
消してはいけないもの(JTCの理・妖怪編 第二話)後編
気づいた影
あれから、しばらく経った。
相変わらず、私は仕事を片づけている。
問題があれば、見つけ次第、処理する。
暗いところがあれば照らし、汚れがあれば拭き取る。
そうしておけば、後が楽になる。
それは、ずっと変わらない。
けれど、あの日の“影”のことが、どうにも頭から離れなかった。
気のせいだと思っていた。
疲れていたのだと、自分に言い聞かせていた。
けれど、どうにも腑に落ちない。
あれは、ただの影ではなかったような気がするのだ。
最近になって、妙なことに気づいた。
私が先回りして片づけてしまった“問題”のいくつかは、
どうやら誰かにとっては“必要なもの”だったらしい。
問題があるから会議が開かれ、
問題があるから報告書が作られ、
問題があるから“頑張っている”という実績が生まれる。
問題がなければ、
誰かの仕事は消えてしまう。
誰かの存在理由も、薄れてしまう。
そう考えたとき、
あの黒い影のことを思い出した。
もしかすると、あれは──
退治してはいけないものだったのかもしれない。
いや、退治する必要すらないのだろう。
ただ、そこに“いる”ということが、
この世界の均衡を保っているのかもしれない。
名前を付けて、
格闘しているふりをして、
それで世界は回っているのかもしれない。
そう思った瞬間、
胸の奥に、妙な冷たさが広がった。
私は、ずっと間違っていたのだろうか。
いや、間違っていたわけではない。
ただ、見えていなかっただけだ。
そう自分に言い聞かせてみても、
割り切れないものが、どこかに残ったままだった。
あの日と同じように、
視界の端で何かが揺れた気がした。
けれど、今度は振り返らなかった。
見ても、きっと分からない。
分かったところで、どうにもならない。
ただ、この世界は──
あの影も含めて、成立しているのだろう。
そう思うしかなかった。
二つのパラレルワールド
🏮 JTCの理 ― 憑き物落とし篇 組織の澱みを「怪異」として解剖する、京極夏彦的作品へのリスペクトを込めた物語。
🕶️ JTCの理 ― マトリックス篇 システムのバグを「アノマリー」として捉え直す、SF映画的世界観の物語
この人の次のエピソードです。