
末っ子地獄
父も母も妹も、全員が末っ子。
幼少期、我が家には「末っ子」しかいなかった。
これをわたしは心の中で、密かに「末っ子地獄」と呼んでいた。
わたしの気持ちをわかってくれる人なんて、この家のどこにもいないわ!
こうして「悲劇の長女なつこ」が誕生した。
初めての子育てで、気合十分だった両親。
毎晩のように読み聞かせてくる本は、なぜか偉人ものだらけだった。
「キュリー夫人」の圧にも「ヘレン・ケラー」の圧にも負けず、娘はすくすくとやんちゃに育っていく。
英会話に通わせ、ピアノに通わせ……。
しかし、女講師による恐怖のピアノレッスンに、わたしの繊細なハートは耐えられなかった。
出した結論は、逃避。
教室とその隣の建物の「隙間」に体を挟み込み、身を隠してやり過ごすこと、約一年。
折り目のいっさいつかないバイエル。
まったく上達しない娘。
しかし、娘の悪事に気づく気配すらないピュアな母。
「うちの子には才能がないのだわ」
察した母の方から、ついにリタイヤ宣言が下された。
「なっちゃん、ピアノやめる?」
なつこ、完全勝利の瞬間である。
(お母さん、ごめんなさい)
おちゃらけたテレビやゲーム、アニメは一切禁止だった。
幼少期、厳格な父の検閲をクリアしたアニメは、ジブリオンリー。
「となりのトトロ」
「風の谷のナウシカ」
「天空の城ラピュタ」の無限ローテーション。
流石に飽きるぜ、ダディ。
だからこそ、いとこの家で初めて目撃した「おぼっちゃまくん」の衝撃は、今でも忘れられない。
「こ、こんなに面白いものが世の中にはあるのか……!」
(因みに、びんぼっちゃまくんに夢中♡)
その日から、いとこの家に遊びに行く目的の半分は「おぼっちゃまくん」になった。
そんなこんなで、理想を掲げて夢いっぱい、期待いっぱいの子育てをスタートさせて6年目。
我が家に3人目の末っ子、妹が誕生した。
「末っ子」の2人が、新しく産まれた「末っ子」を溺愛する、恐怖の図式。
徐々に孤立していく「悲劇の長女なつこ」。
末っ子アウェイの環境に、ますます拍車がかかっていく。
末っ子は、なぜ叱られないのか。
末っ子は、なぜ同じことをしても笑って許されるのか。
末っ子は、なぜあんなに甘え上手なのか。
末っ子は、なぜあんなにすぐ泣けるのか。
末っ子は、なぜ大人をメロメロにできるのか。
末っ子は、なぜあんなに愛されるのか……。
「なつこは、橋の下で拾ってきたがやと〜」
とうとう、祖父が放ったブラックジョーク(土佐弁)を真に受けるまでに至った。
我ながら、しっかり拗らせたなぁと思う。
とは言っても。
思い返せば、アルバムの写真はわたしの方が圧倒的に多いし、お下がりの服を着ることもなく大人にさせてもらった。
なにより、あんなに気合を入れて子育てしたのに、ち〜っとも思い通りに育たなかったわたしのことを、両親は一度も責めなかった。
いまもこんなに頼りないのに、父も母も、わたしを見る目はいつだってとても優しい。
わたしが1歳のときは、親としても1歳。
それに、当時の父も母も、まだ20代前半だったのだ。
試行錯誤しながら、一生懸命に育ててくれたんだなと、今ならわかる。
「末っ子地獄」なんて、ただのわたしの幻想だったのだ。
世のお父さんお母さん、本当にお疲れ様です。
※因みに、1人目の夫も、2人目の夫も末っ子でした。
わたし、末っ子の呪いにでもかかっているのでしょうか。