わっているのに、
「まだやってます」「大変です」と言い続ける。
その声が、時々わずかに濁って聞こえた。
音が二重に重なるような、
誰かが後ろで同じ言葉を囁いているような。
現場は、その空気を分かっている。
協力はする。
手伝いもする。
でも、心の底では冷めている。
——また始まったな。
そんな感じだ。
だが、上層部だけは違う。
翌朝、当事者が「なんとか収めました」と報告すると、
上層部は手放しで称賛する。
本気で褒めているように見せながら、
その実、
“組織の物語として必要だから”
という冷静さが透けて見える気がする。
称賛の言葉が飛び交う会議室で、
空気がふっと沈んだ。
当事者の背後で、影が一瞬だけ膨らんだ。
まるで、何かが喜んでいるように。
すぐに元に戻ったけれど、
その“重さ”だけが残った。
——妖怪だな、と思う。
怖くはない。
嫌いでもない。
ただ、僕の住む世界とは違うだけだ。
僕は静かで閑静な住宅街のマンションに住んでいるような気分で、
彼らは雑多で猥雑な繁華街に住んでいるようなものだ。
どちらが良いとか悪いとかではない。
ただ、世界が違う。
僕はその繁華街には行かない。
でも、存在を否定する気もない。
あれはあれで、彼らの世界なのだ。
夕方、また空気が揺れた。
風もないのに、書類の端がふっと浮いた。
すぐに元に戻ったけれど、
その“ほころび”だけが、世界の端に残った。
——僕は、この世界の淵で揺らぎを見ている。
そして、いつでも出ていくこともできるだろう。
それが悲しいわけでも、嬉しいわけでもない。
ただ、自然なこととして受け止めることを選択しただけだ。
明日もまた、世界は揺れる。
僕はその揺らぎを、静かに眺めている。
二つのパラレルワールド
🏮 JTCの理 ― 憑き物落とし篇 組織の澱みを「怪異」として解剖する、京極夏彦的作品へのリスペクトを込めた物語。
🕶️ JTCの理 ― マトリックス篇 システムのバグを「アノマリー」として捉え直す、SF映画的世界観の物語