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第二話:「苦い水」

    「あなた、何だか…今日のお水は少し苦い気がするわ。」
    「気のせいだろう。インフラ整備のやつらにミカゲ研究員たちが日々調査をしてくれてるんだ、心配いらないさ。じゃあ、俺は行ってくる。」
    何気ない朝の、夫婦の会話だ。

    「ママー、お水…苦い…」
    「お水?…あら…本当だわ。ミカゲちゃんに連絡しておくわね。」
    何気ない朝の、親子の会話…のはずだった。

    インターネットや携帯電話の光ファイバーの多くは高温で機能しなくなり、唯一残された人類の連絡手段は、直接会って話をするか、無線だ。
    そして、理工学系に強い人間は、真夜中の涼しいと言える時間帯に街で拾ってきた電話線を使い、地下に住む人々との緊急用に電話線をひいた。

    研究室の電話が鳴る。
    「はい、こちらミカゲ研究所。ご用は?」
    「ミカゲちゃん…お水が苦いって、私の子が…」
    「すぐに調査します。お水は飲まないで、近所の人たちにも伝言板をまわして、すぐにインフラ部隊にも連絡するわ。」

    その頃、森では。

    「うん。ここらの木の菌糸ネットワークは立派だな。ミルドを見てくれ。」
    ミカゲが率いる研究チームの、菌糸ネットワーク解析担当のイガラシ、そしてムトウが調査に出ていた。

    ミルド――正式名称M.M.R.D。
    電気抵抗トモグラフィ、地中レーダー、菌糸電流解析、そしてAI補完を組み合わせた、研究所自慢の菌糸ネットワーク観測端末だ。
    これらを合わせて研究所が作ったハイブリッドの菌糸ネットワーク観測機。

    「おぉ、これは前に記録した、まだ若い木の根か?立派になったな。」
    「あぁ。もう周りの木と馴染んで会話してるようだ。植物ってすげぇな、はは。」

    「2人とも。ミルドを持って皆が住む地上の木々の根を調査して。早く。」

    「ミカゲ!何があったんだ!?」
    「そうだよ、そんなに息をきらせて!」

    「話はあとよ。急いで。」

    「こちらミカゲ、インフラ部隊、聞こえますか?」
    ザ、ザザー

    「困ったわ…森の中じゃ地下まで無線が届かない…」
    「ミカゲ」
    「トゥーク!どうしてあなたがここに?」

    トゥークはミカゲ研究チームの元庭師。
    森林保護の活動家で、地上育ちの最年少者。
    祖父や祖母から、温暖化が厳しくなる前の地球の状態を聞いており、植物の生態系に興味を持つ青年。
    育てた植物の記録は膨大で、知識は豊富。
    科学者ではないが、森で暮らした感覚から森の変化にいち早く気付いたり、森の異変に敏感。

    「あの2人、菌糸ネットワークの調査に行くって言ってたから、黙ってついてきた。」
    「だめじゃないトゥーク。あなたには研究所に居て欲しいのに。…いいわ、私についてきてちょうだい。」

    ミカゲとトゥークは居住区のある、森の地下10mへ降りる。
    幸い、地下居住区に具合の悪そうな人はいない。

    「インフラ部隊、聞こえますか?」
    「あぁ、ミカゲか。水が苦いだとか。今、地下貯水池に来ている。君も来てくれ。」

    ミカゲとトゥークが貯水池に着くと、インフラ部隊が待機していた。

    「やあ、ミカゲ、トゥーク。今、濾過した水を飲んでみたが…苦いな。」
    「どうしてかしら…。ええと…水質調査機。」
    ミカゲは研究室から持ち出した水質調査機を胸ポケットから取り出し、電極を貯水池の水へ。

    「水質調査機には異常なし…何なのかしら…。」
    「ミカゲ。この味…知ってる」

    「知ってる…知ってるって何?」
    「それも…うん、渋い味…木の皮みたいだ。」
    「木の皮…?」

    と、地上の木々の様子を見ていたイガラシとムトウがミカゲ達の元へ。

    「イガラシ、ムトウ。何か分かった?」
    「いや、でも上に生えてるアカシアに付けたセンサーが赤い光…つまり、警告色を出していた!すぐに調査しないと!」
    「行きましょう、皆で。トゥークも来て。」

    居住区の貯水池のある地上、アカシアの木の群生地。
    「ミルドを貸して、私が調べるわ。」
    ムトウはミルドをミカゲに手渡すと、ミカゲはミルドの電極をゆっくりと土の中へ。

