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白衣を着た臨床心理士から、葉っぱを纏って踊るフラダンサーになった

    今は、フラ教室の先生をしている。

    論文を書いたことはある。
    物書きをしたことはない。
    大の活字嫌いだ。
    一年に一冊も読み切れない。

    私は、物書きを始めた。

    画面は自分の活字でみるみる埋まった。
    どんどん投稿した。
    「いいね」がついた。
    寝食を忘れた。

    ある日、ふと「削った」。

    「あぁ、この文はこれが言いたかったのか」

    削れば削るほど、
    彫像が現れてくるかのようだった。

    ハマった。
    「彫像、出てこい」

    寝食そっちのけで書いては削った。

    思うようには、届かなかった。

    「こんなに削ってるのに、
    誰も気づかねえじゃないか」

    削れば削るほど、
    人が離れていく気がした。

    なぜか、あの日のことが思い出された。

    フラを習い始めて間もない頃、
    フラの流儀に沿って、
    これでもかと正しく踊った。
    それが、私の渾身だった。
    観客の一人に声をかけられた。

    「楽しくって仕方ないのね」

    お先真っ暗になった。
    「フラは美しい」と伝えたかったのに。
    早く帰りたかった。

    あれから二十年以上が経った。
    渾身のフラを踊らなくなった。
    いや、踊れなくなった。
    いや、踊りたいのかさえ、
    もうわからない。

    生徒はどんどん去っていく。

    それなのに、残った生徒は今も言う。

    「先生のフラは美しい」

    ずっとわからなかった。

    「どうして、今でもそう感じるの?」

    私以外はみな、ドトールの天井を見上げた。

    一人の生徒が、口を開いた。
    開業当初から通う彼女が、
    自分から話すのは珍しいことだった。

    「想像するんです。
    先生なら、こういう一振りをするんじゃないか。
    こういう『間』で踊るんじゃないか。
    そうやって想像するのが、楽しいんです」

    あんな彼女の顔を、私はいつ見ただろう。
    早く帰りたかった。

    それから私は、なぜか、
    人生で初めて小説を買った。
    そして、初めて読み切った。

    自分じゃない活字の山に埋もれ、
    一ページ読んでは閉じた。
    気づくと、最後の一行を読んでしまっていた。
    え、終わったの?

    静かだった。

    私がしゃべっている。

    私が食べている。

    私が死んだ……

    あ、私だ。

    天井がどんどん遠のくようだった。

    「いいのかな、こんなに自由で」

    天井は、開いた。

    ハマって三か月。
    暮らしは変わらない。

    生徒のフラを見ながら
    「彫像、出てこい」

    自分の文章を見ながら
    「彫像、出てこい」

    こんな私を、私はいつ見ただろう。

    今日も、寝食そっちのけ。

     
     
    臨床心理士からフラダンサーになった人。「読むフラレッスン」発信中。フラ教室NATSUKO LESSON主宰。臨床心理士有資格者。

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