メインコンテンツへスキップ
見出し画像

病に挑む次世代治療 No.34 潰瘍性大腸炎治療の新時代へ ―miRNA創薬オベファジモド、第Ⅲ相維持試験で歴史的成功

    潰瘍性大腸炎(UC)治療薬の開発を進めるフランスのバイオテック、Abivax(アビバックス)は6月1日、同社の主力開発品オベファジモド(obefazimod)のグローバル第Ⅲ相ABTECT Maintenance試験のトップライン結果を発表した。
    今回の発表は、昨年成功した第Ⅲ相寛解導入試験(ABTECT-1/-2)に続くものであり、オベファジモドが承認申請段階へ進むことを強く示唆する結果となった。
    オベファジモドは、miR-124の発現を増強する世界初の「miRNA enhancer」として開発されている経口低分子薬である。もし承認されれば、miRNAを標的とする初の医薬品となる可能性がある。
     
    今回のABTECT Maintenance試験は、導入試験で治療反応を示した580例を対象に実施された44週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。患者はオベファジモド25mg群、50mg群、プラセボ群に再割り付けされ、52週時点での寛解維持が評価された。
    結果は極めて良好であった。
    主要評価項目である44週時点のClinical Remission(臨床的寛解率)は、
    ・プラセボ群:10.4%
    ・25mg群:50.8%
    ・50mg群:51.3%
    であり、プラセボ補正後の差はそれぞれ39.3%、40.3%に達した(いずれもp<0.0001)。
    さらに重要なのは、すべての主要副次評価項目も達成した点である。
    内視鏡的改善(Endoscopic Improvement)では54.9%および64.1%、内視鏡的寛解(Endoscopic Remission)では41.5%および47.7%、HEMI(Histologic-Endoscopic Mucosal Improvement)でも50%を超える高い達成率が確認された。ステロイドフリー寛解率や持続的寛解率も統計学的有意差をもって改善している。
     
    今回のデータで特に印象的なのは、「寛解維持」の強さである。
    UC治療では8週間程度の導入試験で効果を示す薬剤は少なくない。しかし実臨床で重要なのは、その後1年以上にわたり再燃を防ぎ続けられるかである。IBD領域では「寛解導入より寛解維持の方が価値が高い」とも言われる。
    その意味で、オベファジモドは導入試験の成功に加え、維持試験でも50%を超える寛解率を達成したことになる。
    さらに、アビバックスが先日公表した長期維持試験「Study 108」では、最長7年間の投与経験においても新たな安全性シグナルは認められていない。長期寛解維持と長期安全性の両方を示しつつある点は大きな特徴である。
    安全性面でも良好な結果が得られた。
    44週間の維持試験において、新たな安全性シグナルは確認されず、重篤感染症や日和見感染症の発生率も低かった。アビバックスはオベファジモドを「免疫抑制薬」ではなく「免疫応答を生理的に安定化させる免疫調整薬(immune stabilizer)」として位置付けており、今回の結果はそのコンセプトを支持するものと言える。
     
    現在のIBD市場では、Humira、Entyvio、Skyrizi、Omvoh、Tremfyaなどの抗体医薬が競合する一方、JAK阻害薬やS1P受容体調節薬といった経口薬も普及している。しかしJAK阻害薬には心血管イベントや悪性腫瘍リスクなどに関するBoxed Warningが存在し、長期安全性は依然として重要な論点である。
    オベファジモドが長期安全性で差別化できれば、「経口薬による長期寛解維持」というポジションを確立できる可能性がある。
    アビバックスは今回の結果を受け、2026年第4四半期後半にFDAへNDA(新薬承認申請)を提出する計画を明らかにしている。
     
    1993年に発見されたmiRNAは、2024年のノーベル生理学・医学賞の対象ともなった重要な生命科学領域である。しかし30年以上にわたり、miRNAを標的とした承認薬は存在しなかった。
    もしオベファジモドが承認されれば、それは単に潰瘍性大腸炎の新薬誕生にとどまらない。
    「miRNA創薬」という新たな創薬モダリティが、初めて商業化へ到達する歴史的な出来事になるかもしれない。
     
    https://ir.abivax.com/news-releases/news-release-details/abivax-announces-landmark-phase-3-abtect-maintenance-trial 

     
     
    NGTコンサルティング(株)プリンシパル コンサルタント 著書: 新型コロナワクチンはいかに迅速に開発されたか、わずか11カ月で承認されたmRNAワクチンの軌跡 (2021/04) 変異し続ける新型コロナへの挑戦、mRNA医薬時代の幕開け (2024/03)

    あなたへのおすすめ