    「ストレス値100%…真っ赤な警告色だわ。でも…どうして?雨は降っているし、日光も丁度良いはずよ…?」
    「うん、この味だよ、ミカゲ。」
    トゥークはアカシアの木から少量の皮を取り、かじった。

    「トゥーク!いけないわ!」
    「大丈夫だよ、ミカゲ。この木はアカシア。毒があるのは花だけさ。」
    トゥークは無邪気に笑ってアカシアの樹皮を噛んでいた。

    「知ってるわよ…そんなの…。」
    ミカゲは再びミルドでアカシアの木が群生している辺りの土を調べる。

    「あ、ここだわ。根の辺りの水分量が極端に少なくなってる。」
    ミルドの画面には水分量が"20%"と表示され、アカシアの根の画像が赤く表示されていた。

    「ここの地中は…ちょうど貯水池の地下水が蓄えられている場所ね。そうか…ここの地下水を貯水池にひいて…貯水池の使いすぎたせいね。違うかしら?」
    ミカゲはインフラ部隊を見た。

    「あ、あぁ…」
    インフラ部隊は、ばつが悪そうにミカゲから視線をそらした。

    「山の上の湖までは遠くてな。水は重いし…人手が足りなくてな…。」
    「なら…もっと早く相談して欲しかったわね。じゃあ、この近くの湖を教えてあげるから、インフラ部隊はついてきて。」

    ミカゲはインフラ部隊に湖の場所を教え、研究所の皆の元へ。

    「はぁ…長い一日だった。」
    「お疲れ様、ミカゲ。インフラ部隊から、お詫びの品を受け取ったぞ。ほら。」

    ムトウはミカゲに、緑色と赤色のコンポストバッグを手渡した。

    「赤まで?珍しいわね。でも、これなら3年分くらい欲しいわね。」
    力なく笑うミカゲだったが、各家庭にもそれぞれのコンポストバッグがお詫びとして配布され、共に湖の水を汲んだボトルも配布された。

    各家庭には、原始的な砂利や砂、活性炭を使ったろ過システムがあり、人々はそれを使って水を煮沸し、飲料水やシャワーのお湯にする。

    今日の一件で、研究チームとインフラを整備している部隊との連携の弱さが露呈。
    ミカゲ研究チームは後日、会議を開いてインフラ整備部隊との、より密な情報交換が必要だと表明し、団結力を強固なものにした。

    そして…。
    皆が落ち着いた夜。

    トゥークは1人、夜の森を歩く。
    「この森、爺ちゃんと婆ちゃんも歩いたんだよな。」

    続く。

    以下補足

    ミルド

    ミルドとは…研究チームの電子技工士が作った、M.M.R.D(ミカゲ式菌糸共鳴探査端末、Mikage-style Mycelium Resonance Detection Terminal)、通称"ミルド"

    • 電気抵抗トモグラフィ:土の水分量や、根の位置推定に使われる。

    • 地中レーダー:地中の空洞、埋設物、地層の調査に使われる。

    • 菌糸電流分析:菌糸が発する微弱電位変化を解析し、菌糸ネットワークの活動状態を可視化する技術。研究員の電子技工士たちが考案。

    • AI補完:研究員の電子技工士たちが考案。視覚的に菌糸ネットワークが形として見える設計。

    コンポストバッグ

    トイレで使う排泄物を入れる袋。
    緑色は大専用。
    分解菌、白色腐朽菌、放線菌、消臭炭、乾燥剤のパウダーが入っており、排泄後はその袋ごと各家庭の堆肥ボックスへ。
    袋自体も土に戻る繊維を使っており、緑色堆肥ボックスの中でゆっくりと肥料になる。
    赤色は小専用。
    マグネシウム塩、耐塩微生物、リン酸固定材のパウダーが入っており、尿をストラバイト生成して肥料化し、消臭軽減の配慮もされている設計。
    赤色専用の堆肥ボックスへ入れ、緑色のコンポストボックス同様、時間をかけて肥料になる。

    #創作大賞2026 #ファンタジー小説部門

     
     
    この16年間、重度の双極性障害+不眠症を患っています。 何度か未遂を繰り返しています。 弟を同じ病気で亡くしています。 精神障碍者手帳2級+障害年金を受給中。 観葉植物や、完治せずとも少しでも健康的に過ごせるTipsを綴ります。 何でも聞いて下さい。 答えないかもだけど。(笑)

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